王宮に入りし者達
短めの内容です。
俺は王宮警備隊に所属してるハザーだ。
役職からしてエリートと羨ましがる奴もいるだろう。
実際、待遇よし給料よしなのだから間違っていない。
だが、正直に言わせて貰えればこの仕事は暇すぎる時間と忙しい時間の二極に別れてる。
まずもって、暇すぎる時間は日がな一日を正門で突っ立ったり、決められたルートを延々と巡回したりなどやる仕事が固定化されてるんだ。
最初は真面目にやるが、何の事件も起こらなければ自然と情熱も薄れるもんだろう。
そもそも、王宮で事件を起こす命知らずの不貞な輩などまず居ないからな。
次に忙しい時間というのが特定の期間で、例えば王の誕生祭などには各地から領主や貴族がやって来るのだがホイホイと通して、万一成り代わった偽物を通してしまわないように厳重にチェックを行うという仕事も我々のすべき事なのだ。
具体的に調べるのは王国発行の特殊印を持ってるかとか、また荷物の中身に怪しい物は無いかとかだ。
……まぁ、そういう事態も無いんだがな。現に俺は務めて八年になるが、その間は実に平和そのもので毎日毎日決まった事をただ繰り返すだけで想定外の事なんて一度も起きていない。
何の刺激も無いから、続ければそれだけ退屈なんだが高い時給をみすみす捨てるのも勿体ないと思い、現在に至ってるという訳だ。
「アキアス男爵様がご到着しました」
「では本人確認と所有物のチェックだ」
「はい」
「パーシヴァル子爵ご夫妻様のご到着です」
「では本人確認に所有物チェック」
「はい」
「イスタントの領主、ヘロルト様が……」
「では……」
これも年に何回かある流れ作業の一環でしかない。俺が、唯一見るのは事前に出席の届けが出されてる人物か否かで後は部下にバトンタッチするだけ。
これが終わったら、次は各所に配置されてる隊の見回りだがこれも散歩がてらに終わる単純な事だ。
早いとこ、休憩が回ってこないものか。
俺は見た目だけは気を引き締めた風を装いながら、やってくる貴族領主の波を捌いて、あとは最後だけとなった時だ。
「やあやあ、兵士様。お務めご苦労様でございまする」
「……? 何だお前達は」
御者の男が丁寧に挨拶してくるが、そいつが運転してる馬車は貴族が乗るような豪奢なものでなくごくありふれた一般の馬車にしか見えなかった。
俺は緩んでいた気を引き締め、誰が乗車してるのかを詰問した。
「この馬車には、どなたが乗られておるのだ?」
「いえ、中にいるのは我が一座の団員達でございます」
「一座の団員だと? 旅芸人か何かか? 言うまでもないがここから先は王宮だ、得体の知れない輩を通す訳にはいかんぞ」
「もちろん承知しておりますれば。私どもめらは培った芸を、是非とも国王様の前でご披露したく参った次第、決して怪しい者などではございませぬ。この推薦状がその証拠にございますれば」
御者の男が一枚の紙を差し出して、俺はそれを受け取って中身を拝見した。
そこには地方領主であるウッテンバークの名と特殊印があり、内容はこの芸人一座の身分保障は確かで国王への出し物として推薦したと書かれている。
部下を呼んで調べさせたが、確かに実在する領主の名で印も偽造されたものではないという事だった。
なら問題はないか。芸人の技を見せるというのは今までにも前例はあったしな。
「よし、どうやら問題なく推薦されたようだな。では通った後は人数と所有物のチェックを行うが構わないな?」
「もちろん。結構でございます」
「では通ってよし」
馬車を見送った後、最後尾があの芸人一座なのを確認してから正門をしっかりと閉める。しかし、旅芸人か……最後に見たのは何時だったっけか。
推薦されるぐらいだから、さぞ上手いんだろう。
俺も見てみたいな。
……その後、所持品のチェックをしてた奴らが言ってたが、なかなかに美人な踊り子がいたらしく、しかも色っぽい格好をしてたそうだ。
畜生っ、一目だけでも良いから見たかったっ! あの時に中の確認も然り気無くやっておけばっ……出し物が終わったら出てくだろうが、その時にここを受け持つように根回しでもしておくかな。