レヴィ一行、国を出る
大阪は実に大変なことになっててヒヤヒヤしてます。
何故ならば、筆者の住んでる県はほぼ隣だからです。
大阪に出向くことは今までもありませんでしたけれど、周囲に気を配る必要はあるので参ってます……。
ブルヘンド王国にとっては後世に残ってしまうだろう、怪盗モリガンティーによる事件が起こってから早くも一ヶ月の時が経った。
明確な生死こそ確定してなく、手配書を国中に広めても目撃情報もさっぱりであったがそれでも王国首脳部は躍起になって捜索を続けていた。
尚、間接的にとはいえ手引き紛いのことを仕出かしたウッテンバークは領主の地位から市役所の小役人という役職に落とされた。
まあ妥当な処分だろう、寧ろ金に目を眩ませた報いとしては軽い方かもしれない。
そしてレヴィ達の方はと言うと…………特に何も無かった。
何も無かったというのはそのままの意味で、何か咎めを受けたのでも恩賞を貰ったでもないということだ。
状況からしてモリガンティーとグルとは考えられず、さりとてモリガンティー一味を捕らえたのでも盗まれた王冠を取り戻せた訳でも無し。
なら刑罰に値するものではないが、何かしらの褒美を取らす程の活躍をした訳ではないのだから特に無し……というのが、王宮側の判断で返答であった。
仮にも後一歩のところまで追い詰めたレヴィ達に対して、賞状のひとつすら送らない態度は腹に据えかねるものもあるが相手が相手なので不満など言える筈もなくレヴィ達は形ばかりのお礼の言葉だけで済ませられることとなった。
それでその後はどうしたかと言うと。
「もうこの国に目新しいとこなんてねーし、余所に行くか」
と、レヴィがブルヘンド王国からの出国を決めて他の面々もその提案に賛成したのだ。
ライラットは国を出るということに若干の戸惑いを覚えたが、親は数年前に天寿を全うして去っているし、国を出ることで起こる不都合らしいものも無かったので見聞を広める良い機会と乗ることにした。
それで現在は国境に向けて遠出をしてる真っ最中という訳である。
ここまでの長旅はライラットも経験してこなかったが、きっと新鮮で様々な体験が出来るだろうことを予期してわくわくもしていた。
そこでふと頭をよぎったことがある。
シラギクは元々、他方の国を巡り歩いてきたから何てことは無さそうだが気になったのはエストーラの方だった。
着いてく気満々で未練などさっぱり無いようだが、彼女は何も心残りなど無いのだろうかと。
「エストーラ、お前は何とも思わないのか? 国を出るということに」
「ああ、別に……そもそも、私はこの国の出身なんかじゃないしね」
「えっ? 初めて聞いたぞ、そんな話は」
曰く、聞かれなかったから話さなかっただけだという。
しかし、改めて考えれば王国では然程に流通していない銃器を器用に扱ってる時点で引っ掛かるものがあったことを遅まきながらに気付く。
「じゃあ、どこからこの王国へ?」
「アルトネリア皇国からさ、それが私の生まれた国だよ」
「なっ、アルトネリアと言ったら魔導技術が最も進んでると言われてる国じゃないかっ!」
「それに文化水準も魔法文明の中で最高とも言われてますわ。そんな国の生まれでしたのね……その割には少々、いえかなり性に対して自堕落な面が過ぎますけれど」
「別に良いじゃないか。どんな人間であれ、聖職者でも無い限りは性欲を抱いててもおかしくはないだろう?」
「物は言い様ですわね。こうまで開き直れる人も珍しいですわ」
普段の隙あらばレヴィと交わってる奔放なとこからは思われない出身地の暴露にライラット達は大いに驚く、が何故わざわざ自国より色々な水準が低い辺境の国にへとやって来たのだろうか、それも気になるところである。
それに関しての答えはひとつ、優れてる分だけ息苦しい環境だったので気楽な場所を求めて来たということだそうだった。
「高度な文明を築き上げてる、というのは暗黙の内に国民にも高度な文明人を装えと言ってるようなものさ。誰も彼もが体面を一番に気にして、他人の顔色を窺って世渡りの心得を磨くというのに邁進する……私はそういう堅苦しい人生が嫌で国を出た訳だよ」
珍しく物憂げな顔でそう喋るエストーラには、普段のキザで饒舌に喋ってレヴィとイチャイチャする雰囲気などが全く無かった。
抜きん出た国力を持つ皇国の生まれであっても、決して他人が羨むことばかりがある訳では無いというのを言外に告白してるようにも感じられる。
レヴィもエストーラの生まれについて驚きもあったが、何か腑に落ちない様子であった。
(まさかアルトネリアの出身だったとはなぁ……にしても、さっきの話しぶり。何つーか庶民の目線で話してたって感じがしねーんだよな、例えばそう……恵まれた環境、言うなら……貴族か?)
世間体、体裁、世渡り、他人の顔色に逐一気を遣う。
それは一般庶民というより、謀略が網羅する貴族などを指しているようにレヴィには思えたのだ。
(まあ、だからつって別に何もねーんだけどな)
そんなことを突っ込んでも別に何かしらある訳ではなかったので、レヴィは微かに抱いた違和感をあっさり流したのだった。
そういった話や時々に魔物退治をしながら国境付近に差し迫った。
身分証明たる冒険者のライセンスカードを詰所の兵士に提示し、問題なしと判断された一行は難なく関所を通り抜けられた。
向かう先は隣国に当たる、サイカルス公国。
この国でレヴィ達は多種多様な人達に出会い、そして波乱めくる冒険をすることになるのだが今はレヴィ含め、誰もそんなことは予想だにしていなかった。