スプートニク・ショック14
店内は相変わらず喧しかった。特に女子高生たちの声は耳障りでうんざりする。
「ふぅ……。この前は陽子ちゃんビックリしたでしょ? 私も惣介が来てるとは思わなかったから驚いたわ」
透子さんはため息交じりに言うと苦笑いした。近くで見ると目尻には皺が寄っている。どんなに若作りでも成人間近の人間の親なのだ。結局は年相応なのだと思う。
「京介くんには三人で食事って聞かされてたんですか?」
「そうよ。まったく、あの子は誰に似たんだか……。まぁあれでなかなか優しい子ではあるんだけどね。少なくとも惣介よりはずっと人間味があると思うし」
「そうですね……」
私は反射的にそんな失礼な肯定をしてしまった。いくら彼氏だからって惣介の母親の前で同意するのはどうかと思う。でも透子さんは私のそんな言葉など意に介さないように話を続ける。
「ねぇ……。本当よ。惣介は……。なんて言うか嫌な子なのよ。頭は良いし、顔だって悪くない。それなりに人当たりも良いわ。でも、それを差し置いてあの子には何かが欠けてるのよ。思いやりみたいなものじゃないわ。もっと人として必要な何かが……」
透子さんは言葉を探り探り言うと「あーあ」とため息を吐いて天井を見上げた。天井にも西洋絵画の壁紙が貼られている。ミケランジェロの最後の審判。大きすぎて縮小コピーしたであろうその絵はあまりにもチープだ。
「惣介のお母さんに言うのはちょっと失礼なんですが……」
「ん? 何?」
「透子さんの言うとおり惣介って人間味がないんですよね。確かに一見すると優しいし気遣いも出来る人だと思います。それにかなり細かいとこまで気を利かせてくれます。紳士的……。って言ってもいいでしょう」
「うんうん」
私は誹謗中傷まがいな意見と見え透いたオブラートに包んだ言葉。その両方を行ったり来たりしながら惣介について思っていたことを透子さんに吐き出した。透子さんは怒るでも驚くでもなく、淡々と私の話の続きを促す。
「でも透子さんの言うとおり惣介には決定的に何かが足りないんですよね。そしてそれはきっと私には埋められないものなんです。ここ一年付き合ってみて痛いほど分かりました……。もちろん惣介のことは好きです。愛していると言っても良いかもしれません。ただ……。きっと私には惣介を満たすことは出来ない。そう思うんです」
そう言い終わる前に私の左目からは涙があふれ出ていた。
「す、すいません」
私が取り繕うように左目を手の甲で拭った。恥ずかしさと悲しさで言葉がうまく出てこない。
そのとき気づいてしまった。そうだ。食事会がどうとかではなかったのだ。元々私と惣介は決定的に違っていた……。それはまるで決して組み上がることのない。別々の絵から切り出したパズルのように。




