スプートニク・ショック11
「僕はまたみんなで暮らしたいんだ」
京介は真剣な表情で語り始めた。真っ直ぐすぎる目。ある意味それは狂気的にさえ見える。
「いろいろあったのは知ってる……。でもほんの一〇年前までは普通の家族だったよね? 僕はもう一度あの頃みたいになりたいんだ」
普通の家族。そう話す京介は目にはうっすらと涙が浮かんでいた。きっとそれは彼にとって大切な居場所だったのだ。母親の不貞、そして父親の厳格さによって成されなかった居場所……。
私は反射的に横に座る惣介に目を遣った。そして直感的に『やばい空気』を感じ取る。この惣介はやばい。怒りだとか呆れだとかそういった類いのやばさじゃないのだ。これは……。京介の真っ直ぐさは対象的な狂気。
「京介。話はそれだけか?」
惣介は抑揚のない声で京介に問い返した。まるでアンドロイドが人間になりすますのを失敗したみたいな声だ。温度や感情が籠もっていない。あくまで空気を振動させるだけの。
三秒くらい時間が止まる。彼らの父親は眉間に皺を寄せ、透子さんは能面のような気味の悪い笑顔を作っていた。表情に変化があったのはおそらく私と京介だけだ。正直、私はすぐにこの場から走り去りたかったし、京介だって本心では堪えられなかったと思う。こうなると惣介は手が付けられないのだ。何をするか分からない。理性的に人殺しをするかもしれない。本気でそう思う。
「それで終わりらしいな。じゃあ俺は帰るよ」
そう言うと惣介はさも当たり前のように立ち上がった。そして財布から一万円札を取り出して、母親の前にポイっと投げる。
「ちょっと惣介……」
私は反射的に立ち上がった。
「悪い春川。今日は一人で帰るわ」
惣介はそう言うと店を後にした。立つ鳥跡を濁す。そんな慣用句を逆さまにしたみたいに――。
「春川さん……。本当にすいませんでした!」
ホテルを出るなり、京介に思い切り頭を下げられた。
「いや……。まぁ。ドンマイよ。仕方ないって」
私は彼にそれしか言ってあげられなかった。彼だって一応は被害者なのだ。まぁ、今回の件で一番のとばっちりを受けたのは私かもしれないけれど。
「それよりご両親は大丈夫なの? さっき君のお父さんの車に透子さん乗ってったけど」
「はい……。たぶん大丈夫です。あんな風でも父も母も大人ですから」
「……なら良かったよ」
私は毒にも薬にもならない相づちを打った。本当に何の意味もない。間を持たせるだけの緩衝材のような相づちだ。こんなことしか言えないなんて我ながら嫌になる。
「兄貴……。大丈夫ですかね?」
ふいに京介が独り言みたいに呟いた。
「どうだろうねぇ。あれでなかなかナイーブなとこもあるから……」
「そう……。なんですよね」
京介は私と話すたび肩を落とした。
やれやれ、これじゃあ私が彼を虐めてるみたいじゃないか……。




