森の中の鬼ごっこinライラット
仕事もある。積んでるゲームもしたい。新作の漫画も小説も読みたい。アニメも見たい。執筆もしないといけない……ドラゴンボールの精神と時の部屋に入り浸りたいナリ。
私は木々の中をひた走る。
目的はあの小さなピエロのような姿の悪魔、パプキンを捕らえる事だ。いや別に捕らえずとも、その場で退治すれば良いだろう。
ただ、私が追いかけてるのが本物とは限らないがそれでも分身をひとつ潰せるのは無意味な事じゃない。
「何にせよ、あいつには負けたくない」
あいつとは明け透け無くレヴィに色目を使うガンマンの女、エストーラの事だ。二人いればレヴィの底無しの性欲もちょっとは制御できるかもと思って、彼女が同行してくる事はなし崩し的に認めた訳であるがあの調子だとレヴィの我が儘を何でも聞きそうな感じになるんじゃないかと危惧していた。
それで増長されたら堪ったもんではない……ここできっちり先輩としての威厳を示して、如何にレヴィの手綱を握って行動するのかというのを教えてやらねばなるまい。
「その為にも、あのピエロは私が退治して見せねば……」
幸い、特徴的な足跡が残っているので追跡は比較的容易だ。しかし、ここまで痕跡を残してるとなると罠なのではと疑いたくなってくる。
しかし、虎の子を獲たくば虎の穴に入れとも言うし敢えて罠にかかってパプキンを目の前に引きずりださせる方法もあるだろう。
そうして、追い続けてから暫くして足跡がいきなり途絶えた。
消した、という訳では恐らく無い筈。あのピエロは空中を浮かぶ事も出来たのだからここで浮き上がったのだろう。
ここまで痕跡を残しておきながら、そんな事をしたという事は間違いなく後から追ってきた者を嵌める為というのに思い至りライラットは注意深く辺りに気を配った。
だが、こちらが探し当てる前にパプキンの方から姿を現した。
「モキキキキ♪待ってた、待ってた、待ってたぜ~。さぁ、オイラと散々に遊び散らかしちゃおうぜ」
「良いのか、鬼ごっこなのだろ?自分から鬼の前に出てくるのは失策じゃないのか」
「確かに……その通りかもしれねーが、ただ逃げ回ってるだけってのもつまらねーと思ってな。こうして敢えて姿を見せて、ギリギリの攻防戦を楽しむのも一興だろ?」
「そうか、だがすぐに後悔する事になるぞっ」
私は戦斧を構えて一直線に向かっていく。
鬼ごっこというルールだが、そんな遊びにまともに付き合う気など無い。最初から殺るつもりで私は戦斧を振るった。
「ふんっ!」
「おっとぉ」
上段から振りかぶった一撃は苦もなくよけられたが、慌てる事なく横薙ぎの斬撃にへと派生させる。私の武器は重量級だがそうとは思わせない速さで畳み掛けるように刃を振っていく。
伊達にB級の冒険者はやっていない。
普通の剣のように私は戦斧を自在な動きで扱えるんだ。
だが、そんな必殺の一撃もなかなか当たらずに焦れた思いを抱く。
何せ、相手は私の腹ぐらいまでしかない背丈だ。ウルフのように四つ足の魔物だったら戦った事もあるのだが、それとは勝手が違って思うように狙いを定められない。
それに奴は羽のようにふわふわと浮かんだりもして、これがまた狙いを外される事に繋がった。
しかし、私の攻撃をここまでかわしてるのに奴の方から仕掛けてくる気配が無い。鬼ごっこという体裁を守って直接的な接触を控えてるにしても、魔法による攻撃ならば問題ない筈。
やる隙も無いほど追い詰められてるというのは透けて見える余裕ぶりから無い。となると、単に私の事を侮ってるという線か?
腹が立つがそれはそれで都合も良い。侮ってるという事は油断や慢心というのに繋がる。そこを狙えば十分に勝機はある。
私は愚直に斧を振ってるように見せかけて、淡々と隙を窺った。
「モキキキキ♪さっきから一生懸命にやってるけどよぉ、掠りもしてねーぜ?そんなへなちょこの腕前でも冒険者ってのはやれんのかぁ?それとも単におめーが落ちこぼれなだけだったりして~♪」
安い挑発だ。適当な事を言って冷静さを欠かせようという魂胆だろう。
私が何も答えずにいると、むきになったのか奴が色々と煽る台詞を言ってくる。
かわしながらよく思い付くものだ。そう感心してると、挑発に気を入れすぎて奴の姿勢が一瞬だけ固まった。
「取ったっ!」
私は間髪入れずに、斧のひと振りを浴びせた。首を胴体と断ち切るように振るう。
「おぉっと、ざんね~んっ♪」
だが、寸でのところでかわされてしまった……が、そう動くのも予測してなかったと思うか?
私は足元の土を蹴りあげ、土砂が奴にかかるようにした。目潰しというやつだが、今の私たちがやってるのは公然の騎士がするような決闘なんかじゃない。
必要なら搦め手だってやってみせる。
「ぬわっ!?め、目がっ」
よし、これは予期してなかったようでまともに当たった。ふらついて目の辺りを手で覆ってる今が絶好のチャンスだ。
私は両手で戦斧を握り締め、真上から奴目掛けて振り下ろす。
「終わりだっ!」
よける素振りが無かったから、これで分身だろうと本体だろうと討ち取れる筈と私は思っていた。
振り下ろした刃が頭に直撃するというタイミング。その時に奴が覆っていた手をどけて、こっちに向けて嘲笑うような顔を見せた。
まさか何か罠を張っていたのかと感じたが、振り下ろす斧の勢いはもう止められなかった。
ピエロの頭に戦斧がめり込む……だが叩き斬ったというより柔らかい物にぶつけたような感触で、奴の頭がグニャリと歪に歪んだ後。
ボンッ!
白煙と共に破裂して、周りに煙幕のように拡がった。
「うわっ!?くっ、げほげほっ……め、目眩ましのつもりかっ?」
幾らか吸い込んでしまったが、見た目どおり煙幕のようで咳き込みこそしたが特に体に異常は無さそうだ。
しかし、このままだとこの隙に逃げられてしまう。
「なら……吹き飛ばすまでっ、はぁっ!」
気合いを入れ、私は戦斧を地面に力強く叩きつける。地面に深い切れ込みを入れると共に衝撃を飛ばして煙幕を吹き飛ばす。
これで視界は確保できたが奴はどこにいる?
「こっちだよ~ん♪」
探すまでもなく奴の方から居場所を暴露してきた。振り向いた先に空中を浮遊している奴が確認できた。やはりというか、さっきのは分身か何かだったようで奴には傷のひとつも無かった。
こいつは偽物なのか、それとも本物なのか見た目では判別がつかないがとにかく倒してみない事には分からない。
「目を眩ました割に隠れずにいるとは良い度胸をしているな、だが次に同じ手を使っても通用とは思うなにゃ…………んっ?」
最後に猫が鳴くみたいな変な語尾が口をついて出てしまった。付けようと思って発した訳じゃないのは私自身がよく分かってる。
となると村人と同じ呪いを掛けられてしまったか。まさかさっきの煙幕はその為のものだったか。口を開いたら嫌でも付いてしまう。
「モキキキキ♪」
「ご機嫌なようだが、こんな妙な口癖を強制させたところで私は動じないにゃ。お前を倒すまでの辛抱だと思えば苦にもならないからにゃ」
苦にはならないが、いまいち気が引き締まらないな。それに私みたいなゴツい女がにゃんにゃんと言ってるとこは他人には見られたくないところだ。
特にレヴィには絶対に見せたくない。あいつの事だから、ここぞとばかりにからかって笑い飛ばしてくるだろうからな。
「行くにゃっ!」
私は気を取り直して、パプキンにへと斬りかかった。
すると、奴が何か手に持つのが見える。
今まで武器らしい物は無かった筈だが、私と斬り結ぶつもりか?
だが、武器持ちになったからと言って私が遅れをとるものか。
「はぁぁぁっ!」
戦斧を斜めに構えて袈裟斬りをしようとした刹那、奴が手にした長い棒のようなのをその場で勢いよく振った。
その動きを目で追っていたら……
「にゃにゃぁんっ♪…………はっ!?」
気づくと戦斧を手放して、奴が持っている棒にじゃれるように手を当てている自分に気が付く。
ちょっと待て。いま私はこいつに斬りかかろうとしていた筈だぞ。
何でこんなアホな真似をしてるんだ。
「くっ、何かしたなお前っ……にゃ、にゃにゃっ、にゃにゃあっ!」
取りあえず距離を取ろうとしたのに、私は目の前でブンブン振られる棒に釘付けにされたようになってパシパシとじゃれる猫のような痴態を晒してしまった。
い、一体どうなってるんだこれはっ?まるで本当に猫のようになったみたいじゃないかっ。
「モキキキキ♪口調と見た目通りに猫そのものになっちまったなぁ」
「にゃあっ……な、何だと。見た目もとはどういう事にゃ」
「知りたいか?……なら頭と後ろを確認してみな」
頭と後ろ、だと?
私はまず頭に手をやってみた……何かふにふにした耳のようなのが付いてる感触を覚える。
次に後ろに視線を向ける……腰の辺りから、何か……猫の尻尾みたいなのが生えて左右にゆらゆらと揺れてるのが見えた。
つまり、これはっ……
「ね、猫の耳と尻尾が生えてきているにゃっ!?」
な、何て事なんだっ!まさか人に獣の耳と尻尾まで生やさせるような呪いまで出来ただなんて。
こんな姿を人に見られたら、もう死ぬしかないっ。自決した方が恥を晒さずに済むっ。
「モキキキキ♪なかなか笑える姿になったなぁ。見てるだけで吹き出してくるぜ、モキキキキ♪モキキキキ♪」
「こ、このっ……絶対に許さんぞ、お前っ!叩き潰してやる!」
「そうカッカしてんなよ~。ほ~れ、ほ~れ、オイラが遊んでやるぜ~」
「ふ、ふざけるなっ……うにゃ、にゃにゃにゃっ、にゃ~っ」
あぁ、ダメだっ。体が勝手に棒とじゃれあってしまうっ。自分の意思とは無関係に動いてどうにもならない。
「うにゃあっ……く、くそっ、こんな辱しめをよくもっ、もうお前は絶対にぶっ飛ばしてやるにゃっ!」
「だから怒んなって~。これでも嗅いでリラックスしろよぉ」
「何っ……ふ、ふにゃあっ?な、何にゃこれはぁ……あ、頭がくらくらとぉ……」
粉のようなのを嗅がされ、途端に酒を何杯も飲んだかのように頭が回らなくなり始めた。
これは……マタタビ、という奴かぁ……?
「にゃ、にゃんのこれしきぃ……わ、わらひを見くびるにゃよぉ……ぜっ、絶対にぃ、ぶっ飛ばしてやるかりゃ、かくごすろにゃぁぁぁぁ……」
い、いかん、呂律も回らなくなってきて意識が朦朧と……し、しっかりするんだ私。こんな真似をされておめおめ逃がしてしまうだなんてこれ以上ない恥だぞっ。
だ、だが……あ、足元がふらついてまともに歩けないぃ……あ、あれ?奴はどこにいったぁ?
「うにゃ~、か、隠れるとは卑怯ものめぇ……逃がしはせんにゃあ……そ、そこだにゃっ、あぶあっ!?」
な、何か堅いものにぶつかってしまった……あ、ま、不味い、意識が……昏倒して、きて…………ふにゃあっ……。
どしゃっ
……マタタビで酔ってる中、木に向かって突進してしまったライラットは額を強かに幹にぶつけてしまい、それで余計に酔いが回ってしまった彼女は意識が底に沈んでしまった。
それを見ていたパプキンの分身は腹が捩れる程に大笑いした。
「モーーーキッキッキッキッキッキ♪最高、最高っ、村人を眺めてるより最高に面白い見せ物になったぜぇ……この調子で残りの二人もおちょくり回してやるっ、モキキキキ♪」
高笑いしながら、分身は溶けるように消えたのだった。
ライラット、萌え化しちゃった回でした。