鎮まったその後
今回、ツバキの秘めざるトップシークレットが明らかに!
レヴィが無事、元に戻ってからの翌日……時刻はもう昼前になるがライラットは宿のベッドに突っ伏すように寝転がっていた。
「う、うぅ……腰がまだガタガタだ……あんな激しいの、初めてだったな……」
腰を擦りながら、昨日の大乱交で酷使した体を休ませていた。
元よりレヴィと夜の相手をする時は大あれ小あれ体力を消耗するのだが、昨日はそれに輪を掛けた激しさでタフな彼女ですら最後には身動きひとつ出来ない程だった。
屈強なライラットですらそうなのだから、体力的にも劣るエストーラの方はもっと酷く行為が終わって宿に戻るまでの間はシラギクの背に乗せられたまま死人のようにピクリともしなくて腹上死でもしていないかと心配したぐらいだ。
顔は実に幸せな表情のままだったが。
「ま、まあそれに見合った気持ち良さだったのは確かだけどな……」
濃密な営みを思い返してドキドキする傍ら、彼女はあることを気に掛けていた。
それはヤシャ・ツバキのことだ。
夜中頃にやっとレヴィの肉体の興奮も鎮まり、街に帰還しようとなったところで気絶していた彼女がいなくなっていたのだ。
当初は行為に没頭してる間にオークか、もしくはジョーカーAに拐われてしまったかと焦ったが、街の門番に確認したところではここに帰ってきていたらしい……何かえらい慌てようで、しきりに「ケダモノ……性のケダモノ……」とブツブツ呟いてたらしいが……。
「もしかしなくても……見られてしまったとか無いよな」
もしそうだったとしたら、これは問題になる。パーティー内でそういったことが常態化してるというのをギルド側に報告でもされたら、解散命令を下される恐れもある。
ただ、昨日から今日に至るまでギルドから出頭の連絡やそういったことも来てないので、まだ報告されてはいないだろうと思っている。
逆に何故、黙る必要があるのかと考えたらそれはそれで疑問だが。
「……起きてるか、ライラット?」
「うん? レヴィか、ああ起きている」
扉の向こうから声を掛けられて返事をする。本調子ではないが動けることは動ける体を動かし、扉を開けてレヴィと向かい合う。
久々に見る美少女じみた整った顔は、やはり綺麗だった。
「まだ調子は戻ってなさそーだな」
「お、お前が際限なく盛ったせいだろうっ」
「仕方ねーだろ。俺の意思でどうにかなるレベルじゃなかったんだからよ……まあ、お前らのお陰で随分とスッキリしてくれたけどな」
「そ、そうか……で、そんな話をする為に来たのか?」
「いや……実はあの三つ目女が来てよ、俺ら全員と面会わせて話がしたいって言ってきてな」
何か嫌な予感を覚えたライラットだったが、それはあと数刻もしない内に当たったのだった……。
△ △ △ △ △
「この変態っ、発情犬っ、盛り猿っ! まさか、あんた達がそういう関係だったなんてねっ」
「……や、やっぱり、見られてしまってたのか……」
一部屋に集合したレヴィ達に向けて、ツバキからそういう罵倒をされたことでライラットはやはり一部始終を見られていたと察して顔を俯かせた。
シラギクもバツが悪い様子で縮こまっているが、それがどうしたと言わんばかりの態度でいるのはレヴィとエストーラだけであった。
「別におかしなことでもないだろう? 生殖行為を営むのは生物として当たり前の本能なんだから後ろめたい気持ちなんて無いからね♪」
堂々と胸を張って肯定するエストーラは実に潔いものがあり、これにはツバキもたじろいだ。
「うーわ、開き直りやがったわ、このスケベ女……清々しすぎて、寧ろ尊敬すら覚えちゃうわね。つーか、そのガキンチョが男なのを黙ってたなんてあたしを最初から毒牙に掛けるつもりだったんでしょっ?」
「いちいち、言う暇なんざ無かったんだよあん時は。それにお前みてーな高飛車すぎる女は面倒臭いから、手なんか出さねーよ」
「あんですってぇっ!? 誰のお陰であんたの呪いが解けたのよっ、このあたしが居なくちゃ、今頃ミイラみたいな枯れ木になってたかもしんないのにあたしへの感謝が足りないんじゃないのっ!」
それはまあ感謝してるのは事実だ。実際、三つ目族の彼女の能力が無ければ、あの悪魔の居所を掴むのも難しかったろう。
それこそ時間が刻一刻と無くなっていたあの時に限っては、ツバキの協力は非常に有り難いものがあった。
「まあ良いわ……ところで、あたしと交わした約束は覚えてるわよね?」
「ああ、俺らのパーティーに加わってリーダーにさせろって話か?」
「そうよ、そしてたった今からあたしはこのパーティーのリーダーに就任してやるわ……つー訳で、リーダー権限であんたはクビよ。とっとと消えてくれるかしら?」
一方的に宣言すると、しっしっと手を払ってレヴィを部屋から追い出そうとするツバキにライラット達は口々に文句を言い始める。
「ま、待て、余りにも急すぎるぞ。大体、リーダーになったからといってそんな権限など無い」
「そうですわ、機嫌ひとつで仲間を追い出すような人に黙って従える訳などありませんわっ」
「そもそも私も含めて、この場にいる全員が君のことをリーダーとして認めてるとでも思ってるのかい?」
そんな彼女達にツバキは脅しも含めた恫喝で黙らせた。
「うっさいわねぇ……ガタガタ文句言う気なら、バラすわよ? あんた達が仲間内でやらしい関係を結んでるってことを」
「うっ……」
ここでそれを突き付けてくるか。ギルドにすぐに報告しなかったのはここで無理矢理に仲間に捩じ込む為のネタにする為だったのかと気付く。
弱味を握って優位に立てたと勝利の愉悦を浮かべるツバキに対して、レヴィは物静かに佇んでいて焦りなどが見受けられなかった。
「何をボーッとしてんのよ? 新リーダーが失せろってんだから、さっさと消えなさいよケダモノ男」
「やだね」
「……は? 今さ、何言ったのあんた? 嫌だって言ったの、このあたしにっ?」
「聞こえなかったのかよ? 高飛車傲慢で、独善的なお前の指図を受けるのは嫌だっつってんだよ」
「んなっ!?……こ、このガキンチョっ! 痛い目見ないと、理解しないのかしらっ!」
実力行使を振るおうと、ツバキが杖を持ってそれで殴り掛かろうとする。
それを止めようとライラットが腰を浮かす前に、真っ先に動いたのはレヴィだった。
立ち上がって杖を持つ手を押さえ、胸倉を掴んで彼女を止めた。
振りほどこうともがくが、華奢な体からは思えない力にツバキは仰天する。
「んぐっ!?……こ、の、離しなさっ……」
「言っとくけどな。てめーがリーダー云々になるって話はよ、別に公式文書や契約書を書いた訳でもねー口約束に過ぎねーんだ。俺らがそんな話は知りませんって言えば、てめーはどう出る気なんだ?」
「な、何、ですってぇ……」
レヴィは最初からこういう目論見だったのだ。
別に誓約書か何かを書いても無いのだから、後からそんな約束はしていないとシラを切るつもりだったのだ。
なるほど、こういう手で彼女の要求を白紙にさせるつもりだったのかとライラット達はレヴィの強かさに舌を巻いた。
だが、そんなので納得するツバキでは到底ない。
「い、良いのかしらぁ……あんた達の関係を、ギルドに報告してやるわよっ……」
「そりゃー俺も困るな。だけど……同じ穴の狢になりゃー、てめーもそんなことは言えねーだろ?」
「は、はぁっ!?」
ツバキが何を言っているんだと怪訝にしてる中で、言葉の意味を先に理解したのはライラット達の方だった。
「レ、レヴィ、まさか……ツバキに手を出すつもりか?」
「そんな真似は流石に、看過しかねますわよっ」
「しょーがねーだろ。このまま黙って口をつぐんどく奴には見えねーんだからよ、弱味を作ってやりゃー押し黙るしかねーだろ」
「じょっ、冗談じゃないわよっ! 誰が、あんたみたいな野獣になんかぁっ!」
バタバタと暴れ始めたツバキは掴まれてるローブを無理矢理に引っ張って抜け出そうとした。
それにレヴィが拮抗しようとした結果、耐久性が脆いローブの方が耐えきれなくなり、掴んだ部分が手に残ったまま破けた。
「は、はぁっ、はぁっ、あ、あたしに指の一本でも触れてみなさいよっ、そん時はあんたを地の果てまで吹っ飛ばしてやんだからっ……」
杖の先端を向けて啖呵を切るツバキ。
本当に魔法をぶっ放しそうで、レヴィも様子見をするしかなかったのだが。
その時、どうしたことか。彼女の豊満な右胸がずるりと不自然に垂れたではないか。
「ん?」
「な、な、何よその目はっ、変なものを見るような目で見てんじゃっ……」
胸がずり落ちてることにツバキは気付いていないまま、右胸はどんどん重力に引かれるように落ちていって腹部を通過していったそれは……ポトリとローブの裾から溢れ落ちた。
そして、真っ平らと豊満な胸が同居してるという珍妙な姿にへとなる。
「な、何ですのあれは? 胸が落ちてしまいましたわよっ」
「へ、胸って…………あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
シラギクの言葉で、視線を落としたツバキが漸く気付き、落ちたそれを抱き込むように隠した。
初めて見る物体に狼狽えるシラギクに、冷めた顔のエストーラが丁寧に説明してやった。
「……パッドだね、あれは」
「パッド? 何ですのそれは」
「まあ、平たく言うなら詰め物だよ。彼女の場合は胸を大きく見せる用途に使ってたようだね」
「胸を大きく?……何の意味がありますの、それに」
プチンっ
天然の爆乳持ちで、大きすぎることの弊害を知っているシラギクは別に悪意や害意で言ったつもりは毛頭無かったのだが……これがツバキの触れてはならない線に触れてしまい、ギギギギと錆びた人形のようにぎこちない動きでシラギクの恵まれた胸に、怨念のごとき視線を向けるツバキ。
それに止めを刺したのが……
「……はっ」
レヴィの嘲笑混じりの含み笑い、そして残念なものを見るような目がツバキをぶちキレさせたのだった。
「……てんじゃ……」
「えっ?」
「笑ってんじゃっ、ねーわよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
一瞬で濃密な魔力を生み出し、狙いも適当に強力な魔法が室内に一切の加減なく暴風のように吹き荒れた結果……
ドォーーーーーーンッッッッ……!!!
街の一角から起きた大爆発は、後にこう語り継がれる程の大惨事となった。
『イカれ魔導師の発破事件』と。
秘めざるトップシークレット(笑)は如何でしたか?
と言うわけで、巨乳と見せかけたPAD保持者のツルペッタンの貧乳というツバキだったのでした。
そう言えば、どこかの素晴らしい世界にもパッドで誤魔化してた神様がいたような気がしなくもない……