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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第一章【旅は道連れ、世に情けなし】
24/92

激動の夜③

何とこの作品にレビューを書いてくださった方がっ!めっちゃ嬉しいですっ♪

仕事のフラストレーションやストレスを消し飛ばして頑張っていきますっ。





その頃、警備室では蜂の巣をつついたような騒ぎだった。



「ええいっ、バンディットめっ!我が物顔で、屋敷の中をあちこち独走するとはっ……」


拳を握り締めて苦虫を噛み潰したような顔でいるモルセト。その隣では副隊長が通信水晶を手に矢継ぎ早に指示を出している。


バンディット・ゴーストと名乗った侵入者に正面からまんまと入られた事は、屋敷警備の最高責任者であるモルセトに深い精神的ダメージを与えていた。

当初は混乱からまともな状況把握も出来なかったが、次第に落ち着きを取り戻した部下からの報告は受ける事は出来た……だが、アッサリと門を越えられた件では即座に警備に当たっていた部下を呼びつけて怒鳴り散らしたい衝動に駆られた。


そんな溜飲も何とか呑み込んだが、侵入されてからもう五十分は過ぎようとしてるのに未だにバンディットを捕まえられず、歯にヒビが入るかもというぐらいに歯軋りしていた。


「今はどうなっているっ?追い詰められたのかっ」

「そ、それが相変わらず機敏すぎる動きで捕捉しきれず……警備兵を撒きながら屋敷内のあちこちを移動しています。尚、現在は姿を見失ってしまった模様です」

「くそっ、何たる奴っ……!」


好き勝手に徘徊されてる事実で頭に血が昇りまくるモルセト。今では冒険者たちの手綱も取れずにいて彼らの行動把握すら満足に出来てなかったが、この状況下で下手に押さえつけようとしたら余計な混乱が起きてしまうのは流石に理解していたので冒険者の動向については静観せざるを得なかった。


こんな様を晒してしまうとはジョージ様に顔向けできない……モルセトは内心で領主に深く陳謝していた。


そのジョージは最初は陣頭に立って指揮を取ろうとしたが側近から身の安全を優先され、今は護衛と共に自室にいる。

それと平行して財産が収められてる場所には、警備の中でも選りすぐりの屈強な者たちで完璧にガードされていた。

流石にこれを力ずくで突破は出来ない筈……あとは屋敷内の侵入者をどうにかすれば良いのだが、現状はまさに手玉に取られてるという状況で歯痒いものだった。


「隊長っ、新しい報告が来たのですがっ……」

「今度は何の報告だっ?」

「それが……首を捻るような内容で」


どういう事なのかと聞くと、つい先程に屋敷の正面玄関からひとりの冒険者が飛び出していったという事だった。


最初に聞いたモルセトはまず怪しんだ。それもそうだろう、逃げるような状況じゃないのだから侵入を手引きした裏切り者かと怪しんだのだ。

それで冒険者の誰なのかは分かるのかと聞くと、二丁拳銃を携えていたというぐらいしか判明してないという。


(拳銃だと?……ここにいる中で拳銃などというのを所持してる奴など、あのスカした女冒険者しかいない筈。そう言えば妙な事を聞きに来ていたが……やはりあれは何かしらの裏があったかっ?だとすると、あの場で取り押さえておくべきだったか)


いや今からでも遅くはない。屋敷の警備をしてる者はバンディットの追跡で手一杯だが、外に逃げた際に包囲網を作るべく街中に配置されていた衛兵たちがこちらへ向かってる筈だ。

連絡の為に通信水晶は持ってるだろうから、エストーラを捕らえるように連絡をしておけばいい。


「おい、外の衛兵にこう伝えろ。拳銃を持った冒険者が来たら取り押さえるようにと」

「は?それは捕まえろという事ですか」

「当たり前だ。このタイミングで屋敷から逃げるなど内通犯に他ならんだろう。寧ろ、そいつを尋問してバンディットの情報を入手できれば早期に事態解決が可能だ」


モルセトの頭の中では、もうエストーラはバンディットに与した犯罪者という事になってるようだ。部下も信頼する隊長が言うなら恐らくはそうだろうと信じて、通信水晶の波長を外部にへと合わせてそう連絡した。

程なくして、衛兵側から了解したという声が届く。


「よーし、風向きは我らの方へ向いてきてくれたぞ。バンディットめ、今の内に精々ネズミのように逃げ回ってるといい。貴様を檻へ入れる包囲網は形成されつつあるのだっ!」


鼓舞するように吠えるモルセトに合わせて、部下たちも掛け声を上げる。さっきまではバンディットの行動に翻弄されっぱなしで顔を曇らせる者もいたが、今は士気は上々昇りであった。



必ずや不届きなこそ泥をふん縛ってくれると意気込むモルセトであったが、それから二十分は経ったところで飛び込んできた報せに彼は顔を強張らせたのだった。



「何っ?……東側の廊下に黒いローブを着てる魔導人形マギ・ドールが倒れてるだとぉっ!?」




……時間は少々遡り、モルセトが衛兵に屋敷から逃げ出したエストーラを捕らえろという連絡をした後にまで戻る。



剣や槍などで武装した衛兵たちは規則正しい行進を保ちながら早足で領主の屋敷にへと集まっていた。

元々はバンディットが現れたという知らせが来たら、ただちに包囲網を作るべく行動していた衛兵たちであったが、聞かされていた時間よりも早く現れたというので初動が若干ではあるが遅れてしまっていた。


しかし、そんな混乱もすぐに収まり、今は屋敷の全周を取り囲むように幾つかの集団に別れながら包囲を始めていた。

もちろん、彼らとて街を守るのが主任務である以上は直接的にバンディットの捕縛をしたいところであったが屋内に現れたとあっては、こんな大人数で押し掛けても邪魔にしかならないのは自明の理である。だから今はサポートに徹する他は無かった。


そんな中で屋敷側からの通信が届き、衛兵の一部は屋敷の正門付近に集まっていた。何でもバンディットの侵入後に冒険者がひとりだけ屋敷から抜け出したという事で、内通犯か手引きをした者の可能性が高く捕縛してくれという内容であった。


連絡を受けてから幾らかの時間が経った頃、正門に向かって走ってくる人影が見えてきた。近くにまで来て、ようやく連絡にあった唯一の特徴である二丁拳銃があるのが確認できたので衛兵たちは門を施錠して立ち塞がる。


「止まれ。お前、屋敷の警護に当たっていた冒険者のエストーラだな?」

「はぁ、ふぅ……そうだけど、何だい君たち?そんなところでたむろされてたら邪魔な事この上ないよ。急いでるから退いて貰えるかな」


掻いた汗を拭いつつ、エストーラは退くように言うがそれで退く訳もない。手に武器を構えながら衛兵たちがジリジリと距離を詰める。


「警備隊長のモルセトからの報告で、お前にはバンディットの侵入に加担したという嫌疑が掛かってるのだ。大人しく着いてきて貰うぞ」


威圧するように険しい顔の衛兵たちを前に、エストーラは困ったもんだという風に肩を竦めるだけであった。


「……やれやれ。確かに理由も言わずに出てきたのは私の落ち度だけど、だからといって謂われもない罪を被せてくるとは大した隊長さんだ……いや、義務感と焦燥のせいで視野が狭まってるせいかな?」

「ブツブツ言ってないで銃を我々に渡して着いてこい。それと先に言っておくが抵抗した場合はこちらも相応の手段に出る事になるぞ」

「まぁまぁ、そんないきらずにこちらの話も聞きたまえ。私がこうして出てきた理由はだね、バンディットの正体を……」

「そういう事はモルセトの前でも言え。良いから、さっさと来い」


弁明も意に介さずに衛兵のひとりがエストーラの腕を掴む……前にその衛兵の視界がぐるんと回転した。何が起きたのか理解しきる前に、頭が地面に激突して衛兵の意識は途絶えたのだった。


側にいた衛兵たちも気付くのが遅れる程の速さの投げ技。遅れて、エストーラの仕業という事に思い至った衛兵たちが剣や槍の切っ先を彼女に向ける。


「なっ!?……貴様っ、抵抗する気かっ?」

「やはり、バンディットの手の者だなっ。神妙に縄につけ!」


たちまちの内に周りを十数人の衛兵に取り囲まれるが、エストーラは余裕泰然とした姿勢である。


「力ずくで突破……というのはスマートなやり方じゃないから嫌いなんだけれどね。今は時間が惜しいから事情の説明に掛ける間も惜しいんだ。謝罪は後からするし、手加減もするから勘弁してくれたまえ」


周りを囲まれてるが突破するのは容易いという言い方に何人かは舐められてると取ったのか顔色が怒気に染まる。

怒りそのままに三人程が剣を振り上げて、エストーラに肉薄していく。


上段から振られる刃、横薙ぎに振られる刃、突きだされる刺突の刃が殺意を殺意を剥き出しに迫りくる。

だが、エストーラの表情に焦りの色は無く右手が素早く動く。

右手の行き先はホルスターに収められた拳銃、でなくポケットの方だ。

何かを掴むように握られた右手にはキラリと光る円形の物……銅貨があった。


そしてコイントスをするように指で銅貨が弾かれる。だがその速度は銃から発射される弾の速度にも劣らない異常な速さだった。それが三枚ほど立て続けに放たれる。


「ぐわっ!?」

「痛ぇっ!」


飛んでいった銅貨は迫っていた衛兵たちの手元に見事に命中。銃弾のような破壊力こそ無いが、それでも剥き身の肌に当たればそれは激痛となり、痛みで武器を取り落としてしまった。

その隙を逃さずにエストーラの鋭い手刀が首筋に当てられる。ほとんど間を置かずに三人に当てていき、意識を狩り取られた彼らはその場に倒れ付した。



見惚れてしまうような俊敏な動作に他の衛兵たちは驚きの表情で立ち尽くしている。



(なっ……何だ今のはっ?……銃も抜かずに貨幣で武器を持った衛兵を無力化しただなんて、信じられないぞっ!)


衛兵の男はそう驚愕していた。最初にひとりを投げ飛ばした時も突然の事だったので驚いていたが、今はその時以上に感じていた。

ただの銅貨を視認するのも難しい速度で弾き、それも正確に命中させる技術……とても凡人などでは到達できない域だった。


楽観視していた衛兵たちの顔色が、思わぬ強敵を前にして曇る。だが、冷静に考えれば絶対的までに困難とは言えないのではないか?

今のは正面から少数が向かっただけだからあれで対処できたが、全方位から一斉にかかれば迎撃は間に合わない筈だ。

技術では確かに負けてるだろうが、相手は女だ。力ならば男の自分たちに分があるだろう。


「全員で一斉にかかるぞっ!」


衛兵のひとりの叫びに他の者も幾らか落ち着きを取り戻す。それを皮切りに包囲を維持したままでエストーラに挑み掛かった衛兵たちだったが、まだ彼女の実力を低く見積もってしまってた。


エストーラが硬貨を取り出し、それを次々と弾いていく。ズボンだけでなく革ジャンにもあるポケットからジャラジャラと硬貨を出しながら、一秒に一枚を弾き飛ばすという機関銃のような連射は圧巻の一言だった。正面のみならずクイックターンも駆使して360度に放たれた硬貨は衛兵たちの額に吸い込まれるように着弾していく。


直径1cm程度の硬貨といっても金属なのには変わりない。それも異常な速度で放たれたそれをまともに頭に喰らったら無事では済まず、硬貨が直撃した衛兵は衝撃で体を仰け反らせて仰向けに倒れていった。

間を詰めるどころではない硬貨の弾幕に衛兵たちはたたらを踏んでしまい、ますます狙い撃ちされてしまっている。中にはガードしようと腕や剣を前で交差させたりした者もいたが、そうすると倍以上の硬貨が流星のように飛んできた。


衝撃に耐えられずに剣が曲がってしまったり、痛みに堪えられずにうっかり下げてしまったらアウトだった。すかさずに眉間に硬貨が当たり、意識を奪われた。


そんな一方的状況が延々と続くかに思われたが、不意にエストーラの手から硬貨が放たれなくなった。


「おっといけない、弾切れか」


ごそごそと服をまさぐっていたエストーラが呟く。そう、ポケットに入れていた硬貨が尽きてしまったのだ。あれだけ遠慮無くやっていたら無くなるのも当たり前である。それでも辺りに散らばる無数の硬貨を見れば、結構な量を入れてたようだが。


これを好機と喜んだのが、まだ残っていた衛兵だった。立っている人数は五人ぐらいしかいないが、ここで勝負を決める腹積もりでエストーラに向かった。

銃を抜かせる前に押し倒してやればいけると踏んだ衛兵五人を前に、エストーラは不適な笑みを浮かべた。



「仕方ないね……出血サービスだ。よく目に焼き付けておきたまえよ」



言うが早いか、エストーラが革ジャンのジッパーを下ろすとバッと前開きに広げた。


革ジャンの下から現れたのは黒いビキニに包まれて揺れ動く推定でEカップ相当の巨乳。サイズが少し小さいのか、横からはみ出してすらいる。男の悲しい性から五人の衛兵はたわわに実った胸が弾むのをガン見してしまい、突撃の勢いがガクンと落ちた。


その隙を逃さず、落ちていた硬貨を素早く拾い上げたエストーラのコインショットが五人の眉間にヒットして敢えなく意識を失う衛兵たちだったが、その顔は素晴らしいものを見れたという充足感に満たされていた。


これで16人はいた衛兵の無力化に成功する。ジッパーを上げ直したエストーラは倒れてる衛兵たちを尻目に門を潜っていく。



「慰謝料代わりに銅貨はプレゼントしておくよ、それではアデュー♪」



そう言い残して、エストーラは夜の闇に浸っている街にへと下りていった。





必要なら割りと大胆な手もエストーラは使います。こういう色仕掛けは実際有効だし。

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