スプートニク・ショック2
軽音サークルの部室は大講堂のある棟の一室だった。実際に練習するのは別の場所だ。だからその部屋はたまり場兼楽器置き場みたいなものだったのだと思う。
「アレ? 春川だけ?」
私が部室で備品を整理していると惣介が顔を覗かせた。
「うん。先輩たち用事あるってさ」
「そうか……」
惣介はつまらなそうに言うと部屋の端っこに畳んであったパイプ椅子を広げて座った。
「で……? 春川はお留守番?」
「そうだよー。まぁ、ここの整理終わったら私も帰るけどね」
「ふーん」
やはり惣介の反応は芳しくない。この男はいつもこうなのだ。先輩たちの前ですらシャッキリしない。
私はそんな惣介を横目にギターのシールドやらマイクやらを整理していった。シールドは経年劣化のせいでコーティングのゴムがベトベトしている。
「春川は真面目だよなぁ」
「そう? 別に普通だよ」
「いんや。お前は真面目だよ。俺なんかぜんっぜんやる気ねーもん」
惣介はそう言いながらスタンドに立てかけてあるベースを手に取った。おそらく手持ち無沙汰だったのだろう。フェンダーのジャズベースの真っ黒なボディが蛍光灯に反射して光る。
「浦井くんは……。そうね。確かに不真面目よね」
私は思ったことを素直に口にした。どう取り繕っても彼は真面目とは言いがたい。
「おいおい、少しは『そんなことないよ』とか否定しろよ。可愛くねーな」
「……私に可愛さ期待してるの?」
「……うーん。確かに期待してねーな」
惣介はそう言ってからプッと吹き出した。最高に失礼な男だ。
でも残念ながら惣介の言うことは当たっていると思う。誰も私に可愛らしさなど期待しないのだ。
それから私たちは他愛のない世間話をした。学内の誰と誰が付き合っているとか、駅の近くにあるラブホテルで心中事件があっただとか。そんなどうしようもないゴシップ。
「浦井くんって情報通よね?」
「まぁなぁ。これでも情報仕入れんのは得意なんだよ。……あーあ! 将来は芸能ゴシップ記者にでもなろうかなぁ」
惣介はうんざりした風に言ってベースの弦を軽く弾く。
「アハハ! 確かに向いてるかもねぇ」
私は軽く相づちを打った。確かに惣介には向いていると思う。人の不幸や痴情。それらを面白おかしく語ることが。
「いや、マジで。早いとこ卒業して就職してやんねーとなぁ」
惣介はそう言いながら首を横に振った――。
そんな感じで私たちは親交を深めていった。そしてどこにでもいる男女のように距離も近づいていった。思えば、口約束こそしなかったものの私たちは恋人同士だったのだと思う。身体を許すまで半年くらい……。だったはずだ。処女だった私が最初を捧げた相手。残念ながらそれが惣介だった。
今思うとガキっぽいけれど、当時の私は惣介とずっと一緒に居られると信じていた。残念ながらその思いは簡単に裏切られてしまったのだけれど。




