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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第一章【旅は道連れ、世に情けなし】
29/92

決着の刻

長らくお待たせしました……夜勤続きに休日も一日飛びという変則勤務のせいでモチベが、モチベがぁ……。



ライラットは痛みに軋む体を動かしてフィーロと対峙していた。



落ちかけていたレヴィを見た時は思わず取り乱しかけたが、軽業師のような身動きで屋根の上に戻っていった時はその身体能力に驚いたあまりに逆に冷静になった。


そこから先は夜の闇もあって見えにくかったが、何か炎のような灯りが目視できたり馴染み無い銃の発砲音がハッキリ聞こえたりしてたので戦闘は継続されてそうなのは分かった。


なら、自分がすべき事は決まっている。この剛力のスコップ使いを速やかに無力化させる事だ。



「そ、そこを退くですっ、兄貴を助けに行くですからっ」

「お断りだ。加勢しに行こうという奴を行かせる訳が無いだろう、もしどうしてもと言うなら私を踏み越えて行くんだな」

「だ、だったら……もう一度、喰らえですっ!」


ワンズマンを助けに行かなければと焦るフィーロが仕掛けてきたが、相変わらずの大振りの攻撃は悉くが見切られる。とは言え、見切ってばかりではどうにもならない。空ぶった一瞬にライラットが攻勢に出る。


「はぁっ!」


鳩尾に渾身のパンチを繰り出す。ライラットの筋力であれば男でもまともに喰らえば悶絶して立ってもいられない威力になる筈だったが。


「あいたっ!?や、やったですねっ、お返しです!」

「うわっ!」


何と確かに土手っ腹に命中したのに、僅かに顔をしかめた程度ですぐさまに反撃をしてきてライラットは危うくのところでよけた。

振られたスコップの風圧にたたらを踏みながら耐え、それから何回もフィーロを殴り付けたが一向に効いてない様子である。


見た感じでは自分と違って鍛え込まれた筋肉の鎧なども見受けられないのに、あの細い体で何と頑強な肉体をしているのだろうか。

攻撃はかわせているがこれでは埒があかない。

打撃が無理なら斬撃はどうかと一瞬思い浮かんだが、あくまでも捕まえるのが目的であるから血みどろな真似はあまりしたくない。


「なら……こいつはどうだっ!」


大きく振りかぶった時にライラットが横殴りするように動いたが、フィーロも流石に無闇に殴られてばかりではなく、ここに至ってようやく回避を選んだ。後ろへ跳んでライラットのスイングパンチを寸でのところでかわした。

掠りはしたものの、よけれた事にフィーロが得意気になる。


「ふ、ふっふ~ん、どうですか?あたしだって、ボコボコ殴られてばかりじゃないれれす……は、はりぇ?なんか景色がグラッてっ……」


よけれた筈なのになぜか足元が覚束なくなってきて、終いにはバランスを崩して倒れてしまった。それから起き上がってみても、頭がぐらぐらと揺れるみたいになって視界が定まらなくなってくる。


「やはり体は頑丈だが、中身まではそうじゃないようだな」

「ふ、ふわえぇぇぇ……」


先程のは脳を揺らさせる為のもので掠る程度に当たるだけで充分だったのだ。内蔵や脳まで鍛えるなんて真似は生物には不可能だから、やたら丈夫なフィーロ相手には脳震盪などで無力化させる方法が最適であった。



が、フラフラとなった状態になってもフィーロは諦めず最後の意地とばかりにスコップ片手に逆襲しようとした。


「ま、まだ、終わっちゃあないです~っ!……わ、わたたっ?ふぎゃあっ!?」


しかし、スコップが届く前に足をもつれさせて転んでしまい、盛大に後頭部を打ち付けて目を回して気絶してしまった。

手間は省けたが、失笑を禁じ得ないドジっぷりに脱力してしまう。


「……やれやれだな、取りあえず手足を縛っておこう」


持参していた縄で拘束を施していると、上から金属を思いっきり殴ったような音がして頭を上げると同時に誰かが降ってきた。荒っぽい着地をしたそれは酷く消耗してるように息を荒げている。

すかさず戦斧を構えて落ちた者を見ると、レヴィと戦っていたワンズマンであった。


籠手には凹みや焦げ跡が付き、本人も煤汚れた姿になっている。そうしない内にレヴィも屋根の上から飛び降りてきて軽やかに着地したのだが、燃え盛る炎を手足に纏っている。

ライラットはすぐにそれが物理的でなく、魔力によって発生している炎だと気付くもそんな真似が出来るなんて知りもしなかったので驚いていた。


「ぐぐっ……」

「どうするよリーダーさん?お仲間ふたりは捕縛されちまったぜ。これ以上の抵抗は無駄な足掻きかと思うけどよ……潔く捕まったらどうなんだ?」

「そうはっ、いかねーんだよっ!」


諦めきれないワンズマンは果敢に立ち向かったが、ダメージが蓄積している体は動きが鈍くなってきていた。

鉤爪の攻撃は軽くかわされ、腹部に炎を纏わせたレヴィの拳がぶち当たる。


「ぐぉっ……!」


熱と痛みで苦悶の表情になったワンズマンをレヴィが押さえ付ける。地面に引き倒して即座に脇固めを決めた。もう抵抗出来ない状態にされたワンズマンが苦渋の顔になる。


「くそっ……」

「おっし、手こずったけどこれで完了だな。おい、ボケッとしてないで縄か何か寄越せよ」

「相変わらず、偉そうに……私だってそいつの仲間を捕縛してたんだし、何度も言ってるが私はお前の小間使いなんかじゃないぞ」

「俺の愛人なんだから雑用なんかもするもんだろ。うだうだ言ってねーでさっさと動け」

「ほ、ほんとにお前って奴はっ……」


上から目線の物言いが気に入らず物申してやろうとしたら上から誰かが降りてきた。



「待ちたまえ。何か聞き捨てならない言葉が聞こえたのだがね」

「やっぱり……お前だったのか。銃声がしたからもしやとは思ってたが」


肩にアンジェリカを担いだままで降り立ったエストーラ。伊達にB級の冒険者はやっておらず、銃をメインに扱っていても基礎身体能力は高いようだ。そんな彼女はアンジェリカを降ろすとエストーラに詰め寄ってきた。


「愛人だなんだと聞こえたのだが、まさか君みたいな筋肉女が彼と肉体関係を築いてるのかい?」

「えっ?い、いやそれはっ……聞き違いだろうっ」

「そうなのかい、レヴィくん?」

「いいや。もう何度か抱いてやってるし、立派な愛人だぜそいつは」

「いや、何をあっさりバラしているんだっ!」


誤魔化す気がゼロのレヴィに慌てふためくが、言ってしまったものは取り返しがつかない。


「ま、まさかただの相棒同士なんかじゃなく、そんな関係を結んでいただなんて……もしや、レヴィくんの何か弱味でも握って関係を迫ったのではないだろうね?もし、そうなら私は君に軽蔑するよ」

「そんな訳あるかっ!こいつが裏表が激しくて、女性関係がだらしないから側で監視するのと引き換えにだなっ……」

「おいっ、そんな話は後にして縄を寄越せってんだよ」


三人共に揉めだし、ワンズマンの拘束そっちのけで騒ぎ始める。当のワンズマンはこの隙に逃げれないかと身動ぎしてるが、目を離していてもレヴィは拘束してる手を緩めないでいて無理だった。

しかし、ここで捕まる訳にはいかない。


妹分の二人の身の安全、そして『あの人』の機嫌を損ねる訳にも。



「ん?」



脱出の思案をしていたワンズマンの目に複数の灯りが見えた。それと共に何人もの足音も聞こえ、騒いでいた三人もそれに気が付く。

視線の先には統一された鎧を着た集団がこちらに向かって怒涛の勢いで走ってきていた。


「あれは……領主お抱えの警備隊か?」


レヴィが呟いていると、警備隊の面々が鬼気迫った様子で近づき、その先頭には警備隊長のモルセトがいた。


「見つけましたっ、隊長!あの銃使いの冒険者も確認できますっ!」

「そうかっ、何としても逃がすな、総員突撃ーーーっ!」

「「「うぉーーーーーっ!」」」


「はっ?何だってんだおいっ」


何がどうなってるのか把握する間もなく、警備隊が雪崩れ込んできてすったもんだの大騒ぎとなった。



「観念しろっ、バンディットの回し者めっ!捕らえて洗いざらい吐かせてくれるっ!」

「誰が回し者なんだよっ、節穴かてめーらの目はっ!バンディットはここに縛ってる連中だっ!」

「そんな影武者で誤魔化せると思うなっ、そこの銃使いのスパイと一緒に取り調べてくれるっ!」

「おいこらっ、キザガンマンっ。これ絶対お前が何かしたからだろっ」

「いやー、ここに向かう前に通せんぼうをしてきたものだから、ちょっと捻ってあげただけなんだけどね」

「やっぱりか、このヤローっ!」

「と、とにかくこちらの話を聞いてくれっ。私たちはっ……!」



ライラットが取り成そうとするが、警備隊は気が立ってるのかろくに会話も出来ない状態。取り押さえようと群がる警備隊をキレたレヴィが殴り蹴り飛ばすわ、ライラットが逆に押さえ付けるわ、エストーラはひょいひょいとかわしていくわで収拾が付かなくなってくる。



そんな大騒ぎが収まる頃には、ワンズマンを含め縛り上げていたアンジェリカとフィーロも消え去るという大失態が起こってしまったのだった……。




その後、警備隊の半数と隊長のモルセトをぶちのめしたところで双方共に冷静さを取り戻し、領主のところにまで足を運んだレヴィたちは事の顛末を説明するに至ったが肝心のバンディット一味は逃げ去った後で追跡も不可能という有り様であった。


唯一の救いは現場に落ちていた盗品であろう金貨類の詰まった袋を回収できた事だが、中身の方はミニチュアサイズにまで縮んだ金貨の山々。

被害者に返還はもちろんするが、とてもそのままで使える物でもなく、かといって元に戻す方法も無くどん詰まりであった。

(尚、疑った挙げ句に勘違いからの誤認逮捕寸前までやらかしてしまったモルセトの責任感は半端なく、領主とレヴィたちに平身低頭の謝罪を何十回も繰り返したのは余談である)


それでも一応はバンディット一味から取り戻せた事であるし、領主からの依頼クエスト報酬は貰えたものの、領主側の不手際があったとはいえ取り逃がしてしまった事には変わらず報酬額は半分となってしまったのだった……。




「あーーーっ、腹立つなこんちくしょーっ!……あんだけ、働いたってのに報酬が半分だけとかふざけんなこのやろーっ……グビッ、グビッ」



一連の騒ぎの後、すっかり夜も更けた時間帯。泊まってる宿屋の一室でレヴィがベッドに寝転がりながら不貞腐れた顔でやけ酒を煽っていた。

あとちょっとで依頼クエスト完遂というところで邪魔が入ってしまった事に対する苛立ちは大きく、面倒な事務処理などをライラットに全て丸投げして早々に帰ってきたのである。

今頃、彼女は眠気に抗いながらギルドで詳細な報告をレポートにして纏めてる事だろう。

そんなライラットの事など知ったことじゃないとばかりに、つまみを食いながら行儀悪く酒瓶からラッパ飲みしている。



補足しておくと、この世界では成人の線引きは酷く曖昧なもので地方や国によっては飲酒は12歳からでもオーケーなんていうアバウト極まるものまである……文明が整った先進国では話は別であるが。

無論レヴィは公に飲むような事はせず、このように自分ひとりだけの時は遠慮なく飲んべえの面を見せている。


流石に酔いも回ってきたのか、顔が赤らんできたところで止めたがムカつきは収まってくれず次第に下腹部に悶々とした熱が溜まり始めた。


久々に肉弾戦をやった高揚もあってか、性欲が頭をもたげ始めてしまったがどう解消しようかで悩む。



「ライラットの奴はまだ暫く帰ってきそうにねーしな……かといって、今から適当な奴を探すのも疲れるしめんどいし……あー、くそっ、また苛々してきちまったぜっ。ほんとに余計な事をしてくれやがったな、あのクソ堅物警備野郎めっ」



グチグチと不平を呟いてると、扉をノックする音が聞こえた。



こんな時間に宿の人間が来たのか?考えづらい事だ。ならライラットだろうか?それなら律儀にノックなんてしない筈だし、まだ時間が掛かる筈である。


「……起きてるかな?私だ、エストーラだ。お邪魔でなかったら入室させて貰いたいんだが」


声の主はエストーラだった。どうするか悩んだレヴィだったがすぐに結論を出す。


「……どうぞ、鍵は開いてるぜ」


それからエストーラが入ってきた。足に包帯を巻いてるが、それ以外に目立った外傷も無い彼女はどこか艶のある顔をしている。


「いやぁ、災難だったね。報酬が減額されてしまうとは」

「その原因の一端はお前にあるんだけどな」

「あははは、流石に手厳しいね。まぁ実際にそうなんだから言い返せないんだけれど」

「そんで?わざわざ来たのはそんな事を言う為だけかよ」

「いや、不本意ながら君に損な真似をさせてしまったお詫びをしに来たんだよ」


お詫びと聞いて不機嫌ぎみだった顔が僅かに柔らかくなった。現金な性格もしてるので、詫びというのがつまり金という可能性もあると酔いが回ってる頭でも考えたのだ。


「詫びってのは具体的に何だ?まさかすみませんとかごめんないとか、薄っぺらい言葉尽くしで済ます気じゃねーだろな」

「もちろんそんなので済ます気は更々ないさ……これで…………詫びという事にしてくれないかな?」



意味ありげな流し目を送ったエストーラが極自然な動作で服を脱ぎ始めた。革ジャケット、ショートパンツを一思いに脱ぎ去って、ビキニブラと下着を露にする。引き締まりながらも出るところは出てるグラビアモデル体型をレヴィは目を逸らす事なく、上から下まで凝視していた。


「……見せるだけで終わらす気じゃねーよな?」


獰猛な笑みが浮かぶが、エストーラは当然といった風に返した。


「もちろんだとも。君が望むなら……遠慮なく抱いてくれても構わないよ」



熱っぽい吐息を漏らしながら答える彼女の目は情愛の色がくっきりと映っている。



最初は男らしからぬ可愛い容姿に目を惹かれて声を掛けたのだったが……今はそれに相反した野性的な魅力を出すレヴィにもうエストーラはぞっこんの状態であった。生まれて初めて、男性に抱かれたいと心から思ったのは彼が初である。


「それを聞いて安心したぜ……んじゃ、こっちに来いよ」


レヴィの誘いを受け取って、エストーラは豊満な胸を揺らしながらベッドに近付いた。手が届くところまで来た時にレヴィが手を掴んで引き倒すついでに唇を奪った。


「んんっ……!」


深く激しい口付けに、酒の匂いも合わさってエストーラの顔が朱に染まっていく。


口付けの間に態勢も変わって、ベッドに押し倒された格好になった。



「んっ……あっ……」

「へへ、キザな顔が蕩けてんのも悪くねーな……朝までたっぷり楽しもうぜ」

「ふふ……それは私も願ってる事だよ……お詫び印の身体をたっぷり味わってくれたまえ♪」




それから宣言通りに、朝までたっぷり可愛がられたのだった……。




報告が終わった後に、疲れからギルドで寝泊まりしてしまった朝帰りのライラットがベッドの上で身を寄せ合いながら眠る二人を見て金切り声の絶叫を上げたのはご愛敬である。





バンディットもとい、ワンズマンたちの動向は次の話にて描写します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作楽しく読ませていただきました!! バンディッド・ゴーストとの決着が一旦着きましたが、彼らとは今後様々な形で対決したり、もしかすると協力関係になってクエストに挑んでいくことになるかもし…
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