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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第三章【仲直りと祭りと怪盗と】
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レヴィの過去

中盤までは重めの話になります。



ライラットの思いも寄らなかった行動によって、つい自分の負けをハッキリと認めてしまったレヴィだったが流石に交わした約束を反古にするような真似をする気は無かった。

性格こそ難ありだろうが、最低限に守るべき礼儀は心得ていた為だ。



(こんなんで話す事になっちまうとはなぁ……)



やむ無く、不承不承といった感がありありだがこの際だ。開ききって話してしまうかとある種の覚悟を決めた。

チラッと見れば、脱臼した肩に包帯を巻いた姿ながら嬉しそうな顔で自分を見てくるライラットに興味津々といった感じのエストーラにシラギクの面々。


それらの視線にこそばゆくなりながら、レヴィは淡々と話し始めた。




「……まず、俺の生まれはナラスっていう王国。地理的に言うと、東方諸国に近い位置になんな」

「やはり、その地域の生まれだったんだな……」


まず生まれ故郷についての推察は当たっていたといっても良かった。

しかし、そんな遠くからやって来たフットワークの軽さにも驚くし、何より一体いつからそんな旅をしてきたのかが最も気になるところである。


「両親もその国の生まれですの?」

「分かんねーよ。いやそもそも、親が誰なのかさえ俺は知らねーんだ」

「えっ? じゃあ……」

「そう、孤児って奴だよ。親代わりってんなら孤児院のシスターしかいなかったな」


ここで意外な事実が発覚した。あのレヴィがまさか孤児だったなんて。

今の姿を見ても到底、孤児だったとは思えないがそんな出自だったとは誰も彼もが予想してなかった。


「それにしては余りにも戦闘に長けすぎてる気がしますけれど、そういった技術はどこで学びましたの? まさか孤児院で学んだ訳ではないのでしょう?」

「……まあ何つーか、ある武術を極めた武道家みてーな奴にだよ。本人は泰山仙人とか言ってたけどよ」

「ある武術というのは、どういったものなんだい?」

「さてな。何年かいたけど、それ自体にあんま興味無かったから忘れちまったよ……ただ」


ボッと手から炎を纏わせて見せながらレヴィが話す。


「そいつの言によると、俺がやってみせてるこの魔力付与エンチャントは素質と才能が無けりゃ出来ねーもんらしい。で、俺はたまたまそれに恵まれてたからこうしてやれてんだ。ついでに特殊な肉体の鍛練法も叩き込まれたから、今の俺はガキの体してっけど筋力なんかは相当にあんだぜ」


それについては身をもって知ったばかりであるが……ぶっちゃけ、害の無い風を装って女性を手篭めにする様な男に天賦の才能なんてものがあるなんて酷いと思う。

それに特殊な鍛練法とやらも無かったら、自分もみすみす処女を奪われる羽目になんかならなかった筈なのだ。

こんな男に教えを授けた師範とやらに恨み辛みを聞かせてやりたい。



「まあ戦闘の技術に関しての疑問は幾らか氷解しましたけれど、それで貴方はいつから故郷を飛び出して来ましたの?」

「…………十年ぐらい前からだな」

「はっ? ちょっと待て、十年前というとお前は五歳ぐらいじゃないのかっ?」


確かレヴィの現在の年齢は十五の筈である……偽り無ければの場合。


「今の年齢……誤魔化してる訳では無いよな」

「ねーよ。正真正銘、十五だ俺は」

「いえ、だとしたら益々もって変ですわよ。何の理由で五歳の子供が生まれ育った国を飛び出す羽目になりますのっ?」



その疑問をぶつけた時である。



横向きになったレヴィの顔が物憂げに……哀しげな目になったのは。

ほんの一瞬の間だったが、その寂しげな表情にライラット達は息を呑んだ。



「さっき言ったよな、ナラスって国の生まれってよ……正確にはナラスっていう『嘗てあった』国の生まれなんだよ」

「えっ? 嘗てあったって……それはどういう事なんだ」

「そのまんまの意味だよ。今はもう地図からも消えた国、亡国って奴さ」

「なっ!?」



亡国。


そんな重苦しい言葉が出てくるとは思わなかったライラット達はショックを受けた。生まれ育った国が無くなるだなんてそんな経験は誰もしてないのだから、衝撃を受けるのは当然の反応であろう。



「当時の俺は何も分かんなかったけど、ずいぶん後から聞いた話だと魔物の群れが雪崩みてーに押し寄せて滅んじまったらしい……そん中にはドラゴンも混じってて、とてもじゃねーけど小国で対処できる範疇を越えちまってたんだ」


ドラゴンと言っても一口に種類は色々ある。人の背丈程度に小型な個体や若いドラゴンぐらいならばそこそこの冒険者でも討伐できるが、年を重ねた大型種ともなればそれは天災と言っても差し支えない驚異を誇る。

レヴィの故郷を襲ったのも、恐らくはそのレベルのドラゴンだったのだろう。


(話したがらなかった理由はそれだったのかっ?)


確かに道中で出会った他人に、そんな重い過去話を語るようなものでもない。ライラットとしては単に話すまでもない相手と見られてるからとばかり思い込んでいたのだが……。


「す、済まない、そんな事とは知らずに何度もっ……」

「わ、わたくしも安易な気持ちで聞こうとして申し訳ありませんでしたわ」

「待った。そんな謝罪なんか聞きたくねーよ」


口々に謝る二人であったが、それにレヴィが制止を掛けさせた。


「てめーらが謝ったからって俺の過去が変わるのかよ? 変わらないにしても俺の気持ちがちょっとは晴れるとかすんのか? 何も変わらねーんだよ、口で謝ったぐらいじゃよ……逆に憐れみとかそんなんをかけられるのは好きじゃねーからそれ以上は何も言うな」


バッサリした言い方でライラット達の謝罪を中断させた。

言ってる事はまあ正しい部分もある。

こっちが謝ったからってレヴィの過去が変わる訳など無いし、またそれで彼の気持ちが癒えるだなんて事も多分無い。

話そうとしなかったのはそんな感情を向けられるのを嫌った事なのだろう。


しかし、それにしたってドライ過ぎる。国を亡くすという経験が年齢に似合わない性格を生み出したのか。

一様に気まずくなるが、そこでエストーラが話を切り出した。



「しかし、レヴィ。五歳の身で一体どうやって生き延びられたんだい? その頃から強かった訳でも無いだろう」

「ああ、あん時はほんとただのガキだったからな俺は。今こうして立ってんのも奇跡みてーなもんだ…………国に魔物が押し寄せる直前、シスターが孤児院の子供らを連れて森林浴に出掛けてたんだ。俺もそん中に入ってたけど、何度も来た森だったから途中で飽きてきてコッソリ離れて別行動してたんだ……それが自分の運命を別ける選択になるだなんて思ってもみなかったけどよ」



離れて近くの川で水切りなどで遊んでたレヴィは、ふと何か嫌な気配を感じた。途轍もない不安に襲われ、慌ててシスター達のところへ戻ろうとした際に頭上を何かの影が横切った。



「生まれて初めて見たけど、すぐに分かったよ。その影がドラゴンだったって事は……パニックになって腰を抜かしそうになったけど、俺はもう無我夢中になって走った。ガキの走力なんて知れてっけど、今までで全力の速さで走った」



元来た道すら定かに無い状態であったが、それでも何度も来ていたお陰か頭は意識的に森の構造を覚えていたらしい。

ようやく森から抜けかけたレヴィは、遠くの野原で自分を必死に呼んでいるシスター達の姿を見た。



「ここにいるよっ!」と叫びながらレヴィは駆け寄ろうとして……見てしまった。



シスター達を呑み込む様に近付いてくる黒い塊の群れを。



「それはウルフやゴブリンっていうごくありふれた魔物だった。けど、数が尋常じゃなかった。とにかく視界にある原っぱを文字通りに埋め尽くす勢いで押し寄せてきたんだ。俺を呼び探してたシスター達はそれに気が付いて逃げようとしたけど、あっという間に全員が魔物の群れん中に取り込まれる様に消えちまった……俺はただ目の前の光景に頭が追い付かなくて呆然としちまってたけど、群れの何匹かが俺に気が付いてこっちへ来たのをきっかけにそこから逃げた」



さっきとは逆に森の中へ逃げ込む様にレヴィは走ったが、もう既に全力で走ってたせいでその速さは傍目から見ても遅かった。

後ろを振り返れば、口から牙と唾液を覗かせたウルフがおい迫って来ていてもつれそうになる足を必死に動かして逃げようとした。



「そん時はただひたすら真っ直ぐ前へ逃げるって事しか出来なかった。木の上へ逃げるとか物影に隠れるとかそういう発想が無い、いや出来なかったんだな俺。けど、それがまた功を奏する事になったんだ」



木の枝で肌を引っ掻けながらも、前へ前へと我武者羅に走り続けたレヴィは木々を抜けたすぐその先が滝壺へ直行という事を寸前まで分からなかった。

夢中で走り続けた結果、レヴィは深い滝壺にへと真っ逆さまに落ちた。

水に叩き付けられる様に着水し、それでも何とか生き延びようともがいて流れてきた流木に掴まりながら川の流れに身を任せていったのだった……。



「疲れたせいか意識が朦朧としだしてそっからどれだけ経ったか……気が付いたら知らねー家ん中に寝かされてた。目が覚めてから逃げようかどうしようか悩んでたら、見た事ねー服を着た女が現れた」

「その女性というのは?」

「さっき言ってた泰山仙人って奴だよ。川で釣りしてたら、流れてきた俺を見付けて助けたって言われたんだ。そん時に日付を聞いたら、川に落ちてから丸二日は経ってたみてーでな。ほんと途中でよく流木から手を離さなかったって自分でも関心したぜ」



そしてここがどこなのかを聞くと、ナラスから更に東の方角へ行ったカルデラという国の山中であった。

そこで自分の国が今どうなってるのかを聞いたが、如何せん交通の便も悪いところに住んでおり、そもそも世捨て人を気取る泰山仙人からは具体的な話は聞けなかった。

幸い、全く人付き合いが皆無でなく食料などを届けにくる商人ぐらいはいたのでその人物に調べて貰う事になった。


が、それで知られた情報はお世辞にも良いものでは決して無かった。


「首都にまで魔物は押し寄せて、おまけに四方から一斉に来られたから大半の連中は逃げるのもままならずに国諸共に滅んじまったそうだ……それから言えば俺は奇跡的に助かったから御の字って事なんだろーけど素直には喜べなかった。いきなり故郷が無くなりましたって言われたんだから、寧ろ喪失感の方が上回るのは普通だしな。行く当てなんかもねーし、途方に暮れてたら泰山仙人が自分のところに住み込みがてら修行でもやってみないか?て誘われたんだ」


その時のレヴィは二つ返事でオーケーした。

初対面で得体の知れない相手ではあったが、少なくとも自分を助けてくれたのだから悪人ではあるまいと判断したのだ。

それに……何かに打ち込んでいないと途方もない不安に押し潰されそうだったので気を紛らわす目的もあった。


それからは泰山仙人に稽古を受けつつ、家事仕事なども兼任しながら慌ただしい毎日を送った。


元から体を動かすのが好きだったのもあって、やがて泰山仙人が付ける稽古が楽しくて仕方がなくなってくる程に熱中したのだった。

泰山仙人も意外と覚えが良いレヴィに気をよくして、自身の極めた武術のイロハを丁寧に教えてくれた。



「で、十二になった頃に俺はそこから飛び出して、あちこちの国を巡り歩く様になったんだ」


思いも寄らなかった過去の語りはこれで終わった。

ライラット達はいずれも過酷な経験があったという事と、それを子供の身で乗り越えたレヴィに感嘆とした。


「……そうか。そんな過酷な境遇にあったんだなレヴィは……」

「ああ、レヴィ。君にそんな辛い過去があっただなんて、聞いただけで私は胸が張り裂けちゃいそうだよ。せめて、私の抱擁で幾らかでも安らいでくれ」


感極まったのか、ぎゅっとレヴィを胸に抱き締めるエストーラに苦笑する。少なくとも、今は精神的に結構図太くなってるから誰かの慰めなんて必要無さそうだろう。

色々と明らかになったが、ここでシラギクが一番に聞いておくべきだろう事を言った。


「ところで……貴方のその女癖の悪さはどうしてなりましたの? 聞く限りではそんな風に陥る要素は無いかと思いますけれど」

「あっ……言われてみれば確かにそうだな」


確かに孤児で幼くして国を亡くしたという境遇ではあるが、それでこんなにやさぐれたというのはいまいち納得がいかない。

そもそも、泰山仙人という人物に稽古まで付けて貰ってたのだからこんなひねくれた精神になるとは考えづらかった。



それを指摘すると、レヴィが凄い苦虫を噛み潰したような顔になった。



「……あったんだよ」

「え、何が?」

「セクハラに合ったって言ってんだよっ、あのド変態仙人にっ」



何を言ってるのか理解できず、呆ける一同にレヴィがつらつらと語った。



修行を付ける際に着用必須と言われた道着……数年は何の疑問も抱かずに着ていたのだが、レヴィは後から知ったのだ。

脚の半ばを露出させた所謂チャイナドレスというそれは本来は女性が着るべきものであって男の自分が着る様な物でない事を。


「えっと……せ、性別を間違えてたとかじゃないよな?」

「最初に会った時に俺は男ってのは言った。付け加えるなら昔の俺は今みてーにあからさまな女顔でもなかったしな」


更に月日が経つに連れて、稽古の際に不必要なまでのボディタッチが増えた事と何か色目を含んだ眼で見てくる事が多くなってきた。



「おまけに……当時食ってた精進料理ってやつ……後から調べたら滋養強壮だの精力増進っつー効果がてんこ盛りにある食材ばっか使ってたのが分かったんだよ、しかも俺だけに限ってな」

「……………………」



最初は心優しい武人という評価が右肩下がりに下降していき、ライラットやシラギクの目が生暖かかいそれになっていく。



「んで、極めつけが風呂上がりの時で、あいつ……あろう事か、風呂入ってる隙に俺が穿いてた下着を頭に被って匂いまで嗅いでたんだよ」



今ここに紛れもない変態という評価がライラット達の中で決定した瞬間であった……約一名は、そういう楽しみ方もあるかと新たな局面を拓いていたが。



「それで限界が来た俺が、こっそり荷物を纏めて出ていこうとした時に……あいつが襲ってきて、童貞をかっ拐われたんだよ。しかも丸一日かけて搾られて、枯れ死ぬんじゃないかって恐怖したわ」



ここでまた晴天の霹靂ものの告白。武人の達人が、あろう事か年端もいかない子供相手に盛るだなんて最早論理的思考を疑う。

ひょっとして世捨て人を気取ってたのは、その性癖のせいなのではと思うがどうあれ変態というレッテルを張るには相応しい所業である。


「ひょ、ひょっとしてお前が女性に対して、行為を仕掛けるのはその時の憂さ晴らしも兼ねてなのかっ?」

「……まあそういう気がある無しで言ったら、あるって方に行くな」



決まりだ、レヴィがこんな鬼畜になってしまったのはその泰山仙人とやらの仕業だ。その女性がそんな真似をしなければ、まだ年相応な少年になってたかもしれないのに。


ライラット達はこんな性格になった一因を作った泰山仙人というのに報いを受けさせようと誓った。



……エストーラの方は、童貞を奪うというお楽しみを先に取られた腹いせであったがそれは秘密だ。





泰山仙人=ショタコンの方程式の完成。


彼女の具体的詳細は、いずれ本編にて明かします。

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