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彼女は天使か悪魔か  作者: 永田 透
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あの日、彼女はやってきた(前編)

 カシャ


 至る所から、カメラのシャッター音が鳴り響く。

 ここは、日本でも有数の観光スポットだから、当たり前だ。

 荒い岩肌の崖が左右にそびえ立ち、その中央を、青く透き通った水が流れている。左右の崖を繋ぐ橋は、さびがかっており、その褐色は、この空間にとって、良いアクセントとなっている。――いわゆる、渓谷というところだ。


 「綺麗だね!」

 

 親子連れやカップル、たくさんの人で賑わいを見せている。皆、思い出の一ページを作りに来たのだろう。

 そんな中、俺は一人、首からカメラをぶら下げて歩いていた。写真を撮るという()()は同じだが、()()は違う。

 

 俺は、死に場所を探していた。


 自分の思う、一番綺麗な場所で生涯を終えたいと考えている。だってほら、地縛霊になったとしても癒されそうだろ?

 まだ若干20歳の若造だが、未来に希望が持てなければ、年齢など関係なく、そういった考えに行き着くことは、不思議ではない。


 「ここも候補に入れておこう。さて、日が落ちないうちに帰るか」


 平日は大学に通い、休日はこのように、死に場所を探すことが日課である。我ながら悪趣味なことは分かっているが、このことは誰も知らない。――というより、言うような相手もいないわけだが。

 そんないつものように、人混みと逆行しながら帰路につく俺の目の前に、突然、()()は現れた。


 「なんで、あなたは死にたいの?」

 

 淡いグレーのロングスカートに、黒のニット、膝下まであるロングコートという、落ち着いた装いをした彼女は、こちらを見て、そう呟いた。


 今、俺に向かって言ったのか?……というか、「死にたいの?」って。


 彼女は、こちらをじっと見たまま動かない。


 宗教の勧誘か、なにかか?年齢は、おそらく俺と同じくらいだろうか?こういう非常事態には慣れていないが、やれることといったら、これしかないな――無視だ。


 そのまま帰路を歩き始めた時、彼女は俺を追うように歩きながら、言った。


 「ちょっと、無視はないでしょ!しっかり、目が合っていたわよね?」


 「いや、間に合っているんで」


 「答えと質問が、噛み合っていないのだけど……、なにか勘違いしていない?」


 「有名な観光スポットに一人で来ていて、表情も変えずに風景を眺めている。それに加えて、これからが見どころ!って時に、帰り支度を整える若者――なんてやつがいたら、確かに完璧だな」


 「え?急に何の話?」


 「いや、仮に俺がなにかを勧誘するとして、そんなやつを見かけたら、真っ先に声をかけるだろうなっていう話」


 「なにそれ、それがあなたから見た私、ってわけ?」


 「知らない人から、急に意味の分からない言葉をかけられたら、誰だって考えるだろ」


 「……まぁ、一理あるわね。それは、変な誤解をさせてしまったわ」


 「うんうん、気を付けたまえよ。それじゃ」


 「……って、急に話を終わらせないでよ」


 「終わっていないのか?」


 「さっき、あなたが言っていた、いかにも勧誘しやすそうな若者っていうのが、あなた自身なわけだけど、じゃあ、あなたは、なんでそんなことをしていたのかしら?」


 「勧誘しようと近づいてきた人を、撃退するためだな」


 「……あなた、かなり面倒くさい人ね。だいたい、それが目的だったら、わざわざここまで足を運ばせる必要もないでしょ。まぁ、そんな苦しい言い訳をするくらいだから、私の言葉に驚いたってところかしらね」


 「あんたはどうなんだ?あんたも、ここに観光に来ましたってわけじゃなさそうだが」


 「私は、あなたに着いてきた。電車であなたを見かけて、自死のオーラを纏っていたから」


 彼女は真剣な表情で、そう言い放った。


見ていただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんで頂けるように、早めの更新を心がけます。

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