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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第三章【仲直りと祭りと怪盗と】
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解ける心

今回でシラギクの心境に変化が……?




「ぐっ……」



節々の痛みに顔を歪めながら意識を取り戻したライラットは、朦朧としながらも前後の記憶を思い出した。


山道の途中でならず者らしき男達に襲撃を受け、狙われたシラギクとそれを庇ったレヴィを助けようとして一緒に崖下に落ちてしまった……そこまで思い出したところで飛び起きる様に体を動かした。


「そ、そうだ、レヴィにシラギクは……え、これは?」


ふと腕を見るとそこには包帯が巻かれていた。薄着一枚になってる体や足の方にも擦り傷が出来たらしい箇所にちゃんとした治療がされている。

横を見ると岩肌にもたれる形でシラギクがいた。

まだ意識は戻ってない様だが、自分と同じ様に革鎧を脱がされて治療された痕跡がある。


次いで見渡すと所持してた荷物が一ヶ所に纏められていて、辺りには木の枝が大量に落ちている。

落下した場所が木々が生い茂るところであったのが幸いした様で、途中で伸びた枝に衝突し続けた事で勢いが幾らか殺せたらしい。


そこまでは分かったが、誰がこの怪我の処置をしてくれたのか。

自分は今目覚めたばかりでシラギクはまだ気を失ってる最中。

となれば消去法で行くと……そこまで考えたところでその本人が現れた。



「やっと目覚めたかよ。鍛えてる癖に寝覚めは悪りーな」

「っ……レヴィ」



現れたレヴィは自分達と同じ様に怪我の手当てを済ませた姿だった。彼の場合は上半身をさらけ出しているが。唯一、違うのは肩の辺りを斜めに一周する形で巻かれた包帯。矢傷の処置も自分で終えてるらしく何でもなさそうな顔でいた。手にはその辺で集めたらしい薪を抱えている。


「け、怪我の手当ては……お前がしてくれたのか?」

「あ? 寝こけてたてめーとまだのびてる馬女以外に誰がいんだよ。ま、俺のついでに過ぎねーけどな」


ついでとは言うが、細かい傷までちゃんと処置されている。情事以外だと普段は素っ気ない態度からは考えられないきめ細かさだ。

それも驚くが、この中では一番に華奢な体のレヴィがいの一番に目覚めて自分もライラット達も手当てを済ませられるタフさが最も驚いた。

それもレヴィは矢傷まで受けた筈であるのに……。


「動いても平気なのか。矢が当たったんだろう」

「どうってことねーよ。それより起きたんなら、火を起こすの手伝えよ。もう日が暮れちまいそうだから冷えるまえに付けるぜ」

「あ、ああ」


どうやら気を失ってた時間は思いの外長かったらしい。見上げれば既に日が落ち掛けてる時間帯だった。暗い中で山中を歩くのは危険だから、一晩はここで過ごすという事らしい。それに同意して軋みはするが動くだけなら問題無い体を動かして焚き火の手伝いをした。



その最中に、レヴィの剥き身になってる裸体に視線を巡らせる。

筋肉とは無縁であろう少女のようにほっそりとした体つきに細い手足。

若干、括れもありそうな少年とも思えない腰つきなど性別と素の性格を知らなければ薄幸の美少女そのものである。

こんななりであるのに、いざ戦闘となれば前線でガンガン白兵戦を挑むのだから一体どんな鍛練を積み重ねて来たのだろうか非常に気になる。



(……こんな細くて色白いのに、何故私よりもタフなんだ。解せない)



自分など女の体とは縁遠い筋肉質になるまで鍛えたというのに……冒険者という荒事の仕事に就こうとした時点で女々しい事など気にしない様にしてたが、男らしからぬレヴィの体つきに比べて自分の太い二の腕に古傷も目立つ肉体を眺めていたところでハタと気が付く。



思い返せば、こうして服の下まで手当てされてるとなると……つまり脱がされたという事で……裸を見られたという事ではないのか?



「~~~っっっ!?」



思い当たった途端に凄い羞恥心が出てきた。顔がたちまち真っ赤になり、いたたまれずにレヴィから顔を背ける。

いや別に今更裸を見られたぐらいで狼狽える事でもない。しょっちゅう抱かれてる訳なのだし……だが意識が無い無防備なところを見られたとなると、また別の恥ずかしさが出てくる訳で。


挙動がおかしくなったライラットを最初は訝しげに見ていたレヴィだったが、その理由を察した様でニヤニヤとしながら近寄ると普段より低めの声で囁いた。



「上から下までじっくり観察させて貰ったぜ?……まあ仕方ねーよな、怪我の手当ての為だもんな?」

「っっ! ば、馬鹿っ!」



低音ボイスにぞくぞくっとしてしまい、気を紛らわそうと石を使って火付けを始めるライラット。

見直したと思った途端にこれだ。

ブツブツと愚痴ってるとシラギクがようやく目覚めた。


「ん、んん……あ、あらここは?」

「起きたかよ寝坊助。てめーが一番最後だぜ」

「わ、わたくしは確か、上の崖から落ちて……ぁっ」


覚醒したてだったが頭の中の情報の整理を急いで状況判断が済んだシラギクは、怪我をしているレヴィを見て口元に手を当てた。そう、自分を庇って確か背中に矢を受けたのだ。


「あ、貴方、怪我は大丈夫ですの?」

「刺さりはしたけど、そんな深くはねーよ。気遣いなんか無用だぜ」


こういう言い方をした場合、大抵はシラギクが気分を害して罵倒合戦が繰り広げられたものだが今ばかりは助けて貰った恩もあってか大人しかった。

自分の体を見て治療された事も知り、おずおずと聞き出す。


「わ、わたくしの手当てもひょっとして……?」

「ああ、レヴィがしてくれた。私もな……正直、驚いてる。見た目はこんなに女の子っぽいのに動き回れるタフさには」

「女の子っぽいのは余計だっつーの」


シラギクも精強とは思えないレヴィの体つきをまじまじと見て不思議に思う……が、最初は観察するぐらいだった目付きがちょっとずつ変わっていく。



(だ、男子、の癖に……何ですの、あの染みの無い肌のきめ細かさ。手足もあんな細くて華奢で。こ、腰なんてわたくしより細い様に見えますわよっ、生まれる性別を間違えてるんじゃなくてっ?)



女性から見たら羨みそうな体型、そしてそれに釣り合う顔。

こうして直に見るのも一年ぶりで、そもそも初めての時にそんなゆっくり観察してる余裕なんかも無かったのでシラギクは改めてじっくり見回した。


こうして見ると本当に少女としか思えない体つきだ、しかしどこか色気みたいなのもあって見ている内にドキドキとしてきてしまう。

そして、そんな熱っぽい視線を向けられてレヴィが気付かない筈も無かった。


「……さっきからジロジロ見て何だよ? 俺とヤりてーのか?」

「なっ!? そ、そんな訳ないでしょうっ、ただ男とは思えない貧相な体つきが珍しかっただけですわっ!」


戸惑いながら視線を外して傷の具合を確かめていたが、ハッと何かに気付いた様な顔になる。


「ちょっ、ちょっとお待ちなさい……これ、服の下も手当てされてますが、ま、まさかっ……」


顔がだんだんと赤くなり始め、挙動不審な動きになる。

ああ、ついさっきの自分もこんな風だったのかとライラットは客観的に見ていた。


「脱がしてやったけど、それがどーかしたのかよ?」

「ぬ、脱がっ……あ、あっ、あぁっ……」

「しっかし、でけー胸に見合って下着もデカかったな。あんなサイズのブラ付けてる奴なんて、そうそう居ないだろーぜ」


それでシラギクの抑えていた感情がプツリと切れ、近くに落ちてた枝を思いっきりぶん投げた。



「このっ……ド変態ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」





△ △ △ △ △





日が沈んで暗くなった山中。レヴィとライラット、シラギクの三人は焚き火を囲んで食事をしていた。


料理に拘りのあるレヴィのお陰で凝った物が食べられたが、シラギクはまだ怒ってる様子である。

治療の為とはいえ、知らぬ間に裸を見られた事に加えてデリカシーの欠片も無いレヴィの言い草に腹を据えかねてる様だ。

それでも不必要に騒がない辺り、今の状況を冷静に把握してる事でもあるのでその点はライラットも安堵していた。


「……ひとつ、宜しいかしら?」

「何だよ?」


「何故、わたくしを庇うだなんて真似をしましたの。怪我を負ってまで、わたくしを助ける理由は一体何ですの?」



それはシラギクが最も聞きたかった事だった。

普段から反目してる自分を助けるメリットなんて無い筈であるのに、身を呈してまで助けた理由が皆目分からない。

この男が情などというものに流されでもしたのか? それこそとても信じられなかった。


ライラットもその答えが如何なるものなのか、固唾を呑んだ。

もし、これでその内にシラギクを抱く為だ何だとか言った時には遠慮無くしばき倒すつもりだった。

怪我人であるが、それは流石に看過できなかった訳だが結果的にはそれは空振る事になる。



「助けるのに理由なんか必要なのかよ?」


「「えっ?」」



二人して驚く。何の見返りも考慮せずに動いたとでもいうのか。



「目の前で女が傷付きそうだったんだぜ。なら、体を張ってでも助けてやるのが男ってもんだろ。たとえ、それで怪我しよーが俺は気にしねぇ。俺が好きでやった事なんだからな、だから理由も何もねーよ」



二人ともに顔を見合わせる。

まさかこんな答えが返されるとは思ってもみなかった。

素直に信じられないと最初は疑ったが、良くも悪くも本音を正直に喋る点を考えれば今言ったのが真っ赤な嘘とは考えづらい。


「そ、それだけで庇ったと言いますのっ? 飛んでくる矢を受けてまでっ?」

「何だよ、そんなおかしな事言ったか? 人助けなんかとは縁のねー冷血漢とでも思ってたのかよ」

「だ、だって……わたくしは日頃から貴方を嫌って……そ、それにっ、助けてくれた恩は感じてますけどそれで過去の行いがチャラになった訳ではありませんから、貴方を許そうだなんて思ってませんわよっ」

「別に損得勘定で動いた訳でもねーし、見返りなんかも求めてねーよ。過去の償いなんかも目当てじゃねーし、許そうが許すまいがはそっちの勝手にしとけよ」


ここまで言っても何かしら自分に得する様な事を言わない。

本当に、ただ純粋に傷付くのを見過ごせなかったら助けただけという事なのか……シラギクのこれまで横暴で性欲の塊としてか見てなかったレヴィに抱いてた印象に僅かな変化が起き始める。



(な、何ですの……本当にわたくしを傷付けさせない為だったと言いますの? し、信じられませんわね、何かしら魂胆があるに決まってますわ。わたくしの純潔を奪った男なんですものっ!…………けど、ほんの少しは……気を許してやっても良いかも、しれませんわね)



レヴィに対する気持ちが少し和らいだシラギクは今の言葉は信用してやっても良いかもしれないと思い始める。

それから食事の片付けにテントの設営に至るまで、レヴィに対する刺々しかった態度が幾ばくか軟化したのを感じたライラットはその心境に良い意味での変化が訪れたのを察する。


まだ距離を置いてる感はあるが、悩み事の種が減ってくれる事を祈った。

それから寝ずの番の交代順を決めてまずはレヴィとシラギクが仮眠を取る事になったのだが。



「シラギク、何で外に寝ようとしてんだよ」

「え、だって、わたくしの体では狭くなるでしょうし……そ、それに寝ている隙にいやらしい事をされては堪ったものではありませんわっ」

「いくら俺でも怪我人相手に盛る様な真似なんかしねーよ。ギリギリ入るから中で休めって」

「い、いえ、わたくしは外で結構ですからっ、きゃあっ!?」


怖じ気づくシラギクの手を引っ張ると、テントの中にへと強制入場させた。馬の尻尾ははみ出てるし狭くなりはしたが、二人ならばギリギリで何とか寝れる分にはある。

しかし向かい合ってるせいで、シラギクの大きな胸がレヴィの顔のすぐ目の前にあるのでいつ揉まれるか気が気ではなかった。


「言った通り入れただろ?」

「え、ええ……」

「んじゃ、寝るとすっか……時間が来たら、ライラットが起こしに来るからそれまでには寝とけよ……」



そう言われてもシラギクはなかなか寝付けない。レヴィが自分以外の二人を相手にしょっちゅう性交をしてるのは知ってるからだ。

それに自分の胸が吐息が当たる距離にまで肉薄してるのも酷く落ち着かない。


「あ、あのっ、やっぱりわたくしは外に……」

「……すぅ、すぅ……」

「て、えっ? ね、寝てますの? 本気で寝てますの?」


寝息が聞こえてきたので見てみれば既に寝入っている。それでも狸寝入りでもしてるのではないかと、シラギクは話しかける。


「ね、ねぇ、ほんとは起きてらっしゃるのでしょう。寝たフリで誤魔化そうだなんて、わたくしには通用しませんから素直にっ……」

「う、んん……うっせー、ぞ……さっさと……寝やがれ……」

「えっ、ひやぁっ!?」


腰の辺りに抱きつかれ、胸に顔を埋められたシラギクは狼狽する。やっぱり、何かやらしい真似をする気かとひっぱたこうとしたがそれ以上のアクションは起きなかった。


寧ろ、巨乳の質感が良い枕代わりになったのか、レヴィの寝顔は実に安らかなものだった。



「んー、いい、気分…………すぅ、すぅ……」

「も、もう本当に何なんですのっ? いい歳して、赤ん坊みたいな真似などして……」



しかし、こうしていると何か母性に似た感情が湧いてくる。

レヴィが童顔かつ美少女じみてるので尚更であった。



「……し、仕方ありませんわね。怪我をしてる訳でもありますし、今夜だけは大目に見といてあげますわ…………お、おやすなさいね、レヴィ」



子を抱き抱える母親の様な図で、シラギクも軽い眠りにへと入っていった。







俺様なレヴィですが、時と場合を弁える分別はあります。

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