自分に正直な男
短めですが、これでバンディット・ゴーストの話は締めとします。次回からはサイドストーリーなどの話をしていく予定です。
帰ってきてみれば、明らかにエストーラを抱いたであろうと予測できる格好のレヴィを見たライラットは怒った。そりゃあもう烈火の如く怒った。
自分に依頼報告などを押し付けて、その隙に別の女性と良いことしてただなんてあまりにも傍若無人すぎだ。
「この恥知らずっ!性欲の権化っ、女ったらし馬鹿っ!一晩いなかっただけで女を連れ込むだなんて信じられんぞっ!」
「そこまで言うかよ。俺がこういう奴だってのは十分に分かってんだろ?」
「だとしてもっ、だとしてもだっ!」
悪びれない態度がますます怒りを増長させる。しかも抱いた相手がエストーラだったから尚更だった。
「その辺にしといたらどうだい?レヴィくんは別に君の恋人って訳じゃないのだろう、だったら女性のひとりやふたりや10人ばかしと寝ていても構わないと思うがね」
「おお、良いこと言ってくれんじゃねーかエストーラ」
「ふふ、お礼なら言葉よりも体の方が嬉しいよ。昨夜みたいに激しくさ……♡」
「お前は引っ込んでろ、キザったらしっ!」
横から擁護するような事を言ってきて、怒鳴り付けるライラット。
どうもこの女はレヴィの本性を知って尚、好印象を抱いてるようで見るからにデレデレとした態度だった。それがまたレヴィを調子に乗らせてるように見えて癇癪が起こってしまう。
「くっ……こんな事になってしまうのだったら疲労と眠気を推してでも帰ってくるべきだった……」
悔やむものの後悔先に立たず。いくら悔やんだところで時間は巻き戻ってくれない。それから暫くガミガミと説教をかましてみても、気の無い返事とのらくらした態度で反省の色は皆無であり、最後にはライラットも諦めてしまった。
「はぁ……こういう事をさせない為に地元から離れて、わざわざ一緒に着いてきたというのに……」
こうなったら片時も離れる事は許されない。今後はより一層にレヴィの周辺状況を事細かく注視しておかねばと気持ちを新たに引き締めた。
「ちょっと良いかな?」
「……何か用でもあるのか」
声を掛けてきたエストーラに不機嫌を隠さずに返したら驚く事を言ってきた。
「いや、君らに同行しようと思ってね。正確にはレヴィくんにだけど」
「は、はぁっ!?一体、何を言い出してるっ」
「そりゃあ君……レヴィくんに惚れちゃったからに決まってるからじゃないか。容姿は私の好みにぴったり、可愛らしい見た目に反してワイルドな野生を秘めてるところも素敵だし……それに精力も驚く程にタフでもう病み付きになってしまったんだよ♡」
悩ましげな表情で体をくねくねさせるエストーラを見て確信してしまった。
この女……身も心も堕とされてしまってると。
そりゃあ確かに華奢な見た目に合わず、夜の営みは激しい上に長時間も出来る精力の持ち主なのは身をもって知ってる事だが……と考えたところで生々しい記憶も甦ってしまって頭を振って打ち消した。
「い、良いかっ?こいつは自分の見た目を利用して近付いてきた女を節操なしに喰うような奴なんだぞ、そんな奴に惚れたところで愛情なんてっ……」
「別に構わないとも。側にいられるだけで私は幸せだし。セフレという関係に落ち着いても良いとも」
レヴィの本性を語って諦めさせようとしたがエストーラは気にもしてなかった。彼女も性に奔放なせいか知らないが説得は駄目だった。これは何が何でも着いてくるつもり満々だ。
「別に構わねーぜ。着いてくるのがひとりからふたりに増えてもよ」
「な、何だとっ?」
「流石はレヴィくんだ、心が広いね……そんな器が大きいところも素敵だよ♡」
当のレヴィがあっさりと許可を出した事でライラットは驚く。自分が着いていくと言った時にはあからさまに嫌そうな態度で条件付きで渋々と決めたというのに、この差は何なんだと機嫌が悪くなった。
「おい、レヴィ……私の時と比べたら随分とあっさり決めたな。そんなにこいつの事が気に入ったのか?」
「何だよ、焼きもちでも焼いてんのか?見た目に比べて純情だよなぁ、そういうところはよ」
「ふざけるなっ!」
ニヤニヤした笑顔が無性に気に食わなくて怒鳴り付ける。本当に人を苛つかせる性格をしている。
「まぁ、真面目に答えてやるとだな。結構、有用そうだから決めたんだよ」
「有用?」
「拳銃使いだから後方からの援護射撃役には持ってこいだろ?こいつ自身、場馴れもしてるし、頭の回転も早えーしな。有能な奴が着いてきてくれんなら色々と楽が出来るってもんだろ」
「……本音は?」
それだけが理由なのか信じきれず、カマを掛けるつもりで聞いてみた。
「ぶっちゃけ抱き心地が良かったんだわ。お前も悪かねーけど、たまには柔らけー女も抱いてみてーし」
「もうレヴィくんたら……そんなに褒めないでくれたまえよ♪」
「……………………(プチッ)」
案の定の理由だった。ライラットの中で堪忍袋の尾がぶち切れ、愛用の戦斧を握り締める。
「いっぺん死ねっ、このクソ男ーーーーーっ!!」
それから滅茶苦茶に振られる斧だったが、悉くがよけられて、おまけに室内を荒らしてしまった弁償は彼女が払うというオチがついたのだった。
……どことも知れぬ山中を、とある三人組が人目を気にしながら歩いていた。
その三人とはワンズマンにアンジェリカにフィーロである。ウエストピークから逃げおおせた三人は足が付かぬように、人気が少ない難所を行きながら逃避行をしていた。
「うえ~ん、兄貴ごべんなざいでず~っ……あだしが余計な事をしぢゃっだがら……えぐえぐっ」
「私も重ね重ね謝罪致します」
「いい加減に泣き止めフィーロ……結果は褒められたもんじゃねーが、お前らが来てくれなけりゃあ、俺は今頃は牢屋の中にいたかもしれねーんだからよ。それに収穫はゼロとはいかなったからそれで良しとしよう」
自分のせいで稼ぎも減ったし迷惑を掛けてしまったと泣きじゃくるフィーロを宥める。ゴタゴタの中で何とか回収できた盗品は当初の半分にも満たない量になってしまったがそれでも金は金である。
『あの人』からの叱責は免れないだろうが、その責はリーダーである自分が背負おう。
「とにかく、平和ボケした国だと思ってて舐めてたのがいけなかった。次からはそこら辺も念頭に入れて動かねーとな」
「そうですね、アジトに戻ったら報告しておきましょう……伯爵に」
三人組のお頭は伯爵なる人でした。この人物もその内に登場予定です。