手は出させない!
気付いたら、PV数が一万突破してました。
こ、こんな作品にそこまで……あな嬉しや。
二人にへと増えたジョーカーA。
黒いジョーカーAはライラットに戦闘を仕掛け、もう一方の白いジョーカーAはシラギク達の方にへと向かってきた。
これをまず迎え撃ったのはシラギクだった。
あまり近付かれては自力で移動するのが困難なレヴィを巻き込みかねないと判断し、またエストーラは接近戦は少々不得手で後ろに控えて貰った方がいい。ツバキも魔導師なので同様だった。
「ここはわたくしが前に出ますわっ。エストーラさんはレヴィを守っていてくださいまし」
「ああ、任されたとも。レヴィの護衛も援護もこなしてみせるさ」
エストーラに頼んだ後、彼女は馬蹄を響かせて白いジョーカーAの迎撃に向かった。
雷雹の切っ先を振りかざして、突進からの刺突を当てようとしたが白いジョーカーAには寸でのところでかわされ、すぐに急停止を掛けて止まった。
「ホホホ、まず相手されるのはお馬さんの方ですか?」
「っ! わたくし……そう呼ばれるのは好いてませんのよっ!」
明け透けなく馬呼ばわりされたシラギクは不快と同時に怒りも覚え、雷雹を車輪のように回して白いジョーカーAに突撃する。
「はぁっ!」
「おぉっと」
シラギクが振るう薙刀を白いジョーカーAは機敏な動きでかわす。
時には前足を振り下ろしたり、背後に回り込まれた時には後ろ蹴りを喰らわせようとしたりと斬撃だけでなく打撃も交えた攻防を繰り広げた。
「馬刺しにでもしてあげましょうかねっ? そ~れっと!」
「丁重にお断りしますわっ! はっ!」
白いジョーカーAが両手から同時に何本ものナイフを投擲するが、シラギクは雷雹の刃と柄でこれを一本残らず防いでみせた。
防がれた後でもすかさずに白いジョーカーAはナイフを投げて中距離からの投擲攻撃を継続する。
ケンタウルスであるシラギクの機動力を存分に発揮させない為か、彼女の持つ薙刀が届かない位置をキープしつつ、それ以上は離れないように立ち回る白いジョーカーA。
微妙な位置を取られてるせいで、シラギクは雷雹による放電攻撃をするには近すぎるというのもあって専ら白兵戦に勤しまなければならなかった。
また白いジョーカーAは攻撃こそしてくるが、そこまで積極的に攻め込んでこなかったので端から見れば決定打に欠けるダラダラとした戦闘が続いた。
硬直状態に陥ったのならば、流れを変えるしかない。
そんな時に出番となるのが、射撃に突出したテクニックを持つエストーラなのだが彼女は拳銃こそ抜いているがレヴィを庇うように立っているままだった。
これは別にレヴィ一筋として守りに徹してる訳では無かった……援護しようにもしにくい状況にあったのだ。
「……小狡い真似をするじゃないか、あいつ」
口惜しそうに呟くエストーラ。
彼女が持つ拳銃の銃口は白いジョーカーAを狙っている、がその前に度々シラギクが割り込んでくるので迂闊に発砲できなかったのだ。
ただ、これはシラギクのせいというのでない。
意図して彼女を盾代わりにするような位置を取っている白いジョーカーAの狡猾な知恵であったのだ。
中途半端な距離を保ちながらでいるのも、シラギクの側にくっつくことでエストーラが撃ちにくいような状況にさせる意図でもあったのだ。
戦術的には理に叶ってもいるが、されてる側としては鬱陶しいこと極まりない。下手に近寄ってレヴィの護衛を疎かにするわけにも行かず、エストーラは銃を向けながらチャンスが来るのを待つ消極的な戦法にならざるを得なかった。
(……くそっ、万全の体調になりゃー、俺も行けたっつーのにっ)
精気を吸い取られてグロッキー状態の自分の不甲斐なさに憤るレヴィだったが、そこへ三つ目族のツバキがエストーラより一歩前にへと出てきた。
「あーもーっ、まどろっこしいわねぇっ。ぐだぐだやってんのを見てても埒が明かないわ。あたしのスペシャル魔法で吹っ飛ばしてあげるわよっ」
「ちょっと待ちたまえ、君……何をするつもりだい?」
杖を掲げて魔力を漲らせるツバキにエストーラが制止を掛ける。
事前情報によれば、彼女は味方にもお構い無しに攻撃魔法をぶっ放すという問題行動があるそうだったが……まさかシラギクも纏めて広範囲魔法を放つつもりなのか?
その懸念は残念ながら見事に的中する。
「あたしの『殲滅封撃』で、あの辺りを吹き飛ばすのよ。そうすれば、一瞬でカタが付くわ」
「『殲滅封撃』だってっ? 君、シラギクも一緒に吹っ飛ばすつもりかいっ?』」
殲滅封撃……それは一点集中させた魔力を正面に向かって放射状に解き放つ攻撃魔法であり、術者の魔力の高さに応じた破壊力を持つ。
上記したように広い範囲を射程に収められるこれは、原則として味方が前方にいないことを前提に放つ代物なのだが、ツバキはシラギクが戦ってる最中でしかも勧告も無しにやるつもりらしい。
「あいつはケンタウルスだから頑丈そうだし、ちょっと当たっても問題無いでしょ?」
「問題大ありだねっ。味方も一緒に吹き飛ばそうなんて真似を見逃す訳には行かないよ」
「何よ、邪魔すんじゃないわよっ。大体、いつまでも時間かけてるアホ馬の責任でしょ。あたしがスムーズに終わらせてやるんだから、寧ろあんたは感謝する立場にあんのよ」
ジョーカーAとの戦いの最中にも関わらず、エストーラとやいやい口論を引き起こすツバキをこのままにしていては自分らにとってマイナス要素でしかない。
レヴィは重い体を上げて、ふらつきながらもツバキの背後に回り込んだ。
「いーから、あんたは黙ってあたしの勇姿を拝んどきなさい。行くわよ『殲滅……』」
「……ちょっと寝てろお前……」
「はぎゅっ!?」
怠い身の上でありながらもツバキの首筋に鋭い手刀をお見舞いさせるレヴィ。本調子とは言えないままでも、特に体を鍛えてもいない魔術師のツバキにならば意識を失くさせるには十分な威力ぐらいはあった。
詠唱が途中で止まり、白目を向いて仰向けに倒れるツバキを尻目にレヴィはエストーラに言う。
「……俺のことは気にすんな……ヤバくなっても、俺で何とかすっから……シラギクの援護に行けよ……」
「だけど、レヴィ。今の君を一人にさせるだなんて」
「……元に戻ったら一番に抱いてやるよ……お前のお好みのプレイでな……」
口角を上げたレヴィが囁いた言葉に、エストーラは胸を大きく高鳴らせてモジモジと身動ぎした。
「っ! も、もうっ……そんなご褒美を言われちゃったら、嫌でも君の言うことを聞かざるを得なくなってしまうじゃないかっ……すぐに終わらせてくるよ、レヴィ♡」
頬に軽くキスを済ませたエストーラが脱兎のごとき勢いでシラギクの加勢にへと向かった。
ああまで言ったからには、腰砕けになるまでヤってやらないとなとレヴィは誓ってやった。
そんなやり取りがあったことなど知らずに戦っていたシラギクは、エストーラが近場にまで来ていたことに大層驚いた。
彼女の性格を鑑みれば、今の状態のレヴィを一人にして動く筈は無かろうと践んでもいたからだ。
「エストーラさん、貴女っ?」
「無駄口叩いてる暇なんか無いよっ。即刻、この陰険仮面を排除するんだっ!」
「は、はいっ」
何故かやけに張り切っている彼女に気圧されながら、シラギクは白いジョーカーAとの戦闘を続行する。
相も変わらず、絶妙な立ち位置にいるがエストーラも出張ってきたならいつまでもそこを維持は出来ない筈。
ここでシラギクも一気に攻勢に出た。
「はぁぁぁぁっ!」
前方に向けて素早く鋭い連続の突きを放ちながらシラギクが突進する。
矢衾のような密度に白いジョーカーAは堪らず、横に位置をずらして避けたがそこにエストーラが銃撃を放つ。
撃たれた三発の弾丸は狙い違わず、白いジョーカーAの仮面にへと向かったが銃撃の前にエストーラに意識を集中させていた白いジョーカーAは発砲の瞬間に身を捩って弾道の軌道から回避した。
「ホホホ、残念♪ 銃口の向きさえ見ていれば弾をかわすことくらいは造作も無いことですよ」
「ふん、なかなか分かってるようだね。銃の特性を」
当然ながら発射した後の弾丸の進路を変えることなど出来ない。なので、白いジョーカーAのいうように発砲前の銃口の向きに注視していれば熟達した者なら避けることは比較的容易いといえる。
(奴は冷静かつ、こちらの動きに常に気を配っている……オークとの戦闘で拳銃の方は結構な弾を使ってしまったし、あまり無駄撃ちは出来ないとくれば魔導銃を選ぶべきかな……けれど、こちらもこちらで使いがたいし)
魔導銃の欠点たる弾速の遅さ……属性を豊富に付与できるが、その弱点故に正面からでは当たりづらい。
なので死角から撃つのが最も効果的なのだが、白いジョーカーAが自分の動向を気に掛けてるのでは死角に回り込むのも簡単ではない。
時間を掛けずに手早く決着を付けたいエストーラは、これまで滅多に使ってこなかった十八番の技を使うことを決めた。
(これは誤射の危険も大きいからあまり使いたくはないのだけれど、あの三つ目ちゃんが起きてくる前にも勝負を付けないといけないからね)
エストーラは息を吸い、深く集中するとシラギクに向けて指でジェスチャーを行った。
自分を指してから離れるような動きを何度か繰り返して、シラギクにその意図を伝えさせた。
(私から離れろ……そういう意味ですの?)
何故そんなことを言うのか、今一つ分からなかったがしろと言うからには何か意味があってのことなのだろう。
視線は白いジョーカーAに向けたまま、シラギクはエストーラから離れた。
十分に離れてくれたことを確認して……エストーラは拳銃を白いジョーカーAにへと向けた。
「おやおや~? 何のつもりなのですかな~? そんなあからさまな狙いで、わたくしを狙い撃つおつもりで?……ホホホ、これは思わず笑ってしまう程に間抜けなことで♪」
「……そう、高を括っていられるのも今だけだよ」
嘲るように笑う言葉でも精神を乱すことなく、彼女は引き金に指を掛ける。だが引いて弾を撃つ直前に、エストーラは銃口の向きを変えたのだ。白いジョーカーAがいない方向にへと。
わざと狙いを外すかのような行動に、流石のジョーカーAも頭に疑問符を浮かべる。そうやって惑わせておいて、寸前に向きを修正する気かと身構えた直後にエストーラは撃った。
発砲音の後に銃弾が撃たれる……弾は当然ながら白いジョーカーAがいない位置に飛んでいき、確実に狙いが外れたのを見届けてから幾本ものナイフを握る。
「何をする気かだったのかいまいち分かりませんでしたが……敢えて言いましょうっ、貴女はお馬鹿さんだとね~っ!」
今にもナイフを投げつける体勢の白いジョーカーAに、シラギクはすぐにエストーラを庇おうと前に出掛けた時。
「ぐわっ!?」
白いジョーカーAが突然腕を押さえてナイフを取り零した。
良く見ると、押さえた肩の辺りから血が流れている。
何が起こったのか理解しきる前に息を吐いたエストーラが種を明かす。
「……ふう……何をする気だったか分からないと言ってたね。なら教えてあげるよ、跳弾さ。私は『反射撃』と呼んでるけれどね」
跳弾。弾丸が何かに当たった後に跳ね返る現象のことだ。
一般的には固い物に当たった時などが顕著だが、柔らかい砂地の地面でも角度の如何によっては同様のことが起こり得ることもある。
それをエストーラは故意にでなく、狙ってやってのけたのだ。
彼女の卓越した射撃の腕前の凄さが伝わるが、彼女にとってもそう気軽に出来るものでない最高難度の技だ。
「凄いですわね、エストーラさん。そのような技が使えましたのね」
「技、といっても運も加味された博打的なものだよ。ここぞという時にでも、そうはやらないものさ」
風の向き、撃った先の物体の固さがどれ程か、跳弾した後の銃弾の変化や反射する向き等々、計算しておくべきことは山程にある。
更にこれらを考慮してもまだ不確実な要素が絡み、場合によっては自爆しかねない危険もある。
なので、使う時はよっぽどの場合しかやらない奥の手中の奥の手だ。
「ま、まさか、こんなことが出来るとはっ……み、見くびり過ぎていましたか……」
「自分の実力に自信を持ちすぎたが故かな。君は私達を殺そうと思いながら侮っていた。その隙が命取りだよ」
「そ、そのようですねぇ……向こうのわたくしも、どうやら同じ轍を践んでしまったようだ……」
見ると、ライラットが相手をしていた黒いジョーカーAも片膝をついて彼女に戦斧を向けられた状態になっている。
もうチェックメイトに手が掛かった様子でありそうだ。
「さぁ、大人しく観念なさい。素直に降伏すれば、命まで取る気はありませんわ」
「……ホホホ、そうも行きませんね~? こう見えて、色々と仕事をやらなければならないので。こんなところでお縄についている暇など無いのですよ……という訳でして、お達者で~っ♪」
「っ、逃げる気かいっ!」
逃亡の気配を察したエストーラとシラギクが捕縛しようとする前にジョーカーAがいた場所を機転にボンッと白煙が立ち込める。
それに目眩ましを喰らって見失い、晴れた時には白いジョーカーAは忽然と消え去っていた。
同じように黒いジョーカーAも同様の手段でライラットの前から姿を消していて二人ともに逃げられてしまったようだ。
「くっ、引き際が良い奴ですわね」
「ああ……だけど、逃げた以上は構ってもいられないよ。あの悪魔を早く倒して、レヴィに掛けられた呪いを解くのが最優先なんだからね」
そう何よりもそれが優先すべきことなのだ。一刻も早く、彼を元の状態に戻してあげて、そして。
「荒々しく後ろから滅茶苦茶にして貰って……くふふ♡」
「……何を笑ってますの、貴女は?」
自分の預かり知らないところでレヴィとお楽しみの約束を交わされたエストーラが、妖しく含み笑いしてるのを変に思うシラギクだった。