表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第三章【仲直りと祭りと怪盗と】
61/92

心奪われて

お待たせしました。



ブルヘンド王国の宗主、国王アムティムスは多くの貴族から献上される品々を王座の間で受け取っていた。



「国王陛下、こちらは御身の為にご用意させて頂きました『レピリスの雫』でございます。如何でございますか? 自然に出来たとは思えぬこの光沢に造形っ。まさに王が持つに相応しき逸品にてございますっ」

「あー、うむ……確かに素晴らしい品だ。喜んで受け取るとしようぞ」


熱弁を奮って王の為に絶好の品を取り寄せましたとアピールする貴族だが、肝心のアムティムス王の反応は微妙な様子で冷めた態度である。


ぶっちゃけ、これまでもあった祝い事の場で似たり寄ったりの品を献上されてきたので見飽きたという印象の方が強い。

無論、自分の為に見繕ってきた努力は労うがそれはそれ、これはこれである。


思ったより反応が薄かった事に、貴族は見えない角度で落胆した顔をしながら王の前から下がった。



「では、次は誰じゃ?」



今回は驚きや喜びがいまいちな物ばかりで、飽きた顔になってきていたアムティムス王であったが次に出てきた者は自信満々な様子だった。


「陛下っ、次はこのウッテンバークめがお見せ致しまする。必ずや、陛下もお喜びになるでしょう」

「ほぉ、自信があるようだな。では見せてみよ」

「ははっ……おい、入ってまいれ」


ウッテンバークが手を鳴らして合図をすると、玉座の間の扉が開いて仮面を付けた三人組が丁寧にお辞儀をしながら入ってきた。

ひとりはリザードマンと思われる亜人で、風変わりな格好の者達の登場に王のみならず他の貴族達も目を見張らせた。


「ウッテンバークよ。そやつらは誰じゃ?」

「はっ、この者達はまだ無名なれど素晴らしき技術を持つ芸人一座の者共でございます。そうお目にはかかれない技の数々で、陛下に心から楽しんで頂こうと招いた次第でございます」

「ほぉ、芸人とな。それだけ豪語するからにはさぞ凄いのであろうな?」

「もちろんでございます。実際、私めも拝見した時には度肝を抜かれる技を見ましてございます故」


と、言いつつウッテンバークは入ってきた人数が合わないことにやや疑念を抱いていた。


確か、あの踊り子っぽい女も含めて四人でするという手筈なのであるが……説明を終えたウッテンバークは小声でそれを団長に確認した。



(おい、ポワソンよ。数が合わないのだが、もうひとり踊り子らしき女はどうしたんだ?)

(ご心配なく、ちゃんと来ておりますよ。彼女は最後の締めを括る大一番の役ですので……我々が一通りの芸を終えてから参ります)

(そ、そうか、宜しく頼むぞ。陛下の受けが良かったら、報酬も弾んでやるからな)



もちろん報酬は貰うつもりだ……ただし、そちらが用意するものでなく、こちらが選んだ物を頂戴するが。


ポワソンは内心を悟られぬよう、作り笑いを浮かべながら練りに練った計画が予定通りに進行していることをほくそ笑んでいた……。






「それでは皆様方っ! ただいまより、我ら『フェイク・ニュー』による雑技の数々をご披露させて頂きます。まずはアッと驚く火吹き芸をご覧くださいませっ!」


部屋の中心にポワソン達が立ち、国王を含めたギャラリー達は即席の椅子に座って見物した。


まず最初は亜人のリザードマンから始まった。

彼が一息吹くと、尖らせた口から炎が迸る。

三メートルは離れている正面の台に置かれた蝋燭をその炎で次々に着火させていき、十本はある蝋燭に外すことなく一発で火を付けて見せた。

繊細なコントロールに国王達は感嘆の息をつく。


「お次はジャグリングでございます。使う球はこれを使用致します、ただの黒い球ではございません。本物の鉄球、重さは五キロ程はあります。これを使いましてジャグリングを行います。やりますのは我が団が誇る怪力の持ち主です」


これに皆がどよめく。ジャグリングが何なのかは大体が知ってるが、鉄球を使うなど聞いたこともない。


団長が兵士のひとりに持たせて、紛れもない鉄球だと証明してからはどよめきの声が更に大きくなる。

そして、三人の中で一番に長身の者に鉄球を渡すと、驚いたことに重い鉄球をボールのように扱ってジャグリングを始めたではないかっ!



「はいっ、はいっ、それ、よっとっ!」



二個、三個、四個、と最終的には五個の鉄球を軽々と放り投げて受け止めるのを繰り返す。

こういう芸そのものは珍しくないが、回してる物が物だけにギャラリーの多くが歓声を挙げる。

アムティムス王もこういった芸回しは嫌いではないので、側仕えに好意的な感想を素直に言っていた。



そして、無事に回し終えたと思われたその時。放り投げた鉄球のひとつが、回していた団員の頭に直撃したのだ。


「あぁっ!? お、おい大丈夫なのかっ」

「従医を呼ぶかっ?」

「ご心配ございませんっ、この者は頑丈な体をしておりますので。ほーら、元気にガッツポーズしてございましょう」



確かに脳天に当たった筈だが、団員は怪我なんてしてませんよ的なポーズを取ってアピールしている。


予想外のアクシデントだったが、そのタフガイに観衆が更に沸き立つ……。



(い、痛かったのですっ……)



だが、仮面の一枚下は涙目でうるうるしてたのは秘密である。



その後も続く芸の数々は奇抜さこそ控え目だが、熟達した腕前で貴族達は時には拍手喝采も送り、アムティムス王も称賛の言葉を送り、非常に好印象な具合でウッテンバークは鼻高々の得意気な顔でいた。



(よし、よしっ、順調だぞっ。このまま行けば、陛下も大満足で終われるだろう。今年で一番、喜んでいただけた私の株も上がるというものよ)



そう内心でほくそ笑む間に、いよいよ佳境にへと突入する。

ここで、それまで出てこなかった四人目の団員が登場する下りになった。


「では最後にお目見えするのは、我が団の誇る美人踊り子による王を讃えます舞の披露でございます。どうぞ、ごゆるりとご鑑賞くださいませ」


合図と共に踊り子が入室してきて、王を含むギャラリーが沸き立った。



残念ながら素顔は仮面とフェイスベールで隠されてるが、民族衣裳を模した服は肌の大部分を露出させていて異性の目を惹き付け、焚き付けるように扇情的なものだった。


きらびやかを演出する為だろう手足に嵌められた金色のアクセサリーが荘厳な雰囲気も醸し出し、警備をしている兵士たちまでもその魅力にやられているようで鼻の下を伸ばしてる者までいる。



「それでは、僭越ながら……舞わせて頂きます」



踊り子が畏まった挨拶をした後、他の団員が雰囲気作りの為なのか、お香を焚き始め、幻想的な空間が作り出される。それから彼女の優雅かつ可憐な舞が始まった。



ゆっくりとした仕草で歩きつつ、羽を振るように腕を動かし、綺麗なターンを決めた。

この僅かな動作にも観衆の視線は釘付けで、アムティムス王もウッテンバークも例外でなく食い入るように見ている。



多くの視線を浴びなからも踊り子は緊張や物怖じもしていないように滑らかな動きを維持したままで舞を続ける。



両足を床に付けて前後に伸ばす開脚から、時には腰を妖しげにくねらせてセクシーさを押し出したものなど見てる側を飽きさせない様々な舞を披露して王座の間にいる誰も彼もが踊り子に目を奪われていた。

更にサービスなのか、手を伸ばせば触れれる距離にまで肉薄した踊り子の舞が間近で行われ、美しく神聖にまで感ぜられるオーラに観衆は溜め息を吐くことすら躊躇してるかのようである。



時折、フェイスベール越しに微笑を浮かべる口元もまた美しく、兵士も貴族も王も目線は彼女に固定されたかのように動かず、いつしか銅像のように固まって何も言わない無言のままで舞を見続けていた。



その時だ、団長が目配せをすると団員を連れて王座の間から出ていこうとしている。

しかし、その動きに誰も気付かない。

端にいたせいもあるだろうが、何か異様を感じるまでに踊り子に集中しているのだ。


そして、それは本来なら警備している兵士も同じで、何と目の前を横切ったのに視線をずらすことすらせずに出ていく団長達を見事なまでにスルーしたのだ。まるで存在すら視界に入っていないようではないか。



そのまま、団長達は出ていき、残された唯一の団員である踊り子が口元に意味ありげな含み笑いを浮かべる。



「……成功をお祈りしてますよ、伯爵」






踊り子のイメージはアラビアン風なそれです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ