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スプートニク・ショック12

 食事会から数日後。私は未だに惣介と顔を合わせずにいた。別に惣介が大学を休んでいるわけではない。その証拠に軽音部の先輩は惣介を学内で普通に見かけたようだ。なぜか私だけが会えていない。そんな状況だ。おそらくは避けられている。そんな靄がかった不穏な空気だけが肌に纏わり付いていた。

 惣介と顔を合わせない大学生活。それは私にとって新鮮なものだった。まるで引っ越し初日に真新しい布団で夜を過ごすような。そんな新鮮さだ。新しくも不安な夜。新しくて部屋に馴染めない自分。そんな気持ちだ。

 よくよく考えてみれば今までが異常だったのだのかもしれない。寝食を共にするなんて言葉があるけれど私たちの関係はそれに近かったのだと思う。学食だってサークル活動だってその他の空き時間だってみんな惣介と一緒だった。もっと言えば一週間の半分は彼と同じ部屋で寝起きした。俗にいう不健全異性交遊ってやつだ。まだ一〇代だというのに酷く爛れた夜を過ごしていたような気がする。

 おそらく周りの学生からは仲睦まじいカップルに見えていたはずだ。……仲睦まじい。いや、そんな言い方では済まないかもしれない。陰では確実にバカップル認定を受けていたはずだ。そう考えると酷く恥ずかしい気持ちになった。離れて気づく自身の愚かさ……。これも新鮮な発見だ。

 惣介と会わなくなってからの私は良い意味でつまらない女に戻れた気がする。健康的に早寝早起きするようになった。食事だって外食から自炊メインに変わった。不健全な夜の快楽にも明け暮れない。講義は真面目に聞くし、レポート類の提出期限もかなり前倒しになった。ちょっと思い当たることだけでこれだけメリットがあるのだ。だからこのままでいいんじゃないかと本気で思った。何の娯楽もないけれど悪くない。草花のような平穏も嫌いじゃない。そんな高齢者じみた考えが頭に浮かんだ。まぁ、幸か不幸かまだ別れ話はしていないのだけれど――。


「陽子ちゃん!」

 私が大学の正門を抜けると透子さんに声を掛けられた。前回見たときより幾分ラフな格好で実年齢よりかなり若く見える。

「こんにちは」

 私は『なぜここに?』という疑問を胸に押し込んで彼女に挨拶を返した。

「こんにちは。この前はごめんねぇ。惣介あれでけっこう難しいとこあるから」

「いえいえ」

 そんな話をしている私たちの横を学生達は障害物でも避けるように通り過ぎていった。きっと彼らにとって私たちは車止め程度の存在なのだろう。

「ねぇ? ちょっと今からちょっと時間良いかな? 忙しいなら日を改めるけど」

 透子さんはそう言うと上目遣いに私の顔を覗き込んだ。男をたらし込むオンナの顔だ。最高に小憎らしい。

「今から……。ですか」

 急すぎる。と内心では思った。それと同時に今日行かなければいけないだろうとも思った。惣介との関係を修復するタイミングはおそらく今なのだ。そうしなければきっと私たちの関係は自然消滅してしまうだろう。

「わかりました。今からは予定ないので大丈夫です」

 私は数秒間考えてからそう応えた。まぁこれは打算だ。このままでは生殺しだし惣介の母親からなら何か情報が得られるかもしれない。

 私の返答を聞くと透子さんはニッコリ笑った。最高に可愛らしい。そして最悪に不安を覚える笑顔で。

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