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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第三章【仲直りと祭りと怪盗と】
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貴族と旅芸人一座



ブルヘンド王国のとある一地方にある街。



その街にある領主邸の一室にて机を前に悩んでる中年の男がいた。



「うーむ……困ったぞ、良い案が浮かばん。このままではせっかくのチャンスが不意になってしまうぞ」



上等な仕立ての衣類を着てる事から、街を治める領主だろうというのは推測できる。


では、そんな領主が何を悩んでいるのか?

その答えは近々王都にて行われる国王の誕生祭が根本にある。

王の誕生祭となれば、国中から人や商人が押し寄せる一大行事。

領地に余程の事でもなければ、領主も向かって国王に贈り物を賜るのが通例となっているのだが、そこで悩んでいるのが何を贈るか?という事だ。



表向きは誕生祭となるが、貴族領主にとってこれは国王へのご機嫌取りも兼ねて周囲の者達より上にのしあがれるというチャンスでもある。

故にありきたりな品でなく、国王にそれこそ覚えめでたく思わせる程のインパクトが必要なのだ。



しかし国王に贈るとなれば、当然高級な品を差し出すのが普通だがそれは各地から詰めかける多くの貴族や領主達も同じだろう。

となれば、似たり寄ったりの品々になる可能性が大きく、それでは自身のアピールが埋もれてしまう。

かといって、あまり奇をてらった様な物を出しても受けが悪いかもしれないという事が有り得る。

大枚をはたいて超高級品を揃えるか、或いはギルドなどに頼んでドラゴンの角などといった希少品を入手すべきか……領主のウッテンバークは普段は金勘定ぐらいにしか使わない知恵を振り絞って考えていた。


そんな折りに、側近の男がドアをノックして入ってきた。


「失礼します、旦那様」

「何だ一体? 税金なんかの問題だったら、そちらで上手い風に処理しておけ」

「いえ、そうではなく……旦那様に目通り願いたいという者が来まして」

「ワシにか? どこの誰なんだ。商業ギルドのデッチの奴か?それとも懇意にしてるベスター卿の使者か?」

「それが……旅芸人の一座の座長という者でして」


旅芸人っ! 

そんな庶民の底辺に位置してる者がこの領主である自分に会おうとは分相応も良いところだ。

しかも、時刻は夜中である。

おまけに自分は、誕生祭の事で頭を抱えてる真っ最中なのだ。

そんな輩に会ってる暇など無い。


「そんな奴にいちいち会ってられるかっ。報告なんぞする暇があったら早急に追い払わんかっ!」

「私も最初は追い返そうとしたのですが……是非、これをと」

「むっ?」


側近が手渡してきたのは手のひらに収まるぐらいの小袋。

それを受け取った際にズシリと感じる小ささとは裏腹な重さと、ジャラジャラという音で中身が何なのかを察したウッテンバークが確認してみると。



「ほぉ……金貨か。二、三十枚ぐらいは入っとるな」



中には最高貨幣である金貨が袋一杯に入っていた。

側近の男が鑑定魔法によって調べたところ、紛れもなく本物の金貨であるという。

一座の座長というくらいだからそれなりの世渡りを心得ているという事か。

何にせよ、これだけの金貨を貰ったとあれば知らんふりもするのも不味かろう。


「気分が変わった。そいつらをここに呼べ、会ってみよう」

「はっ」




……それから部屋に招かれた旅芸人の一座は四人程の人数だった。



四人の内三人はパリッとした白いスーツを着込んでおり、喜劇で使うような仮面を目に付けていた。他のより頭ひとつ分はでかいやけに長身な者と、リザードマンらしき者、そして座長と思しき帽子を被った髭の男といる。

残る一人はマントを羽織ってるが口元にフェイスベールを付けており、踊り子らしい女だった。


「この度は拝謁の機会を頂き、誠に有り難うございまする。私は当一座『フェイク・ニュー』の座長をさせて頂いてるポワソンと申しまする」


帽子を被った男が前に出て恭しく一礼をする。ポワソンと名乗った男にウッテンバークは、庶民の出か知らないが高位の者に対する礼儀は心得てるらしいと良い気分になった。


「うむ。してポワソンと言ったか、こんな夜分に領主である自分に会いたいというのはどういう訳か?」

「はっ。失礼ながら領主様は近くこの国にて行われる大きな催し事をご存じで有らせられますか?」

「催し事……国王の誕生祭の事か? それを知らん訳が無いだろう、この国に住む者にとっては一大行事なのだからな」

「ええ、確かに一大行事でございます……そこでひとつ、願い事がございまして。私どもめらを誕生祭にご招待させて頂き、国王様の前で培った芸の数々をお披露目させて頂きたいのです」


どういう意図なのかと問えば、自分達は結成されてまだ間も無く知名度が低い故に極小規模な活動しか出来ず路銀にも困る有り様。

このままではせっかくの磨いた芸も腐るばかり、というところで思い付いたのがこの誕生祭で派手に活動して一躍有名になろうという事。

その為にはそこらの広場などで庶民相手に見せようというのでなく、大貴族や王族の前で披露するのが最も近道になるという事。



「……しかしながら貴族様方や王族の方々が居られるのは王宮。となれば、所詮は旅芸人でしかない私どもでは門前払いにされるのは目に見えておりまする。そこで誕生祭に出られる領主様の推薦がどうしても必要になってくるのです」

「なるほど……それで自分にその推薦を出して欲しいという事か」



ウッテンバークは考える。どこか胡散臭い気がしないでもないが、芸人の業を国王に御見せするというのはなかなかに良いかもしれない。

高級品やら希少品やらを用意しても、やはりどこか薄い印象がある。

それよりかは滅多に見れない芸人の業なら、より強く印象に残るだろう。

国王も易々と王宮から出れない身なれば、単なる品よりこういう見世物の方がさぞ珍しく写るだろう。


しかし……それはこの者達の芸が如何に凄いかにかかっている。


「言いたい事は良く分かった。しかし、旅芸人などこの広い世には腐るほど居るだろう。相当に珍しい業でもなければ、おいそれと推薦など出来んな」

「仰る事はごもっとも……なれば、ここで我々の業の一端をお見せしても宜しいのですが、如何でしょう?」


ふむ、見せるというからには自信があるのだろう。

試しにやってみろと言うと、座長のポワソンが一枚の金貨を取り出した。


「さぁ、ここにあるのは何の変哲も無い金貨でございます……今からこの金貨を手のひらの中に入れます。握ったのはしかとご覧になられましたね? それでは一、二の、三……はいっ!」


座長がパッと手のひらを開けると握り込まれてた筈の金貨が無くなっているではないか。


「うむっ? 金貨はどこに行ったのだ?」

「金貨は私の念によって瞬間移動致しました……領主様、失礼ですが服の裏のポケットを探ってみてください」

「服の裏のポケットだと? 探ったからといって何が……おぉっ!」


何といつの間にか、一枚の金貨が服の裏のポケットにあるではないか。

自分と座長の間は机を挟んで離れているのに、一体どうやって自分の懐に金貨など忍ばせられたのか。

種も仕掛けも分からず呆けるウッテンバークに、座長のポワソンが得意気に笑った。


「如何でございましょう? もちろん、これ以外に多彩な業の数々がございます。推薦させて頂ければ、一世一代の記憶に残るショーをお見せ致しましょう」

「う、うむ、これは確かに素晴らしい……よし、推薦してや」


「お待ちを、旦那様」



ウッテンバークに制止を掛けた側近がコソッと耳打ちをしてきた。



(確かに物珍しいでしょうが、相手は素性のしれない旅芸人です。もし、何か企みがあって王宮内で騒ぎでも引き起こされた時には旦那様の首が危のうございます)

(ぬっ、そうか……そういう考えもあるか。だがしかし……)



側近の言うことも理解できる。確かにいきなり夜分に訪ねてきて、しかも仮面で素顔を隠してる連中だ。怪しいと言われれば怪しい。

かといって、こいつらの申し出を突っぱねたら国王への良い出し物の案が浮かばない状態に逆戻りだ。


熟考していると、ポワソンがリザードマンに何かを囁いて持ってきた荷物の中から何か細長い包みを取り出させた。


「領主様、何卒お願い致します……お望みを聞き届けてくだされば、こちらをご献上させて頂きます」


包みを解いて見せた中身に、側近もウッテンバークも目を見張らせた。



「おおっ!」

「そ、それはっ……まさか純金かっ!?」



取り出して見せた中身は、黄金色に輝く延べ棒……まごうことなき金塊である。受け取った側近が恐々としながら鑑定魔法を掛けてみれば、先の金貨と同様に本物という結果が出た。


「こ、これをワシに差し出すとっ?」

「はい。我々の願いを聞いてくださるならば……」


手にズシリと感じる金の重みにウッテンバークはごくりと喉を鳴らした。

何故、たかが旅芸人一座の者がこんな立派な金塊を所持してるのだとかという疑問は目映い黄金の魅力を前に雲散霧消した。


「よ、よし。お前達の誠意は痛いほどに伝わった……では誕生祭の当日になったら、王宮へと来るが良い。ワシの印を押した推薦状を渡しておくから、それがあれば出入りも可能であろう」


ウッテンバークは側近に用意させた紙に細かな内容を書き、最後に領主だけが所持できる特殊な印を押した。

これで推薦状には問題なしである。


「ありがとうございます、領主様。上手く行きました暁には、更に多大なるお礼をお約束致します」

「ほ、ほほぉ、多大なる礼かっ……うむ、それも楽しみにしておこう」



すっかり欲に目が眩んだウッテンバーク。

警鐘を鳴らしていた側近も、黄金の煌めきにすっかり魅せられてしまっていて警戒心を完全に解いてしまっていた。



そんな二人に表面上は礼儀正しく振る舞っているポワソンは内心で、してやったりと薄笑っていた。



(ふふふ、欲にまみれた奴は扱いやすい……しかし、わしも嘘つきではないからな。言った通りに一世一代のショーを見せてやるとも…………わしの名を世間に知らしめるのが一番の目的だがなぁ)




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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作楽しく読ませていただきました! ポワソンの巧みな話術と、相手の欲望を利用した人心掌握のやり方がすごく良く書けていて、衝撃を受けました。私は話術や駆け引きの書き方が苦手で、メカ山三等兵…
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