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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第ニ章【イタズラ騒動とケンタウルス娘】
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我こそは誇りたかきケンタウロス!




一時は一触即発という事態になるも、ライラットの懸命な説得と身の上話の説明でシラギクもやっと理解してくれて大人しくなってくれた。


「そう……そのような事情で彼の傍に居てますのね」

「あぁ、私も好き好んであんな腹黒男にくっついている訳じゃないんだ。それは分かって欲しい」


自分は確かにレヴィに付いているが、それは彼の手綱を何とか握って他の女性を毒牙に掛けさせない為である……取りあえず今はそう説明した。

流石に肉欲を満たさせる為に抱かれている、なんて初対面の者に言える筈もないのでそう言ったのである。


「予期はしてましたがやはりあの男、わたくし以外の女性にも手を出しまくっていましたのね。何て節操の無い野郎なんですの、まさに野獣……いえ男の性欲が服を着て歩いてるようなものですわね」


秀逸な例えに思わず吹き出しかけた。これほどまでにしっくり当てはまろう言葉があるだろうか、実に的を得ていると思った。

そして今の言葉で、やはり彼女もレヴィに頂かれてしまったようであるのが分かった。


「その、聞きにくい事だが貴女もあいつに……?」

「……えぇ、甚だ悔しかったですわ。あの外面に惑わされ、男の欲望で汚された事は何にも耐え難い屈辱でしたわっ。しかも、その後は平然と何も言わずに去っていって腹立たしい事この上なかったですわっ!……今でもあのレイプ魔の意地が悪い顔が思い出されて、その度にわたくしはイライラとしたものですわっ!」


自分と似たような境遇らしい。確かにあの人畜無害そうな顔で近づかれても警戒なんかしないだろうし、うっかり隙を見せてしまうのも十分にあり得るだろう。

それにしても亜人にまで手を出してたという節操が無い事には、もう呆れる他はなかった。



大体、ケンタウロス族と言えば数多い亜人の中でも武闘派で知られてる程に武芸に長けた狩猟民族ではないか。

そんな種族の女性にも手を出すなんて度胸知らずもいい加減にして貰いたい。



「で?肝心のあの男はどこに居りますの」

「えっ、ああ……今はもう一人いる連れと一緒に食糧の調達に向かっている」


ここでもライラットは詳細をぼかした。まあ今も盛ってる真っ最中なんですなどと言える訳も無いから当然だが。


「そうですの……では戻ってくるまでここで待たせて貰いますわね」

「それは構わないが……あいつに会ったら勝負するのか?」

「当然っ!ですわ。わたくしに味わわせた恥辱……これを晴らすには、張本人をボッコボコにぶちのめす以外にありませんものっ!」


意気込んでいるが果たして出来るかどうか怪しいもんである。

ライラット自身、本気で手合わせした事も無いが相当な手練れである事はよく分かっている。

ケンタウロス族は武闘派と知られてるが、目の前の彼女も腕っぷしが強いかどうかは分からない。


いや……それ以前にレヴィが戦闘に長けているという事を果たして知っているのかどうか。


「言いにくい事なのだが……」

「何ですの?」


ライラットは包み隠さずに話した。

レヴィは人前では後方支援に適した風を装ってるが、その実は近接戦闘もバリバリにこなせる実力者であると。

そして、魔力付与を自身に掛けて炎などを纏わせる打撃技などが出来る事などもシラギクに話した。


「それは知りませんでしたわ……わたくしと出会った時はそのような一面は見せておりませんでしたのに。実力を巧妙に隠すだなんて、まったく姑息な真似をしますわねっ」

「まあそういう訳なんだ。そちらがどれほどの腕前なのか知らないが、正面から叩き伏せるというのは難しいかもしれんぞ」

「見くびらないで欲しいですわね」


キッと表情を引き締めたシラギクが放った威圧にライラットの体が僅かにだが強張った。


「わたくし、武芸には自信がありますのよ。それにその不埒者がそれなりに強いと言うのなら、真正面から打ち据えてあげればプライドなども砕けさせて謂わば一石二鳥というものですわ」


何とも強気な発言である。自信過剰という風にも捉えられるが……こうまで高々と言うからには己の武にそれだけの自信がある事でもあるのだろう。

しかし、実際に見ない事にはやはりいまひとつである。



そこでライラットは自分とちょっとした手合わせをして貰えないかと頼んでみた。もし、半端な実力であったならレヴィと戦わせる訳になどいかない。

疑うようであるので気分を害するかとも思ったが、シラギクは快く引き受けてくれた。

流石に剥き出しの武器を使う訳にはいかないので、ライラットは鍛練用の木刀を。シラギクは刃に鞘を付けて向かい合う。


「済まないな」

「構いませんわ。本番前の準備運動や肩慣らしにはちょうど良いので」

「むっ」


自分から言い出した事だが、余裕綽々なところが少し気に触った。

手合わせであるが、少し本気を出そう。



ライラットは正上段に木刀を構えた。対するシラギクは愛用の薙刀を斜めに構えるような形を取る。



お互いに息を整え、そよ風が雑草をなびかせた時、ライラットから動いた。



「はっ!」



素早い踏み込みで木刀を振り上げる。すかさずにシラギクも薙刀を突き出して迎撃をしてきた。

鞘があるとはいえ、刺突されれば痛いぐらいでは済まないだろう一撃をライラットは木刀を巧みに動かして軌道を逸らさせた。

そのまま懐に潜り込んで得物の間合いを生かさせない位置に陣取る腹積もりであり、加えてケンタウロス族自慢の機動力も封じようとしたのだ。


「甘いですわよ、はいやっ!」

「うわっ……!」


近づいたところで、シラギクが嘶くように馬体の前脚を大きく上げた。

そのまま突っ込んでは全体重が乗せられた蹄を食らう事になる。ライラットはすぐに身を転がさせて降ろされた脚の一撃をかわす。

そこへ追撃というように薙刀の振り払いが迫り、間一髪で木刀で受け止めるも抑えきれずに体勢が崩され弾き飛ばされた。



正面からでは分が悪いと察したライラットは後ろにへと回りこんだ。前後に長い馬体だけにすぐには振り返られるような小回りなど効かないだろうし、薙刀の範囲外でもあったからだ。



しかし、後ろを取った時に危機感が走り、身を引きかけた瞬間であった。



強靭な馬脚の後ろ蹴りが飛んできて泡を食いながらもライラットは何とか避けた。あのまま踏み込んでいたら、間違いなく当たっていただろう。


「くっ」

「よく、かわしましたわね。下手に防ごうとしていたら、痛いでは済まない目に合っていましたわよ」


それは誇張でも何でもない。馬の蹴りの威力は大の男であっても数メートルは吹っ飛ぶとも言われている。

鍛えられた肉体を持つライラットであっても例外ではない。

迂闊に踏み込めずに少しの距離を取って相対した。



(騎兵を相手にしてるようだ……いや、寧ろ騎兵よりも手強いかもしれない)



普通の騎兵相手だったならば一対一でも何とか勝てるかもしれない。

騎乗してる者に狙いをつけたり、音などで馬の方をパニックに陥らせるなどやり方は色々であるがとにかく付け入る隙はあるのだ。

しかし半人半馬のケンタウロスにはそんな隙は無い。それに通常なら手綱を取りながら馬を操る関係上、多くは片手で振るえる物を使うがケンタウロスならば両手で扱う重量級の武器でも問題ないのだ。



ライラットが攻めあぐんでいるとシラギクが怒涛の勢いで突っ込んできた。

流石にあの突撃はいなしきれない。

タイミングを見計らって避けようと構えていると、シラギクは四肢を踏ん張らせるようにした。

何をする気かと思っていると、勢いそのままに大ジャンプをしてきた。

跳び上がるとは予想してなかったライラットは一瞬だけだが虚を突かれる。



我に帰って降下してくる位置から離れようとした時には遅く、上から降ってきたシラギクにあわや下敷きにされかけた。

そして気付けば、薙刀の先端を首筋のところに当てられていた。


寸止めであるが、これは勝負ありである。


「如何かしら?わたくしの腕前に問題などありませんでしょう」

「……ああ、確かにその通りだ」



ライラットはちょっと悔しげになりながらも敗けを認めた。ケンタウロスと戦うのも初めてだし、扱いなれた武器でなかったのを差し引いてもシラギクの強さは確かであった。

ひょっとすると善戦できるのではという思いも抱きかける。

起き上がって土を払っていると、シラギクが手合わせ中での健闘を称えてきた。


「貴女、良い勘を持っていますわね。後ろに回り込んできた時、わたくしの後ろ蹴りが予期できたのでしょう?」

「ギリギリのところだったがな。もう少し遅かったら、まともに当てられてしまっただろう」

「ですがわたくしたちケンタウロス族にとっては有効な手でもありますわよ。見ての通り、間近に迫られたら対応に苦慮しかねない時もありますもの……あいつと戦う時も、その辺りは十分に気を付けねばなりませんわね」



レヴィとの一騎討ちを脳内でシミュレートするシラギク。真剣な顔で考えこんでる様を見るに本気で闘う腹積もりであろう。

これは止めるのは野暮というものであろうが、レヴィが素直に受けるかどうかが気掛かりであった。

何せ、こういった決闘じみたものは面倒臭がりそうで断るかもしれないと思ったからだ。



そうしている内にふとシラギクの背後を見れば、まさにそのレヴィ本人が戻ってきたではないか。



横にはベッタリとエストーラが引っ付いている……顔は明らかに喜びに満ちていて恋人のように腕を組んで胸を押し付けるぐらいに密着してるなど、傍目から見ても分かるイチャイチャぶりで正直いうと腹が立ってきそうだ。

まあ当のレヴィはそこまで浮かれてもいなさそうな感じであったが。

気配に気付いたシラギクが振り返ったが、見知らぬ女と仲睦まじい様子に顔を顰めさせる。



「……横にいる女は何ですの?」

「その、私と同じ連れだ……レヴィにベタ惚れしてるところが違うが」

「ふんっ、あんな男に惚れるだかんて余程に見る目がありませんのねっ!ああ、見ていてムシャクシャしてきますわっ」



ライラット以上に苛ついたシラギクが二人の元へ駆け出していき、慌ててその後を追う。

走ってくるケンタウロスに、ベッタリしていたエストーラが離れて腰に提げた銃に手を掛けた。


「誰だい、君は?ケンタウロス族の女性に知り合いはいない筈だけど」

「貴女なんかに用はありませんわよ、尻軽女」

「っ……尻軽とは言ってくれるね。ちょっと筋肉女くん、この子は一体どこのどちら様なんだい?」

「筋肉呼ばわりするなっ、この人はレヴィが原因でだな……」


流石に初対面の者に尻軽呼ばわりされるのは頭に来たようで、飄々とした態度が少し崩れる。ライラットを渾名呼ばわりして、事情の説明を請うがそんなエストーラは眼中に無しと言わんばかりに視線はレヴィだけに向けた。


「ようやく会えましたわね、この性悪鬼畜男っ。相変わらず女を引っ掛けているなんて、だらしなさが極まりありませんわねっ。けれどわたくしが受けた屈辱に恥辱……それをやっと晴らせるかと思うと心踊る気分ですわ」

「………………」

「何を黙りこくっておりますのよっ?さては自分に仕返しにやってくる女なんていない筈だと高を括っておりましたの?ふんっ、それは大きな勘違いというのを身をもって教えて差し上げますわ。さぁレヴィ・ベルラ、わたくしと尋常に一騎討ちしなさいっ!」



ビシッと指を突き付け、堂々と勝負を申し込むシラギク。



それにしばらく黙っていたレヴィが口を開き…………




「つーかさ……誰だお前?」



「…………はっ?」




予想だにしてなかった一言に、シラギクも後ろで見守っていたライラットも唖然となる他なかった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] シラギクさん、哀れ過ぎる・・・! 過去にひどい目に遭って、あっちこっちを探し回って、ようやく探し当てた怨敵のレヴィには、完全に忘れられるとは。まあ、レヴィが、過去にどれだけの女性を手籠め…
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