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 耳を疑う、とはまさにこのことだ。


「ちょ、待って……女神が亡くなったって……?」

「どういうことだ神官」

「女神様って死ぬとかそういうのあるの?」

「どないなっとんねやワレコラァッ!」


 思わず全員で詰め寄ると、神官たちは重たげに口を開いた。


「正確には、“この三年間で亡くなった”と言うべきですね……」

「女神様とて力を使い果たせば亡くなられます」

「聖女様の召喚が滞ったのがそもそもの原因です」


 三人は揃いの顔を揃ってしおれさせ、すっかりしょげかえっている。


「魔王の封印は、キッチリ二百年で解けるものでした」

「キッチリ二百年、というと、本当は今から三年前です」

「無論、僕らは女神様の仰せの通りに、三年前に聖女様をお呼びしました」

「ところが、何故か上手く呼べず……」

「聖女様がいない状態で封印が解けてしまったら、世界はおしまいです」

「そこで女神様は、その身を犠牲に、封印を強化したのです」

「とはいえ、一柱で一年が限界でした」

「二年目も聖女様は何故か呼べず……」

「女神様は再び、封印を上書きされました」

「三年目にしてようやく、ヒジリオ様、あなたを呼ぶことに成功したのです」


 そういえば、とずいぶん昔の記憶を掘り返す。


『三度目の正直と言ったのはどの口だ……っ!?』


 ハンクスは確かに、この場で彼らにそう聞いていた。めちゃくちゃ懐かしいな……。しかしあれ、そうか、なるほど、二度失敗していたからだったのか!


「今封印が機能しているのは、最後の女神様のおかげなのです」

「そういうわけですので、もう女神様はいらっしゃらないのです……」


 しょぼんとうつむく神官たち。


「なら、俺たちが普通に魔王を倒せばいいんじゃないか?」


 ハンクスがなんてことないように言った。確かに! いよっ、さっすがハンクス! お前がそう言うとマジで簡単にできそうな気がしてくるから最高だよな! ラスボス戦とは思えない気軽さ!


「せやなぁ。それがいっちゃん手っ取り早いんと違う?」

「そうね、それが出来るなら、ね」


 含みのあるあいづちを打ったのはベスターだ。当然のように集まった視線を受けて、彼は苦笑する。


「聞いたことがあるのよ。女神様も魔王も、ただ意思を持っただけの力の塊で、実体を持たない、って。だから、どっちもアタシたちに直接干渉することは出来なくて、逆にアタシたちも向こうには触れない。そのせいで、最初の聖女様は魂を使って封印することしか出来なかった、ってね。合ってる、神官ちゃん?」

「語り部様の語りに間違いはないでしょう」

「実際僕らも女神様のお姿を見たことはありませんし」

「魔王は暗雲である、と伝承にもありますから」

「え……それじゃあ……」


 詰んだのでは?

 せっかく見えたと思った光明が遠退いていく。

 俺があからさまに曇った表情になったからだろう、神官たちはわたわたと言い募った。


「で、ですが、ヒジリオ様をそのままにしておくと封印される可能性が残りますので!」

「魔王は何らかの方法でヒジリオ様を殺そうとしてくるはずです!」

「魔王も魔物もヒジリオ様には触れられませんから、」

「代理となりうる人間を――」


 しょうか、まで聞こえて、あとは突然の地響きに掻き消された。


「ひゃあっ!」

「うわっ、地震だ」


 しがみついてきたピットを受け止めて、俺はぼんやりと(震度三くらいかなぁ)と思った。わりと慣れているとはいえ怖いものは怖い。本能的な恐怖というやつがある。この神殿崩れたりしないだろうな……上から降ってくるものはなさそうだからそこはいいけど。

 なんて思って空を見上げ――そこに真っ黒い雲が不自然なスピードで湧いてきていることに気付く。


「えーと……もしかしてさ」

「はい」

「時間切れです」

「タイム・イズ・オーバーです」


 魔王の復活です――!


 神官たちの悲鳴のような声にかぶせて、漆黒の雷が神殿に落ちた。


 

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