58 ジャグリングのプロに、俺はなれそうもない。
手が滑って掴み損ねて、ナイフがお手玉みたいに!
――いやこんな危険なお手玉あってたまるか!!
「うわっ、あっ、ちょあっ、ぶっ、ぎゃああああああっ!」
あわや刺さる、というところで俺は本能的に身を捻って――その拍子に石壇から落ちた。
「う゛っ……! うおおおおおお……っ!」
石の床に頭をしたたかにぶつけた。いっ……てぇ……ナイフより先にこれで死ぬんでは……?
「あーあーあーあー」
「何やってるんですかヒジリオ様」
「まったく、仕方のないお人ですねぇ」
呆れ返った三つ子の声が聞こえてくるが、俺はただもがくだけだ。だって……だって、鎖のせいで、足が上手く動かせないし……ついでに、布も絡まって……。
「あられもない姿ってこういうのを言うんでしょうね……」
「残念ここに極まれり、って感じですね……」
「面白いからもうちょっと放っておきます?」
「ふざっけんなよお前らぁっ!」
さっきは出なかった罵倒がいともたやすく出てきた。やっぱ上下逆さまにした方が言葉も吐き出しやすいのかな……? なんて思っている余裕も、ない! あ、頭に血が上って、気持ち悪い! 言葉以外のもろもろも出てきそう!
「た、たす……助け……」
「まったく、仕方がないですねぇ」
溜め息。それから一人が近寄ってくる。
そいつが布越しに俺の腕を取った――瞬間、俺はこのごたごたですっかり忘れていた打開策を雷撃に撃たれたみたいに思い出した――そうだった! 勝ち誇って完全に油断しきっている、今なら!
俺は布の隙間から神官の顔を確認して、すばやく手を伸ばした。
「えいっ」
「ひゃっ、あっ……!」
頬を触られた一人はぴしりと固まった。
残りの二人が「ああっ!」「しまったっ!」と悲鳴みたいな声を上げて、駆け寄ってくる。
「ハルモニ、ハルモニ! しっかりするんだ!」
「負けちゃ駄目だ! 気を確かに保って!」
「あ、あ……僕……僕……ヒジリオ様……あ、ああ……」
「「ハルモニぃぃー!!!」」
彫像のように固まったままぽろぽろと涙をこぼす一人――ハルモニ? を両側から抱き締めて、残りの二人も涙声だ。
「ヒジリオ様のひとでなし!」
「ハルモニが良心の呵責で死んでもいいのか!」
「そーだそーだ! なんてひどいお人なんだ!」
「神官と聖女はお触り禁止だったのに!」
「い、イータ……ロブ……ぼ、僕は、平気だよ……? それ、それより……ひ、ヒジリオ様に、何か、服……」
「「ハルモニぃぃぃぃぃぃーっっっ!!!」」
茶番のようでいて真剣な(のだと思われる)三人の後ろで、のそりと起き上がったピットとベスターが、せーので結界をぶち破った。
「「あ」」
と、二人が我に返った時にはもう遅い。
俺の足の鎖をハンクスが一振りで断ち切り、ベスターが二人の首根っこを引っ掴んで、ピットがその鼻先に杖を突きつけていた。
「形勢逆転だな、クソ神官ども」
「好き勝手やってくれたじゃなぁい? お返しは入念にしてあげるわぁ」
「覚悟しぃや、チビ! チィイイイイビッ!」
ああ、いつもの三人だ。いつもの感じだ。どうにか死なずに済んだし、初代国王が言ってたこともできた……!
ほっとしたらまた涙が滲んできた。寒いし。いや寒いし!
「セイリュウ」
思わずうずくまっていた俺に、ふわりと、温かくて柔らかい布がかぶせられた。
いつかと同じ――これは、ハンクスが使ってるマントだ。
「遅くなって悪かった。結局、俺たちでは助けきれなかったし……すまない」
俺はうつむいたまま黙って首を振った。
「そんなことない。来てくれてありがとう。それでさ、ハンクス、あの――」
意を決して顔を上げた俺を、ハンクスは片手で制した。
「まずは服を着ろ。話はそれからだ」
「……ごもっとも」
俺はいそいそと替えの服に袖を通した。やっぱ人間、文明を持つものらしく、外ではちゃんと服着てないと駄目だよなぁ!




