騎士ハンクス
何度目かの鍔迫り合い、その最中に魔王の赤い瞳が、兜の奥からハンクスを睨みつけた。
「貴様、どういうつもりだ?」
ハンクスは細く息を吐き出し、その問いには答えなかった。
「あからさまに手を抜きおって。さりとて通すつもりもないと見えた。どういうつもりだ? 時間を稼いでなんとする?」
「……さぁな」
ぶっきらぼうに返して、力任せに鍔迫り合いをいなした。そして息つく間もない斬り合いを再開する。
細かな切り傷が秒速でハンクスに刻まれていく。一方の魔王のほうは、常に無傷と言っても過言ではない状態だった。漆黒の鎧が削られはするものの、その肌に血がにじむことはなく、鎧も瞬く間に修復されるのである。
こんなのジリ貧もいいところだ。
しかしハンクスは、剣先の鈍りを直そうとは思っていなかった。
(どういうつもりか、なんて決まっている。……時間を稼いでなんとするのか、それはこっちが聞きたいけどな)
ハンクスの心は決まっていた。セイリュウがこの男を“親友”と呼んだあの瞬間に。
(打開策がないのは厳しい――)
「セイリュウ様?!」
「一体何を」
「お考えで?!」
神官たちの慌てふためいた声が耳の端に届いた。何が起きたのか、振り返って確認するような余裕がハンクスにはない。
「セイ兄! ダメやで馬鹿なこと考えたら!」
「セイリュウちゃん! やめなさい!」
馬鹿なこと。セイリュウが考えそうな馬鹿なこと。きっとそれは、過去の聖女が考えたことと同じだろう。ああいうお人好しが考えることなど大抵決まっている。
「チッ、どけ!」
「させるか!」
無理やり押しのけようとしてきた魔王を押しとどめて、再び鍔迫り合い。
「良いのか、騎士」
「……」
兜でその口元は見えないが、声音が嘲笑っていた。赤い瞳がゆらりと輝き、ハンクスの目を見据える。その声色も赤色も、不安を煽るような不吉な影をまとっていた。
「貴様の大切なヒジリオが、自死を選ぶぞ。止めなくて良いのか?」
「……」
「ほぅら、今にも――」
「黙れ」
一言で切り捨てて、ハンクスは手に力を込めた。
「セイリュウが自死を選ぶ? 何を見てそう言っている。貴様の目は節穴か」
わざわざ振り返って確認しなくとも分かっていた。神官もピットもベスターも、もう誰も騒いでいない。
つまりはそういうこと。
「俺は絶対に疑わない。――ちゃんと最後までセイリュウを守る」
「ハンクス!」
ほら見ろ、とハンクスはほくそ笑んで、相手の剣を弾き返した。
「斬ってくれ!」
「ああ!」
スローカーブで飛んできた物体を、ハンクスは魔王の頭上で真っ二つに割った。




