忍び寄る魔
最後の方に、控えめながら性的な描写シーンがあります(もちろん規制範囲内……の筈と思って書いてます)
アウセントに戻ってきたレヴィ達は、郊外の森で起こった大量のオークによる襲撃を冒険者ギルドに報告した。
最初にその一報を受けた職員は信じられないといった様子だったが、それも無理からぬことだろう。
郊外とはいえ、アウセントの街からそんなに離れていない森に百を越える数のオーク達がひしめいていたなどと。
仮に本当だとして、どうやってそれだけの数のオークがギルドや街の守備兵の監視を掻い潜って終結したのか。
色々と腑に落ちない報告、しかもそれを言ってきたのが他国から来た新参の冒険者となればどうしても懐疑的に写ってしまったが真偽の確認の為に言われた場所に赴いた職員が見たのは地面を埋める程にあるオークの死骸の山。
すぐに取って返した職員が真実であると言い、すぐさまにレヴィ達は詳しい報告の為にギルドの対策委員会にへと招かれたのだった。
~臨時対策室~
「……では少なくとも、森にいたオーク共は君たちが殲滅せしめたと?」
ギルドマスター兼対策委員のトップを務めるカブロルが確認する。
彼としても、この街近くの森にそれ程までの数のオークがいたなどというのは最初は素直に信じられない情報だったが、真摯な目で真っ直ぐ見据えてくるこの黒髪の少年は少なくとも嘘を言ってるようには見えなかった。
「ああ、幸いというか俺達を襲ってきたオークはやたら好戦的で戦闘の途中で逃げるような奴もいなかった。文字通り、最後の一兵まで戦い尽くしたから取り零した個体はいない筈だ」
「そうか……しかし、どうやってそれだけの数のオークが誰にも気取られずに終結できたのか、それも考えるべき問題だな。ひょっとしたら、今回のように人知れてないだけで意外な場所に集まってる可能性もある」
カブロルとしても、人里のすぐ近くにオークの溜まり場のようなのが出来ていたとしたらそれは早急に潰さねばならない。
そんなのがあっては住民の安全もそうだし、交通路にも多大な影響を及ぼす。
「一度、アウセント周囲を徹底的に再調査する必要がある。それから距離の近い街の冒険者ギルドにも呼び掛けて広範囲で調べてみねばな。いつ何時、オークの大群が大挙して襲ってくるか分からないから早急に取り掛かろう」
カブロルはすぐに近隣の街にある冒険者ギルドにも連絡を出して、広範囲かつ綿密な調査をする必要があることを報せることを決めた。
その後、残されたオークの死骸処理をギルドに一任して貰うことを認めて貰ったレヴィは質問した。
「ギルドマスター、ジョーカーAという名前の人物に心当たりとかはあるか?」
「ジョーカー、A?……いや、少なくとも把握してる限りではギルド所属の冒険者にも街の人々にも、そんな奇抜な名の者は知らないが……それがどうかしたのか?」
「まだ憶測に過ぎねーんだが……」
レヴィは森でオークと遭遇した切っ掛けがそのジョーカーAという人物に案内された結果であることを報告し、ひょっとしたらこの性質がおかしいオークの異常発生に関係してる人物かもしれないという懸念を言った。
現時点で確たる証拠こそ無いが……言動などからはそれを匂わせるものがあった。少なくとも、自分達を欺いた時点で真っ当な人物ではなかろう。
「その男が黒幕であるかもしれない、と?」
「断定は出来ねーが、限りなくクロに近い奴だと思う。けど見た目や名前以外に情報が無くてよ、ギルド側でも捜査して貰えねーか」
「ふむ、そう多くの人間を割けないが……出来うる限りは善処してみよう」
「助かるぜ」
一連の報告を終えたレヴィ達は、オークの集団との戦闘での疲れを癒すべく、その日は早々に宿で休息を取ることになった……。
△ △ △ △ △
……とある場所にひっそりと建っている打ち捨てられた小屋。
人気が無く密談をするには持ってこいの場所に、如何にも怪しげな格好の男……ジョーカーAはいた。
何かを待ってるように空を見上げていたジョーカーAは、ポツンと見えた空の点に気付く。
それは脚に何かガラス珠のようなのを持った鷲のように大きな鳥で、ジョーカーAを視認した鳥は高度を下げて一直線に降りてきた。
そして腕を出したジョーカーAに掴まり、掴んでいたガラス珠を彼の手に落とした。
「配達ご苦労様。ではこれが代金です……しっかり届けてくださいね~?」
「ガァッ」
首のところに付けられた細長い籠に金貨をジャラジャラ入れると、一鳴きしてから鳥は飛び立っていった。
手元に残る何か黒い靄のようなのが詰まっているガラス珠に視線を向けたジョーカーAは仮面越しに笑いの声を溢した。
「ホホホ、悪く思わないでくださいね。これもわたくしの仕事の為なので……せめてもの情けに苦痛など感じない死に様を提供致しますのでね~」
全く罪悪感の欠片も無い調子でジョーカーAはガラス珠の中に封じられたあるものを顕現させたのだった……。
~アウセントのある宿屋~
「はぁ~っ、疲れたぜ~っ……」
ボスンッとベッドにダイブしたレヴィが大きく伸びをして凝った体を解す。
生憎と質が良いとは言えない宿に寝具であるが、寝れる分だけ野宿よか遥かにマシだ。
尚、部屋は三人割りという結果になった。
本当なら全員が寝泊まりできるのが望ましかったのだが、スペースの関係と今日は全員が疲れきってた理由からこうなった。
レヴィの性欲はこういう疲労時にも遺憾なく起こってしまうので、下手にライラット達と相部屋になったりしたら自制心が持たずに抱いてしまうことが起きかねなかったのだ。
流石にレヴィも戦闘で疲れきってるライラット達にそういう真似をするのは気が引けたので今日はこういう妥協案を取ったのだ。
抱くのはまた体力が万全に戻った明日以降からでも良いのだし……エストーラは非常に残念がってたが。
まだ夕方近くだが早くも眠気が訪れかける。だが寝てしまう前にレヴィは考察をした。
「まず、ジョーカーAっつー奴の目的だな……あいつが黒幕だとして、オークを増やす理由は何だ? 単純に考えたなら手下を増やして、どこかを襲わせるっつーのが思い当たるけど……だったらそれはそれで行動が変だ。増やすべき手下を俺達に間引きさせる必要なんてねー筈だ」
となると、次に考えられるのは何かの確認か試したいことがあったから……あのオークがどれだけ戦えるかを見る為か?
これまでオークが目撃された時は、全て冒険者か兵士との戦闘だけだったという。これらも戦闘経過の観察が主なものとしたら?
「……けど、オークを強くさせたところでどうしたい? 結局はそれが分からなけりゃ、真意は図れねー」
暫く考えを纏めていたが、疲労の蓄積と頭を使ってるせいか睡魔が徐々に強くなってきてしまった。
「ふぁ……眠くなってきたし……今日はこんぐらいにしとくか…………」
今日のところはここまでにして、寝て頭も気分もスッキリさせることにしてレヴィは早めの就寝に入ったのだった……。
……熟睡していたレヴィの意識が、不意に目覚める。
「……んぁ?……どこだ、ここ……?」
寝ぼけ眼で見渡す周囲はピンクの靄が掛かったような場所で、自分の体はその空間でふわふわと浮かんでいた。
足元が覚束ない浮遊感に現実味が感じられない感覚に、レヴィがボーッとしながら浮かんでると不意に後ろから誰かが抱き締めてきた。
「あ?……ライラット?」
「ふふ♡ 捕まえたぞレヴィ、さぁ私と心行くまで愛しあおう♡ お前がやりたいことなら、何でもウェルカムだぞ♡」
そう言って、顔に軽いキスをしてくるライラットは発情してるかのようで、しかも格好は彼女が着るとは到底思えない露出極まりないデザインの下着姿だった。
デレデレな様子で体をくっつかせてくる彼女らしからぬスキンシップに、レヴィは朧気ながら分かった。
「……ああ、そっか……こりゃ夢だな。あのライラットがこんな格好で自分からキスしてくるなんてあり得ねーもんな……はぁ、こんな夢を見るぐらいに溜まっちまってんのか俺は」
「何を言ってるんだ、レヴィ? さぁ、早く、早く、私とエッチなことをしようじゃないか♡」
淫夢を見る程にムラムラしてる自分の欲の深さに呆れるが、まあ夢だと分かったなら別に我慢することもないかとライラットの体を触った。
「あ、ん♡」
「じゃ、楽しむとすっか」
そのまま、レヴィは夢と思われる中でライラットと甘く激しい営みを始めた。
……あ、もっと♡……
……気持ちいい、レヴィ♡……
……もっと、もっとして…………そう、もっと吐き出して…………干からびるまで、ね? キャハハハハハハハハハハハっっ♪
絡み合う内に彼女らしからぬ様子になってきて、違和感を覚えた直後に周囲が暗闇に閉ざされ、レヴィの意識は深淵にへと落ちていった……。
何やら、怪しい雲行き……