微熱に誘われて
新年一発目の投稿です。今年も宜しくお願い致します。
全く散々な目に合ってしまったと、ライラットは酷く仏頂面をしながら森の中を散策していた。
猫耳、猫尻尾を生やされた挙げ句にマタタビで酔っぱらされるなど紛れもない醜聞である。
酔いがようやく覚めてからはパプキンの妥当に躍起になっていたのだが、程無くして耳と尻尾が体から消え失せた事を受けて、本体が倒されたのでは?というのを遅まきながら察したのだが安堵と同時にやるせない気持ちにもなった。
あいつに自分の顛末を知られたら、絶対に貶され嗤われるだろうという事が容易に予測できるからである。
レヴィだけでなく、エストーラに知られても嘲笑が待っていそうだし。
「何はともかく……まずは合流せんとな」
追ってきた足跡を逆に辿る事で最初に別れた場所に戻ってきたライラットは、暫くその場で待ってみる事にした。
が、待てども残りの二人がなかなか戻ってこなく、徐々に心配が募ってきた。
まさか、身動きできない致命傷を与えられたのではと思い、こっちから向かおうかとし始めた矢先に誰かの気配を感じて戦斧に手を掛けた。
だが、見えたのはレヴィだった。見たところでは大きな怪我もしてそうになく、とりあえず安心したが、何か様子がおかしい。
足元が少し覚束ないし、顔もやけに赤く熱でもあるようだ。
「おい、大丈夫か?」
駆け寄って支えようと、触れた時。
「んんぅっ、ぁっ」
……やけにエロチックな声が漏れ、ライラットは思わずギョッとした。狼狽えてると、しなだれるようにもたれ掛かってきて更に狼狽する。
「レ、レヴィっ?」
「あ、ぅ……熱、いっ……体が、熱いん、だよぉ……も、もぅ、堪え、きれねぇ……ライラットぉ、どうにか、しろぉ」
体をもじもじさせながら火照った顔に潤んだ上目遣い……それだけ見たら、劣情に悶える美少女にしか思えず、ライラットは普段とは違うしおらしさを見せるレヴィの姿にどぎまぎした。
そして密着した事で下半身が元気一杯なのも如実に伝わり、あの悪魔に何かされたのかと疑った。
「あ、あの、パプキンとかいう奴に何かされたのかっ?」
「はぁ、はぁっ、あいつなら、もうぶっ倒したから問題、ねぇ……だ、だから早くこの熱を、鎮めろよっ……頭も、体も、火照って仕方ねぇんだ……ヤらせて、くれよ、ライラットぉ」
どうやら討伐自体は済ませたようだが、妙な呪いでも掛けられたらしい。
普段の俺様で傲慢な態度は随分と柔らかくなって、とにかく熱を鎮めたいからと高圧的な口調もしてこなく抱きついて懇願するように言ってくるレヴィは凄いギャップ差があった。
とは言え、人気の無い森の中にしてもいきなりそんな行為をするというのは気が引けるものだ。
「ヤ、ヤらせろだなんて、そんな急に言われても、困るっ……な、何か解毒とか解呪とかそういう方法でっ……」
「んんっ、うっ、はうっ!……あぁ、はぁっ、はぐぅっ」
「……ごくり」
気が引けると思いはしたものの、正直言うと淫らな声を上げるレヴィは色々と刺激的過ぎた。
悶えて涙目になってるとこなど破壊力が半端無く、つい喉を鳴らしてじっくり見てしまう始末である。
女の身であっても、強姦してしまうかもしれない程だ。
だが見ている内に思った……この状態だったなら、自分がリード出来るのではという思いが過った。何せ、いつもは好き放題にされるがままだし、日頃からのウサも晴らせる絶好の機会ではないかと考え始めた。
都合が良い事に、今のレヴィは思うように体を動かせないようである。
もしそうでなかったら、今頃は自分を押し倒してる筈だ。
なら……ここは自分が手玉に取ってやろうではないか。
結論づけたライラットは、いつもの凛とした顔に似合わない邪な笑みを浮かべてレヴィを押し倒すと宜しくヤろうと服に手を掛けた。
「ちょーっと、待ちたまえぇっ!」
「うわっ!?」
いきなり響いた待ったの声に驚き、反射的にレヴィから飛び退いた。盛大に狼狽えてるとエストーラが憤慨な様子で走ってくるではないか。
「私抜きに何をイチャイチャしようとしてるんだねっ?そんな美味しい展開に私だけハブろうだなんて、そうは問屋が卸させないよ」
「イ、イチャイチャじゃないっ、これはそのっ……レヴィの火照りを癒そうという治療の一貫であってだなっ……」
自分で言ってても苦しい言い訳だった。つい数瞬前まで欲望にギラついた顔をしてたのだし、こっちから手を出そうというのがありありだったのだから。
「ほほぉ、治療と言い張るのだね?……なら私もそれに加わるべきだと思うが、まさか断りはしないだろうね」
「そ、それはっ……」
ライラットは言葉に詰まった。建前とは言え、治す為なのだと自分で言ってしまった手前、ここで突っぱねる真似は出来かねる。
しかし、せっかくのチャンスなのに横に他人がいる状況では如何にもやりづらい。
「い、いや、エストーラには先に村に帰って貰ってだな。悪魔は無事に退治できた旨を村人たちに伝えに行って貰いたいというか……」
「そんな見え透いた誤魔化しに乗せられるとでも思ってるのかい?そういう事なら、そっちが帰るべきじゃないのかい。レヴィは心身共に私が癒してあげるから、そっちこそお帰り願おうか」
「な、何を言うっ。私の方が適任だっ、引っ込んでいろっ!」
「いーや、断然にっ絶対にっ、わーたーしーのっ、方が適任だっ!」
段々と意地の張り合いになってきた。どうにも反りが合わない二人は、互いに牽制して諦めさせようとしてるが話は平行線のままで進まない。
業を煮やしたエストーラが宣言した。
「ではこうしようじゃないか?どちらがより、彼を楽にさせてあげられるかを競おう。それで文句は無いだろう」
「い、良いだろうっ、その勝負受けたっ!わ、私のテクに腰を抜かすんじゃないぞっ」
その申し出に顔を赤らめながら、強気な発言をしてるが内心では発情してるレヴィを二人がかりで責めてやる事に少なからず興奮していたのは内緒である。
「て、てめーら……俺を抜きに勝手に話進めてんじゃ……んくぅっ」
了承も無しにそんな話がされたので、異議を言おうとしたが発情の呪いで感覚が鋭敏になってきたレヴィはちょっと身動ぎするだけでぞわぞわとした快感が昇ってきて結局は止める事も叶わず。
そのまま、いつもとは違って二人にリードされながら野外での情交に耽る事になったのだった……。
それから数時間後、再びホルテン村に戻った一行はささやかながらの宴に招かれていた。
「いやー、大変助かりました。お陰さまで村の者は皆、元通りに治りました。心より感謝を申し上げます」
村長代理は非常に喜んだ様子でレヴィに握手をしている。
実害こそショボいが、妙ちきりんな呪いには村人全員が辟易していたのでその解放には皆が喜んでいた。
小さな村なのでそれほど富があるわけでもなかったが、相応の報酬にと村人たちで出しあった銅貨類に作物などがレヴィたちに贈られた。
「豪勢とは言えませんが、皆さんの労を労う為にご用意しました。どうぞ遠慮無く、召し上がってください」
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
礼を言って食事を始めるレヴィ。だが、聡い者だったら気がつくだろう。
表面上は穏やかそうに見えてるが、どこかギスギスした空気をしてる事に。
横に座ってるライラットたちをチラ見した目に、剣呑なものが混ざってる事を。
(さ、流石にやり過ぎたか……)
(うーむ、ついつい調子に乗ってしまったかな?けれど、あんなに初々しい反応をされたら箍が外れてしまうというものだろう)
片や畏縮し、片や懲りてない感じで押し黙ってる。
レヴィに掛けられた発情の呪いはすっかり消えてくれたのだが、その為に森の中で色々と激しい交わりをしてしまったのが尾を引いている。
それも普段とはうって変わって、やたら敏感になってしまったレヴィをライラットとエストーラが責め立てる形で。
お陰で今後は出来ないような体験が出来たが、良いように弄くられたレヴィはかなりご立腹となっており、これは後で苛烈な仕置きが待ってるだろう事は想像に難くなかった。
(そ、それでも……あんな可愛くてやらしい姿が見れたのだから、まぁ満足と言える範囲かっ)
野菜の炒めた料理を食べる中で、まざまざと数時間前の光景が脳内に拡がる。生娘のように喘いで、何度も男の欲望を迸らせるあの姿……正直めちゃくちゃ興奮してしまい、必要以上に搾ってしまった間も否めないがそれだけ妖艶だったという事だ。
普段からああであったなら、別に交わうのも苦では無いのだがと夢想していると脇腹に痛みが走った。
「あ痛っ!?」
(……何を弛みきった顔をしてんだよ、この変態女。人が満足に動けねーのを良い事に色々としやがって)
痛みは脇腹をつねるようにしていたレヴィの仕業だった。小声で不満全開に言ってきて、ライラットも声を潜めて反論する。
(へ、変態じゃないっ、そもそもお前が発情なんていうものになったせいだろうがっ!)
(まぁその点は肯定してやるけどな……だからっつって、二人がかりで何十回も好き放題にやりやがったのは許容しかねんだよ。この分は、後できっちり精算してやるつもりだから覚悟しとけよな)
それだけ言うと、黙々と食事を再開した。
精算の内容がどういうものなのか……それは言わずとも分かるものだ。
やはり思わざるをえない。いつもああだったら良いのにと。
ため息を吐くライラットの横では、精算の内容が殊更に激しいものになってくれと期待してウキウキしてるエストーラがいるのだった……。
時間は少々遡って、レヴィたちが激しい情交をしてる中、同じ森の中のある一角では憎々しげな顔で佇む一人の獣人がいた。
体全体をすっぽりとローブで着こんだその人物は、苛々とした心を表すようにしきりに爪を噛んでいた。
「たくっ、何がお手頃価格の刺客なんだよ。ちょっと場をかき乱して翻弄させただけじゃないかっ。ろくに苦痛も味わわせられずに殺られやがって……」
忌々しげに言い、懐から水晶球を取り出すと起動させて何処かにへと繋げた。
仄かに光ってから、水晶から男の声がした。
《ご機嫌さん、調子の方はどないや?上手くいっとるんかい?》
「何がご機嫌さんだよ。全く上手く行ってないさ、あの悪魔は殺られてしまったよ……誰かさんが適当な奴を宛がったお陰でね」
《こら手厳しいなぁ。あんなんでもワシの一押し商品なんやで》
この辺りではついぞない特徴的な訛り言葉の男は心外だという風に言ってるがそこに申し訳なさなどはありそうに無く、獣人は苛つきながらも怒鳴りたい気持ちを抑えた。
今では方法が失伝した悪魔召喚……それを一人で簡易的に出来る手段を取り揃えてくれた通信先の男には助かってる部分もあるからだ。
あの表面上は純真な風を装った鬼畜男に、有効な仕返しが出来る可能性があるのだから。
「とにかく、あんな悪戯好きな奴なんかじゃなく、もっと本格的に戦闘に適した奴を送って欲しいんだけど。そうじゃないと、あいつ……レヴィ・ベルラには太刀打ちできない」
その台詞である疑問は氷解しただろう。あのパプキンは自力でこの世界に来た訳でも自然発生したものでもなく、人為的に送り込まれた悪魔だったと。
それもレヴィを標的にしたものだと。
《まぁ、無いことも無いんやがなぁ。せやけど、強力な悪魔はそんだけ危険なんや。解放させた直後に見境無く襲い掛かってくるケースもあるさかい、そしたらアンタも不本意やろ?アンタの願いは、そのレヴィっちゅう奴に生き恥を晒させて息の根を止めるっちゅー事やさかい》
「……当然さ。あいつの惨たらしい死に様をお目にかけないと、ボクの溜飲は収まらないからね……だからこそ、欲してるんだよ。この世の常識から外れた力を持ってる存在をね」
《……まぁ、手頃な個体を検討させて貰うけどな。けど、新しいのを紹介する前に……》
「分かってるよ。金は用意してやるさ」
《それやったら問題ないわ。ほなまた近い内に……グヒヒヒヒ♪》
気持ち悪い笑いに獣人は顔をしかめさせている。もちろん、笑ってる本人はこの場にはいないからそんな顔をしてても問題ないのだが。水晶の灯りが消え、通信が切れたのを確認してから獣人は苛立たしげに木の幹を蹴りつけた。
「ちっ、聞いてるだけで背筋に気持ち悪いものが来るよ……けど、報復の為なら仕方ない。今のボクじゃ、あいつに一泡を吹かせる事は無理だからね……でも絶対にこの怨みは晴らすよ、あの雪辱は何としてでも果たしてやるっ」
そう決心を露にする獣人。
それは少し前に、兄弟と一緒にレヴィの身ぐるみを剥がそうとして逆に毛を刈られてしまった人狼の女性、フェリルであった。
心折れてしまった兄弟とは逆に復讐に闘志を燃え上がらせたフェリルは、その後表と裏の社会に精通する情報屋を使ってレヴィの身辺を調べあげたのだ。
その理由は相手を深く知る事で、何か有効なネタを掴んで脅すか或いは精神的に追い込んでやろうというのだったが。
その結果としては普段は愛想よく振り撒いてる低級冒険者であるが、特定の人物……それも女性に限って本性を現し、強引に一夜限りの肉体関係を結ぶという行為を何度も繰り返してる素行不良で女にだらしない面がある事を突き止めた。
が、知ったところで上手く活用できる方法が思い付かなかった。
通常なら冒険者ギルドなり役所に訴えてやるなりがあるが、如何せんフェリルは追い剥ぎを生業としていた盗賊である。
お尋ね者の自分がそんな場所へノコノコ行こうものなら逮捕待った無しである。
また普段はそんなところを一切見せないのもあり、第三者が訴えたとしてもまともに取り扱ってくれるかも怪しかった。
なら家族構成を調べあげて肉親を盾に貶めてやろうとも考えたが、情報屋がいくら調べてもこれだけは分からずじまいだった。
少なくともブルヘンド王国の出身者ではないという事は分かったが、逆に言えばそこ止まりでギルド所属の冒険者と裏の顔があるというのぐらいしか調べあげられなかった。
どうしたものかと悩んでいた際に知り合ったのが先程の訛り言葉の男である。
パグズ・チャンデーと名乗った男が言った今では眉唾物となった悪魔召喚……それを簡単に行える物を格安で売っていると。
本気で信じた訳では無かったのだが、見た方が早いとパグズが召喚してみせたこの世成らざる者を見た時にフェリルの心は変わった。
これなら一矢報いてやれると。
代わりとして、金を要求される事になったがそこまで法外な値段を提示された訳ではないのでフェリルは渋る事なく払ってやった。
「今に見ていろよ、レヴィ・ベルラ……今回は不十分な結果だったけど、ボクは必ずお前への復讐を果たしてみせる」
憎悪を胸に秘め、フェリルは森を後にしたのだった。
際どい描写があったから運営さんに何か言われないか、ちょっとドキドキしてます……。