ギルドにて一悶着
ゼロ使の二次創作に読み耽っちゃってました。すまんでござる。
適当に街を散策した二人は、冒険者ギルドにへとやって来た。ただレヴィとしては特に深い理由は無く、物見遊山みたいなものだったが。付き添いのライラットはもちろん変な事をしでかさないか見張る為である。
別の街にあるギルドに来るのはライラットは初めてであり、レスタードのギルドとは雰囲気も違ってて少々落ち着かない気分であった。それでも不用意にレヴィに近づこうとする輩には関わるなという意味合いのキツイ視線を向ける。
二人の関係を知らない者から見たら、愛しい人に手を出すなとでも見えてしまう事だろう。
「そこの嬢ちゃん。どうだい、俺とお茶でも……」
「済まんがそんな暇は無い。あと、こいつは男だ。美少女なんかじゃあなく、完全にお・と・こっだ!よーく覚えておけっ」
「えっ?男っ、ウソぉっ!?」
それでもナンパしてくる輩はいるが、ライラットがすかさずに断ってレヴィは男だというのを声高に強調する。ちょっと大声で言ってるのは男からの誘いを減らす為であるが、それで逆に異性からの注目を更に引き込んでしまってる弊害も出てしまってる。
一方のレヴィはそんなライラットの苦労も我関せずとばかりに歩いてる。あちこちを旅してるからか見慣れぬギルドに来ても特に緊張などしてる素振りを見せず、ツカツカと依頼ボードに歩み寄って貼られてる依頼の内容を見聞し始めた。
ざっと目を通したところで、不満そうな表情になっていく。
(……けっ、ありきたりなもんばっかか。どれもこれも微妙なやつだぜ)
魔物退治に素材収集など、冒険者にとっては定番のものばかりであるが心底つまらなさそうな様子である。そもレヴィのひん曲がった性根の通り、冒険者稼業に情熱など微塵も抱いておらず、ただ日銭を稼ぐ事だけに邁進してる節がある。
そこである疑問が出てくるだろう……金を稼ぐだけなら他にも色々とあるが、レヴィが冒険者という荒事にも通じる職業をわざわざ選択した理由は何なのかという事。
自分の容姿と猫被ったところに釣られて迂闊に近寄ってきた女性を美味しく戴いてるのは周知の通りである。そしてそれは公然と言い触らしてる訳でもないが、本人はそういった事を改めようだなんて気は毛ほども無い。
従ってどこかに居を構えて長居していれば、例え引っかけた女性に口止めをしておこうと己の本質が何時バラされてしまうか分かったものではない……まぁ、自分から醜聞を話す可能性など無い筈だが、100%とは言い切れない。
で、そうなったら信用にも関わってくる。となれば常に流れ旅をしていく必要もある。あちこちを旅しながら生活費も十分に稼げる仕事となると行商人という手もあるが、それよりも冒険者をやってた方が気楽だし何よりギルドという絶好のカモ探し(職員とか同僚とか)という場所に自由に出入りできる理由が大きかった。
総合して言うと、冒険者の方が色々と都合が良かった為だ……もちろん自分自身の。だからそんなレヴィに冒険者の矜持云々など端から持ち合わせていなかった。どこまでも自分本位の姿勢を崩さない男である。
(どうすっかなぁ…………ん、こいつは)
踵を返そうとした時にある一枚の依頼が目についた。それをよく見てみようとした時である。
「そこの君?ちょっと良いかな」
「はい?何でしょうか」
自分の本心を決して悟らせないにこやかスマイルで振り返ると、一人の女性冒険者がいた。栗色の髪をショートにした顔立ちが整った女性だが、美人というより美男子というのが似合いそうな風貌である。
テンガロンハットを被り、革のジャケットに短いショートパンツという動きやすさ重視の格好で、腰のホルダーには短銃が二丁収められていて西武のガンマンというのを連想させた。
(へぇ……銃使いか。この国に来てからは初めて見たぜ……てー事は、戦闘スタイルは銃をメインにした射撃戦か。冒険者でそういう奴は珍しーな)
ここで銃というものについて解説しておく。
この世界では魔法というのが発達しており、日常生活で使われるだけでなく軍隊に置いても魔法を主体とした武器などがあり魔導師という戦力もあるが、国によっては科学技術を主に発展させてるのもある。
魔法より優先されてる理由としては魔法の触媒に必要とされる魔石が自国では賄えないので、その代替えとして科学技術を発展させる方面に舵を切ってるのもあるが魔法よりも優れているとしてある北方の大国では国を挙げて取り組んでいるケースもある。
その中で近年では銃火器というカテゴリーの武器が世界に広まり始めている。極初期の物はいわゆる火縄銃やマスケット銃のように単発しか撃てず、装填に時間が掛かりすぎて使い勝手の悪い武器という印象が強かったが、その後の技術革新もあって今では片手で持てるサイズで連発可能なリボルバー式拳銃や、ライフリングを施して雷管を使用する事で命中率や信頼性を飛躍的に上げたボルトアクション式小銃なども登場しており、近隣の諸国では魔導師による部隊を解散させて銃を主武装とした部隊を再編させてるところもある。
広がってる理由としては、魔法の使用には個人個人の資質が大きく作用しており才能の有る無しで大きな差が出てくる。優秀な魔導師による軍隊を編成しようとしたら、途方もない時間と労力が掛かってしまうのでこれまでは大体が小規模な部隊を幾つか作るぐらいで妥協されていた。
それでも魔導師の火力は大きな魅力であったが、銃器の登場がそれを覆しつつある。魔法には才能という壁があるが、銃ならそこらの素人であっても訓練を施してやれば十分に扱えるからだ。
つまり、より多くの兵隊に安定的な火力を与えられるという事である。即応性も高いし、何より量産体制さえ整えられれば大量に作る事も出来るのだ。
そんな訳である種の特権階級に胡座をかいていた魔導師が駆逐されつつある状況であるが、これに対抗して魔導機という物(動力や仕組みを魔石などで補ったいわば魔法版科学兵器)が開発されていたり保守的な国では現役を続けているのもある。
因みにレヴィたちがいるブルヘンド王国では科学技術は軽んじられており、魔法と魔導機が主流である。
以上で大まかな解説は終了。
場面は戻って、レヴィに声を掛けてきたガンマン風の女性はおもむろに懐から薔薇を取り出した。
「さっき聞いたのだけれど、君……男の子なんだって?」
「そうですけど」
「ふふ。天というものは何と粋な事をしてくれるんだろうね、こんなに可愛い子を少年という性別に産まれさせてくれるだなんて……これが天の恵みというやつなのかな?」
髪を掻き上げて薔薇を口に咥えて流し目のウインクまでかましてきた。いちいちする事がキザったらしい女性である。
「君の名前を聞いても良いかな?」
「え、その……レヴィです。レヴィ・ベルラと言いますけど」
「レヴィ、か。ふふふ、何てポエミィなネーミングなんだろう。まさに花のように可憐な君にピッタリな名前だね」
「はぁ……そうですか(めんどくさそうな奴に目ぇ付けられちまったな)」
「あぁ、私とした事が名乗りを忘れていたね。私はB級冒険者のクラウネ・エストーラだ。親しい人にはエストと呼ばれているよ……そう君のように綺麗な子にね♪」
至近距離にまで近付かれて、然り気無く壁ドンまでされてしまった。熱っぽい表情から察するに間違いなく口説かれている。
レヴィは表面上は戸惑ってる感じを装って、エストーラという女性の品定めをしていた。
(見た目は……まぁ悪くねーなぁ。中性的な顔で言動はキザな男風だけど、よくよく見てみりゃあ、出るところは出てる体つきだし抱きがいはありそうだな……性格はタイプじゃねーけど、たまにはこういう女を抱くのも悪かねーし)
エストーラとしては好みの少年にアプローチを掛けてるつもりであろうが、レヴィからしてみればこんな歯の浮くような台詞を言われても何もときめくものなど無い。寧ろ、どうやって抱いてやろうかという事だけ考えている。
しかし、それを黙って見ていない者がいた。
「おい、そこのキザ女。レヴィから離れて貰おうか」
言わずもがなライラットである。エストーラの肩を掴んで引き離し、レヴィを背にして向き合った。別に不貞な輩から守ってあげるという事は欠片も無く、被害者を出させない為の行動だったがエストーラからしてみればナンパの邪魔をされた無粋な相手という認識である。
「誰だい君は?私は今、その子と話をしていただけなんだけどね」
「私はこの子の……付き添いだ。特に用が無いのなら、どっかに行っていろ」
「用ならあるさ。レヴィ君と恋を育みたいという崇高な目的がね……君こそ引っ込んでいなよ、図体もガタイもでかい女は見ていて生理的に気持ち悪くなってくるからさ」
体格と身長に勝るライラットを前にしても、優雅なスタイルを崩さずに侮蔑の言葉まで投げ掛けてくる。
それにカチンときたライラットも意趣返しをした。
「奇遇だな。私もお前みたいなモヤシ女はヘドが出るほど嫌いだ、銃なんていう臆病者が使う物を持ってるような冒険者は特にな。何なら歌劇団にでも転職したらどうだ?見映えだけは立派だからな」
「はっはっは、なかなか面白いジョークセンスじゃないか……眉間に弾でも撃ち込んであげようか?そうしたら少しは頭も冷えるだろう、昇った血が流れるからね」
ホルスターに提げた短銃……拳銃に手を掛けた瞬間にライラットが動いた。
戦斧でなく太股のホルダーからナイフを抜いて、エストーラの首筋目掛けて振り上げた。時間にしてほんの一秒未満だったが、ナイフの歯はピタリと皮を切る手前で止まっていた。その間のエストーラが何のアクションも起こせなかったのを見てから、ライラットが得意気に語る。
「ふん……銃は確かに強いだろうがこの距離ならナイフの方が遥かに速い。要は抜かせて撃たせなければそれで片が着くんだからな」
「なるほど片が着く、か……ならば、今はおあいこと言ったところかな?」
だが、エストーラの方は余裕な態度を崩していなかった。それにライラットは何か引っ掛かった。
「おあいことは何の話だ?」
「……下をよく見てごらんよ」
「何?……うっ!」
言われて下を見たライラットはたじろいだ。エストーラの左手に握られた拳銃の銃口が己の腹に突き付けられていたのだ。
ここでライラットは自分の迂闊さに気づく。両方に提げられてるのに片手の方にしか気を配ってなかったのを。
「君は最初に手を掛けた右手の方ばかりに注意し過ぎだよ。まぁ、それでも今の状態じゃお互いに相討ち止まりだけれどね……因みに私の得意技は早撃ちだっていう事も言っておこうか」
エストーラが突き付けていた拳銃を収めて、ライラットもナイフを引っ込めた。周りでは他の冒険者たちがざわめいているが、エストーラはそんな群衆を一瞥してレヴィに熱っぽい目を向ける。
「とんだ邪魔が入ったから興が冷めちゃったけど、諦めた訳じゃないよ。口説き落とすのはまた次の機会にまで取っておく事にするよ。最高の果実は後々で食べた方が宜しいからね……それではグッバイ♪」
最後までキザな態度を崩さずに去っていくエストーラ。それを見送るライラットは忌々しげだったが、レヴィの方はニヤニヤと締まりのない顔でいる。
「……何なんだその顔は。まさかあいつを狙いに定めたのか」
「まぁ今は決めかねてるとこだけどよ……なかなか良いケツしてっから、見応えがあってな。ほんと良い形してんなぁ、あいつ」
レヴィの視線の先にはエストーラの後ろ姿があるが、特に注目してるのがショートパンツからはみ出た尻肉である。なかなかに脂の乗った安産型で、レヴィは舌舐めずりしてエストーラのお尻を眺めていたのだ。
「こ、こんのっ……節操無しっ!」
「おっと」
拳骨を喰らわせようとしたが上手く避けられてしまい、ライラットがどうしようもない怒りを滾らせる中でレヴィが一枚の依頼を見せてきた。
「何だそれは?」
「やる気は無かったんだけどよ、面白そうなもんがあったからな……上手くいきゃあ、ガッポリ稼げるかと思ってよ」
レヴィが手にした依頼……それはこの街の領主直々のものだった。
そう、この街で不可思議な盗難事件を起こしているバンディット・ゴーストを迎え撃つ冒険者を集う為のものだった。
エストーラのイメージは男装がお似合いな宝塚風キャラです。今後もストーリーに絡んできます。