共同作業
「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」
ある日夫が、躊躇いがちな表情でそう切り出した。
「なに?」
「いや〜、ちょっと切り抜きを……」
「なんの?」
「……グラビアとか……」
そう、彼は某アイドルグループの大ファンで、毎月何かしらのグッズや、彼女らのグラビア写真の載った雑誌等、購入しているのだ。
グッズや写真集はいいとして、雑誌の類いはどんどん増えて、四畳半の夫の部屋など、あっと言う間に足の踏み場すら無くなってしまう。
そこで、思い切って必要なページだけ切り取り、スクラップブックを作成しようと思い立ったらしい。
既に、百均にて大量のファイルも購入済とは、準備万端である。
しかし、その作業は、ひとりでやるには手に余ると気づき、今回の私への協力要請と相なったようだ。
とは言うものの、試験勉強や大掃除などもそうだが、作業中うっかり横道にそれてしまうのは人の性である。
「この娘のおっぱい、服の上からみるより凄いね。いや〜、なかなか」
そこにはランジェリー姿でベッドに横たわるアイドルの姿があった。
「いや、確かにそうなんだけど……違うんだよね〜、この娘にこんな売り方求めてないんだよ! 俺らファンはさ〜」
「うっそだぁ! 多少は求めてるでしょーよ」
「いやいやいや。例えばだよ……」
パラパラとページを捲る夫。
「ここ! この写真みたいな自然な笑顔! これだけでいいわけよ」
夫は、波打ち際でワンピースの裾を押さえてはしゃぐ彼女をトントンと指差す。
「はぁ。そうなんだぁ。 じゃ、こっちはどうよ?」
私もパラパラとページを捲る。
「これとかも可愛く撮れてるんじゃないの?」
青空の下、弾ける笑顔のアイドル。
「う〜ん。まあそうなんだけど、カメラマンが分かってない」
「どこがよ」
「違うんだよ。この娘は笑顔より憂い顔がいいんだよな」
「あっ、なーるほど。言われてみれば確かにそうかも……」
「て言うかさ、切り抜き作業ちゃんとやってよ」
「あっ、ごめん。このちっちゃい写真とかインタビュー記事も切り抜かなきゃダメ?」
「んー、そう……だな。取り敢えずお願いするわ」
「りょーかい。 こっちは当然必要だよね」
「当たり前だろ。ファイリングは俺に任せてくれていいから、嫁ちゃんは丁寧に切り取ることだけに集中して!」
「承知しました」
こうして、私たちの共同作業は、年に一度の恒例行事となっていったのである。
けっこう大変な作業なんです