追放されてから皆で辺境でのんびりすごそうと思う
「ユノ、お前にこのパーティーを辞めて欲しいんだ」
そうリーダーのレオンに険しい顔で告げられた。他のパーティーメンバーも眉間に皺を寄せながら同意するように大きく頷く。
有力な冒険者達がひしめき合う酒場の真ん中での出来事だった。
*
かつて、俺はS級冒険者パーティー『暁の旋風』に属していた。
それも遠い過去になる。俺が抜けたからってパーティーが落ちぶれていった、なんて事はなく、『暁の旋風』の名は国を越えて轟いていき、世界の悲願であった魔王討伐すら成し得た。彼等は世界中から勇者様と呼ばれ尊敬される存在となった。
「ユーノ! オーク狩って来たよー! どこに持ってけばいい?」
「ただいまー! ユーノ!」
今の俺は名前をユノからユーノに、髪色と目の色、顔も少し魔法で変えて辺境の地で気の合う仲間達とのんびり宿兼飯屋を経営している。魔王が君臨していたころよりは魔物は減ったとはいえ、まだまだ辺境に魔物は多い。その魔物を目当てに冒険者達が次々に来てくれるので、店も宿も繁盛している。
今の俺の役目は、宿と飯屋の店長。少し前までは1人でやってたから素泊まりの宿屋だったが、今は仲間達が加わって飯処としてもやっている。そのおかげで前よりもはるかに稼げるようになった。
元気な声で遠くから手を振りながら帰ってきた2人は、一緒に働いてるハイナとシャーラ。
魔法師とヒーラーでもあるが、2人だけでオークが狩れるほどの腕前を持っていたりする。2人はそれぞれ家具作りと裁縫を趣味としていて、どちらも職人顔負けの仕事をしてくれる。
店内の内装は2人の趣味に任せてある。結構お客からの評判はいい。この村の人達にも時々ワークショップなんてのを開いて楽しそうに交流している。
「おかえりー。オークは裏口に持っていってくれ。多分、オーギーがいるから綺麗に捌いてくれる」
俺が答えると2人は、はーい! と返事をしながら店の裏手へと去っていく。
2人にずいぶん笑顔が戻ってきて良かったと思う。色々な事に追い詰められて、笑えなくなってしまったころがあるなんて、今の2人を見て思う人間は少ないだろう。今の2人の笑顔はまさにこの店の看板とも言える。
「ユーノ! 掃除終わったぜー! 今から菜園行ってくるけど、何か欲しい野菜あるか?」
店の入り口から出てきたのはロイだ。明るく朗らかであまり争いは好まない気のいい奴だ。
土いじりと掃除が好きで、この店の人気メニューの1つ新鮮野菜は全部ロイが育てた物だ。
ロイが来てから俺が気付かなかったところも整理整頓してくれるので、店も宿もいつも清潔に保たれている。
「そうだなぁ。今日は店を閉める日だし、皆の好きな物とかあるといいかもな」
「だとすると、ハイナとシャーラはフルーツトマトとキューリかな。オーギーは……何でも食うか……ユーノはカボチャがいいか?」
「……よく俺の好きな野菜が分かったな」
俺が少し驚くと、ロイは、ふふんと笑ってみせる。
「ま、オーギーの作る飯は何でも上手いけどさ、ユーノのカボチャのスープはオーギーも唸るほどの絶品じゃんか。こだわりようを見てればそうだろって普通分かるさ……っていうのは建前で久しぶりにユーノのカボチャのスープ、俺が食いたいなって思ったんだよな」
そう言いながらロイは畑へ駆け出していた。少し照れくさかったのかもしれない。
そういう素直なところも憎めない。ロイはあんな感じだが実は剣を持たせると結構強かったりする。過去には性格に合わない事をしなければならなくて、あの明るさが失われていた時期もあったけれど、ここで本来の彼らしさを取り戻せてきたようで一安心でもあった。
俺はそんなロイの後ろ姿を見送ってから店へと入った。
厨房の裏口が開いていて、外を覗くとこの店で料理長を任せているオーギーがさっそくオークの解体をしようとしていた。ハイナとシャーラの姿は見えない。2人は魔物は狩れるけれど、解体は苦手としているからさっさと退散したに違いない。
「よぅ、ユーノ。今日のオークは脂がのって旨そうな感じだぞ」
そう言ってニヤリと笑う様は少し悪人に見えなくもない。けれどオーギーは見た目に反して繊細だったりもする。繊細な奴が魔物をニヤリと笑いながら解体するのか、と聞かれると困るが料理が関わってくると途端に職人に変わってしまう。
オーギーが言うには解体する前から料理というのは始まっていて、いかに仕留めた後血抜きを手早く行うかとか、解体する時の包丁の入れ方1つでも味が変わるとか、その辺のことを語り始めると止まらない。ハイナとシャーラはその辺はかなりオーギーに仕込まれたので仕留めてからここに持って帰って来るまでに血抜きなどは完璧にこなしてくるし、余計な傷も付けないようにしているようだ。
「それは楽しみだな」
「ユーノ、料理ってのは楽しいんだ」
オーギーはニカっと笑って俺を見た。その目は料理をすることの喜びに溢れている。かつても美味しいものを作ってくれたものだけれど、納得いくまで料理に没頭することもできず、ただでさえ怖い顔を不機嫌に歪めて近付きがたい雰囲気を持っていた頃が嘘のようだ。
「そうか、それは良かった。一応俺も料理できるから何か手伝える事があったら声かけてくれ。あー、そうだ。ロイにカボチャのスープ作ってくれって頼まれてたっけ」
「あれは唯一ユーノの飯で旨いと思ったな。そうか、また作ってくれるのか」
オーギーが嬉しそうにそう言った。
「他の物が不味いみたいな言い方やめろよ」
「俺から言わせれば他はまぁ、普通だ」
「料理の天才オーギーと比べられたらそりゃ普通だろうよ」
ふてくされたように返すとオーギーは少し困ったように頬を掻く。
「なんだよ、俺にしては結構な誉め言葉なんだけどな……」
「それは光栄だな。んじゃ、何かあったら呼んでくれ」
そう言うと、俺は厨房へと戻る。そこにリュートを奏でながら歌う音が届く。
ユーリが歌っているとすぐに分かる。ユーリの歌声は透明感があって美しく、この店に訪れる客の中にはユーリ目当ても多い。ハイナとシャーラが看板娘なら、ユーリはうちの店専属の歌姫だ。
ユーリはリュートを奏でながら歌うのが好きだと言って、それをたくさんの人に聞いてもらえるのが何よりも嬉しいと言っていた。
歌い終わると、ぱちぱちと拍手がした。どうやら今はハイナとシャーラが観客をしていたみたいだ。
「ユーノ聞いてた?」
厨房に顔を出してユーリが聞いてきた。
「んー。ま、途中からだったけど」
調理の準備の手を止めて答えるとユーリは満面の笑みで飛び付いてくる。
「ユーノ大好き!」
そんなユーリの頭を撫でる。前後の脈略は無いけれど、ユーリがこの場所に落ち着いてからは毎度のやり取りになる。
「はいはい、俺もユーリが大好きだよ」
そう答えればユーリは満足そうに離れる。
「今から食堂の出入りは禁止ね。オーギーとロイにも言っておいてね」
「何かするのか?」
「後のお楽しみだよ」
楽しそうにユーリは片目をつぶって厨房から出ていった。
夜、俺達は宿屋も飯処も休業にして仲間6人で食堂のテーブルを囲んだ。
部屋は女性組が趣向を凝らして華やかに飾られていた。だから立ち入り禁止にしていたらしい。それだけでなくいつもより華やかなワンピースを色違いのお揃いで着ていた。
シャーラが作ってくれたの、と嬉しそうにくるりと回るユーリ達は確かに可愛らしかった。俺だけでなく、オーギーもロイも鼻の下を伸ば……もとい、顔を綻ばせた。
まぁ、オーギーはハイナをずっと気にしてきたし、ロイはシャーラ一筋だから、それぞれが誰を見ているのかなんて確認するまでもないが。
そして、オーギーの作ったご馳走と俺のパンプキンスープを皆で笑顔で食べワイワイと色々な事をとりとめもなく話す。
今日は俺達にとって記念日だ。だから店も休みにして6人で祝う事にしたのだ。
酒もそれなりに入り、ユーリがリュートを奏でながら歌うのを聞いて皆で少ししんみりしたころ、ロイがおもむろに立ち上がり俺の横へと来た。
「ユーノ、ずっと言いたかった、ごめん。そんで、ありがとう」
「急に何だよ……」
「ずっと、思ってたんだよ、私達も……ユーノ1人に全部押し付けたから……」
シャーラも声をあげ、俯く。
「それは言いっこ無しだろ……俺だって早々に魔王討伐を離脱したんだし、第一こういう風にしようってのは皆で話し合っただろ?」
「そうだけど……他にやりようはあったんじゃないかって……」
ハイナまでそう言い始めてしまう。
*
「……人前で俺をパーティーから追放してくれないか?」
パーティーの中でも年長組になる俺の提案した意味が汲めなかった面々は驚き固まる。
「……なんで?」
呆然とした表情で剣士のレオンが聞き返してきた。
「師匠の言っていた事が真実味を増してきた……このままじゃ俺達は飼い殺し確定だ」
全員思い当たる節がある為に視線をさまよわせる。
「……それとユノがここを出ていく事になんの関係があるの?」
ヒーラーのキルクの目は不安に揺れている。
「魔王を倒して、国が俺達を自由にしてくれる、なんてことは誰も信じてないだろ?」
皆は唇を噛み締めて俯く。それも仕方がなかった。『暁の旋風』は表向きは自由な冒険者ではあったが、実情は国に隷属させられていたからだ。
俺達『暁の旋風』は世間では突然現れた大型ルーキーだと認知されている。突然現れた上に他の追随を許さないほどの強さを誇っているのは、俺達が辺境からきた幼馴染みパーティーだから、ということになっていた。
だが、事実は少し違う。
世界にはスキルが存在し人は必ず何かしらのスキルを持っている。スキルと合致した職に就けば安泰とも考えられている。
それとは別に“称号”というものがある。後天的に努力して手にすることが殆どなのだが、中には生まれながらに持っていることもある。
『暁の旋風』は先天的に称号を得ていた。称号持ちは持っていない者よりも才能に恵まれる。それは努力で中々追い付けるものではない。
そのため、見つかれば国にすぐに報告が上がる。国が保護し称号に適した道を用意され手厚く保障される、といわれている。
だが、実態は国との隷属契約を強制的に交わされ、国益になるようにその才能を振るうことを誓わせられる。そこに本人の意思はない。
俺達にはその先天的な称号が付いていた。称号の名前は『究める者』
何をなのかは分からなかった。けれどだからこそ使えると国に思われたらしい。俺達6人は同じ師匠のところに放り込まれた。
師匠は昔『究める者』と仲間だったことがあるらしく適役だと思われていたらしい。
けれど、師匠はやる気の欠片もないような人だった。
それでも指摘されることもアドバイスも的確で俺達はめきめきと力をつけていった。
ある日、どこかに行っていた師匠が俺達を呼び出した。その態度は不機嫌そのものだった。
「悲しめ。お前らのやることが決まった。魔王討伐だ。冒険者として登録し、魔王討伐してこいとさ。もちろん、ただの冒険者を国は支援しない。自分達だけで成し遂げて来いと仰せだ」
俺達は唖然とした。国に隷属させられているのに、支援無しと言われたのだ。しかもやることは魔王討伐……
「いいか、お前達は何をどう頑張っても国に鎖を握られてる。否はない。戦うことが好きでなくても戦うことを義務付けられてんだ。逃れる方法は偽造とかでも究めて顔やら名前やら変えることだな。あー、称号も隠せるようになれば上出来か。それと、国との隷属契約を切ることだ。ま、嘘だろうが魔王を倒した暁には自由をくれるってよ。消すって意味だろうがな」
そう師匠に言われた。不機嫌な師匠は多分ずっと何かと言い訳をつけて俺達を上層部から隠そうとしていたのだと思う。それなのに、あっさりと理不尽な命令がくだった。
次の日には俺達は外へと放り出された。鎖を付けられたまま。
言われたまま俺達は冒険者になり、色々な困難を乗り越えた。
俺は師匠の言葉がいつも引っ掛かり、師匠に言われた通り偽造と解除の魔法を究めるべく努力した。そのせいで戦力的には皆と差がついてしまった。
俺は潜伏できそうな場所をいつも探していたし、皆を解放するためにも尽くした。皆はそんな俺の動きを国に悟らせないように必死に隠してくれていた。
しかし、もうすぐ魔王というところまで来て突然国が俺達を直々に見張るためだろうに、支援という形で人を派遣すると言い出した。
魔王を倒したらそのまま潜伏する予定が狂ったことになる。少なくても俺達を見張る奴等をどうにかしなければいけなくなったし、潜伏するための準備も整っていなかった。
俺は支援系の魔法を究めていて、かけ続けようと思えば離れていてもかけたい相手を思い描けば支援魔法を付与できる。つまり離れていても皆をサポート可能なのだ。
だから皆に頼んで俺は使えないと、周囲に国に見張りどもに、そう思わせてほしいと頼んだ。そうしてから追放してほしいと。
皆いい奴等だからものすごく渋った。けれど見張りが付く以上、国が俺達に自由を与える気はないのだ。戦争の駒にされるか、消されるか、政治に使われる。どちらにしろそうなる未来しかみえなかった。
結局、皆、渋りながらも俺の案に乗るしかなかった。
そして、俺は予定通り酒場の真ん中で渋い顔をした皆に追放を言い渡された。
そこから俺の行動は早かった。見張りに見つかる前に1人で酒場を飛び出し、自分の鎖の解除だけはできるようになっていたから、隷属契約をすぐに切った。顔と髪と目の色を変えて一見して見付からないようにした。
ここからは皆の隷属契約も切れるようにしておかなければならないし、潜伏する場所も怪しまれてはいけない場所を用意しなければならない。師匠に言われた通り称号も隠せるようになった方が安全は増す。
俺は1人で皆の居場所を作るために奔走する日々を過ごした。
皆はその間も屈辱を圧し殺して見張られながらも役割を全うしていった。
魔王を倒し、油断した見張りの奴等を俺が昏倒させて、皆を隷属契約から解放し連れ去らせてもらった。
そうして皆、名前と姿を変えた。レオンはロイになったし、キリクはシャーラになった。他の皆も前の名前をあっさりと捨てた。
俺は以前からそのうち仲間が来たら宿を大きくしたいと辺境に住む人達にも言っておいたのもあり、彼等のこともすぐに受け入れてくれた。
元から色んな人達が魔物討伐のために訪れてそれで成り立っているような辺境の地の人達はよそ者が増えても減っても気にしない。
だから、俺達は今、本当にやりたかったことをやれているのだ。
*
「俺はさっさと離脱して、皆に責任を押し付けたって後ろめたさがあるんだよ。それに、あんな嘘を辛そうな顔で言わせてる自分が情けなかったよ。だから、絶対に皆に笑ってほしくて頑張ったんだ。礼は要らないし、謝罪も無しだ」
「ユーノはいつもそうだ。気のいい奴だし、1番俺達を気にかけるのもうまかった。ユーノがいなくなってからそれなりに大変だったんだぞ。ユーリは不安定になるし、ロイだって気落ちしてよ。ロイも謝るんじゃなくて責めるくらいでいいと思うぜ?」
オーギーがロイをなだめようとするが、ロイはますます言い募る。
「でも! それじゃやっぱり気が済まない。逃げたとしても隠れて住むんだとばかり思ってたのに、ここでの暮らしは本当に良くて……」
「それは元からの皆の気質に合ってたってことで、俺は場所を用意しただけだ。皆が皆、精一杯頑張ったってことだよ」
ユーリが不意に俺に抱きついてきた。
「ユーノ大好き!」
相変わらず脈略がない……と思っていると皆なんとなく同意するように頷く。
「私、本当にいいメンバーに恵まれたと思ってるの。ロイ、いつまでもユーノに謝ったりお礼言ってると困らせちゃうだけだわ。ユーノの言う通り私達は皆、それぞれ頑張ったんだよ」
シャーラがそう言ってロイを引っ張ると、ロイはおとなしくシャーラの隣に座った。
「過ぎたことをあれこれ言っても仕方ないわよね……今は本当に幸せだもの」
ハイナもオーギーの隣に座って呟く。
「そうだよ。俺はまた皆と過ごせて毎日楽しいんだ。これからもよろしくな。すでに皆がいなきゃこの宿も飯屋も回らないんだからさ。これからも遠慮なしってことで」
俺がそういうと皆も頷く。
今日は『暁の旋風』が結成した日で、俺が皆の元を去った日でもある。
そして、再び皆で力を合わせていくことを誓う日でもあった。
「というわけで、これから『夜明けのそよ風亭』を盛り上げていこうなっ!」
俺が杯を掲げると、皆も、オオー!と答えた。
皆で笑っていつまでも過ごせることを祝して。




