森の中の鬼ごっこinエストーラ
10日以上空いてしまいました……面目ないです
森の中でピエロを追いかける、とはまた変な事になったけれどレヴィの為とあらばそんな風変わりなものでも誠心誠意やらなくてはね。
さしあたっては、何かと突っかかってくるあの筋肉に吠え面をかかせたいと思ってる。私より先に愛人認定されてるからって、私のラブコールにいちゃんもんを付けられる道理なんてないからね。
この件で私が手柄を挙げてやれば大きな態度は取りにくくなるだろう。そうなったら、愛しのレヴィと存分にイチャイチャできる事だろう。
そんな愛の日々を育める為にも、あのピエロ悪魔には踏み台になって貰う必要がある。
「ふふ、でも悪魔を相手に戦うなんて今までに無かった事だから腕が鳴るね。そう言う意味でも楽しめそうかな?」
不謹慎かもしれないけどワクワクしてきちゃったよ。私の射撃がどれだけ通用する相手なのか……そこのところも楽しみで仕方ない。
磨き上げたスキルは実戦で心行くまで使ってこそだ。
特徴的な足跡が続く先へ走り続けていると、それがある境で消えた。ざっと見渡してみたけど、類似した足跡は無いみたいだ。
確か、あいつは空中を浮かぶ事も出来たね……となると、ここで浮かんで逃げたと考えたら足跡が途絶えた理由は説明がつくだろうけど、なぜここでそんな行動をしたのかっていう疑問が出てくるけど……物事を童心で遊びたがる性格だろうというのを考えれば納得はいくけどね。
「……そこかなっ!」
右のホルスターから拳銃を抜くと振り向き様に私は撃った。
弾丸はやや斜め後ろに飛んでいって樹木に弾痕を付ける……その下辺りに茂みに隠れる形で奴がいた。
分かりづらいけど表情が僅かに固くなってるから、度肝を抜かせる事は成功のようだ。
「な、何でここにいるとすぐに分かったんだよっ?それに何だ、その筒みたいなもんは」
「その独特の気配を察せないようじゃ冒険者はやれないからね。因みにこれは銃という武器だよ。君は初めて見るのかなこれは?」
「ジュウ?暫く出てこなかった間に、そんなもんが出来たのか?」
ふむ。知ってて敢えて惚けているのか……それとも本当に見るのも初めてなのか。後者だったなら付け入る隙があるんだけれど。
「モキキキ♪よく分からねーが、楽しめる要素が増えたって事で良いか……さぁ、オイラと一緒に遊び倒そうぜっ」
茂みから飛び出したパプキンが掌から黒い球を出してそれを投げつけてきた。咄嗟によけて、地面に当たったそれが小さな爆発を起こす。
投げる速さはそこそこ、威力もまぁまぁといったところかな?
と言っても、軽装な私が直に喰らったら危険な事には変わりないけど。
「そらそらっ、どんどんいくぜ~っ!ジャッジ・ボールッ!」
左右の掌から連続して黒球を発射してくる。それを私は前転やステップを踏んで巧みにかわした。
なかなかの弾幕密度だけど、速さは見てからでも十分にかわせる程度だ。
もちろん、攻撃する余裕だってある。
「こっちからもいくよっ」
攻撃の合間を縫って、構えた拳銃から弾丸を撃つ。
愛用の45口径リボルバーから、三発の弾が直進する。
狙いはピタリ、奴の眉間にへと弾道は進む。
避けようという素振りが無かったから、弾は間違いなく奴に当たる筈だった。
ところが弾丸は、数センチ手前でガキンと何かにぶつかって弾かれた。
見えない壁に当たったように弾はあらぬ方向へ飛んでいく。
「っ!? 今のはっ」
不可思議な事態を考察する間もなく、パプキンの攻撃が続く。立ち止まっていた私は急いでそこから離れた。
そしてもう一度、銃撃を加えてみたけど結果は先と同じ様にまた見えない壁に遮られるように奴に弾丸は届かなかった。
「モキキキ♪面白い道具だけどよ、真っ直ぐにしか飛ばねーんだろぉ?それに思った程の強力な攻撃じゃあねぇし、そんぐらいならオイラの防御壁で楽々に防げるもんね~」
……もう銃の特性を理解するだなんて、見た目と言動に似合わず頭が回る奴だね。しかし防御壁か。そんな魔法が使えるだなんて悪魔というのはやはりただならぬ存在という事かな。
まぁ感心するのもそこそこにして、あの壁を突破する方策を考えないといけない。今の一連の流れだと、防いだ時は一瞬だけ動きが止まるけどまたすぐに攻撃が再開される。
もっと距離を詰めれば抜けれるかもしれないけど、まだ何か能力を隠し持っていたならリスクが高まるし。
近づかずに威力を高めるなら、次はこっちを使おう。
「チャージモード」
魔導銃の方を取り出し、それに私は魔力を込める形で集中する。
設定属性は炎にして、私は身をかわしながら魔力充填をした。
これはチャージをして魔力を追加させれば、通常よりも高い威力を発揮させる事が出来る仕様になっている。
難点としてはチャージは少し時間が掛かり、連続発射も出来ない点があるけれど一発の破壊力はだいぶ向上するから硬い相手には有効な手段だ。
その間、拳銃の方で牽制を行いながら充填を続ける。一分は経った頃合いに私は魔導銃を奴に向け、動きを止める為に数発の弾丸を叩き込んでから撃つ。
「バースト・フレイムッ!」
魔導銃から放たれた火炎球が目標に向かって飛ぶ。銃弾を防ぐ為に不可視の防御壁を展開してる奴はその場から動けない状態だ。
そのまま、火炎球は奴に着弾して轟音と共に熱い炎が四散する……通常の魔物程度ならひとまりもない威力。倒した、とまでは言わなくても手傷くらいは負っていて貰いたいところだけれど。
そして黒煙が晴れて、奴がいた場所には煤こけた地面だけがあった。
「…………影も形も無いだって?」
おかしい。確かに火力は高めだったけれど、完全に焼き尽くす程までじゃない筈なんだ。それにあの防御壁があったから少なからず威力は減殺されたと思うのに。
まさか……かわされたと言うのかい?あのタイミングで?
そこに思い至った時に背後から嫌な気配を感じて、私は咄嗟にその場から飛び退いた。体のすぐ横を青白い電撃が走る。
「惜しいっ!あとちょっとでヒットしたのにな~」
いつの間にやら背後に奴が回り込んでいた。やれやれ、この私が裏をかかれるとは油断ならない奴だ。
ピンピンしてるとこを見ると当たらなかったか、或いはあの壁で防がれてしまったか。思った以上に厄介な敵だね。
「さ~、次はどんな攻撃を見せてくれんだ~?と言っても、どんな攻撃を繰り出してこようがオイラには通じないけど、なっ!」
奴の指から幾筋もの電撃が放たれる。また回避に徹するけれど今度のは軌道が読みづらいからこのままだと厳しい状況になりそうだ。
しかしどうやって、あの防御壁を突破すべきか……いや待てよ、そう言えば引っ掛かってる事があった。
「確認してみるかな」
私は回避する傍らで大きく右に回り込む形に動く。
そして奴の左半身に狙いを定めて、弾丸を発射した。
「モキキキ♪無駄だってのがまだ分かってくれね~か~?」
結果は言わずもがな、また壁に阻められた。同じ事を繰り返す私を奴は嘲笑うけれども、ようやく分かったよ。
その防御壁の突破口をね。
私は意を決して奴に向かって走り出す。これまで私の方から近づいてくる事が無かったから相手は面食らっていたけど、すぐさまに態勢を整えて先程の電撃を浴びせてきた。
それらを紙一重でかわしながら、私はどんどんと距離を詰める。
飛び道具を持ってるならこんな近づく必要は無いだろうと誰もが思うかもしれないけれど、時には大胆な手も必要だからね。
二メートルは詰めたところで、魔導銃を向ける。
けど普通に撃っても通用しないのは承知済み、私は銃口をやや斜め下に向ける。
発射したのは無属性のもの。だけど通常よりも威力を強めに撃ったそれが地面に当たると同時に土煙を派手に上げる。
「ぬわっ!? ま、前が見えねぇっ、くそっ」
視界を塞いだ私はその場で勢いよく跳躍を決める。上から背後に回るようにして私は難なく着地に成功。
そして、すかさず拳銃を奴の後頭部に突きつけた。
不可視の壁に遮られる事なく、銃口はぴったりと背面に当たる。
「ぬぬっ……」
「チェックメイト、だよピエロさん?やはり、その防御壁を展開できるのは自分の正面だけのようだね」
そう、私が回り込んで銃撃をした時、こいつはわざわざこちら側に向き直ったのを見てそう思ったんだ。
防御壁は体全体を包んでなく、自身の正面のみをカバーしてるんじゃないかとね。
もし、全方位を防御できるんだったら立ち位置を変える事も無いだろうと推測したのだけれどビンゴのようで安心したよ。
さて、後はこのまま引き金を引いてジ・エンドにさせて貰うよ。
「モキキキ……確かにチェックメイトかもなぁ…………お前の方でっ!」
「むっ」
何か不穏な気配を感じて、奴から離れようとしたけどその前に一瞬で元の二倍までに体が膨張したパプキンが破裂するように弾けた。
咄嗟に腕を交差させて身構えた私だったけど、来たのは強い衝撃でなく白い煙の波だった。
「こほっ、対抗して目眩ましのつもり?」
少しむせる程度で害のある煙じゃなさそうだけど、視界を塞ぐには十分な量だから不意打ちするには絶好だろう。
私は拳銃を構えた直した、けれど何か妙だね。グリップを握る感覚が何かおかしい気がする。
それに妙に重く感じてしまう。どうしてだろうか。
一旦、煙の中から出るべきかなと歩こうとしたらテンガロンハットがずり落ちてきた。
「うわっ、もう何だと言うのかな…………えっ、この手はっ?」
被り直そうとして持とうとした手を見た私は絶句した。手が明らかに縮んでいたからだ。そして目線の高さも低くなってる事にも気がついて、体を見下ろした私は自分の体に起こった異変にやっと気がついた。
「か、体がっ、子供になっているっ!?」
ぶかぶかになった服に起伏の無い体型……それは紛れもなく、少女の体だった。10代ぐらいにまで縮んでビキニブラは包むものが無くなってしまってずり落ちていってしまい、辛うじて上着とズボンを押さえながら私はこうなった原因に思い当たる。
あのピエロのせいだと。それを肯定するかのようにどこからか奴の高笑いが聞こえた。小さくなった私を嘲るように響いた声はその内に聞こえなくなる。
「あいつの仕業か……やってくれるね」
どうやら、さっき弾けとんだ奴は分身の方だったようだ。本物は筋肉女の方かレヴィが追いかけてる方なのだろう。
しかしこれは参った……こんな体じゃ、満足に銃も撃てやしない。それに若返ったって事は身体能力も比例して落ちたかもしれない。
試しに落ちた拳銃を拾ってみたけど、ずっしりと重く感じて両手でないと支えきれない。それでも重さで震えてしまって、まともに狙いも付けられない。
「これじゃあ、どっちかに行っても足手まといにしかならないか……分身はひとつ消したとはいえ、不甲斐ないね」
はぁ、と溜め息を溢せば貧相になってしまった体を見てしまう。
うーん、改めて見ると成長した私は実にスタイルに恵まれていたのを実感するよ。世の中にはこんなまな板状態で成人を迎える人も少なからずいるからね。
こんな姿ではレヴィに幻滅されてしまうかも……あ、でも顔はそんなに変わってないと思うし、大丈夫かもしれない。
とにかく、頼りない体になってしまったけど自衛ぐらいはやらないといけない。悔しいけど、悪魔退治はあとの二人に任せるしかないな。
ロリ化したエストーラ。スタイルは貧しくなってしまいましたが、イケメン顔は割と変わらずです。