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二つの鍵盤14

 境川パーキングでの休憩を終えてまもなく、私たちは甲府昭和インターから下道に降りた。ロードスターはやれやれといった感じに減速する。流れるようなシフトワークだ。初心者ペーパードライバーとは思えない。

「京極さんの助手席は初めてね」

「だよねー。実は免許取ってからこの車乗せたのは陽子さんが二人目だよ」

「へー。一人目は彼氏?」

 私は流れるように彼女の恋愛事情について質問した。スキャンダラスに。日本風に言えばかなり下世話に。

「違う違う。妹だよ。先月二人で旅行したんだ」

 京極さんは慣れた調子で否定すると「最初が彼氏だったら良かったんだけどさ」と付け加えた。彼氏が居ること自体は否定しない。

「いいなぁ。私も旅行行きたいよ」

「ハハハ、陽子さんは仕事の虫だもんね。今回の仕事片付いたら休暇取れば? 西浦さんだってそれぐらいは許してくれるよ?」

 休暇。魅力的な響きだ。青い空、白い雲。視界一面に広がる海。隣には京介――。最高だ。まぁ、京介は出不精なのであまりいい顔はしないだろうけれど。

「そうね。ひと段落したらね」

「それがいいよー。せっかくだから彼氏と結婚してハワイアンウエディングでもあげちゃえば? やるならウチらも余興ぐらいするよ」

 今度は私が京極さんにからかわれた。仕方ない。京極さんは京介のことをよく知っているのだから――。

 それから私たちは一五分ほど甲州街道を走った。国道二〇号線。都内では私も京極さんも毎日のように使っている道だ。

「初台のスタジオからここまでえらい距離だよね」

「そうね。下道で来たら何倍も掛かるんじゃない?」

「だよねー。いやぁ、今更だけど甲府遠いわ。仕事でもなきゃ来ねーよ」

 京極さんは少しうんざりしたように言うと「うぇぇ」と舌を出して戯けてみせた。かなり不細工だ。ま、私はこの子のこの表情もノリも嫌いじゃないけれど……。

 気がつくと車は甲州街道を離れ山の方へ向かっていた。どうやら鍵山月音の家は郊外にあるらしい。

「えーと……。ずいぶんと山登りしそうね」

「だねー。田舎ってこうなんだよねー。私の地元も閑散としてたもん」

 徐々に街の明かりが消えてく。街灯も疎らで所々にあるトンネルの明かりだけ不気味に光っていた。正直、あまりいい気はしない。

「気味悪いわね」

 私は言うとはなく、そんなことを呟いた。

「ん? そう?」

「ちょっとね……。あんまりこの手の雰囲気は好きじゃなくてさ」

「そっかぁ。やっぱ東京生まれだとそうなんだねー。ウチらは……。田舎民は慣れっこなんだよ。春先は毛虫が湧くし、夏は雑草ボーボーだしさ。まぁアレだよ。自然は綺麗ばっかじゃないってことさ」

「……そうね」

 京極さんの言うことは当たっていると思う。おそらく私は自然の綺麗な部分ばかり見てきたのだ。簡単に言えば私は田舎に対してあまりにも世間知らずだったのだろう。

「でもまぁ……。綺麗なとこもあるにはあるよ」

 京極さんはそう言うと車を路肩に停めた。

「何?」

「ちょっと降りてみ」

 京極さんに促され車から降りる。私が降りると同時にヘッドライトが消される。

「上! 見てみ」

「上?」

 私は言われるまま空を見上げた――。


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