怪しい男の怪しい話
ジョーカーA……見た目も変わってるなら、名前も変わってるのは必然なのだろうか。
とにかく、自分から名乗り出た分だけまだ誠実とも取れよう。
もちろん……本名だったらの話だが。
「ジョーカーAね……言っちゃ何だけどよ、名前の響きも胡散臭く聞こえちまうぜ」
「ホホホ、これはなかなか手厳しい発言ですね~。わたくしとしては結構お洒落なネームと思ってるんですが~。ところで、貴殿方はもしや冒険者さんでございますか?」
「そうだが?」
「やはりっ! その立ち振舞い、そして隙の無さから素人とは思いませんでしたよ。いや~、どなたも麗しく綺麗な方々ばかりですね~。さぞやモテてしまうのでは?」
ゴマを擦るような手付きでそう言ってくるジョーカーAにライラットは少し嫌な気分を感じた。
少なくとも、このメンバーはレヴィ以外の男に気を惹かれることは無いであろうから……思ってても何だか気恥ずかしいが。
「言っとくが俺は男だぞ」
「はいっ? 男? 少年、ということでございますか? いやどこからどう見ても美少女にしか見えませんがね~……確認の為にパンツを下ろして貰っても?」
ドコッ! そう宣ったジョーカーAにレヴィの延髄蹴りが炸裂した。華麗なフォームで決められたキックで盛大に地面にスッ転ぶ。
「あたたたたっ!? ちょ、ちょっとお待ちをっ、暴力反対でございますよっ?」
「やかましい、俺はそういう物言いが嫌いなんだよ。嫌な奴を思いだしちまうからな」
(泰山仙人のことだろうか?)
セクハラじみた言葉はレヴィの嫌な過去を思い出させてしまうようだ。
しかし、結構強めに当てられたのに存外ピンピンしてるところを見るに変わり者の素人では無さそうに思われ、ライラットは改めて警戒を敷いた。
「それでジョーカーAさん。貴方は何者でここで何をしていらっしゃいますの? この森には最近オークが現れるという話がアウセントでも広まってますわよ」
「何者……と言われても先程も言った通り、わたくしはただの物好きな男。それ以上でもそれ以下でもございませんよ。ここにはちょっとした興味本位で来ているだけでございます」
「最初から最後まで説明になっていないんじゃないかな。君、あまり人をおちょくるつもりなら、手荒い手段に出させて貰うよ」
「おい止めろ、エストーラ」
のらくらした態度が気に触り始めたか、エストーラが拳銃を抜いて撃鉄を引いた。幾ら怪しげとはいえ、流石に発砲しては不味いだろうとライラットが窘める。
「まあまあ、そうカッカしないで……ところで、貴殿方の目的は異常発生しているオークのことを調べに来たのでは?」
「何でそう思う?」
「そりゃ~そうでしょう。あっちこっちにオークが出て住民の皆様方は大変迷惑、冒険者達もオーク狩りに勤しむ中で原因究明にも精を出しておられますからね~、いやほんとご苦労様なことで。ホホホホ♪」
そう言う割にはやけに楽しそうな様子だ。とてもオークの過剰な出現に迷惑を被ってる市民とは思えない。
初めからそうだったが、いよいよ不審者という括りからも外れてきてレヴィ達はジョーカーAの一挙一動に目を配る。
「そ~んな貴殿方に耳寄りのナイスな情報があるんですが~……聞きたいですか?」
「ナイスな情報だぁ?」
胡散臭げに見るレヴィを一向に気にせずに、ジョーカーAがつらつらと喋りだす。
実はこの先にオークの居住地と思われる洞穴を発見した。
しかも年頃の少女が捕らわれているところも発見している。
助けに行きたかったが、自分では力不足なので街へ救援を頼みに行こうとしてたところで自分達に出会った。
「冒険者ということでしたら、手間が省けて大変に喜ばしい。是非とも、オークめらを蹴散らして儚い少女の命を救って貰えませんかね~」
「聞くが、その話が真実という証拠は?」
「おや? これはこれは疑い深い……疑念に囚われていては救える命も救えないバッドな展開になってしまいますよ?」
「正直に申しますが、ジョーカーAさん。貴方は怪しいこと極まりありませんの。そんな人の話を鵜呑みにして行動するのが躊躇われますのよ」
そもそも、そんな危機が本当に起きてたとしたらジョーカーAにそういった雰囲気が皆無というのも疑う材料になった。
こんな風にダラダラと話なんかしてる余裕など無い筈だ。何より、こんな街近くの森にオークの巣などあったら、とっくに見つかっている筈だろう。
色々と齟齬を感じ得ない話に、レヴィ達が疑念を持つのも当たり前といえば当たり前だった。
「これは心外ですね~。わたくしは正直者で通った男なんですよ……ほら、この目を見てくださいな。これが嘘を言ってる人の目に見えます?」
「仮面越しにどうやって見ろっつーんだよ」
挙げ句にはこんなことまで言い出す始末だ。どう考えても信用できないので渋っていると、自分がそこまで案内すると言い出した。
それなら本当か嘘か分かるだろうと言って、レヴィはそれでも疑ってる様子だったが……。
(本当にせよ、どちらにせよ、何か事情を知ってるかもしらねーこいつを野放しには出来ねーな)
仮に本当だったならば助けた後に説明をさせ、嘘だった場合は即座にふん捕まえて洗いざらいを吐かせればいい……そういうことにして、レヴィは取り敢えずジョーカーAに道案内をさせることにした。
途中で逃げないように周りを固めて、おかしな素振りを少しでも見たらすぐに当て身などして捕まえるようにとライラット達に言って、一行は怪しい仮面の男の案内の元、オークの居住地があるという森の奥にへと進んでいった。
~三十分後~
「ほらご覧下さいませ。あれが近辺をお騒がせしてるオーク共の住み処でございますよ。いや~、実に野蛮なオークらしい品性の欠片も無い住み処ですよね~」
そう指差す先には、確かに二匹のオークが手製の粗末な槍を持って洞穴の前で出入りを見張るように立っているのが見える。
そして、洞穴の近くには喰ったであろう動物の骨類が散乱しており、その量から察して数十匹はいるだろうというのが分かる。
だが、やはり何か違和感を覚える。
大体、あれだけの動物を捕まえてるなら、近くの村などにも略奪に走っていてもおかしくないのに森に来る前に調べた時はそういった情報は無かった。
野生動物を捕まえるよりも、人から奪う方が効率的だとオークは本能で分かってるからだ。
それにこれだけの数がいながら、アウセントで全く把握できていないのもおかしい。
(やっぱ、こいつ……信用は出来ねーな。居たとはいえ、状況が不自然すぎる。取り敢えず、縛っとくか)
目配せしてライラットに合図をし、彼女が後ろから抑えようとした時。
ジョーカーAがその場から忽然と消えた。
「なっ!?」
目の前の事象に戸惑っていると、それまで直立不動だった見張りのオークがいきなり大声を挙げたかと思うとレヴィ達が隠れてる藪に向かって走ってきたのだ。
見つかった兆候など無かったのに何故突然に?……そう考え込む間もなく、洞穴から次々とオークが湧き出てきて大挙してこちらにへと押し寄せてくる。
その数は見えるだけでも四十匹、しかも続々と蟻の行軍のように出てくる。
「レヴィっ!」
「ああ、仮面野郎のことを考えんのは後回しだっ。今はオーク連中を相手にすんぞっ!」
「オーケー、一匹残らず殲滅するとしようかっ」
「行きますわよっ、はぁっ!」
先制にシラギクの電撃が走って先頭のオーク達を焦がして勢いを削がした後、レヴィとライラットが前衛に躍り出て後方からエストーラが援護しながらオークの大群との戦闘が始まった。