オークとの激戦
一部にグロ描写ありなので注意です。
シラギクの薙刀から振るわれた電撃でオークの進撃が鈍った隙を突き、レヴィとライラットが突撃する。
黒焦げたオークを踏み台にレヴィが高く跳躍し、上方からドロップキックを喰らわせる。
一匹のオークの頭部がハンマーで殴られたかのようにひしゃげて潰れ、どす黒い血を吐きながら物言わぬ死体にへとなった。
地面に降り立ったレヴィは、周囲にいるオーク達をその類いまれな筋力から繰り出す徒手格闘で次々と沈めていく。
「おぉらぁっ!」
手刀の一撃で首の骨をへし折り、背後から迫ってきたオークには前を向いたまま体を器用に曲げてハイキックを浴びせる。
顎を砕かれたオークが倒れるのを尻目に、正面のオークに機関銃のごとき打撃の雨を容赦なく浴びせる。
脂肪と筋肉で包まれた防御力に秀でてる筈のオークの肉体は、瞬く間にボコボコにされて止めの一撃で内臓破裂の憂き目に合い、この個体もまた地にへと沈んでいった。
小柄な体とフットワークを生かして周囲を囲まれながらも縦横無尽とった風に、オークの群れの中を駆けながら格闘戦で次々とオークを屠っていくレヴィ。
それに平行してライラットも鍛えた腕力と愛用の戦斧で目覚ましい戦果を上げている。
「ふっ!」
「ギゲェッ!」
横一閃に払われた戦斧がオークの腹を引き裂き、臓物が溢れ出る光景を最後にそのオークは地面に落ちた自分の臓器に頭を突っ込んで死んだ。
遠心力を利用して風車のように回転しだせば、取り囲むオーク達の首や胴体が次々に裂かれて飛んでいく。
小手先の技でなく、己の力に物を言わせる典型的なパワーファイターの戦いぶりだがそれだけに膂力で劣るオーク達は劣勢は免れない。
だが、振られた戦斧を体に受けたオークの一匹がそのまま食い込んだ斧を手で固定して簡単に抜けないようにさせた。
ただでは死なないとでもいうように、豚の面に醜悪な笑みを浮かべ、動きが止まったライラットに棍棒を持ったオーク達が殺到する。
「オークにしては見上げた心意気だ。だがっ、見くびるなっ!」
力を込めて、ライラットが振るった腕は間近に迫っていた木製の棍棒を小枝のようにへし折ってそのまま持っていたオークの顔を潰す。
突きだされた槍を片手で受け止め、百キロ近い体重のオークごと振り回して質量武器として近くのオークを薙ぎ倒した。
迫るオークを粗方片付け、斧を押さえているオークに渾身のストレートを浴びせて完全に息の根を止めてから戦斧を引き抜く。
「終わったら丹念に拭いてやらんとな。はぁっ!」
血潮で汚れた相棒に一声掛け、再びオークを斬殺していく。レヴィとライラットの双方が暴れまわり、押し寄せるオーク達が畏怖してたたらを踏んだがそこへ騎兵たるシラギクも突っ込んできた。
「わたくしもやりますわよっ、せぃっ!」
薙刀を振ってオーク達を斬り倒し、時には突撃で蹴散らしながらオークの群れの密度を薄くさせる。
重量級のオークと言えど、勢いが付いたケンタウルスの突撃は阻めず馬の脚で踏まれ蹴られ、振られる薙刀がオーク達を黄泉にへと旅立たせた。
そして、エストーラも負けてはおらず得意の銃撃で堅実に頭部を撃ち抜いて始末し、足止めも兼ねて脚部を撃ったりして後方から押し寄せるオークの波を減算させる。
着実にオーク達を磨り減らしていくレヴィ達だったが……数十の死体を築き上げたところで消耗と共に何ともいえない不気味さを感じ出す。
「はぁ、はぁっ……こいつら、何て戦意が高いんだっ。これだけの数が殺られてるのに尚も向かってくるなんてっ……」
倒れるオークの数は既に六十を上回る程にまでなっている。
それでもまだ五十以上の頭数がひしめき、しかもどの個体も逃げる素振りを見せずに果敢にこちらへ向かってくる。
形勢不利を悟れば、仲間を見捨ててでも逃げるオークが損害を気にせずにひたすら押し出てくるこれは、やはり異様と言わざるを得なかった。
レヴィ達前衛組は体力の消耗も激しく、援護をしているエストーラも残弾が残り少なくなってきたことに焦りを感じ始めてもいた。
「踏ん張れよライラットっ! もう洞穴から出てくる奴も無くなってきた、今見えてるこいつらを殺ればそれで終いだっ! それまで耐えろっ」
「はぁ、ふぅ……ああ、最後までやるさレヴィっ、でやぁぁぁっ!」
気合いを入れ直し、戦斧を振るライラット。
だが、こうも長期戦に縺れるとは思ってなかったので前半で体力を使いすぎた反動で動きが鈍くなり精細も欠きつつあった。
そこへ一匹のオークが頭を割られながらも、捨て身の突撃でタックルをかましてライラットを転倒させた。
倒れた拍子に頭を強く打って、意識が散漫になった隙を突いて複数のオークが棍棒と槍を片手に殺到した。
「うっ! しまっ……」
起き上がって回避するのも間に合わず、ライラットは戦斧と腕で頭部への致命傷を避けようとした。
だが、オーク達が振るう武器が彼女に当たる前にいち早くレヴィが飛び出た。
「させるかっ、クソ豚野郎共ぉぉぉぉぉっ!」
威圧するように叫びながら、一撃一撃に全力を込めてオーク達を瞬殺する。しかし、絶命する前に一匹のオークが振った棍棒がレヴィの額を打ち、裂傷した皮膚から血が流れた。
「「レヴィっ!?」」
「だ、大丈夫ですのっ?」
レヴィの負傷にライラット、シラギクの二人が慌てるが最も驚き慌てたのはエストーラだ。
彼にメロメロなエストーラにとって、レヴィの流血沙汰はかなりのショックであり、思わず拳銃を放り捨てて駆け寄ろうとしてしまうぐらいだった。
「こんぐらい、何ともねーよっ! 俺のことは気にせずに早いとこ片付けんぞっ!」
流れた血を拭いながらレヴィは血気盛んに戦闘を続行する。
それを見てライラット達も気を取り戻してオーク達を倒し続けた。
エストーラもレヴィの戦いぶりを見て動揺からすぐに立ち直り、乱戦では扱いにくい魔導銃も使用してレヴィに群がるオークの数を少しでも削ろうと奮戦する。
そして…………最後の一匹がシラギクの薙刀で屠られた。時間にして一時間弱も経ったが、ようやくオークの群れの殲滅に成功したのだった。
血肉が辺りの地面に乱舞する血生臭い場所に、ライラットは構わずに座り込んで深く息を吐いた。
「はぁーっ、ふぅーーっ……や、やっと倒しきったか……まさかここまで手こずるとは思ってなかった……」
「わ、わたくしも同感ですわ……最後の一匹まで向かってくるだなんてオークとは思えない戦闘意欲でしたわね」
「ああ……そ、そうだレヴィっ、傷の具合はどうだっ?」
一息ついた後に、負傷したレヴィに駆け寄ったが本人は何でもないと言った。出血こそ多かったが、傷の深さはそんなにでもなく間に合わせの治療で十分なレベルだった。
それでもエストーラが過剰なまでに心配して、包帯を何重にも巻いたりということが起こったが。
「その、済まない。私のせいで……」
「謝んなよ。俺らは冒険者やってんだぜ、怪我すんのなんて日常茶飯事なもんだろ。お前だってそうだったんだから、今さら怪我したぐらいでびくつくなよ。こんぐらいで参るほど、俺は柔でもねーしな」
ニカッと逆にこっちを安心させるように笑いかけてきて、ライラットは顔を赤くさせた。ああいう爽やか笑顔も出来たのかと思い、また新しい魅力が増えてしまったとドキドキした。
そこへ洞穴の中を調べてきたシラギクとエストーラが戻ってきた。
「む、何やら甘い雰囲気だね……まさか、私たちがいない間にイチャついてたんじゃないだろーね、ライラット」
「そ、そんなことはしてないっ! そ、それより中の方はどうだったんだ?」
「レヴィが予想してたのと同じでしたわ……巣と呼ぶには余りにも簡素し過ぎてて、とても何十ものオークが生活できるものとは思えませんでしたの。それにジョーカーAが言っていた囚われの少女という方も見当たりませんでしたわ」
「そうか……なら、やっぱりこいつらは最初から住んでたんじゃねぇ。別のとこから一時的に集められでもしたんだ」
最初に見た洞穴の規模からして、レヴィはこの倒れた百を越えるオークが一纏めに住んでいるとはとても思えなかった。
もし住んでいたとしたら、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態での生活を余儀なくされるに決まってる。
そして、次に疑問に思ったのは洞穴の前に散らばってた骨だった。
「この骨……よく見りゃあ、古い骨と新しいのがごっちゃに混ざってやがる。古い方は長い間、風雨にでも曝されてたみてーにボロボロだ。つまり、これは……」
「あたかもオークが獲物を狩って、ここに住んでいると誤認させる為に偽装されたものということか?」
「ですけど、何の為に?」
「分かんねーが、その答えを知ってんのはあの胡散臭さの塊の仮面野郎が十中八九間違いねーよ。俺らに嘘を吹き込んで、ここまで連れてきた訳も問い詰める必要があんな」
ジョーカーAなる人物がオークの異常発生の黒幕と断ずるには、何も証拠など無いが全くの無関係とも思えない。
とにかく、取っ捕まえて洗いざらいの情報を吐かせるべきだろう。
「だが……肝心の奴は消えてしまったぞ、私達の目の前で」
「ああ、どうやって消えたのかさっぱりだけど下手したら俺らも相当な被害を被るとこだったんだ。このままじゃあ、済まさねーよ。ぜってーに見つけ出してやる」
「ですが、今日はひとまず休息を取るべきですわ。皆さん、心身ともに疲労してますもの」
「そうだな。だが、このオークの後処理はどうする?」
百を越えるオークの死骸……ハッキリ言って、ここにいる疲労困憊した四人で素材の剥ぎ取りから死骸の処理までやるのはキツすぎる。
レヴィはギルドに連絡して、事の次第を説明して処理はギルド職員に任せることにした。
この場合だと手数料で大分差っ引かれるだろうが、元より安値だから大して痛手とは思わない。
今はもうアウセントに戻り、宿屋を取って休息を取りたいという意見が全員一致したのだった。
そしてレヴィ達は重い体を引きずって、この場を後に去っていったのだった。
……………………後は屍となったオークの死骸だけが残る中、どこからともなく呟くような声が聞こえた。
「ふ~む、これはこれは予想外。まさか、改造を施したオーク達を全て倒してしまうとは……彼らの能力を甘く見てしまってましたかね~?」
声がそこまで言ったところで、景色の一部に変化が起こる。
背景がグニャリと歪んだかと思うと歪みは人の形になり始め、やがて輪郭もハッキリとしてきて色も付き始める。
透明な姿から現れたのは、あの仮面の男であるジョーカーAなる人物であった。
「ちょっとしたテストのつもりだったのですが、まさか生き残ってしまいますとはね~。まあこの程度の数であれば補充は容易ですが、それでも一朝一夕にはいきませんし……何より、わたくしのことを知られてしまった以上、今後の活動に障害が出かねませんしね~……さて、どうしたもんでしょ~か?」
腕組みをしながら考えていたジョーカーAがあることを閃く。
「……あのレヴィなる少年があの一団の精神的な要ともなれば、まずは彼をどうにかすべきですね~。ですが、あの戦闘力を考慮するに力押しは難しそうですし、何よりわたくし暴力事は嫌いですからね……ここは男の弱味に漬け込むと致しましょう♪」
懐から通信水晶を取り出すと、誰かにへと連絡を取り始めた。
「ああもしもし? パグズさんですかね。えぇ、えぇ、わたくしですよ。ジョーカーAです、お久し振りですねぇ……実はちょっと入り用の物がありましてね、すぐにでも取り寄せて欲しいのですが……えぇ、えぇ、もちろん金の方は払いますよ。仲間内だからといって、ケチるような真似は致しませんので、ホホホホホホ♪」