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小悪魔男子にご用心!  作者: スイッチ&ボーイ
序章【少年と戦士と毒牙と】
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出会いは良かった筈だった

カッコいい系女子と可愛い系男子の迎合です。



さる王国の南部にある街、レスタード。


戦乱とは無縁な平和の国中にあるだけあり、街中を行き交う市民は朗らかな笑顔で占められ、行商人はそんな人々に得意の弁舌を奮いながら逞しく商売に精を出している。


ただ、群衆の中には時折だが帯刀している者もちらほらと見掛けられる。街を守る兵士では恐らく無い。二、三人で固まりながら談笑してる連中は身に付けてる鎧などの装備に統一性というのが無く正規兵には思われない。


となると傭兵というのが思い浮かぶが、そうでもない。彼らは冒険者といわれる職業に就いている人たちだ。冒険者ギルドという組合に所属しており、薬草の採取からモンスターの討伐までの依頼クエストをこなしてその報酬により生活をしている。国の兵士と違って個人個人の質に大きな開きはあるが、国防という縛りが無い分、身軽に活動できる利点がある。


その為、モンスターによる農作物被害に悩む農民には頼りにされ、街道などで遠出をする商人からはそれに加えて盗賊から守ってくれる用心棒として重宝されている職業者なのだ。その点は市民も分かっており、子供が憧れやすいものでもある。ただし、先も言った通りに冒険者の質は様々だ。国による徴兵とは違ってギルドで簡単な身分証明を行って登録するだけなので、性格やら素行に問題のある冒険者もそれなりに出てきてしまう。


「へへ、なぁ遠慮すんなって。ちょっと付き合ってくれるだけで良いんだよ」

「そうそう。適当にお茶して飯を食うだけだって。そんなに警戒すんなって」


道の端でナンパをやってる男二人組が正にそれだ。下卑た笑いを浮かべながら、壁を背後に囲むようにして逃げ場を無くした上でのお誘い。どう見ても無理強いのナンパだ。


「え、えっと……すいません、ぼく冒険者ギルドに用があって……」


困惑した顔で何とか断ろうとしている相手は、この辺りでは見掛けない珍しい黒髪をしていた。首もとの辺りまで伸びた黒髪をショートヘアーに纏めており、小顔に納められた藍色のぱっちりした目が印象的だ。整った目鼻立ちもあって誰が見ても美少女と言える顔つき。

これは嫌でも声が掛けられてしまう容姿だ。それに強引なナンパをされてるのに、断りきれなさそうな態度がまた男二人をいい気にさせている。


「ギルドに用があんのか?依頼か何かか?ならちょうど良いぜ、俺ら冒険者だからよ、色々と面倒見てやれるぜ」

「つー訳で、お礼の先払いに付き合ってくれよな」

「あ、ちょっとっ……手を引っ張らないでくださいっ」


都合の良い解釈を述べてどこかにしけこむ気だ。細く真っ白な肌の腕を毛深い男の腕が掴む。合意でないナンパがされてるが、道行く通行人は厄介事には巻き込まれたくないらしく早足で横切っていく。荒っぽい冒険者二人相手に物申そうものなら、手痛いしっぺ返しを喰らうという自明の理故だ。

巡回などをしてる兵士に知らせる手もあるが、赤の他人にそこまで肩入れする理由も無い。


それが分かってるのか男たちは気を大きくさせて、黒髪美人を人気の無い路地裏にまで連れてそこで色々と楽しんでやろうとニタニタしていたが、肩にポンと手が置かれる。


「冒険者が真っ昼間から、依頼クエストもせずに大通りでナンパか?良いご身分だな」

「あぁっ?何だとてめぇ……」


無粋な横槍に気を悪くさせ、その相手を睨み付けようと振り返った男だったがその途端に大きくなってた気が畏縮した。


肩に手を置いた者は女だった。紅蓮のように紅い髪が腰まで伸び、皮鎧の前が大きく膨らんだ胸がそうと示唆している。だが、男たちはその胸に目を惹かれる事は無かった。それよりも前に自分たちを上から見下ろして威圧してくる猛禽の目に背筋を震わせていた。


成人男性の背を上回る高身長、二メートル近い背丈にガッチリとした体格、その眼光は鋭く背中に背負ってるバトルアックスは使い込まれてる形跡があって歴戦の戦士を思わせる。筋肉質な手足と細かな傷痕が多くある浅黒い肌に皮鎧の下に着ているインナーには、鍛え上げられた肉体の証である割れた腹筋がハッキリと浮かんでいる。凛々しく整った顔は女性受けしそうなイケメン面で、胸が無かったら男と勘違いしてしまうだろう。


明らかに軽装な装備の男たちがその重装備に身を包んでいる紅髪に畏怖してしまったのはさもありなん。だがそれだけに留まらず、男たちは知っていたのだ。バトルアックスを背負ったこの人物が誰なのか。


「い、いや違うんだよこれはよ……ちょっと道に迷ってたらしくて教えてただけなんだ」

「そ、そうそうっ、冒険者ギルドの場所だよな。それならこの大通りを南に向かって行ったら、すぐに見つかるぜ。そ、そんじゃーな」


早口で捲し立てるように言うと、そそくさと退散していった。逃げるように場を後にしていく男たちを見ながら嘆息した紅髪の女……ライラット・ヴィクトネスは内心で深い溜め息を吐いた。


(はぁ……全く最近は気が弛んでる冒険者が多すぎる。本業そっちのけに遊ぶ輩が増えて困るな。同じ冒険者として恥ずかしい)


彼女、ライラット・ヴィクトネスも冒険者なのだ。それもこの街のギルドで指折りの実力を誇る猛者である。少なくともこの街を拠点に活動してる冒険者の中で彼女を知らない者などいない程。先の男たちが顔を見た途端に震え上がったのはそういう訳なのだ。


確かにこの辺りでは凶暴なモンスターはあまり生息してないので、ギルドに集まる依頼クエストには比較的楽な内容のものが多いのは事実だが、それにしても仕事をせずに昼間からナンパなどしてる自堕落者を目にしてライラットは呆れていた。


「あの、ありがとうございます。どうやって断れば良いのか分からなくて助かりました」

「ん?あぁ、大した事はしてない。たまたま通りがかっただけだからな」


逃げてく冒険者を見ていたところにお礼を言われたライラットは、改めて不埒なナンパから自分が助けた子を見た。

オニキスのように綺麗な黒髪に小柄で華奢な細い体。自分とはベクトルが違う整った顔は可愛い造形である。

暫し見つめていると、向こうから話をされる。


「あの、お名前を窺っても良いですか?」

「あぁ、私はライラット・ヴィクトネス。見たら察すると思うだろうが、冒険者をやってる」

「そうでしたか……そのお手数なんですけど、もし時間があればギルドまで案内して貰って良いですか?この街に来たのは初めてで、まだ地理に疎くて」


なるほど何処か慣れない様子はそういう事だったのかとライラットは納得して、案内を引き受けてあげた。寧ろ、こっちから言おうと思ってたぐらいだった。

何せ、そうは見掛けない可愛さなのだから場所が分かってても道中でナンパされまくる可能性が大きい。それにさっきのやり取りを見てたら、どうも断るのが苦手なようでもある。変な輩の毒牙に合ってしまうのは寝覚めが悪い。


ちょうど暇もあったので、ライラットはギルドまで連れていってやった。この時は単なる親切心による行動と判断だったのだが。



後に彼女は語った。



「この出会いさえ無ければ、つつがない人生を送れた筈だった」と……。







受難の種はこの時から蒔かれてましたとさ。

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