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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
第一章【旅は道連れ、世に情けなし】
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激動の夜②

お待たせ致しました。遅れた理由?それはピクミンをやり込んでたからです。ピクミン4が出てくれないか筆者は待ち望んでます。



それは唐突な事だった。



もう一時間もしない内に予告状に書かれた時間になろうという時。屋敷にいる者たちがピリピリと神経を昂らせてる時の事だった。


正門付近を警備していた兵士二人と、冒険者四人のパーティが怪しい人影が近づいてくるのを発見した。

全身をローブで羽織っていて、暗がりもあって顔も性別も判別不可能。見るからに怪しげな人物がこちらにへと歩を進めてくる。

正門まであと二メートルまで来たところで、兵士と冒険者が前を遮った。


「止まれ。何者か?今は諸事情で厳戒態勢に入っている。何か用があって来たか知らんが、差し支えなかったら顔を出して名前を言って貰おう」

「………………」


ローブの人物は答えずに黙りを決め込んでいる。兵士は目配せをして、残っていた者たちに囲うように指示を出した。

包囲するように周りを取り囲む兵士と冒険者たち。各々が武器に手を掛けているが、ローブの人物は喋りもせず身動ぎもせずに突っ立ったままだ。

それに痺れを切らした別の兵士が食って掛かる。


「おいっ、案山子みたいに立ってないでこちらの質問に答えっ……」


言い終わらない内にそれは起こった。


懐から手のひらに収まるサイズの黒い球を素早く取り出したローブの人物は、それを目の前に放り投げた。


淀みの無い動きに誰もが反応が遅れ、黒い球が地面に落ちた瞬間。炸裂音と共に周辺を包み込む程の煙が発生した。


「うわっ!?こ、これはっ……ごほっごほっ!」

「め、目眩ましかっ……いかん、奴を取り押さえるんだっ!」


煙でむせる中、声を張り上げてローブの人物を抑えようと動いた兵士だったが炸裂の瞬間に目を瞑ってしまってる間に視界から消え失せてしまっていた。

まだモクモクと煙が立ち込める中で何とか見つけようと首を回していると、正門をよじ登って越えようとしてる後ろ姿がチラッと見えた。


制止する前に正門を乗り越えられ、門の内側から侵入者は声高々に言う。


「俺はバンディット・ゴースト。領主が溜め込んでいる財を根こそぎ戴く。俺はバンディット・ゴーストだ」


そう言うと、速やかに屋敷の方にへと駆けていってしまった。泡を食った兵士は急いで指示を出す。


「し、しまった、侵入されたぞっ!警報を鳴らせぇっ!」


非常事態が起きた際に知らせる鐘に兵士が取りつき、ハンマーでカンカンカンッ!とけたたましい音を上げる。

更に懐から通信用の水晶石を出して、屋敷内の者にも伝達を行った。


「こちら、正門っ!黒ローブを羽織った男がひとり門を越えて侵入したっ、対象はバンディット・ゴーストと名乗っているっ、至急捕らえたしっ、繰り返すっ……」




~同時刻、屋敷内~



正門付近の警備隊から入った情報に、屋敷内の者たちは色めき立っていた。予告前に侵入者……それもバンディット・ゴーストが真正面から現れるという事態を想定しておらず、規律正しい兵士の中には右往左往してしまってる兵士までいるぐらいだ。


一方で時には依頼クエスト中に状況の急変があって柔軟な対応もせねばならない事がある冒険者たちの方がこの事態に冷静であった。

指示を仰がなければと慌てふためく兵士を尻目に、どさくさ紛れに掠め取った通信水晶からの情報を得て何組かは正面玄関に繋がる通路を走って急行し、侵入者の撃退ないし捕縛の準備をしていた。


「全く、連中のだらしなさったらないねぇ。ちっと想定外の事が起こったらこの様だ。領主さんが俺らを頼りたくなるのも分かるぜ」

「あたしも同感。まぁ、この街じゃ精々がモンスターを追い払うか治安を守るぐらいしか兵士の仕事は無いし、仕方ないんじゃない?」


軽口を叩く彼らは余裕ありげな様子だった。今この場にいるのは冒険者だけで、警備兵の姿は未だに見えていない。

通信を受けたは良いが、自分の持ち場を離れて向かっても大丈夫かが判断しきれず、いちいち隊長のモルセトに連絡を取っているせいであった。

日頃から報告・連絡・相談を欠かすなというモルセトの厳格な指導が裏目に出てしまってるとも良い惨状で、これのお陰で当のモルセトも未だに部下からの返信に忙殺されて状況が正確に把握できていなかった。


「さーて。自分で決めた時間も守れねぇ、ルーズなこそ泥さんにキツイお灸を据えてやろうじゃねーか」

「おう」


全員が血気盛んに身構える。通信では侵入者は真っ直ぐに正面玄関を進んでるようだ。単純な力任せの侵入法に誰もが浅はかな奴だと思っていたが、疑問に思ってる者もいた。


「しかし、何故こんな堂々とやって来たんだろうな?今までの手口からしたら、ちょっと大胆すぎやしないか」


それには何人かが頷いて同意した。これまでの神出鬼没な盗みをしてきたとは思えない大胆なやり口は何か引っ掛かるものがある。

模倣犯の可能性も考えられるが、それだったら何の意味があって騙る必要があるのかまた疑問である。


「さぁな、そんなもんを今考えててもしょうがねぇだろ。どうあれターゲットが来てんだから、とっ捕まえれば済む話さ」


確かに目下にバンディット・ゴーストを名乗る者が迫ってる以上は、あれこれ考えてても仕方がない。今は取りあえず、侵入者を捕まえる事が最優先であった。


と、外から走ってくる音が聞こえた。近くまできた足音の主は勢いそのままに蹴破るようにドアを開けて屋敷内にへと入ってくる。

通信にあったように正面玄関に真っ直ぐ突っ込んできた黒いローブの人物の登場に冒険者たちは狼狽える事なく対応した。


「へっ、こそ泥らしくねぇご登場じゃねぇか。訪問してくれたばっかで悪いが、お縄頂戴とさせて貰うぜっ!」


「……俺はバンディット・ゴースト。領主が溜め込んでいる財を根こそぎ戴く。俺はバンディット・ゴーストだ」


返答のつもりなのか、正門で言っていた台詞をそのまま喋る黒ローブの人物。事務的……というか機械的な口調だったが、それを気にした冒険者はほとんどいない。先手必勝と剣を片手に突撃した冒険者を素早い身のこなしでかわすと、囲んでいた冒険者に体当たりを喰らわして囲いを突破した。


「うわっ!こ、こいつ意外と力強いぞっ?」


見た目はそうでもなさそうなのに成人男性を突き飛ばした挙げ句に疾走まで出来るバンディットに面食らう冒険者。

そのまま走り去ろうとするバンディットに追い縋ろうとするも、舌を巻く程の足の速さで徐々に引き離されてしまう。

足を止めさせようにも、屋敷の中だから下手に魔法を放つ訳にもいかない。


これは普通に追いかけても無理と判断した冒険者たちは、二手に別れて挟み撃ちをする作戦を立てた。幸い、この辺りなら通路の道筋などはある程度は把握できている。


片組が追い立てるようにして、残りの冒険者は急いで先回りを行った。


「はぁ、はぁ、よしっ何とか間に合ったぞ」

「今度は逃がさないようにしないとね」


体力は消耗してしまったが、それでもこそ泥を捕まえるぐらいは出来る。いつでも来いと構える冒険者の一行の前に遂に姿が見えてきた。

スクラムを組むように固まり、容易には突き飛ばせられない体勢を維持する。通路の端まで塞いでるから、今度は突破できないだろうと思っていた彼らだったがそれも甘かった。


ある程度まで近づいてきたバンディットが壁の方向へ走ると、三角飛びの要領で左右の壁を跳び跳ねたのだ。

これには冒険者たちも呆気に取られ、気付けばあっさり人垣の壁が上から突破されてしまった。


「あ、あんなのありっ?」

「くそっ、抜かったっ!」

「ぼやくのは後にしろっ、追いかけるんだっ!」



冒険者たちがガムシャラに追いかけ、バンディットがパルクールのごとき走りで逃げる屋敷内での熾烈な追いかけっこが始まった。


途中からは混乱から立ち直った兵士たちも加わり始め、屋敷の中はさながら大運動会のような様相になってくる。



「あっちに逃げたぞっ!」

「もたもたすんな、退けっ!」

「貴様らこそ邪魔だぞっ!」


「きゃあっ!?ど、どこ触ってんのよ変態っ!」

「いや今のは事故っ、げふぅっ!」


もう連携も何もあったもんではない。曲がり角や十字路で見失えば手分けして探し、とにかく姿が見えたら発見した者が全力で追いかけて、また見失えばまた手分けしてと堂々巡りの状態になってくる。


中には急ぐあまりに兵士と冒険者が互いにいがみ合いながら相手を押し退けるようにしたり、狭い通路に大人数が詰めかけたせいで詰まったりとか、その際に誤って身体に触れてしまったから女冒険者に腹パンを喰らわされる者が出たりと、てんやわんやな大騒ぎだった。


これのお陰でバンディットに肉薄も出来てないのだが、それ以前に彼のこそ泥の猿のような身の軽さにも手が焼かれていた。

ジャンプひとつで天井のシャンデリアに掴まってみせたり、前後を挟み撃ちされてもひとっ飛びで飛び越えるなど人間離れした跳躍力で悉く撒いているのだ。


時には一室に追い込んで後一歩のところまでというのもあったが、部屋内に置かれてる家具類を巧みに利用してきた。タンスを倒して前を遮ったり、小物などをばら蒔いて足を滑らせさせたり引っ掛けさせたりなど小憎らしい程の手際で逃れてみせた。



今もまた、追ってくる兵士や冒険者をあしらってバンディットは屋敷の通路を我が道を行くが如く疾走している。



そして何度目かも分からぬ角を曲がったが、そこでバンディットは動きを停止した。また兵士か冒険者が待ち伏せをしていたようだが、見える影はひとつだけだ。


「やあ、ようやくご対面できたね。あちらこちらを動き回るものだから、どこで張っておくか随分と悩んだよ。それにしても流石と言うべきかな?狭い屋内であんな飛ぶような立ち回りをするとは私も予想してなかったよ」


人影は捕まえようと構えるでもなく、気さくな感じで話しかけてきた。出方を窺ってるのかバンディットは何も言わずに佇んでいる。


「何で話しかけてきてるのか分かってないご様子のようだ。いや実はね、君の事を知りたくてお声がけさせて貰ったのさ」


一歩踏み出して歩み寄る人影。どこか芝居がかってる口調には覚えがあるだろう。それに加えて二丁の拳銃も所持してるとなったら誰なのかは明らか。


エストーラである。


しかし、彼女に目前のバンディット・ゴーストを捕らえようという気が見受けられなかった。愛用してる拳銃も抜きもせず、何なら隙だらけのようにも見えるがバンディットの方は待ちの態勢から動こうとしない。

そこへ語りかけるようにエストーラが話していく。


「私が何を知りたいのかって事はズバリ……何が目的で来たのかな君は?」

「………………」

「君がこうして屋敷内を動き回ってる理由を私なりに考えてみたんだ。まず君自身は何かを盗ろうという事は思ってない、だって余りにもやってる事が目立ち過ぎだからね。当然隠れてやり過ごさない限りは、警備の人たちに追いかけられるから盗む余裕なんてある筈も無い……つまりこうして姿を隠さずに敢えて人目につくように動いてるのはそうする理由があるからだろう?」

「………………」


エストーラの推測に何も答えようとしないバンディットであったが、それぐらいは承知していたのかエストーラは続けた。


「となると思い当たる理由はひとつだ。即ち陽動、囮だ。こうして君が派手に立ち回って警備の目を引き付けてる間に仲間か協力者が金目の物を盗み取る……ていうところかな?どうだい?」


被ってるテンガロンハットの鍔を指で弾いてどや顔を決めるエストーラ。するとそれまで黙っていたバンディットが口をきいた。


「流石だな、その通りだ。俺の狙いと意図を看破した勘の良さには敬意を送ろう」

「はっはっは。そう誉め称えでくれたまえ。これぐらいはちょっと勘が良い奴だったら、すぐに思い当たる事だからね」


自身の推論が的中できた事にエストーラはご満悦な様子である。相手の狙いも突き止めたし、それからすぐに動くのかと思われたが、どういうつもりかまだ動きが無い。


すると彼女の顔から笑みが消えて真顔になった。



「……で、本当のところはどうなのかな?」

「何だと?」

「だからさ。君の狙いはそんな事じゃないだろうというのを聞いてるんだよ」


そう言うエストーラには、先程まではあった飄々とした軽い雰囲気が無くなっていた。


「だってねぇ……君が侵入してきてから大分経ってるけど、未だに君以外の者は現れていない。私も君を探す間に巡り回っていたけど、どこからも新たな侵入者は出てきてないんだ。これだけ警備の目を引っかき回してるなら、もう頃合いの筈だろうに不思議な事だねぇ?さてそれは何故だろうか?」


自問自答するようであったが、エストーラは既に感付いていた。


こいつの役目は陽動。屋敷の警備を引き付ける為のもの、それは間違いないだろう。ただし、それは仲間の侵入率を上げる為などでなく言わばカモフラージュに過ぎないという事を。



「君が本物のバンディットであろうがなかろうが、こうして屋敷に現れた以上は誰だって君を捕らえる事に集中する……そう、街中にいる兵士も増援として呼ばせてね。ついさっき聞いたんだ、城下に配置されてる兵も呼び寄せて屋敷を完全包囲させる事を。それが君の狙いなんだろう、バンディット・ゴースト?いや……」


そこまで言った時に唐突にバンディットが初めて動いた。それもこれまでのような逃げに徹するものでなく、猛然と襲い掛かるようにエストーラに突進していく。


間近だった上に素早いのもあって、もう触れられる距離だった。突き出された両腕が彼女の首を掴んで絞めようとして。


「っ!?」


が、掴もうとした瞬間にエストーラの姿がかき消えるように失せた。フードで顔色は窺えないが動揺するように硬直したバンディットの背後からカチャリと音が鳴る。


「後ろだよ、お人形さん」


バンディットが振り返るよりも早くエストーラのアクションがなされた。


彼女の右手に構えられた拳銃の銃口が火を吹く。立て続けに鳴る四発の銃声。発射された弾丸はバンディットの後頭部に集中して当たる。


誰が見ても致命傷どころか即死であろう攻撃、ところがおかしな事に弾丸が確かに頭に当たったというのに血が流れ出てはこない。

いやそれ以前にまだ動いてすらいたのだ。後頭部を押さえるように手が動いてるが、その動きは非常にぎこちなくまるで壊れかけた機械のように。


震える手が意図せずにフードをずらしてしまい、隠されていた顔が白日に晒された。その状態でギギギと後ろを向くバンディット?を見たエストーラの目が細められる。


「やはり、ね」


素顔を見たエストーラはそう呟くと、それ以上は見もせずに踵を返して走り出した。


残されたバンディット?は四肢を動かそうとしていたが、バチィッと何かが弾けるような音がしてからその場に突っ伏すように倒れた。



フードが取り払われた頭部……それは黒く光沢がある鉄製で出来ていた。





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