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48 浪漫は簡単に打ち砕かれる

 


 通されたのは書斎のような場所だった。

 座るのかと思ったら、王様はそのまま部屋の一番奥に行き、本棚をなにやら触っている。


 すると、ふいにバゴンッと何かが外れるような音がして、


「おうわ……」


 本棚の一部が床の下に沈み、薄暗い通路が現れた。


(すっっっげぇ! 隠し通路だ! あのゲームみてぇ!)


 そうそう、あのガンアクション&謎解きゲームにあったのだ、こういうギミック。いやほんとこういうの最高だよな、浪漫だ浪漫。手順を変えると別の通路が開いたりして、その二つ目の道を見つけた時は楠坂と二人、飛び上がって喜んだっけ――


「こちらだ。来たまえ」

「あっ、はい!」


 王様に従って通路に入る。

 通路は暗くてひんやりしていて、ちょっとカビ臭かった。どこからともなく水の跳ねるような音が聞こえてくるのに、足元はまったく濡れていない。ブーツの底はカツンカツンと乾いた音を立てる。


 先が明るくなってきた。

 光に吸い寄せられるようにして通路を抜ける。


 俺は感嘆の溜め息をついた。


 小さな庭、あるいは部屋。どちらともつかないのは、どちらでもあるからだった。

 円形のスペースの真ん中に机があって、ランプと本が置かれている辺りは部屋らしい。小さな本棚がいくつか並んでいて、そこには朽ちかけた本が横倒しになっていた。

 けれど床は土で、柔らかな草に覆われている。シロツメクサみたいな小さな花が点々と咲いていて、本棚にも机や椅子の脚にも蔦が絡まっていた。

 天井は透けている。どういう仕組みなのか分からないが、水が頭上を流れていて、そこを透過した日の光がきらきらと降り注いでいた。


「これ、噴水?」

「左様。この場は庭園の真下に当たる」


 秘密の部屋は本当にあったんだ!

 俺は爆上がりしたテンションを必死に押し殺す。そうでないと小学生みたいに走り回ってぴょんぴょんしてしまいそうなのだ。幸い、王様は俺の挙動不審には気が付いていない様子。助かった……。

 王様は机の横まで進み出た。水を通った日光が金髪をいっそう神々しく見せる。やっべ、俺は行かない方がいいなコレ。ゲームのムービーみたいだし。


「原初の聖女に関する伝説を綴った本だ。これを読み、魔王の封じ方を知ってくれ」

「あ、はい。わかりました」

「私は書斎にいる。通路は開けておくから、ゆっくり読むといい。暗くなったらランプを使ってくれ」


 それだけ言って、王様はくるりと戻ってきた。あとは何も言わずに、俺の脇を抜けて行ってしまう。

 なんっか無愛想な人だな……あとやっぱり、なんか可哀想なものを見るような目をしていた気がする。気のせいだと思うけど。


(ま、RPGでよくある王様って感じだなー)


 思いつつ、俺は机に近付いた。


 机の上には一冊の古びた本。表紙には何も書かれていない。壊れたりしないだろうか、と恐る恐る表紙をめくったけれど、案外物はしっかりしていて、そう簡単には壊れそうになかった。安心。

 中には手書きと思われる文字が並んでいる。本っていうよりかノートっぽいな。でも字はすごく綺麗で読みやすい。


 俺は蔦の葉に覆われた椅子に座って(現代っ子だけどこの程度の自然にはすっかり慣れてしまった。野宿する日々が続くといちいち気にしてられないからな……)、文章に目を走らせた。


『これを書く私は、世界を救った勇者、すなわち初代国王の息子である』


 漢字の間違いがたくさんあったけれど、気にしない。俺だって今手書きで書けって言われたらこれぐらいは絶対に間違える自信がある。


『二十年前まで、この大陸は魔王と魔物たちによって蹂躙されていた。

 ここでは、三人の女神によって異世界より来た我が父、そして――

 ――その身命を文字通り捧げて、魔王を封じ込めた聖女について、嘘偽りなく書き記す』


「……は?」


 俺は今すぐ辞書を引きたくなった。文字通りって……え、文字通り?

 つまり……原初の聖女は、魔王を封じるために、死んだって言うのか?


 パッと理解できなかった。けれど、それなら、そしそれが本当なら、あの“可哀想なものを見る目”にも説明が付く。


 ってことは、俺、


「俺……魔王を封じるために、死ななきゃいけないのか――?」



 

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