初依頼は兎狩り
ただいま、神戸はNESTAリゾートにやって来ております。アウトドアは運動不足解消に最適ですね。もちろん感染対策は可能な限りやっております。
数刻後……ライラットとレヴィの二人は、街を出て近隣の雑木林の中を散策していたがどうもライラットの方がぎこちない感じだった。
「す、すまなかった……みっともないところを見せてしまったな」
「そんな、気にしないでください。ぼくが転んでしまったせいですし」
童貞のような反応で気絶してしまってから、目覚めたライラットであったが相変わらず顔を赤らめさせてるままである。
横を歩いてるレヴィにチラッと視線を送っては、また戻してまたチラ見するというのを繰り返している。明らかに意識しまくってる態度だ。
(だ、だめだ……どうにも目が勝手にこの子に向いてしまうっ。抱き止めた時の記憶がまだ強烈に残ってて……肌の柔らかさとか細い体の具合とか色々……いかんいかんいかんっ、変な事ばかり考えるな私ぃっ!平常心を保つんだ、平常心をっ)
とは言え、無性に気になってしまう。こんなにも気にしてしまってるのは、ギルドを出てから街中を歩いてる時に商人などの顔馴染みなどから色々と言われたせいだった。
「綺麗な子だねぇ、ひょっとしてコレかい?」←小指を立ててきた小売りのおばさんとか「ライラットさん……もしかしてそっちの気があったのか?」←レヴィを完全に少女と思ってとかあらぬ勘違いを発展させた露店主とか……B級だけあって、それなりに市井の人々にも名と顔を知られてるのもあって奇異の目に晒されてしまってた。
終いにはストイックな自分が年下の子に、熱烈アプローチを仕掛けたなんて言う輩も出始めてライラットはその都度に否定しながら居心地悪い中を通って行ったのだ。
「あー……通りを歩いてた時はすまなんだ。あそこの商店の連中とは普段の買い物なんかでよく顔を会わせてるから見知ってる仲なんだが、変な勘繰りをしてきて迷惑だったろう?」
「いえそんな事は……ライラットさんこそ嫌な気分になりませんでした?」
「何故だ」
「ぼくたちの事を恋人同士かって思われたとかですよ。ぼくみたいな男らしくないのが恋人だなんて嫌じゃないかと……ライラットさんには、精根な男性がお似合いでしょうから」
「そ、それは……まぁ……別にそういう男は嫌いって訳じゃないが」
ぶっちゃけ、好きと言うよりかは仕事をするパートナーとしてならそういう男が良いというのであって好みかどうかとは違った。
そもそも恋愛沙汰には疎い性分で、これまで浮いた話などとはとんと縁が無い生活を送ってきていたのだ。本人も別にこのまま生涯を処女で貫き通しても、気にしないでいくつもりだった。
ただ、レヴィの事が気になり始めてはいる。異性としてで。
「そ、そんな話は今は置いといてだっ……依頼の確認をしておこう。内容は確か、一角兎の角を獲るんだったか?」
「はい。一角兎自体はすぐに見つかると思いますし手こずる事も無いでしょうけど、今回の依頼では指定が付いてます。角の長さが十五センチ以上の個体に限るってありました」
一角兎とはその通り、普通の兎の頭部に一本角がある姿の魔物である。幅広い地域に生息している小型種でE級の初心者冒険者でも難なく倒せる程度の強さしかなく警戒心が強い訳でもないので、発見して討伐する事自体はそう難しい訳でもない。
ただし、今回の依頼は角の長さに指定が掛けられていた。内約を大雑把に言えば、角を加工して鑑賞用の物にしたいという事らしい。こういった細かい指定の依頼は手間が掛かる分、通常よりも報酬が高くなる事が多い。この依頼の相場だと精々、銀貨一枚二枚だが今回は銀貨十枚という具合である。
「十五センチか……それだけ角を長く生やしてる奴など、そうそう見つからないだろうな」
「そうですね。ぼくもあちこちを旅してきましたけど、それだけ伸ばした一角兎は片手で数える程度しか見た事無いです」
一角兎の角は永く生きてる個体ほど長さが伸びているのだが何せ弱い。弱い分だけ、他の魔物に喰われやすく、冒険者だけでなく狩人にも狩られまくられる存在だ。おまけに一角兎自体が強い訳でもないのに外敵を発見すると、取り敢えず突進を仕掛ける程度の知能しか無いので角が長い個体が少ないのは尚更である。
「となると、闇雲に探し回ってても仕方ないな。この付近には一角兎そのものは多く棲み付いてるが、角の短い奴ばかりを見つけてもしょうがない」
「ええ、ですのでちょっとした罠を仕掛けようかと思います」
「ほお、どんな罠なんだ?」
「簡単に言うとですね、一角兎を一ヶ所に呼び寄せてその中で角が長く伸びてる個体が居たら捕らえようっていうのなんですけど」
確かにあちらこちらに出回って探すよりかは、一ヶ所に集めさせて探す方が労力も少なく済むだろうがどうやって集めさせる気なのだろうか。
「合理的とは思うが、一体どうやって集めさせる気だ?餌を用意したとしても、常に腹を空かせてる訳でもないぞ」
「これを使います」
そう言って、ポシェットから取り出したのは手芸品のような見た目のオカリナだった。それでどう誘き寄せるつもりなのか分からなかったが、次の言葉で納得した。
「このオカリナにはちょっとした効果があるんです。頭の中に特定の動物や魔物をイメージしながら吹くと、それらを奏者の周りに引き寄せる事が出来るんです。効果は笛の音が届く範囲までなら有効です」
「そんな物を持ってるのか?私も冒険者をそれなりにやってきてるが、初めて聞く道具だぞ」
「ぼくも手に入れたのはつい最近なんですが、なかなか便利ですよこれ。試しに鳥を呼んでみましょうか?」
「う、うん、そうだな……そのオカリナの効果も知りたいし、頼む」
「じゃあ……いきますね」
ライラットから少し離れると、レヴィがオカリナを吹き始めた。
♪~~♪♪~ ♪♪♪~♪~♪~ ♪~♪~
透き通るような音色が林の中に木霊する。音楽に対する感性はお世辞にも高いとは言えないライラットだったが……この時はその音色に聴き惚れていた。
(……綺麗だ、すごく……心の中が澄んでいくようだ……)
音色もそうだが、オカリナを吹いているレヴィの姿にも見とれていた。目を閉じてオカリナを奏でる黒髪の美少年の絵面は、そのまま絵画になりそうな程だ。
そして、その音色に釣られるように小鳥がレヴィの周りに集まりだしてきた。野生の小鳥たちが無警戒で人の周囲に集っていくのを見て、ライラットはあのオカリナの力を信じた。
そしてレヴィが吹くのを止めると、それまで大人しく周りに居てた鳥たちが正気に戻ったかのように忙しく動いたかと思うと次々に飛び立っていった。どうやら、笛の音が止むとすぐに効果は切れるらしい。
「どうでしょう?これでぼくが一角兎を呼び寄せてる間に、目的の個体をライラットさんが仕留めるという形なら上手く行くと思うんです」
「う、うむ、悪くない策だ。これなら効率も良いし……これで行ってみよう」
「じゃあ、後は手頃な場所探しですね」
角の長い一角兎を誘き寄せる為の準備は着々と進みつつあった。
そして、ちょうど良い広場を発見し、そこでレヴィがオカリナを使って周辺の一角兎を呼び寄せ、その中に目標のものが居れば即座にライラットが仕留めるという作戦が始まったのだった。
オカリナと言えば、緑の剣士が思い浮かびますよね。あのメロディーも良いもんでした。