スプートニク・ショック4
惣介の弟。阿久津京介の話をしようと思う。
私と彼が初めて会ったのは大学内の学食だった。私がラーメンを、惣介が生姜焼き定食をトレーにのせて学食のレーンに並んでいたとき……。そんな中途半端な状況で私たちは出会った。
「兄貴!」
そう呼ばれて惣介が振り返る。
「おお、お疲れ」
「お疲れ様。あれ? そちらは彼女さんかな?」
京介は私の顔を一瞥するとすぐに惣介の方に向き直った。
「彼女……。ん、うん。まぁそうな」
惣介は私と京介の顔を見比べながらそんな曖昧な返答をした。照れ隠しなのか、そもそも恋人だと思っていないのか……。まぁそのどちらかだろう。
「初めまして! 京介っていいます。いつも兄がお世話になっております」
「初めまして。春川です……」
私はそう言って作り笑いを浮かべた。どんな顔したらいいのか正解が分からない。
「お前も今から昼飯か?」
「まぁね。ゼミの友達とミーティングも兼ねて飯食うよ」
「ハハハ、すっかりお前も大学生してるなぁ」
二人は意識的に雑談するようにそんな会話をしていた。そこには兄弟の親密さは感じられない。
「……。まぁ、何とかやってる感じだよ。じゃあ兄貴、週末楽しみにしてるよ」
「ああ」
京介はそう言うと私に軽く会釈した。彼の去り際シトラスの匂いが通り過ぎる。中性的な香りだ。彼のイメージに合っていると思う。
「へー。好青年じゃん」
「だろ? 俺の弟とは思えねーよ」
「だね」
「本当にな。あいつはやっぱ良い奴なんだ」
私はその惣介のその返答に拍子抜けした。いつもの軽口の応酬が起きない。そこに妙なむずがゆさを覚える。
それから私たちはガッツリと昼食を食べた。高カロリーの権化みたいなメニュー。血と肉になる食事。たぶんこのせいで最近少し太ったのだと思う。
「週末ひさしぶりに親父に会うんだ。なんか……。食事会したいんだと」
昼食後、惣介はサラッとそんなことを口にした。
「ああ、それでさっき弟くんがあんなこと言ってたんだね」
「うん。……ちょっと嫌なんだよなぁ。別に親父のこと嫌いじゃないよ? でも気まずくてさ」
惣介は目に見えて渋い顔をしている。まぁ当然だろう。ある日突然、父親じゃなくなった人との食事会はかなり気まずいはずだ。私だったら理由を付けて断るかもしれない。
「じゃあ理由付けて断れば?」
「うーん……。そうなぁ」
惣介は煮え切らない言い方をしてため息を吐いた――。
そんなことがあった翌日。私はいつも通り部室でサークル活動に打ち込んでいた。正確には作詞活動だ。今日も惣介と先輩たちは居ない。
「失礼しまーす……。あ! 春川さんこんにちは」
私がルーズリーフに歌詞を書き殴っていると京介がドアから顔を覗かせた。
「こんにちはぁ。どうしたの? 惣介なら今日はバイトで来てないけど……」
「ええ、知ってます。さっき兄貴には会ったので」
「ふーん……。ってことは私になんか用事?」
「ええ……。ちょっとご相談がありまして」
京介はそう言うと項をポリポリ掻いた。
「そうなんだ。まぁ、とりあえず座ったら?」
「失礼します」
京介は会釈すると私の前の席に腰を下ろした。何気ない所作ひとつひとつが惣介のそれに似ている気がする。
それから私はコーヒーを彼の前に差し出した。一応のお客様的対応。まぁ、缶コーヒーなのでインスタンな接客だけれど。
「ありがとうございます」
京介はそう言うと座ったまま頭を下げた。その仕草はよく訓練された犬のように見える。
「それで? 今日はどうしたの?」
「ええ、実は……」
そう言うと京介は私を訪ねた理由を語り始めた。




