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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第ニ章【イタズラ騒動とケンタウルス娘】
34/92

呪われた?村

呪い……みたいならしきものが掛けられてしまった村に到着したレヴィたちは……。



街道を伝っていたレヴィたちは、現在は林に囲まれた道を歩いていた。



ある地点の分かれ道に立て看板があり、そこにはこんな文章が書かれていたのだ。



【ここから右、名産特産てんこ盛りのホルテン村。名物の可愛い踊り子のダンスもお楽しみ頂けます】



とまぁ、そういう事が書かれていたのだ。言葉の端々から何か胡散臭いものを感じたのだが、レヴィは迷わずに右に進んだのだ。

曰く「たまには美味いもんでも食いたいしな」とか言ってたが、本音は絶対踊り子の方だろうとライラットは当たりを付けていた。

十中八九そうに違いない。踊り子の女の子を誑かそうというのが目的なのだ。



しかし、止めようと思っても聞きゃあしないのは周知している。ならば一緒に着いていって、手出しをさせないように手綱を取るしかない。



「ふふふ、可愛い踊り子ちゃんかぁ……久しぶりにそっちの方も味見しちゃおうかな♪」



……ここにもひとりいた。男も女もオッケーな節操なしが。取りあえず、一秒たりとも目を離させてはダメというのを再確認した。




~ホルテン村~




林道を暫く歩くと、目的の村にへと到着した一行。見た感じはまぁ……どこにでも見かけるだろう外観と景色のありふれた村である。ただ、村人にやけに活気が無く静かなものだった。

あんな看板があったものなので、てっきり賑わってるものだろうと思ってたらしいレヴィはお気に召さなかったようで仏頂面である。


「ちっ……あんな看板あったくせに寂れた印象しかねーじゃねーか」

「そういう事は言うんじゃない、村人に失礼だろ」

「しかし……道行く村人の顔が揃って沈んでるのは何か気になるね」


どの村人も、ドヨーンと沈んだ表情で生き生きとした感じがしていない。何か村ぐるみのトラブルでもあったのかと思い、エストーラは近くにいた中年の村人に声を掛けてみた。



「失礼、私たちは流れ者の冒険者なのだけれどこの村の様子はどうした事なんだい?」

「ちょめりっすっ!」


中年の村人はおかしな掛け声を出したと思うと、親指と小指だけを伸ばした手をくるくるさせた。

あまりにも奇妙すぎる返答?にエストーラはもちろんのこと、後ろにいたレヴィたちも呆気に取られて微妙な空気になった。


「……えーと、それはこの村独特の挨拶なのかい?」

「あぁ……いえそんなものではありませんが、受け答えする時に最初はどうしてもこんな真似をしなければならないのです……冒険者と仰られましたが、それは後ろの方々もそうなので?」

「ああ、そうだとも」


そう言うと、中年の村人は感極まった様子で手を取った。


「ちょめりっすっ!おお、それはありがたいっ。冒険者の方でしたら解決なさってくださるかもしれませんっ、会って早々に何ですがひとつお願い致しますっ!」

「……それは私たちに依頼クエストを頼みたい、という事で良いのかな?」


基本、冒険者の受ける依頼クエストはギルドで正式に受注されたものとなっている。口頭で請け持つというのはトラブルの種になりやすいので、まずは近場のギルドに通すのが筋なのだ。

口頭依頼をやった場合、ペナルティが課せられる訳ではないがその件にはギルドは一切関与しないので全ては自己責任という形になる。



「ちょめりっすっ!はいっ、本来ならギルドに届けるのが先なのは十分に分かっておりますが……訳あって、ここに住んでいる者たちは村の外に出る事が出来ないでいるのです。話だけでも聞いて戴けませんかっ?」



エストーラは振り返って、レヴィに目配せを送ってどうするかという意思表示を伝えた。レヴィはただの寒村であったなら、迷わずに引き返してただろうが村人に懇願されてるのにそれを突っぱねるような真似をするのは不味かろうという判断を出して話だけでも聞いてやろうと頷きで答えを返した。




「分かりました、では話だけでも伺いましょう」





それから一行は中年の村人に付いていき、村長代理という男の家にへとやって来た。



「どうも、臨時で村長代理を務めてますヤクートと言うでガス。早速ですが、この村で起こっている事を話させていただきマウス」

「……その前にそのおかしな語尾はどうにかなりませんか?緊張感に欠けるんですけど」


対面に座ってるレヴィがそう言うのも仕方がない。最初の挨拶の時からであるが、ヤクートが話す度に妙な語尾が付いてそれもコロコロと変わる為だ。

正直に言うと、気が抜けて仕方がない。


「自分の意思で言ってる訳ではございませんでヤンス……こんなおかしな言葉遣いなのも、あの魔物のせいなんでゴザル」

「魔物?呪いでも掛けられたというのか」

「はい……あれは今から四日は前だった時でありんした」




ヤクートの語るところによると、ある日突然にそいつは現れたそうだ…………。




『モッキッキッキッキッキ♪ハローハローごきげんよう、馬車馬のように働くしかない農民諸君っ。オイラは知る人ぞ知り、自他共に認める性悪悪魔のパプキン様だっ!』



三頭身のピエロのようなそいつは、村中央の広場に現れて村全体に聞こえるような大声でそう言った。その声を聞いて何事かと集まってきた村人たちを宙に浮かびながら見下ろしてニタニタと薄笑った。



『今日本日からより~、この村はオイラの玩具箱となったっ!従って、お前らもオイラのお人形ちゃんって訳だ。退屈な日常をオイラが面白可笑しく変えてやるから楽しみにしてな~~、モッキッキッキッキッキ♪』



それだけ言って煙のように消え去った。突然の事で村人たちは顔を見合わせていたが、それから一日が経っても特に何も起こらなかった為に村長らは騒ぐだけで実害は無い奴だと判断したのだが、異変はその後から起こり始めたのだ。



意識してないのにおかしな語尾が付いてしまうだとか、他人への挨拶が妙ちきりんな言葉になったり、決まった時間になると意思とは無関係に変な躍りを踊ってしまうだのという、ある種しょーもない事ばかりだがそんな異変が起きたのだ。



死人や怪我人が出たという訳ではないものの、対人関係に甚だしい障害が生まれてしまっており、友人知人に変なところは見せたくないというので引きこもってしまった村人や付き合いを極端に減らす村人も出る始末。

流石にこれは看過できず、村長自らが近隣のギルドに依頼クエストを頼みに行こうとしたのだがそこで更なる呪いが降り掛かった。



「村から出た途端……村長の身に、恐ろしい出来事が起こってしまったのでゴザンス」



重々しい雰囲気にライラットが息を呑む。まさか村から出ようとすれば死ぬという呪いがあったのかと最悪の事態を予感して身構える。



「その恐ろしい出来事というのは何なんですか?」

「村長のっ……村長のっ!」



歯を食い縛りながらヤクートは嗚咽混じりに叫んだ。



「村長のっ……髪の毛からすね毛までという毛という毛が全て綺麗さっぱりっ、抜け落ちてしまったのですペン!」



思わず全員がスベりかけた。



命に関わる事でも起きたのかと思いきや、要するにハゲになってしまったというものだったのだから脱力するのも分かる。

とは言え、昨日までフサフサだった頭髪が村から一歩出た瞬間に全て抜け落ちてしまったとあらばそのショックは大変なものだろう。


お陰で、村長はハゲになったショックで只今ベッドに絶賛寝込み中であるそうだった。


「それであなたが代理になってると……」

「はい。村の存亡に関わる事態だったならば、髪の毛の有無に拘る事もなく覚悟も決められるのですがミョン……現時点では変な語尾が付いたり、変な躍りを踊ってしまうという事ぐらいしか起きてなく、日常生活を脅かされてるというレベルでもないのであ~る」


まぁ確かに呪いといってもこの程度だったなら、何とか我慢できる程度だろう。多少の支障は出てるが決定的という訳でもなく、寝食も出来るのだったら誰も自らハゲになろうというリスクを背負いたくないのが人情であった。


「それでも……はっきり言って精神的に疲れてる者もちらほらと出始めておりまして、気づけば人前では黙りを決め込んで無口で生活をしてる者の割合が増えてきてるのでおじゃる。村長代理として、この状態を座して見てるだけというのも心苦しく、いっその事禿げるリスクを覚悟して行こうかと思っていたところだったのですワン」

「その前に僕たちが来たという事ですね」

「はい……お願いします、どうかあのふざけたピエロを懲らしめて呪いを解いて貰えませんカッパのすけ」


頭を深々と下げてヤクートは頼み込み、レヴィは腕を組んで考える。そのパプキンという悪魔が掛けたらしい呪いは、内容自体は本当にしょーもないレベルであるがそれでも村人が困っているのは事実である。

状況が状況なので口頭依頼になってしまうが、ここで変に断ってしまったら冒険者としての経歴に傷も付きかねないしリスクの方が高いと判断する。


「分かりました、僕たちで出来うる事ならば尽力してみせます」

「あ、ありがとうございますピョン」


引き受けた事に隣にいるライラットは少なからず驚いていた。現金な性格をしてる面も見たので、てっきり上手く理由を付けて退散するのかと思ってたからだ。

打算的な事で決めたに過ぎないが、それでも感心していた。



「それでそのパプキンという悪魔がどこにいるのか見当は付いてますか?」

「ああ、それでしたら居場所は判明してるのでゲス」



何でも村を西南に抜けた方向に建っている塔を根城にしてるらしい。元は戦争が起きた際の見張り塔であったらしいが、今は人も寄り付かずに放置されて久しいそうである。


「その塔から、あの悪魔の特徴的な笑い声が何度も聞こえるので恐らくはそこから村を眺めて我々の様を楽しんでいるようでざんす……ですが、場所が分かっていても強さが分からないとあっては誰も及び腰になって退治に行けなかったのでバウ」


まぁ、どちらにせよ村を出るからにはハゲ頭になるのも覚悟しなければならないので余計に行きたがらなかったのだが。



「そうですか、西南の方角にある塔ですね。では早速、これから出発致します」



こうして、村人を困らせる悪魔パプキンの討伐依頼が始まりを告げたのだった。



しかし、自らを悪魔と呼称したパプキンというピエロにレヴィは少し引っ掛かるものがあった。



(……けど、本物かどうか知らねーが悪魔なんて連中は召喚でもされねー限りはこの世に出てこれねー筈……誰かが喚び出したって事になんのか?)



まず、そいつが本物か自称してるだけなのかそれを確認する事が先決であった……。









時間は少し進み、場面はレヴィたちが目指す事になった見張り塔の最上部にへと移る。



敵の動向を調べる目的故に、大きな開口部の窓がある最上階で一体のピエロが菓子を片手に床に寝っ転がっていた。



「あ~あ~……こっから村人を見下ろしながら嘲笑ってやるのも飽きてきたな~。何か別の方法で村人どもをおちょくってやろうかね~」



退屈そうにしていたのはホルテン村の人々に傍迷惑な呪いを掛けた張本人のパプキンであった。

彼は村人たちに呪いを掛けた後、この塔に住み着いてそこから村の様子をちょくちょく覗き見してたのだ。往来でアホな躍りをやったり、村人同士の挨拶で変なポーズを決めてしまうのを見てこの上なく愉快に笑い転げて思う存分に見物していた。

特に村を出ようとした爺がツルッパゲになった瞬間など、抱腹絶倒ものの笑いを提供してくれたものだ。



しかし、どんなに面白かろうと飽きもやってくる。パプキンは何か新しい呪いでも掛けてやろうかと思って、村の方を眺めていると見慣れない人間がいる事に気が付いた。



「何だぁ、アイツらは?……村の人間じゃねぇなぁ。よそから来た奴か?」



見たところでは武器を持ってるようだ。もしや、あれが冒険者云々という輩だろうか……そこまで思い至ったパプキンはニヤ~とピエロの顔に意地悪い笑みを浮かべた。



「モッキッキッキッキッキ♪ちょうど良い、アイツらを次の遊び道具にしてやろうじゃんか。どうおちょくって、からかってやろうかね~?モキキッ、モキキッ、モキキキキキキキキキ♪」



ゲラゲラとひとしきり笑った後、パプキンは霧のようにその場から消え去った。






次回から、レヴィたちにイタズラ好きのパプキンからの洗礼が。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作楽しく読ませていただきました。 パプキンさん、早く逃げてー!! その連中にイタズラなんて仕掛けた日には、その日が命日になりますよ!?傍から見ればハゲになったり、語尾が変なことになった…
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