森の中の鬼ごっこinレヴィ
もうじき年末ですねぇ。今年は運良く大晦日と元旦が休みだったので、快く新年を迎えたいもんです。
マジでダルい、めんどくさい、だりー。
そんな言葉しか出てこねー。何だって暇潰しに来た村で依頼の真似事をしなきゃなんねーんだよ。
あー、ほんとかったるい。女を引っ掛ける為じゃなかったらこんな面倒くさい事なんてしねーんだけどな。
そんでもって、相手が色気なんかとは無縁の悪魔なんかときたらテンション駄々下がりだわ。
これが女の姿した奴だったら、懲らしめた後に仕置き(性的な方)でリフレッシュできるもんなんだけどよ。
この鬱憤は終わった後に、ライラットかエストーラを弄んで発散する事にすっか。そんじゃ、テキパキとやっちまうかな。
「さて、お目当ての奴はどこに……あぁ、探すまでもなかったか」
俺の視線の先にあのちんちくりんピエロが堂々と突っ立っていた。隠れる気すら見えねーけど、やる気あんのかこいつ?
一応、罠の可能性も考えて注意深く辺りに気を配りながら近づいた。
「そんなに神経張らなくても良いぜぇ。罠なんてな~んにも仕掛けてないから早く来いよ」
「……そりゃどーも」
手招きする奴に誘われて俺は気を緩めた、風に見せかけて近づく。自分から罠が無いって言っても信用する奴なんかいねーしな。
表面上は警戒を解いたように見せて、俺は油断なく奴との間合いを詰めてく。
正直いうと、目の前の悪魔の戦闘スタイルが何なのか判別できてねーんだよな。この小さいなりなら魔法をメインにした戦い方か?
けど、格が低かろうと悪魔だ。常識外れな技を繰り出してくる可能性もあるから様子見は無しで速攻でケリを着けるのが一番かもな。
「最初に言っとくかね。お前の目の前にいるオイラは正真正銘の本体だぜ」
「ふぅん……で、お前自身が本物っていう根拠は?言うだけなら、偽物でも言えるだろ」
「モキキキ♪こりゃ疑い深いなぁ」
当たり前だろーが。自分は分身じゃなく本体ですよって言われて馬鹿正直に信じられるかよ。
「ならもう少し教えてやるよ。お前の連れ二人はオイラの分身二体にまんまと一杯喰わされたぜ、女戦士は猫にさせてマタタビで酔わせてアウト。もうひとりはガキの姿にしてアウトって感じにな」
あぁ?……女戦士っていうとライラットの方か?そいつを猫にしてマタタビで酔わせただ?たく、何をやってんだよあの筋肉は。自慢の筋肉が泣いてんぞ。
そんでもって、もうひとりの方はガキの姿にしたって言ったな……となるとエストーラの方か、あいつも掌の上で遊ばされたのかよ。
けど、どっちも実力は買ってるしな。その二人を翻弄したのなら俺も舐めて掛かったら恥を掻くかもしんねーし、本気でやる必要があんな。
「そうかよ、それでわざわざ教えてくれたのは親切心か?」
「まぁそうだな、お前も同じように情けない真似にさせてやるからオイラに負けたらこうなるぞって言おうと思ってな」
「はっ、そりゃあ有り難いな。けどそんなお節介は……要らねーよっ!」
脚に力を込めてその場から飛び上がった俺は空中から降下しながらキックをお見舞いした。
けど当たる直前にピエロ野郎の姿がぼやけたかと思うと、鏡に写したように大量の奴が現れた。
「「「モキキキ♪さ~て、本物はど~れかな~?」」」
また分身かよ、めんどくせーなぁ。同じ面した奴がたくさんいる光景って気持ち悪くて仕方ねー。
俺が面倒臭さで辟易してる間に、無数に別れたピエロ野郎たちから攻撃が始まった。掌から黒い球を次々に投げつけてきて、大量の黒球が迫ってくる。
なかなかの密度だけど、このぐらいならかわすのは造作もねーぜ。
俺は弾幕の間を潜り抜けるようにしてかわしていく。ステップを踏んだり、上半身を反らせてみせたりして難なくやり過ごす。
一通りを避けた俺は空振りしていった黒球の行方を追った。
何発かは地面や木の幹に穴を穿ったりしたが、大半のものは何かに当たると同時に霞のように消えていく。
「消えたのは実体の無い幻みてぇなもんか……なら本体をぶちのめせば良いって話だなっ!」
大半が惑わせるだけの幻影なら臆する事はねえ。魔力を纏ってるのだけを見極めれば無駄に避ける事も無えからな。
ピエロ野郎がまた多くの黒球を投げてきたが、さっきと違って俺はほとんどの球はかわさずに突き進む。
思った通り、本物以外は当たっても何ともならない。
後はこの幻影の中から本体を見つけるだけだ。
感覚を研ぎ澄ませば、気配を巧妙に隠して幻の中に紛れ込んでる奴を見つけるのなんて俺には朝飯前だ。
俺は攻撃を避けつつ、どいつが本物のピエロ野郎なのかを見極め始める。
数十体は増殖したピエロ野郎の群れ……その中で唯一、感じ取った場所に俺は視線を向ける。
「……そこにいるてめぇだな」
ちょうど隅の方にいる奴を見たら、あからさまにぎょっとした様子になる。こんな小細工で俺をどうこうしようなんて甘いぜ。
俺は勝負を着けるべく一気に懐に踏み込んで、魔力付与で炎を纏わせたパンチを打ち放つ。
拳は真っ直ぐ飛んで奴の顔面を…………すり抜けた。
ちょっと待てっ。何ですり抜けたんだよっ、まさかこいつは幻影の方なのか。けど俺は確かに気配を読み取った筈だぞっ!
「外れ~、本物はこっちだぁっ!」
不意打ち気味に後ろから攻撃されて、俺は気分最悪になった。
舌打ちしながらも何とか避けたが、腑に落ちねぇ。
この俺が気配を読み違えるなんて三流みたいな真似なんかありえねぇんだ。
確かに攻撃した奴が本体だとそう見極めた筈。
何か見落とした事でもあんのか?
俺はその後も果敢に攻撃を繰り出したが、悉くが幻影の方に空振りしちまう始末。くそっ、いったい全体どうなってんだよっ。
俺の気配察知がここまで鈍る筈はねぇ。やっぱり、何かあんのか。
考えようにも、あの野郎がポンポン攻撃してくるもんだからじっくり考えを纏める事も出来やしねー。
また弾幕の嵐を掻い潜って、機を窺ってた俺の前を黒球が飛んできてそこで踏みとどまってやり過ごそうとしたらそいつは爆発するでもなく毬みてーに弾んで俺の方向に向かってきやがった。
「やべっ……うっ!?」
反射的に腕をクロスさせて衝撃に身構えたが、向かってきた球は寸前で破裂して俺の周りを煙で覆った。
ピエロ野郎が放った黒球がすぐ側まで迫り、俺は咄嗟に腕をクロスさせて耐え抜こうとする。
全身に魔力を巡らせて身体強化を掛けたから、相当に強力じゃねー限りは致命傷にはならねー筈。
そう身構えてたんだが、予感してた衝撃なんかは来なくて拍子抜けした俺がふと違和感に気づいて体を見下ろすと。
「なっ、何だこりゃっ!!」
いつの間にか、俺はヒラヒラした服を身に纏ってやがったんだ。
丈の短いドレスみてぇなやつで、胸元も大きく開いた露出が激しいやつ。しかもどピンク色っていうどぎつい色合いで目がチカチカしてきやがる。
おまけに下半身がスースーしてやがるし、これは下着も女物にされてんのか……無駄に凝った真似しやがって。腰に付けてたポシェットはそのまんまだったけど、動きづらくて仕方がねぇっ。
「いやー、そっちの似合ってるぜぇ?粗っぽい口調してんけど、そうした方が可愛いもんな~、モキキキ♪」
ピエロ野郎がさもおかしそうに笑ってやがる。なるほど、こーいう事も出来んのかー、勉強になったなー……
「……ぶっ殺す」
何が嬉しくて、こんなヒラヒラしたもんを着るんだよ。ざけんなよてめこら、ぼてくり倒してやろうかっ?
怒りのボルテージが振り切れそうなぐらいに俺はムカついた。
俺は自分に対して、こーいうおちょくられる真似をされるのが一番腹に立つんだ。
とっとと、ぶちのめしてこのふざけた格好を解かせてやる。
魔力の消費が激しいが、俺は両手足に魔力付与を掛けた。
手足に炎を纏わせた辺りで、流石に奴も笑ってられなくなったみたいで押し黙って俺の様子を窺っている。
「へっ、怖じ気づいたか?けど、こんな恥を掻かせた以上は五体満足でいられると思うんじゃねーぞっ!」
俺は一気呵成に攻めたてる事を決めた。思えばやりたくもない依頼にこんな奴の相手をしてるからストレスが溜まって仕方ねぇ。
もう原型を留めなくなるまでボコッてやるから覚悟しやがれっ!
「まずは……その鬱陶しい幻影を潰してやらぁ!」
構えた俺は脚に濃密な魔力を巡らせ高めた後に、勢いよく踏み込んだ。
ドォンッ!と地の底にまで響く足音。地面に亀裂を入らせるまでの衝撃波が俺を中心に拡がっていって、周囲の樹木を傾けさせるまでになる。
当然、幻影にも衝撃波は響き渡り、次々と霧散していく中でひとつだけ残った奴を睨み付ける。
「今度は間違え、ねぇぞおらぁっ!」
「わわわっ!」
跳躍力を活かしてすぐに間合いを詰めた俺は本気で魔力を巡らせた拳に蹴りを見舞わせる。かするだけでも地面や草を焦がせ、当たれば木の幹もぶち抜く威力だ。
こうなりゃ、小細工なんかする暇も無い程に攻めて攻めて攻めまくるだけだぜ。
「おらっ、ちょこまか逃げてんじゃねぇよっ!」
「わひぃっ!?」
ちっ、この野郎。小柄なだけあって、やっぱ近接戦はやりづれぇな。
けど離れてちんたら戦ってたら何をしてくるか読めねーし、ここは手早く片付けて終わらせねーとな。
俺は休む間もなく、炎を交えた打撃を繰り出し続けた。
「はぁ、はぁっ……んっ」
何か、変だな。妙に体が熱く感じやがる。ちょっと飛ばし過ぎちまったかな?
そう考えた時にぞくぞくっとむず痒くなるような感覚が走った。
「うっ……んんっ!?」
やっぱ、おかしいっ。酒でも呑んだみてぇに火照りだしてきやがった。
それにムラムラしたもんまでっ……込み上げてきやがるっ。
「はぁっ、あぁ……ふっ、んんっ……か、体がっ、熱っい!?」
ど、どうなって、んだよっ……何でこんな時に性欲がっ、頭をもたげてくるんだよっ……ま、まさか、またあのピエロに一杯喰わされちまったのかっ。
込み上がる性欲に苛まれて、集中が乱れちまったせいで魔力付与が効果を無くしちまった俺はその場で棒立ちも同然な無防備状態を晒しちまった。
「そろそろ、効きだしたか?意外と時間が掛かったな」
「んぁっ……なん、だと、てめぇ……」
「格好を変えた時におまけに付けておいたんだよ……どうしようもなく発情しちまう呪いをな♪モキキキ、良い表情すんじゃねーかよぉ♪」
「こ、このっ……ふざけんじゃ、ねーぞてめぇっ……んんっ」
や、やべぇ……これは、洒落に、なんねーぞ…………何週間も女を抱かなかったみてぇな飢餓感まで沸いてきやがった。
こんなんじゃ、まともに戦えもしねー……あ、ぐぅっ!ま、また性欲が強まってきやがったっ。
体の疼きに抗ってると、余裕綽々な感じでピエロ野郎が近づいてきた。
「もう立ってんのもしんどくなってきただろ~?……こんなナリしってけど、女の悦ばせ方は知ってるからオイラに身体を預けてみなよ~ん♪」
はぁ、女だぁ?……あぁ、そうか。こいつ俺の性別を勘違いしてやがんのか。て事は、俺が男だって教えてやれりゃあ隙を作れるかもしんねーけど……ぐっ、どうやって作ったもんか。
焦れた思いで立ちすくんでたその時だった。
一陣の風が吹いて、着せられたドレスの前がフワリと浮かび上がってその下の局部が露になったんだ。
発情の余韻でボーッとしていた俺は裾を抑える事も出来なかったけど、それが功を奏してくれた。
「はっ……?」
そこそこに近づいていたところで、翻ったドレスに隠されていた俺の性欲の象徴を目撃したピエロ野郎は間の抜けた声が出てから一泊して激しく狼狽した。
「おっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?な、ななっ、何でっ?何でっ?何でっ?そ、そんなモンがぁぁぁぁぁぁぁっ……う、うおえぇえぇぇぇぇっ、え、えげつないものを見ちまったぁ……オロロロロロロロロロロ……ッ」
男だった、ていう事以外に俺のご立派なアレを見た衝撃は予想以上に効いてくれたようだぜ。
踞って嗚咽を漏らしてる今は絶好の好機、俺は火照る体を何とか動かさせて力を振り絞る。
「やっとっ、決定的な隙を見せてっ、くれたなぁっ?……今度は、逃がさねぇっぜっ、魔力、集中っ!」
右腕にありったけの魔力と力を込めて、渾身の一撃を放つ。炎の塊と化したように燃え上がる右拳は狙い違わずにピエロ野郎の顔面に陥没する勢いで沈む。
「がばっ!!」
そのまま、振り抜くように俺は大地を踏みしめて腕を前へと押し進める。
「『炎・獄・撃』ィッ!」
ミシミシと骨をイワす感触を実感しながら、天まで届かせる気持ちでアッパーカットを喰らわせてやった。
「ぎゃばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
焼け焦げた顔から血を吹き出せながら、ピエロ野郎が上へ上へと吹っ飛んでいく。だいぶ上昇した辺りで、黒ずんだみてーに体が真っ黒になったと思うとボロボロと崩れ落ちていった。
気配も完全に消えたから、文字通りに消滅したみてーだ。
同時に俺の姿も元に戻り、ようやく情けない絵面から脱却できる。
「はっ、ざまぁ見やがれ……ん、あぅっ……!」
一安心しかけた俺だったが、体を苛んでいる微熱は引かずにいて身を強張らせた……こ、こっちの呪いは、解けねぇ、のかよっ、くそめんどくせぇっ。
「はぁ、うう、んっ!……し、しょうが、ねぇ……一旦、あいつらと合流して、発散するしかねぇ、かっ……うっ、ふぅっ、ぅっ!」
もう、我慢とか解呪だなんてしち面倒くさい真似なんかしてられねぇっ。
俺は手っ取り早く、性欲の方を解消させようとまずライラットがいるだろう方角にへと歩き始めた……。
悶え男の娘……良い、とても良い……