元気になりすぎたレヴィ
タイトルからあ、察し……と思った方は正解です。
ただ、前半にはちょっとグロ描写あります。
「はぁっ、はぁっ……」
夢魔は懸命に逃げていた。
翼が使い物にならなくなったせいで、慣れない足を使っての逃走は夢魔の体力をごっそり奪ってその足並みは遅いものがあったが、それでもそこそこの距離まで行けていた。
だが、夢魔は内心では飛べずにいる今の状態に腸が煮えくり返る思いだった。
「ちくしょうっ……あの人間め、この報復は必ずしてやるわっ」
暫く身を潜めて体の回復に努めた後に、翼を損傷させた人間への復讐を決意した夢魔。
次はもっと慎重に、そして見つからないように細心の注意を払ってと考えていた夢魔の耳に後ろから何か音が聞こえた。
耳を澄ますと、それは地面を激しく打ち鳴らすような馬蹄の響きのようにも聞こえて。
「ま、まさかっ」
振り返ると、あの奴らと一緒にいたケンタウルスがこちらに向かってきてるではないか。
木々が茂る森の中でもそのスピードは平原を走るのと変わりなく、みるみる内に間が狭まっていく。地面に落ちた血痕の後を追ってきたのだ。
ここに来たということは、あのジョーカーAとかいう奴は敗れたのか?
何て使えない男だ、役立たずと心の中で罵倒しながら夢魔は泡を食って逃げるが、元より足が遅い夢魔に逃げきれる筈もなく、そうしない内にあっさりとシラギクに捕まったのだった……。
「ゆ、許して、許してくださいっ。あ、あたしはただ、命令されただけなんですっ! 言うことを聞かないと殺されるって脅されて、し、仕方なしにやってただけなんですっ」
シラギクに捕まってレヴィ達の前に引きずり出された夢魔は目に涙を溜めて懇願しながら命乞いをした。
自分は確かに殺そうとしたが、それはあのジョーカーAにやらなければ自分を殺すと脅されたから嫌々ながらしただけ。
つまり、自分も被害者なんですというアピールをしたのだ。
もちろん、これは真っ赤な嘘だ。
命令されたのは確かだが、夢魔も殺しを楽しんでいた節もあるし、そもそも悪魔に類する夢魔に命を奪ったぐらいで罪悪感を抱く感性など欠片もないのだから。
それ以前にレヴィの精神に潜った際に、色々と本音をぶちまけたので信用される筈も無かったのだが……
「……そうか、脅されたんなら仕方ねーな……じゃあ、俺のこの状態を治してくれたら見逃してやるぜ……」
レヴィは治療と引き換えにこの場は見逃してやろうという取引を持ち掛けたのだ。これにはライラット達も苦言を呈する。
「レヴィっ? 何を考えているんだ、理由はどうあれこいつはお前を殺そうとしたんだぞ……大体、悪魔の言うことなんだぞ。それを頭から信じる気か」
「わたくしもライラットさんの意見に同意ですわ。殺人に荷担した以上、その者が清廉潔白な身の上とは思えませんもの」
もしや、この夢魔がそれなりの美人だから温情を掛ける気になったのだろうかと邪推までした。
生憎、整った顔も今は鼻が折れて血糊が付いてる酷い有り様だが。
そんな仲間達の疑惑を心配すんなの一言で済ませて、レヴィは腰を落として夢魔と顔を合わせた。
「な、治したら、助けてくれるんですかっ?」
「……ああ、嘘は言わねーよ……だから、てめーも嘘は言うなよ……?」
「は、はいもちろんです、嘘偽りなんてありませんっ……で、では精気をお返ししますので、手を握って頂けますか?」
「……おう……」
言われた通り手を差し伸べてくるレヴィ…………その無警戒さに夢魔は内心で小躍りしていた。
(ふふ、ふふふふふっ、バカ餓鬼っ、バカ餓鬼っ、バカ餓鬼ねぇっ! こんな嘘にあっさり引っ掛かるとか……とんだ甘ちゃん野郎だわっ、治したら見逃してやるだぁ?……いい気になってんじゃないわよ、このどぐされがぁっ! 治してやる訳なんか更々無いっつーの、ボケがっ!)
外面が良くても中身はやはり悪魔……その醜い心に似合う、汚い言葉の羅列を捲し立てて夢魔は見えない角度でほくそ笑んだ。
(効率は遥かに劣るけど、触れたぐらいでも精気を吸い取ることは出来んのよ。今のこいつの状態なら、ほんのちょっとでも吸い取れば昏倒させることも不可能じゃないわ……その隙に頸動脈を掻き切ってやって、回りの雌豚どもがオロオロしてる間に逃げてやるっ)
背中に回して隠した左手の爪を密かに伸ばして鋭利な刃物に変化させた夢魔はその時を待った。
そして、レヴィの手が自分の右手を掴み掛けた瞬間に吸収を始めてから、すぐさまに行動に出た。
(アハハ、ハハハハハっ♪ これであんたもお仕舞いよぉっ! せいぜい、あたしに最高の死に顔を見せて死になぁっ!)
少しでも意識を朧気にさせれば十分。左手の爪で首を掻き切ろうと動き掛けた夢魔は…………その顔面に拳を見舞われた。
めり込む程にぶち当たった衝撃で、折れてた鼻はひん曲がる程になり、歯を何本か落としながら夢魔は蛙のように引っくり返った。
「げぶぅっ!?……がっ、あぎゃっ、へっ……?」
「……やっぱ、そういう手に出てきたかよ……最後のチャンスのつもり、だったんだけどなぁ……」
ゆらりと立ち上がったレヴィの目は……夢魔を竦めさせる程に冷たいものだった。
「な、なんれ……あ、あらひの、ほうろうをよんれ……?」
「……騙し討ち狙ってたつもりかもしんねーが……左手を不自然に隠してる辺りでそういうのは察してたぜ……それでも何もしなけりゃー、適当に放逐してやっても良かったんだが……今ので最後のチャンスを不意にしたな……」
夢魔の考えは全てきっちり読まれていた。誤算だったのは、ちょっと吸い取った程度ではレヴィの意識を朦朧とさせるにはまだ不十分であった点だった。
ほんの僅かに目眩こそしたものの、夢魔の緩慢な動きには対応できたのだ。
自分にとっては唯一の反撃もあっさり看破され、狼狽える夢魔の前にレヴィの後ろから進み出たライラットが戦斧を振り上げる。
さながら罪人を裁こうとする処刑人のようなオーラを昇らせて。
「ま、まっへ、ゆるひてっ! も、もうなにもひませんっ、い、いのひらけはたしゅけっ……」
「もう貴様は口を開くな……欺瞞の声は耳障りで敵わん」
みっともない命乞いの声を断ち切るように、振り下ろされた戦斧は頭から胴体に掛けてまで夢魔の体を真っ二つに断ち割った。
……目の前で二つに裂かれた夢魔が力なく倒れるのをレヴィは、ただ無言で眺めていた。
(……性根が腐った奴といっても、女が死ぬのは見てて気分が良いもんじゃねーな……嫌なことを思い出しちまう)
実際、女の姿とは言え悪魔は悪魔。人間を殺すことを趣味の延長線としか捉えていないので、惨たらしく死ぬのは因果応報であろう…………だが、脳裏に過去の出来事……孤児院で世話になったシスターが死んでいく光景がフラッシュバックするように浮かんで、レヴィは苦々しい顔になって嫌な記憶を奥底に仕舞った。
何はともあれ、呪いを掛けた張本人は死んだが果たしてこれで解けたかどうかが分からない。
唯一、分かりそうなツバキに確認させようにも、彼女は木に寄り掛かってまだ気絶してる最中である。
もう戦闘は終わったし、叩き起こそうかとライラット達が行こうとした時に夢魔の死体が消え始めてレヴィの体がボンヤリと淡く光るような現象が起きた。
「お……お?」
「これは……」
「ああ、レヴィの麗しい見た目が戻っていくよっ♪」
げっそりしていた顔つきは元通りの美少女じみたものに戻った。それだけでなく、減退していた活力も漲ってきてふらつく体もしっかりとしてきた。
夢魔の死体が消える頃には、レヴィは見た目も元気もすっかり取り戻したのだった。
「やりましたわね。ようやく元に戻れたようで何よりですわ」
「ああ、これで一件落着といったところ……どうしたんだ、レヴィ?」
体の調子を確かめるようにしているレヴィが、何故かこっちを振り返る素振りを見せなくて怪訝な顔になるライラット。
まさか、まだどこか悪いままなのかと危惧するが。
「あー、いや……ちょっと漲り過ぎちまってな」
「何が……ぶっ!?」
振り向いたレヴィに思わずライラットは吹いた。
ズボンの下から激しく自己主張してるモノを見た為である。
見慣れてる普段のより、心なしか二倍増しにもなってそうで直視しきれずに目を逸らした。
「な、何でいきなりそんな昂っておりますのっ!? 元に戻ったからといって、速攻で盛るだなんて節操無さすぎですわよっ!」
「俺もそう思ってるがよ、体が勝手に熱くなってきちまってんだよ……こりゃ、ヤらねーと収まりそうにねーぜ」
吸収されていた生命力と一緒に性欲やら何やらも一辺に戻ってきてしまった影響のようだ。
頭は冷静なのだが、肉体は勝手に昂り続けていて発散させないことには鎮まりそうになかった。
「それなら丁度いいじゃないか。ここなら人気も無いし、そういうコトをするにはうってつけの環境だし……レヴィの為に頑張った、私へのご褒美も貰いたいことだしね♡」
レヴィの下腹部に熱い視線を送りながら、エストーラはごく自然な動作でスムーズに服を脱ぎ始めてライラット達は止めに入った。
「ま、待てっ、ここでするのは流石にそのっ……ツ、ツバキだっているんだぞっ」
「あの子ならまだ気を失ってるし、気になるならちょっと離れれば良いんじゃないかな?」
「で、ですけど、まだあのジョーカーとやらが潜んでいる場合だってあり得るじゃありませんのっ」
「あいつは引き際を弁えてそうだし、手傷を負った以上は素直に拠点かどこかに逃げてると思うけど?」
あーだこーだとライラットとシラギクが言っても、最もらしいことを言って全然止めようという気配が無かった。
逆にエストーラがその気にさせるように巧みな陽動を仕返してくる。
「君達だってご無沙汰してるだろ?……二日、三日ぶりのレヴィのアレを堪能してみたくないのかい♪ 想像してごらんよ、ただでさえ絶倫の彼が我慢したらどれだけ激しい営みになるかを……」
「「……ごくっ」」
想像したのか顔を赤らめて二人とも生唾を呑んで固まってしまった。
何だかんだで夜のテクニックにライラットはメロメロで分かり合えてきたこともあってぞっこん気味になってきてるし、本番こそまだ無しで表向きは性欲処理の為にと言ってるシラギクも段々とハマってきてる状態なのだ……そういうことを言われたら、理性よりも本能の方を優先したくなってしまう。
「……そ、そうだな……あんな状態で街に帰るのは、む、無理そうだしな……」
「そ、そうですわね、奇遇にもわたくしも同じ意見ですわ……こ、ここでスッキリさせてから帰った方が宜しいと思いますのっ」
表面上は醜聞を避ける為だと言いながら、二人とも膨らんだ股間に目は釘付けであった。
それを見たレヴィが、ニヤリと楽しそうに笑う。
色々と頑張ってくれたから、性欲発散もしつつ存分に気持ち良くしてやろうじゃないかと思った。
「……んじゃ、三人纏めてヤるとすっか。たぶん、かなり長丁場になるだろーけど途中でダウンすんなよ?」
それを聞いて全員が息を呑み、レヴィの猛った欲望を発散する宴が始まった……。
~八時間後~
「う、うう~ん……あたしのグレート魔法で、みんな吹っ飛んじゃいなさい、むにゃ…………はっ! あ、あら? あたし寝ちゃってたのかしら?」
気絶してる間に寝てもいたようで、漸くツバキが意識を取り戻した。
寝ぼけ眼で辺りを見回しつつ、直前の記憶を手繰っていた彼女は前後の状況をやっと思い出すに至る。
「あっ、そうだわっ。あたしが加勢してやろうと思ったら誰かが後ろから首を……ひょっとして、あのガキンチョがやったのかしら? だとしたら、めっちゃ腹立つわっ! お返しに一発殴って……ううんっ、頭髪を燃やしてカッパ頭にしてやるわっ!」
絶妙に嫌な仕返しを考えつつ、空を見上げると太陽がだいぶ昇っていた。時間は大体で午後を半分過ぎた辺りだろうか。
随分と意識を飛ばしてしまってたようだ。
次に気付いたのは、自分以外に誰もいないことだった。
まさか全滅したのかと思ったが、だとするとここで丁寧に寝かされていた意味が付かなくなるので多分だが違うと判断する。
ではどこに行ったのかと思っていると、奥の林の方からうっすら声が聞こえてきた。
「何よ、人をほっといて楽しくお喋りでもしてんのかしら……むかつくっ、文句のひとつでも言わないと気が済まないわっ!」
ムカムカしてきたツバキは声のする方にへと歩き始めた…………少し歩いた辺りから彼女は地面に捨てられたように落ちてる衣服が点々と続いてるのを発見した。
「……これってあいつらが着てた服、よね? 何でこんなところに……水場なんて無かったと思うけど」
怪訝に思う中で近付く内に、ハッキリと聞こえてきた声の内容に艶の乗った喘ぎも混じってることから何をやってるのかというのに漸く気が付いた。
「こ、これってっ……も、もしかして、あいつらっ……」
足音を立てないよう、こっそり近付いて茂みの向こうにいるだろう連中を覗くと…………
「レ、レヴィっ、まだ、収まらないの、かっ♡ わ、わたし、もう限界がっ……♡」
「っ……悪りー、ライラット、もうちょっとだけっ……」
「ほ、ほんとうに底なし、過ぎますわ……いつもの回数の十倍はヤってますのに……もう呆れるしかありませんわ……♡」
「今更だね……これが、彼の魅力なんだから……つ、次はまた私の番だよ♡」
「っqあwせdrftgyふじこlpっっっっっ!?」
目に飛び込んできた酒池肉林も生温く思える、ハードかつ生々しい性行為の場面にツバキの口から声にならない悲鳴が飛び出る。
顔を一気に真っ赤にさせて、アワアワと口を酸欠の魚のようにパクパク開閉させた後……居たたまれ無さすぎた彼女は全速力でその場から逃げたのだった……。
こうして波乱ありながらも、レヴィの身に起こった呪い事件は終息したのであった。
運営から文章が違反と言われないかどうかびくびくしながら書いたヘタレ作者でございます。
だが一辺の悔い無しっ!
蛇足気味に書くと、レヴィのハッスル具合は足掛け十時間を突破しました。