55 道理で飲み会やるたび周りの目が変わっていったわけだ……。
辺りは真っ暗。いやちょっと明るくなり始めているような感じもあるから、夜明け直前だろう。
吹き付ける風が冷たい。外だ。外。
目を凝らすと、薄闇の遠く向こうに白亜の城が見えた。
どうやら無断で城を飛び出してきたらしい……え、なんで?
「なぁ、あの、ベスター?」
「疑問は分かるけど、今はちょぉっと静かにしててね、セイリュウちゃん」
はーい。オカンの命令には逆らえない。
俺は大人しく口を閉じた。
三人と荷物(※俺)はあっという間に城下町を抜けた。町を囲う城壁はさらりと飛び越えてしまって、俺が悲鳴を必死に飲み込んだのは言うまでもない。あの高さを平然と登るな、降りるな! ゲームでだってこの手のやつは怖くて怖くて仕方ないのに!
それから街道の脇をしばらく走り、森に入る。
止まったときには、夜は完全に明けていた。
「はぁいお疲れさま」
ようやく下ろしてもらって、俺は座り込みながらほっと溜め息をついた。いやもう運ばれるのには慣れたけどさ。でもやっぱりほぼ全力疾走されるとけっこうな負担だ。
「寒くないか? 火は起こせないから、これで我慢してくれ」
ハンクスが上着を貸してくれる。寒かったので素直に受け取って羽織る。
「火は起こせない、って?」
口にした疑問に、三人はちらりと互いの顔を見遣った。誰が説明する? って探り合っている顔だ。
真っ先に折れたのはベスター。
「つまりね、セイリュウちゃん。アタシたちは今、“世界を救うヒジリオ様”を誘拐してきたってわけ」
「はぁ……はぁっ?!」
俺を誘拐?! それって――
「死なせたくないのよ、セイリュウちゃんを」
「せやでセイにぃ!」
ピットが腕に取りすがるようにくっ付いてきた。走ったせいか、寒いのか、頬を真っ赤にして言い募る。
「セイにぃひとりに全部しょわせてそれでしまいやなんておかしいやろ! 聖女の義務だか何だか知らんけどな、そんなん絶対におかしい! ボクら、ゆうてもボクはほんまちょっとしか一緒にいてへんけどな、それでもな、ボクらはセイにぃを死なすために守ってたわけちゃうで!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
放っておくといつまでもしゃべり続けそうだったので、俺は慌てて待ったをかけた。ピットがきゅっと口をつぐむ。
「ええと……なんで、知ってんの?」
「あ、ほんまに覚えてへんのやね」
「何を?」
ピットは急に同情するような目付きになって、俺の肩に手を置いた。
「セイにぃ、お酒はほどほどにしといたほうがええで」
「え?」
「三日前やったっけ、みんなで夕飯食べたやろ? そん時になセイにぃ、お酒ぎょうさん飲んで、っちゅうかハンにぃとベスにぃが飲ませたんやけど、そんでべろべろに酔っ払って、全部自分からしゃべってくれはったよ?」
「はぁあっ?!」
「お酒入るとしゃべるタイプなんやなぁ、セイにぃ」
俺は開けた口を塞げなかった。マジか……え、そうか、あの時か! っつーか、え? 俺、酒入るとしゃべるタイプなの……? 酒は吐かない代わりに本音を吐いてたってわけ? 今まで誰も教えてくれなかったじゃん……マジで……?
(え、じゃあ、俺、最初の騎士団の砦でも同じことして……だから、ハンクスはわざと……?)
嘘だと思いたかった。
でもベスターは神妙に頷いているし、ハンクスは――
――息を呑むほど鮮やかな緑の瞳が、朝日を反射して、凶器のように鋭く光っている。
「他の世界から生贄を呼ばなければ存在できない世界など、滅びた方がマシだ」
吐き捨てるような言葉に、俺は背筋がぞくりとするのを感じた。借りた上着を握りしめる。
真剣。
それは文字通り、刃と同じくらい鋭く、重たい本気だった。
「追手が来る前に移動するぞ。魔法は?」
「大丈夫やで!」
「痕跡の始末は頼む」
「ええ、任せてちょうだい」
ハンクスの指示に二人が従う。みんなはすっかり覚悟を揃えてしまったらしい。
(マズったな……!)
これじゃあ、せっかく見つけた打開策が活かせないかもしれない。
ハンクスが手を差し出す。
「行くぞ、セイリュウ」
「待って」
「待たない」
問答無用で腕を掴まれた。まぁそうですよねー! とか思ってる場合じゃねぇ!
「違うって、話を聞いてくれ!」
「文句なら後でいくらでも聞いてやる」
「そうじゃない、実は」
死ななくても済む方法が見つかった――
――と、言おうとした、その時だった。
「まぁこうなるって分かってたんですけどね」
「だからこそこうして付いてきてたんですが」
「さっすが僕ら、天才神官!」
「「いぇーい!」」
久々に聞く、煽り性能抜群の声。
そしてその三重奏が。
「「『聖なるものは聖なる場所へ、余分は一切そぎ落とし、我らが女神のお膝元へ、一足飛びに空をゆけ!』」」
宣言。
した瞬間、俺の視界は真っ白に閉ざされて――




