三つ目少女は横柄に構える
魔導師としてはトップクラスの実力……だが、性格には少しというぐらいでは済まない難ありというヤシャ・ツバキ。
安心して頼める人柄とは言いにくいが、それでもレヴィのこの異常な衰弱を解決出来得るのなら構ってはいられない。
「んで、このあたしに解呪とかを頼みたいって話は聞いたけど具体的には?」
「ああ、私達の仲間でレヴィと言うんだが……見ての通り、一晩でこのような状態になってしまったんだ。私達は呪いの類いじゃないかと思って、あなたに調べて貰おうと思って来たんだ」
ツバキの対面にいるレヴィは立ってるだけでフラフラとつつけば倒れそうなぐらいに頼りないもので、隣でエストーラが支えてあげている程だ。
その様子を一瞥したツバキはただならぬものを察したか、三つの眼を凝視して見た。
「ふーん、確かにこれは異様ねぇ……それに変な魔力までくっついてる感じだわ。人間……のにしては異質ね」
「うん? 君の口振りからすると魔力を可視化でも出来てるように聞こえるけど」
「見えるのよ。三つ目族は魔力操作に最も長けた種族……この額の眼は魔力の波長を肉眼で捉えられることも出来んのよ。個人個人で魔力の質は千差万別だから、そいつに他人の魔力が残りカスみたいに引っ付いてんのもお見通しな訳よ。どーよ、凄いでしょ? 他の有象無象なボンクラ亜人には真似できない神業でしょ? 敬いなさいな、ふふん♪」
自信たっぷりに体を仰け反らせて、豊満な胸を見せつけるかのようにする。自意識過剰な感じもしなくないが、今は別に構わない。
それよりも、ツバキの言ったことは明確な手掛かりに繋がるものだった。
「……つまり、誰か知らねーが……俺に呪いの類いを掛けてるってことで良いのか……」
「そうね。あたしの見立てだと、これは呪いを掛けた対象の生命力を奪う感じだと思うわ……ねぇ、こうなったのってその寝てる間になったのかしら?」
「ああ、そうだ」
「だとすると、次に寝ようものならアウトよ。これだと、あと一回で生命力が尽きるかもしんないから」
「何ですって!?」
次に寝たら死ぬと言われたライラット達は慌てる。
昨日は日が沈み掛けた頃合いで、レヴィに猛烈な眠気が来たのであるならば今日もその時間帯になったら嫌でも眠りに入ってしまうことが起きかねない。
何としてもそれまでに、呪いを掛けたであろう元凶を何とかせねば。
「頼むっ、何とか解呪を試みてくれないか。礼金なら、取り敢えず持ち分の奴がそれなりにっ……」
「金なんて要らないわよ。ただ……やっても良いけど条件があるわ」
「条件?」
「あんた達さ、パーティーを組んでるのかしら?」
「ええ、わたくし達四人で組んでおりますけど、それが?」
「そのメンバーにあたしも加えなさい。リーダー枠でね」
突然の加入宣言、それだけに足らずパーティーのリーダーにまでしろという突然の要求にライラット達はどよめく。
何故、いきなりそんな条件を突きつけてくるのか戸惑うばかりである。
「ちょ、ちょっと待てっ。何なんだその条件は?」
「何よ、この天才美少女の最高魔導師のあたしがリーダーになってやろうってんのに嫌な訳?」
「そういう問題ではありませんわ。何故、唐突にそんなことを言い出すのか分かりませんのよ」
「そうだね。そもそも全くの初対面の者を仲間に……あまつさえ、リーダーで入れろなんて無茶振りも良いとこじゃないのかな」
パーティーのメンバーに誰かを入れる際に最も気を遣うべきは、やはり他人との調和具合だろう。
どんな優れた者であろうと、独断専行しがちで我が強い性格だったら不協和音からの内部崩壊という事態は容易に予測できる。
故に新規加入者は、慎重に且つ冷静に見定めなければならないのはどこでも同じことだ。
それに翻って、彼女……ヤシャ・ツバキの加入を認めた場合、どんな不都合が起こるかは大体分かる。
そもそも彼女が仕出かした不始末はギルド職員からも聞いているし、こうして拘留されてるのも元仲間に対して暴力を振るったのが原因と聞いている。
そもそも、新参者がいきなりリーダー面して振る舞うだなんて気を害する以外の何者でもないではないか。
それ以前の問題として……
(もし、入ることになったら私達がレヴィとそういう関係を結んでるのが嫌でもバレてしまいかねんっ)
ライラット達が半ばレヴィのハーレム構成員になり掛けてる今の状況を他人に知られる訳には決していかない。
醜聞に過ぎるし、それをギルドに言い付けられでもしたら下手したら不適切であるとしてパーティー解散を命じられてしまうかもしれなかったからだ。
「今の状況にあたしはうんざりしてんのよ。ちょっと仲間だった奴に灸を据えてやったぐらいで、拘留なんかされてさ。それにこのままだと、冒険者のライセンスも剥奪しかれないし、そうなったら食うや食わずの生活になっちゃうじゃない。そうなる前にあんた達の方から勧誘して貰ったっていう体なら、上手いこと抜け出せるじゃない。あたしはここから出ていけて、あんた達は超!有能なこのあたしを仲間に入れられるんだから互いにメリットしかない申し出でしょ♪」
どちらかと言えばデメリットしか無い申し出だ。
それにさっきから自分の実力をひけらかす態度が癪にも触る。
キッパリ断ろうと言う前に、ツバキの方から先手が打たれた。
「拒否するなら解呪はしてやんないわよ。見た感じ、そいつに掛けられてる呪いは結構高度な奴っぽいし。あたし以外に出来る人間が都合よく見付かれば構わないけど~?」
「くっ……」
明らかに足元を見られている。
だが実際に他に解呪が出来る人間を探す時間的余裕は、ほぼ無いと言っても過言ではない。
仮に見つけられたとして、その人物が対処出来ないと言われたら後は崖っぷちから飛び降りざらなくを得ない状況にもなってしまいかねない。
だからと言って、彼女の条件を受けるのもそれはそれで……そう考えあぐねてると、何とレヴィ本人が答えた。
「……良いぜ、解呪できたら……俺らのパーティーのリーダーを……認めてやるよ……」
「えっ、レヴィっ!?」
「ふふん、分かってんじゃないの。まあ当然よね、このあたしが仲間になってやるって言ってんだから。感謝することね、凡人さん達」
何故、そんな条件を呑んだのだとライラット達は詰め寄る。
もしや、まともな思考まで出来ない程になってしまったのかと心配したがレヴィはフッと笑った後にウインクをしてきた。
……これは心配するなというニュアンスなのだろうか?
そんなレヴィの真意には気付かずに、ツバキの方はしめしめとほくそ笑んでいた。
(ふふふ、ラッキー♪ 上手い具合に良い話が転がりこんできてくれたわ。ここで、このガキンチョを助けてやって恩を着せてやればあたしをリーダーと認めざらなくを得なくなるわ。そうしたら、また心置きなく魔法の研鑽も兼ねた実戦練習も出来ることだし~、ふふふふ~♪)
彼女にとって、仲間という意識はそんなものであった。
面倒事を全て背負いこませられる便利な人程度という扱いで、自分の探求心を突き詰められるならばその他はどうでもいいという考えしか無かったのだ。
とても冒険者向きでなく、どっちかと言うなら魔法研究に精を出す学者タイプなんじゃないかと思うが……彼女の場合、自分で新開発した魔法を実戦に近い場で好きにやってみたいという悪癖があって如何ともし難かった。
こうして種々の問題を孕みながらも、解呪できそうな方向に行きだしたのは喜ぶべきことなのだろう。
ライラット達はそれでも幾ばくかの不安があったが……。
さてさて、自意識過剰娘が入ってどうなることやら。