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54 病は気からといいますが


 うっしゃあっ! と諸手を上げて喜んだのもつかの間のこと。


「マジかぁ……」


 二日かけてすべてを読んで、俺は溜め息をついた。


(光明が見えたのは救いだけど……救いだけど!)


 あの神官どもに触ってオカンにしろ、って、けっこうハードル高くないか?!

 というか普通に嫌だ!


(でも、それが唯一女神を魔王へけしかける道なんだよな……そうか。だからアイツら、常にきっちり手袋してたし、あんまり俺に近寄ってこなかったのか……)


 どこまでも巧妙な連中である。あのクソチビ神官どもめ。


(どうするかな……)


 女神と魔王を相討ちさせろ、なんて話も、和解させろ、なんて話も、どっちも難易度ベリーハードな感じがしてならない。代理人を立てて戦う女神をどうやって戦場に引っ張り出せって言うんだよ。そのへんは神官どもを落とせばいいのか?


「初代国王ぉ……言葉が足りねぇんだよ……」


 なんて、彼を恨んでも仕方がない。糸口が見えただけでも感謝すべきだ。


 俺はすっかり凝り固まった背筋を伸ばして、机上のランプを消した。肩の荷はまだ下りていないけれど、いくぶんか軽くなったような気がしている。


 自分は死なず、みんなも死なせない道がある。

 そのことがどんなに嬉しいことか。


(今度こそ、みんなに相談しよう)


 女神を殺す、あるいは魔王を殺さない、なんて言い出したら驚くかもしれないけれど。……いや絶対驚くな。驚くに決まってる。

 でも、大丈夫。みんなならきっちり聞いてくれる。その上で、可能か不可能か判断してくれる。


「よし、戻るか」


 安心したらお腹が空いた。ここ最近で一番の空腹だ。やっぱ精神が健全になると体も健康になるもんだよな!

 俺は意気揚々と書斎を出て、食堂に向かった。



 ついでにみんなと話せたら、なんて思っていたのに、誰とも会えなかった。ちょっと悲しい。


(そういや、ここ数日会ってないな)


 飲み過ぎた翌日、ピットに顔色が悪いなと言われたのが最後、三人の内誰とも会っていない。


(全然気にしてなかった……)


 そんなに追い詰められていたのか、と思うと自分の視野の狭さに嫌気がさした。

 というか絶対バレてたな。間違いない。

 

 困った、と思いつつパンの美味しさに舌鼓を打つ。いやマジで美味いなこのパン。保存を最優先にした硬いパンと違って柔らかくて、バターのような香りがして、ほんのり温かい。ずっと食べてたと思うんだけど、全然味わっていなかった。いぇー文明最高。


「……」


 出来るだけのたのたと食べていたのに、結局誰も来なかった。


(一緒に飯を食おうって言ったのはハンクスのくせに)


 ちえっ。俺は心中で舌を打って、席を立った。

 もう寝てしまおう。久々に英文なんかを読んで疲れたし。話したいことがあるときに限って誰もいないし。


 ふてくされてベッドに入る。ふかふかのベッドは安らかな眠りへ速やかに俺を案内してくれ――




 ――謎の振動で目を覚ました。

 地震とかじゃない。あの腹の底から来るような不吉な感じとは違う。

 この感じは、こちらの世界へ来てから随分と慣れ親しんだ……


「……なに、してんの? 三人とも」

「しぃっ。しゃべったらアカンで、セイにぃ」


 ピットが俺の鼻先に人差し指を突きつけた。


「思ったよりも早く起きたわね」

「お前の運び方が乱雑だからじゃないか」

「まっ、失礼しちゃう!」


 二人の囁き声。

 ようやく状況を正確に理解する。


 俺はベスターに担がれて、どこかへ運ばれている最中だった。




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