ガンマンが仲間入り
新章の開始です。
特に何の目的もなくウエストピークに向かったレヴィたちだったが、結果としては同時期に街を騒がせていたバンディットゴーストの一味を撃退し、そして新たなる仲間……というか愛人候補とでもいうかのクラウネ・エストーラが着いてくる事になった。
まぁエストーラの事に関しては、レヴィと本人の動機が不純過ぎたのでライラットが怒り心頭になって戦斧片手に追いかけ回す珍事は起きたが。
そんな事柄も挟みつつ、新たな同行者も加わった三人はウエストピークを後にしたのだった……。
「……良かったのか?一応は、あの街を拠点に活動していたんだろう」
ウエストピークから出立し、街道を歩く傍らにライラットはエストーラにそう聞いた。
「なに、別に構わないさ。地元という訳じゃないし、それにあそこに来てから1ヶ月も経ってないしね」
「じゃあ、お前もフリーの冒険者だったのか?」
「そうとも。新たな出会いを求めて、あちらこちらを回っていたのさ♪」
プレイボーイならぬプレイガールにライラットは呆れ顔だ。この奔放なところはレヴィに似通っている。
「しかし、レヴィくんに出会えれたのは運命の僥倖と言っても良いだろう。今まででも彼ほどとまでは言わないが可愛い子たちとよろしくやってきたが、内に野生の本性を持っていたのはレヴィくんだけだったからね……あぁ、今も鮮明に思い出されるよ。荒々しい動きでバックから私を犯っ」
「ストップだっ!それ以上、生々しい事は言うんじゃない」
レヴィとの情事を熱っぽく話そうとしたエストーラに待ったを掛ける。今ここにいるのは三人だけとはいえ、白昼からそんな猥談を大っぴらに話させるのは色々と不味かろうと思った故だ。
「何だよ、喋らせても良いじゃねーか。俺との貴重な体験談なんだぜ?」
「そんな体験談なぞ口に出させなくて良い」
締まりのない笑顔でレヴィが宣うが、あれはライラットの反応を楽しんでる顔なのは言うまでもない。
今でもまだそういう事に対する羞恥心が捨てきれてないのだが、ほんの少し前まで恋人との付き合いも無かったから仕方ない事である。
「それはそうと……エストーラ、その着崩した格好は何なんだ?傍目からだと、はしたなく写るぞ」
ライラットがそう苦言を溢す。エストーラは革のジャケットを羽織ってるのだが、前の部分をだいぶ開けていたのだ。
ビキニブラを付けてるとこまで開けて胸の谷間が見え、彼女の豊満さが否応なしにでも分かる程だ。はっきり言うと男から不躾な視線が集中する淫らな姿である。
「今までは普通にしていただろう」
「これかい?いやなに、レヴィくんのご要望に答えたまでさ」
「……レヴィ、要望というのは何なんだ?」
「せっかく、良いもん持ってるからよ。目の保養も兼ねてそうしてくれって頼んだだけだぜ。何か問題でもあんのかよ?」
「大有りに決まってるだろうがっ!こんな胸を晒す形で街中に入ったら、嫌でも人目が集まってしまうだろっ!」
「んなもん気にしなきゃいーんだよ」
「そうそう。そこらの男にガン見されたって私は平気だしね……寧ろ、欲望に満ちた邪な視線に晒されるかと思ったら……ドキドキしてくるんだよね♪」
ダメだ、こいつらは。まごう事なき変態だ。性欲魔神に加えて露出狂まで着いてきてしまった。自分のメンタル値はこの先、ズタボロのクソッカスになるだろう……。
いやここで挫けている場合じゃない。
この男に付き従う時点で覚悟は決めていた筈だ。考えてみれば、エストーラはレヴィにぞっこんの様であるし、彼女にも性欲のガス抜きを手伝わせれば他人に手を出すような真似は少なくなるだろう。
ここは性に頓着の無いところは好意的に受けとるべきなのだ。
そう結論付けて、ライラットは強引に納得しようとした。そうでもしないと、本気で精神がストレスでどうにかなってしまいそうだからだ。
「で?……私たちは次はどこに向かってるんだ」
「あー、そうだなぁ……別に当てもねーけど、歩いてるだけってのはつまらねーしなぁ」
やはりというか、特に何の計画も立てずにいたようだ。ライラットもこの辺りの地理には詳しくないので、具体的な行き先は決められない。
ただ、周りに第三者がいないこの状況だったら色々と聞きやすかった。
何が聞きやすいかというと、昨夜の事についてだ。
「そうだ、良い機会だから喋って貰うぞ」
「何をだよ?」
「昨日のあの立ち回りだ。私の前では見せてこなかったが、白兵戦に慣れた身のこなしに体術。それに極めつけはあの魔力付与だ。なぜ私には何も言わずに黙っていたんだ」
「言う必要も無えかと思っただけだよ。俺の側にいりゃあ、遅かれ早かれ知る事になっただろーし……現にそうなっただろ?」
確かにそうなったが、逆に言えば機会が来なかったらずっと知らないままだった。暗に信用されてないと言われたように感じて、唇を噛んだが元より信頼関係を築くのなんて二の次だから別に良いと割りきる。
「じゃあ、あの技術は何時どこで身に付けた?お前は確か15歳だったろう。だが昨日の戦闘は明らかに熟練者のそれだった。どういう事なんだ」
「私もちょっと気になるね……度量も敵に対する気迫もベテラン冒険者の風格だったけれど、その齢には似つかわしくなかったし。どういう経験を詰んできたんだい?」
エストーラも半ば疑問に思ってたようだ。昨日のバンディット一味との戦いにレヴィが見せた戦闘力の片鱗。それは外見から予想しかねるものだった。
少女のように細く華奢な体躯からは想像できない速く重い拳や蹴りの連打。宙を舞うように動き回る機動力。
そして自らの体に魔力を付与させて炎を起こして戦う姿。
どれを取っても、B級に比肩……いや或いは上回ってる可能性もあるポテンシャルだ。特に魔力付与を自らに掛けられる者なんて生まれて初めて見た。
レヴィの事を、単なる性格が腹黒くて節操無い女食いと見ていたライラットにとってはその秘めていた実力に少なからずショックを覚えた程だ。
「……まぁ色々あって自然と身に付いたってだけだ」
「おいっ、そんなぼかすような答えで納得すると思ってるのか」
ところが、レヴィは酷く曖昧な返事でお茶を濁そうとしてきた。無論そんな答えで満足する筈もなく、ライラットが問い質そうとしたら邪見を含んだ目で振り返る。
「勘違いしてんなよ。お前はあくまで俺の愛人ってだけだ、それ以上でもそれ以下でもねぇ。気安く、俺の中に踏み入れる権利なんざねーんだよ」
「っ……!」
明確に拒否されてしまった。そこからはもう話は終わったとばかりに、レヴィはさっさと行ってしまう。
やはり、あいつにとって自分は愛人という枠組みに収められてるだけなんだというのを痛感してしまった。
「ふむ、女性関係と比べたら自身のプライベートはなかなかガードが固いようだね。まぁその内に話してくれるのを気長に待とうじゃないか」
「……そうだな」
気の無い返事をしながらライラットは、先を行くレヴィの背中を見る。
(あいつは……何を見てどこに向かうつもりなんだろう)
今まで冒険者稼業を一途にやってきた彼女は相方として組む人間がいたら、どういう気質をしてるのかの判別は上手い方だと思っていた。
だが、レヴィがどういう考えで行動してるのかその内面を推し量れないでいる。単に人を欺き、本性を知らない女を引っ掻ける為だけに動いてるのか、はたまた自分には考えもつかない思考形式で動いてるのか。
それだけはいくら考えてみても分からなかった。