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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第一章【旅は道連れ、世に情けなし】
27/92

大乱戦!



いきなり現れた、恐らくはあのバンディットの仲間と思しき人物にライラットは即座に動いた。


何事も先手必勝が大切であるし、仲間をふん捕まえればあのリザードマンも大人しくなるだろうと目論んでもいたからだ。

こちらが近付くのを見たフィーロと呼ばれてた相手が、背負っていたスコップを抜いて剣のように構えた。さっきも叫んでいたようにあれが彼女の武器らしく、スコップをぶんぶん振り回しながら突撃してきた。


「喰らうがいいですよっ、とりゃあっ!」

「ふっ」

「あぁ、よけるなんてズルいですっ!そこは敢えて当たるべきなのですっ」

「当たると分かってるなら尚更よけるもんだろう」


振り下ろされたスコップをかわしたらそんな事を言ってくるフィーロに呆れる。攻撃をさけられてズル呼ばわりするなど戦闘を何だと思ってるのだろうか、登場した時から思ってたが頭が緩いのかもしれない。


「えいっ、えいっ、てりゃ、そりゃあっ!」


血気盛んにスコップの殴打を繰り返し、奮闘してるように見えるがライラットはもうフィーロの戦闘技術が非常に拙いものであると分かった。

型も何も無く、ただがむしゃらにスコップを振り回してるだけ。当たれば殺傷力はあるだろうが振る速度も俄然に速いものでなく、容易に見切れる程度だ。踏み込みもデタラメそのもの。長身で手足も長いからリーチこそ広いが、剣の素人がやたらめったらに振り回してるのと同じである。


ライラットは彼女の実力を著しく低く評価した。


(これは論外といっても良いな。取りあえずはスコップを弾かせたら、気絶でもさせておこう)


そう判断し、愛用してる戦斧で彼女のスコップの攻撃を受け流してから反撃に転じようとした。



横薙ぎに振ってきたスコップを刃で受けようとした刹那だった。ガァンッ!とぶつかる音が重く響き、柄を握っていた手だけでなく片腕全体に強い衝撃が走ってきて痺れるような感覚に陥る。


「ぐぅっ!?……な、何だこれはっ」


予想してたよりも遥かに重い一撃にライラットの体がぐらつく。それをチャンスと見たか、フィーロがスコップを大上段からまっすぐ振り下ろした。


頭上から迫り来るスコップに本能で危険を感じたライラットは、戦斧で受けずに身をよじってかわした。


体の横を通り過ぎたスコップはそのまま地面にへと向かい。



ズガンッ!



石畳の道に深い亀裂を入れてめり込んだ。スコップの先端部分が完全に埋没しており、尋常でない力が込められてたのは言うまでもなかった。ライラットの顔に冷や汗が流れる。


「むむ~、またよけられちゃったですっ。今度は命中させてやるですよっ!」


あどけない顔に喋り方だったが、ライラットは気を引き締めた。まぐれでも今のような攻撃が当たれば再起不能に陥る危険が大きいと察したのだ。

戦斧を構えて腰を落とし、さっきまでとは違う戦士の顔つきになる。


(さしあたって気を付けるのは、あの馬鹿力だな。あれだけともなると、鍔競り合いにでもなったら両腕を使って全力で踏ん張っても押し勝てるかどうか……まだ腕に痺れが残ってるしな)


戦闘に支障は無いが、スコップの一撃を受けた際の衝撃で片腕にはまだ痺れがあった。これだと下手に受け止めるのも受け流すのも難しい。

幸いだが相手の攻撃は大振りで速度も見切ってかわせる程度、回避自体は苦もなく行えるレベルだ。


(かわしつつ懐に接近して、一撃を入れて昏倒させる……それが最善だ)



頭の中で作戦を練りつつ、ライラットはフィーロとの本格的な戦闘に突入した。




レヴィの方は、いきなり出てきた新手に面食らっていたがそちらの方はライラットが相手する素振りを見せたので早々に視線を外してワンズマンに向き直る。


相手も見るからに動揺してるところを見ると、示し合わせたものでなく完全にイレギュラーな事らしい。さっきの会話を聞いた限りでは、あちら側が勝手に救援に来てしまったようである。


「お前も苦労してそうだな、あんな頭ゆるふわ女が仲間だと」

「大きなお世話だ、放っとけ。しかし、お陰様でますます捕まる訳にはいかなくなったな」


フィーロへの叱責は後でするとして、ワンズマンはこの見かけに反した手練れを倒す事に集中し始めたがひとつ気になっている事もあった。



(フィーロがここに来たって事はアンジェリカも一緒に来てるのか?あいつにはフィーロのストッパー役を任せてたんだが……)



しかし、ざっと見渡してみてもアンジェリカの姿らしきものは確認できなかった。それを妙と思うが、今はそれに気を回せる余裕もあまり無く目の前の相手に集中する。

この際だ。命を獲る気でやらせて貰おうとも決めて。


「押し通らせて貰うぞ、是が非でも……なっ!」


再び、鈎爪による攻撃が始まった。鋭い爪の猛襲が繰り出されるが、レヴィは顔色を変えずに応戦する。そして一瞬の隙を見つけ、一気に懐にへと潜り込んだ。


「意気込んでるところを悪いが……もう大体は見切らせて貰った、ぜ!」

「がふっ!」


腹部に拳をお見舞いし、そして次は蹴り。細い体とは裏腹に力強く、踏ん張りきれなかったワンズマンが飛んだ。

屋根を転がり、あわや転落する寸前だったが咄嗟に鈎爪を食い込ませて耐える。


更に追い打ちしようとレヴィが駆ける。


咳き込んでまだ動けない様子のワンズマンにもう一撃を入れようと腕に力を込めた際に、踞っているワンズマンの顔がニヤッと薄笑った。

それに何か不穏を感じたレヴィはその場で止まって様子を窺おうとしたが、相手が付けている籠手から鋼線が放たれた。


ワイヤーアクションのように屋根へ昇る際に使用していた鋼線、それを攻撃にへと転じさせたのだ。射出速度の速さにレヴィはよける事が叶わず、鋼線は首にへと伸びて巻き付くように動く。

そのままでは気道を絞められただろうが、咄嗟に右腕を咬ませる事で首を絞め上げられる事態を防いだ。

だが、それによって右腕は使えなくなったし鋼線が巻き付いたせいで移動も自由に行えなくなった。


「……ちっ、やってくれんじゃねーか」

「言っていた筈だぜ。是が非でも押し通らせて貰うぞってな……その鋼線は力でちぎる事は無理だぜ、ましてや素手でやろうものから肉の方が裂けるからよ」


本当なら首を絞めて窒息させたいところだったが、片腕を使えなくさせただけでも充分である。後は脚の腱を切ってやるなどして機動力を奪ってやれば逃げおおせるとワンズマンは算段を付けた。



「ちぎる、か……そんなまどろっこしい事はやる必要ねーな。お前に解かせれば良いんだからよ」



しかし、レヴィはこの状況下においてもまだ慌ててはいなかった。左手で拘束している鋼線を掴む。もしや引きちぎるつもりかと身構えたワンズマンだったが、レヴィがやったのはちぎるのではなく引っ張るという行為だった。


グッと手繰り寄せるように引っ張ると、腕を差し出すような形でワンズマンが前のめりになって倒れる。


「うおぉっ!?」


そのままズルズルと引き摺られ、踏ん張れる体勢でもなかったワンズマンは泡を食いながらも鋼線を籠手から外そうとしたがその前に近付いたレヴィの足がワンズマンの喉元を踏みつけた。


「ごふっ!」

「さーて、まず言いたいのはこの絡み付いた鋼線を解けって話だ……嫌だって返事は聞いてやらねーぜ?」

「う、うごぉっ……」


ゆっくりと体重を掛けられて圧迫され、呼吸が苦しくなる。真下から見上げるレヴィが酷く恐ろしい存在に思え、ワンズマンはその冷淡な顔に畏怖を抱いた。


「頷くか首を振るか、それで意思を伝えろよ。さぁ、どっちだ?どっちを選択すんだ?」


こうなるとレヴィの方が悪人のようにさえ見えてきた。踏みつけられてるワンズマンは窮地に陥った今をどうやってやり過ごそうか考えを巡らそうとするが、息が苦しくなりつつある中だとまともに考えが纏まってくれなかった。


「このまま何もしないってんなら気絶させてやってもいいんだぜ、こっちは。その後でゆっくり解いても良いんだし……」


そこまで言った時にレヴィは何者かの気配を感じ、首を後ろに向けると同時に背後から何か針のような物が飛んできた。

小さいものであったので、レヴィは腕で防いでも問題ないだろうとまだ自由に動かせる左腕でガードしようとしたが、飛んできた針が唐突にでかくなったと思ったら短剣にへとなったのだ。


「なにっ? ぐっ!」


左腕に短剣が深々と突き刺さり、レヴィの表情が初めて崩れた。間髪入れずに、躍り出てきた人影が鈍器のようなものでレヴィの頭を側面から打ちのめす。

受け身を取る暇もなく、屋根から転がり落ちそうになったが寸でのところで縁に手を掛けて落下は免れた。


とは言え、首に鋼線は巻き付いたままで右手は使えない。そして今ので左腕が負傷、しかもそれさえが縁を掴むので手一杯だから完全に無防備になってしまっている。落ちぬように力を入れたせいで、傷口からの出血量が更に増えて顔をしかめる。



窮地を脱させてくれた乱入者を見たワンズマンは安堵した。



「お前だったか、アンジェリカ」

「どうもワンズマンさん。指示を聞かずに勝手に来てしまった事には謝罪を致します」


丁寧な仕草でお辞儀をするアンジェリカ。彼女はこちらに到着してから、まずワンズマンが手こずる黒髪の子供が最も厄介な存在と認識し、気配を隠しながら奇襲を掛ける時を待っていたのだ。

そしてワンズマンを引き倒して唯一の隙を見せた瞬間に、アンジェリカは投擲したのだ。自らの魔技能マジックスキルで小針サイズにまで縮小させた短剣を。


狙いどおり、小さな針と誤認して腕で防ごうとした瞬間に能力を解除。腕に突き刺さって狼狽えた一瞬にトンファーで殴り倒したのだ。



「いやそれについては結果的にだが良かった事だし何も言わねーとも……情けない話だが、あのままだと俺が無力化されていたかもしれんかったしな」


ワンズマンとしても、意外な強敵を前に苦闘していたところを助太刀して貰ったのだから結果オーライと考え、指示を無視した事は不問にした。

そして鋼線を籠手から切り離し、近くの煙突にしっかりと巻き付ける。これでさっきのように引っ張られはしなくなった。


「では、あいつの手を離させるとしましょう。宙吊りになったらどうしようもなくなくでしょうから、その間にフィーロを連れて撤収致しましょう。いつ衛兵が駆けつけてもおかしくありませんから」


その意見にワンズマンも同意し、アンジェリカがトンファーを提げながらレヴィを屋根から落とすべく近寄っていく。



時同じくして、フィーロと戦っていたライラットが地面に落ちる血に気が付き、見上げるとレヴィが出血した腕で屋根にしがみついてる光景を目撃する。


「レヴィっ!?」


それに気を取られてしまった彼女の胴体に、フィーロが振り回すスコップが叩き付けられた。内臓がひしゃげるかと錯覚する衝撃に口から吐血を溢しながら、民家の壁にへと突っ込むように激突する。


「がはっ!……ぐ、うぅっ」

「よっしゃっ、やっと当てられたです!どうですか、フィーロのスコップ殺法の味は?ふふんです♪」


得意気にスコップを掲げるフィーロに苦々しげに睨む。視線を外してレヴィの方を注視すると、ふわふわした服に身を包んだツインテールの女が棍棒のようなのを引っ提げて近付いてるところが見える。


(不味いっ、あのままだと落とされるっ……!)


目を細めて注意深く見れば、何かキラッと光る糸のようなのが首辺りに巻き付いてる。右手を挟んで完全に絞められてはなさそうだが、あのままで手を離されてしまったら宙に吊られる形になってしまう。



(あいつにはっ……まだ責任を取って貰う義務があるんだっ。こんなところで死なせる訳にはいかないっ!)



痛む腹を押さえながら、ライラットが決死の形相で踏ん張る間にもツインテールの女が棍棒を振り上げている。



「貴方に恨みなどこれっぽっちもありませんが、これも私たちの今後の為ですので……何か言いたい事がおありなら聞いて差し上げますよ?」


感情を見せずに淡々とした事務的な口調のアンジェリカには躊躇いなどというものは微塵も無さそうだ。

一転して窮地に陥ったレヴィは見下ろされながら言われた言葉に対して、含み笑いをしながら返した。



「そうだなぁ……結構エロい下着、穿いてんじゃねーか。そそるもんがあるねぇ、マジに眼福だぜ」

「……っ」


反射的にアンジェリカがスカートの裾を抑えた。顔には僅かに恥じらいの表情が浮き出ていて、それにレヴィがニヤついた笑みをする。



位置的にスカートの下を覗けた為に、レヴィはこんな時であっても自分の欲望に忠実だった。ガーターベルトに黒のレース下着という、色気満載のものを見れたお陰か実に満足そうな様子である。



当然、アンジェリカにとっては下着を盗み見された事は不快でしかなかった。



「……落ちなさい、この不埒者っ」



指の骨を擦り潰す勢いで、トンファーを振り下ろす。



あわや、指が潰されるという瀬戸際においてもレヴィは目を背けずにいる。そして何を思ったか、自ら手を離したのだ。

まさか自分から手を離すとは思わなかったアンジェリカが動揺する間にも、レヴィは落下し続ける。


その光景を見て、悲痛な叫びを漏らしたライラットに向けて落ちながらレヴィがこちらにへと顔を向けると口を動かしたのが分かった。



『心配すんなよ』と言ってるように見えて、ライラットの取り乱し掛けた心が落ち着きを取り戻すようになる。



レヴィはまず左腕に突き刺さった短剣を引き抜いた。血が噴き出して激痛も走るが構う事もしない。抜いた短剣を壁に深く突き刺さらせ、そこで落下を止めた。その短剣を軸にして体を前後に大きく揺らし続け、次第に体を車輪のように回転させ始め、勢いがついたところで真上にへと飛んだ。


手を離して落ちていったと思ったら、今度は凄い勢いで飛び上がってきたレヴィにアンジェリカもワンズマンも驚きを隠せずに硬直した。


その機を逃さず、空中から飛び蹴りをした。標的となったアンジェリカはトンファーで蹴りを防御し、即座に距離を取った。


「よう、戻ってきてやったぜ」

「……本当に何なんだ、てめーは」

「規格外、というのが当て嵌まりますかね」


華奢な体でやったとは思えない身体能力に身震いする二人。とは言え、状況が不利になったとは限らない。

鋼線によって首は絞まりかけ、それを防ぐために右手は使えない状態であるし左腕は短剣を無理に抜いたせいで派手に流血している。


明らかに相手のパフォーマンスは落ちた状態だ。加えて、こっちは二人がかりで挑める。ならば充分に押し勝てる筈だ。


目配せを送り、アンジェリカと共に押しきろうとした時。ワンズマンの足元を銃弾が穿った。



「うっ?な、何だっ」


銃声が轟いた方向を見ると、そこには見知った顔の人物がいた。



テンガロンハットに拳銃を携えた女冒険者、クラウネ・エストーラが銃口から立ち上る硝煙を吹き消しながら威風堂々と立っていた。



「ふふ、真打ちは遅れて登場……てね」



エストーラの登場によって、場は混迷を極めだしたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作楽しく読ませていただきました!! 迫力のあるシーンが細かくまとめてカットされているので、様々な角度から物語を楽しむことが出来ました。短い文章と長く続く文章の緩急をつけることによって、…
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