前途は多難
今回は主人公にも因果応報じみた結末が……?
何やかやで一行に着いていく事になったケンタウロスのシラギクであったが、従来の気位の高さからやはりというべきかレヴィとちょくちょく言い争った。
そもそもの出会いが出会いなだけに致しからぬ事もあろうが、ギスギスした態度は二日目に至ってもなお、そのままである。
「何故、このわたくしが荷物持ちなどという事をしなければなりませんのっ、馬車馬などではありませんのよ!」
「うるっせーなー。どうせ馬の背中が空いてんだから有効利用しようって言っただけだろ」
「そ・れ・がっ!気に食わないのですわっ! 傍若無人も程々にしたらどうですのっ」
こんな調子である。
ライラットはまた始まったかというような顔で静観を決め込んでいて珍しくエストーラも擁護するような口を挟まないでいる。発端は歩いていたところで、レヴィが「どーせだから荷物でも背負わせよーぜ」と言った為にシラギクの癪に触ってしまったのだ。
他人の荷物を背負って歩かされるというのは種族柄でも度しがたいものがあり、それで口喧嘩に発展してしまっている始末だ……まあ主に怒ってるのはシラギクの方だけだが。
ついでにライラットもエストーラも無関心を決め込んでるのは、二人の事もシラギクが毛嫌いしてる為だ。
何故かと言うと二人共にレヴィに抱かれてる、というのを知ってしまった為で肉欲に溺れた破廉恥者とされてしまっているのだ。
エストーラはともかくライラットは苦肉の末にそうしてるのだが、そんな事は関係無しに嫌ってしまっているので迂闊に割って入り込めないでいるのだ。
そして、レヴィとはとことん気が合わないので何かしら指図する度にこうなった。
とは言え侃々諤々と言い争い続けるのは双方にとって徒労以外の何者でもないので、適当なところで折り合いが付けられるのだがそれで不満が解消するかといえばNOである。
特にこういう文句を言われるのが嫌いなレヴィにとってはストレスの元であった。
そんな訳なので一瞬の隙を突いて……
「よっ」
「ひゃあんっ!?」
印象的ともいえるシラギクの大きな胸を鷲掴んだ。両手でも余りありすぎる質量のそれをもみもみと感触を堪能するように熟練の手付きで揉みしだき、シラギクが驚きと快感で呻いたのをやらしい目で見た。
もちろん、ただ揉まれてるだけでシラギクが済ます筈もなく薙刀をすかさずに振りかざしてレヴィを離れさせた。
「な、ななっ、何をなさいますのこの変態っ!」
「何って、乳を揉んだ以外にねーだろ? ガミガミとやかましくて気分悪くなったからリフレッシュだよリフレッシュ」
立派なセクハラをされたシラギクは当然ながら羞恥と怒りで顔を真っ赤にさせた。逆にエストーラは羨ましそうな目で見ている。
「あぁ、レヴィのゴッドハンドで揉まれるなんて何て羨ましいんだろう。私にも胸と言わず、全身をまさぐってもらって天国にイカせて貰いたいよ♡」
体をくねくねさせて欲しがる姿は中毒者にも思える。隣の変態色情者にライラットは更に気疲れしたようでげんなりとしている。
「も、もう勘弁なりませんわっ、このエロ魔神っ! 折檻してやりますから神妙になさーーいっ!」
「やれるもんならやってみろよ、バーカ」
シラギクが薙刀をがむしゃらに振り回して追いかけだし、それをレヴィが小馬鹿にするようになじりながら逃げる光景が始まる。
それを見るライラットは深く溜め息を吐いた。
「はぁ……経緯が経緯だから仕方ないが、こうも反りが合わない状況が続くのは一抹の不安があるな。もし戦闘が起きるような場合があったらどうなる事か……」
この二日間でそのような事態にはまだなってないが、治安が行き届いてる都市部以外では野盗に盗賊に魔物が蔓延る情勢なのだ。
何時そのような輩に襲撃されるか分かったものではない。
然るに、今のピリピリしたシラギクが連携も取らずに独断で動こうものならこちら側も困るのであるがそれをどうやって聡そうかで悩む。
そのような事が起きる前には何とかしなければならなかったが、得てしてそういうタイミングで嫌な事は起こるもの。
二人の騒ぎに引き寄せられたか、或いは縄張りにでも入ってしまったか林の中から猪に似てるが二回りはでかい体躯を持つ魔物のワイルド・ボアが10頭単位で出てきてこちらへ猛速で突っ込んできた。
「っ!? 魔物の襲撃だぞ、皆構えろっ!」
間髪入れずにライラットが叫び、戦斧を抜いて身構える。それに合わせてエストーラも銃を抜いて両手に構える。
レヴィもシラギクも驚異を目の前にし、一旦は喧嘩を止めたがやはり剣呑な雰囲気は変わらない。
せめて何も起こらないようにと願いながら、ライラットは突進してくるワイルド・ボアを見据える。
魔物としての格は低い部類で突進攻撃以外には目立ったものはないが、全体重を乗せた突撃の威力は木造家屋を軽くぶち抜く威力ぐらいにはある。
何のガードもせずに受ければ手練れの冒険者でも重症になるが、移動コースはほぼ直線なので唐突での出会い頭でもなければ回避自体は容易だ。
突進してくる一体のワイルド・ボアから身をかわし、ライラットは横から遠慮無用の戦斧の一撃を喰らわす。
片手での振りながら刃は硬い毛皮に肉を易々と斬り、胴体の半分にまで達した傷口から鮮血が迸る。
動けない致命傷を負わせたと判断を素早く下すと、戦斧を力ずくに一気に引き抜いて次の対象に狙いをつけて対処する。
流石は近接戦闘に慣れただけあり、どの位置の相手をすべきかを瞬時に判断して動いている。
エストーラの方も負けていない。
本来なら接近戦には不向きな銃を巧みに操り、ステップも駆使して次々とワイルド・ボアを屠っていく。
両手に銃を持ち、その場でローリングターンをやって放たれた弾丸は狙い違わずに眉間に全て命中し、正確な腕前を存分に披露している。
そんな抜群の戦闘技術を発揮してる二人の傍らでは、華奢な体でありながらも体術で突進を捌いて掌底を叩き込み、ワイルド・ボアを昏倒させるレヴィがいた。
と、そこへ向かって馬蹄を響かせながらシラギクが薙刀を振って突っ込んできた。咄嗟に側面へ跳んで受け身を取りながらレヴィは軌道上から離れたが、その顔にはありありと不快感が出ている。
「おいてめー、人が戦ってるとこに突っ込んでくんじゃねーよ。危うく轢かれかけたじゃねーか」
「あら? それは申し訳ありませんでしたわ、何せわたくしから見たら兎のように小さくてちっとも目に入りませんでしたの。けれど男子とは思えないひ弱な体型をしてらっしゃるそちらにも一抹の否はありますわよ、ふふ」
見下してるかのような視線で煽るように宣うシラギク。今のメンバーではそれほど驚異とは言えない魔物を相手してるとはいえ、仮にも戦闘中にこのような嘲るような真似をするなど彼女らしからぬ振る舞いである。
レヴィとの遺恨を引きずってるせいもあるだろうが……当然、こんな舐められた真似をされたレヴィが黙っておく筈もない。
シラギクがワイルド・ボアを薙刀の刺突で片付けている隙を狙って、その馬体の背に跨がって、あろう事か豊満な胸を掴むだけでなく揉みだしたのだ。
「ひやぁっ!? ちょ、ちょっと何をなさいますの、このっ……あんっ!」
「あー、悪りー悪りー。嫌な事があったから気分直しにちょうどいい乳袋があったもんでよ。まあ俺の事は気にせずに、とっとと片付けて見せろよ」
「こ、このっ、ふざけた事を言ってないで降りなさっ、はぅんっ♡」
敏感なところを摘ままれたせいで艶の乗った声が漏れてしまった。それにとうとうキレたシラギクが、雷雹に魔力を流してそこらじゅうに電撃を放出しながら振り落とそうともがいた。
「い・い・加減にぃっ、降りなさいぃっ!」
「お断りだね、あーほ」
「むきーーーーっ!」
ますますキレ散らかしながら、雷雹を掲げて振り回していき、そこから電撃が周囲へ放射状に拡散していく。
幾つかの電撃はワイルド・ボアに直撃し、昏睡ないしショック死させていくが録に狙いもつけていないのでライラットやエストーラにも電撃が走っていき、身を屈めながら回避に必死になる有り様である。
「こ、こらお前らっ、時と場所ぐらい考えろっ!」
「ああ……またあんな風に揉まれるなんて羨ましい。レヴィ、揉むなら私の胸を揉んでっ、ふぎゃっ!?」
集中を乱したせいか、エストーラが電撃を浴びてしまい、プスプスと逆立った髪から黒煙を上げながらその場に倒れてしまった。
「あ、エストーラっ、しっかりしっ、ぬぁっ!?」
それを気にかけたライラットも電撃を受けてしまって、同じ様に倒れこんでしまった。
仲間二人に被害が及んだのにも気にせず、乳揉みに没頭するレヴィに魔物よりもレヴィ打倒に執念を掛け始めるシラギク。
「こんのぉっ……落ちなさーーいっ!!」
「うおっとっ」
これでもかと言わんばかりにシラギクが嘶くように上体を限界まで上げて落とそうとした。二本の馬脚に本人とレヴィを合わせた体重が掛けられ、傍目から見ても危なさそうであったが限界点を越えるのは早かった。
過剰まで上げた事と、レヴィが乗ってるせいで重心が変わってたのもあり、後ろ向きにグラリと倒れ始めた。
「「あっ」」
これはヤバいと双方が直感するも、行動に移す暇は無かった。
レヴィはシラギクの背に跨がったまま、地面と倒れてきた数百キロの馬体に挟まれる形で潰され「うげっ!」と踏み潰される蛙のような声を上げて辛うじて手だけが見える形で気絶。
その直前にシラギクはしてやったりと勝ち誇るもそれは一瞬だけの余韻で、後頭部を固い地肌に強かに打ち付けて「はぎゅっ!?」と野太い悲鳴を奏でながら失神。
後に残るはワイルド・ボアの死体などに囲まれて、無様に気絶してる一団で冒険者や戦士とは思えない失態を晒したのであった。
連携最悪の状態。ここから如何にして持ち直せるのか、こうご期待。