腹黒少年は年上をコキ使う
第一章のお話はこちらとなります。
さて、めでたく(?)レヴィの愛人としての新たな生活が始まったライラット。
当面の目的地はレヴィ曰く西方面のどっかの街というざっくりしすぎたものだったが、そもそも当てなど無い旅なのでそれに関しては何の不満も無い。
ライラットのすべき事は、この表面上は純朴な性格の少年を気取ってる性欲魔神の手綱を取ることにあるのだから。
隣を歩くレヴィを見やりながら気を引き締めるライラット。であるが、実はちょっとばかりドキドキとしている。今までの愛嬌がある少年の顔でなく、今は裏の顔を出しているのだがそうなっているとやけに大人びた雰囲気を醸し出してるのだ。とても十五歳の顔つきとは思えなくて、そのギャップ差に慣れない事もあった。
「おい」
「な、何だ?」
「さっきから熱い視線送るのは構わねーけど、そういう事がしてーなら夜まで待てよな」
「ば、馬鹿ぁっ!そ、そんな理由で見てるかっ、欲情者!」
ライラットの視線をそんな風に解釈してきて、小憎らしい事にウインクまでかましてきた。顔面に遠慮無しストレートを叩き込みたくなってくる。
「そ、そうだ、気になってる事がある。私に出会った時にチンピラに絡まれていたよな。あれはまさか示し合わせた上の演技か?」
「あぁ?そんな小芝居なんて面倒だしやらねーよ。ありゃあマジに絡まれてただけだ。こちとら早いとこ換金してーのに無駄な時間を取られてほんとイライラしたぜ、人目が無いとこだったらさっさとぶっ飛ばしたかったんだけどよ」
「……その細腕でどうぶっ飛ばすつもりだ」
さりげなくツッコミを入れた。事実、レヴィの腕は少年としても見るからに細い。とても人を殴り飛ばせるとは到底思えない。
「あぁ?そんぐらい軽く……いや別にわざわざ言う事もねーか」
「な、何だ?何を言う必要が無いんだ」
「何でもねーよ。その時になったら教えてやるし見せてやるからよ」
はぐらかされた気がするが、それ以上は答えようとせずライラットの質問をのらりくらりとした曖昧な返事でお茶を濁した。
言いかけた事が何だったのか、気になるところではあるが本人が答えようとしてくれないならば聞いても仕方ないので一旦保留する事にした。
と、そこでレヴィのお腹が腹の虫を鳴かせた。
「……腹減ってきちまったなぁ。何か食い物とか無かったっけかなぁ?」
ライラットに意味ありげな視線を送ってきてそう言う。食べ物の催促をしてるのは明らかだった。渋々ながら、最低限に纏めて持ってきた荷の中から保存食の類いを取り出す。
「干し肉ならあるが?」
「……そーいうんじゃなくて新鮮な肉が食いてーんだよなぁ。ちょっと道を外れれば森があるし、適当な獲物ぐらい居るかもしんねーよなぁ……誰か捕ってきてくんねーかなぁ?例えば、俺の横にいる筋肉女とかよぉ?」
「回りくどく言ってないで直球で言えっ!私に狩りをしてこいというのだろうっ」
「何だ、分かってんじゃねーか♪」
もったいつける言い方に堪らずに叫ぶと言質は取ったといわんばかりに喜びながら、木の幹を背もたれにしてくつろぎ始めた。
「俺って、グルメだからさ。そんなショボい乾燥肉なんかで満たされやしねーの。つー訳で、上等な肉を持ってこいよな。ほら、俺が腹空かせてんだからさっさと行って捕って料理まで済ませろよ」
「お前っ、態度がでかすぎるぞ。私はお前の小間使いなんかじゃっ……」
「んじゃ、それまで俺は寝てるからな。帰ってきたら起こせよ……ZZZ」
ものの二秒で眠りに入ってしまった。言うだけ言って完全に人任せにして自分は寝るだけという横着で怠惰な姿に怒りが込み上げてくるのを感じる。
「くっ、叩き起こしてやりたい……だがここで揉めていても仕方ないし……はぁ、くそっ、何で私がこいつなんかの為に食材の調達をしなければならないんだ、ブツブツ……」
愚痴を溢しつつ、ライラットは不満が残る顔で渋々と森の方へと歩いていった。必然的に無防備に寝てるレヴィを置き去りにする訳であったが、別に変な目に合ってもそれはレヴィのせいだという事にして特に気にしない事にした。
ふと、実は狸寝入りをしていて自分が離れたところで逃げる気なのではと勘ぐったがそんな気があるのなら最初から逃亡するのを選ぶ筈である。わざわざ、自分を愛人指定させて同行を許すなんてのはしないだろう。
とは言え、絶対に違うとも言いきれない。何せあの性格を目の当たりにしては、疑ってしまうのも無理からぬ話である。
(狩りに行くと見せかけて、コッソリ様子を窺ってみるか)
レヴィの方からは目につかず、こちらからは動向が見える場所を探し当ててライラットはその場で観察もとい監視を行った……。
~10分後~
「ZZZ……ZZZ……」
~20分後~
「ZZZ……ZZZ……」
~40分後~
「ZZZ……ZZZ……」
ずっと寝てばかりだった。肘を枕代わりに寝こけた姿勢から微動だにせずにいるところに無駄な称賛すら送りたくなってくる。
そしてその間の自分はといえば、呑気に寝入ってるところをただ見てるだけというだけで時間の浪費も甚だしかった。
「……馬鹿らしくなってきた。もう適当な奴を仕留めて済ませてこよう」
踵を返して、ライラットは浅い森にへと食材の調達に向かった。
……あと10分だけでも待っていれば、レヴィが話さなかったあの事について知られる良い機会が訪れたのであるが本人には預かり知らない事であった。