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42 混ぜるな危険。

 

 お茶をかけた従者さんは泣きながら何度も謝った。俺は何度も首を振って、違う、違うよ、あなたは何も悪くない、と伝えた。――伝えたっけ? 言葉にしたかどうかは定かでない。記憶が何だか曖昧で、何もかもがぼんやりとしていた。

 湯浴みを終えて、着替えさせてもらって、ベッドに座る。


 誰かの声が、シュウシンノオジカンデス、と言った。俺はその言葉の意味が分からなかった。


(三人が……ハンクスとベスターとピットが、殺される……俺のせいで……)


 なんでこんなことになったんだっけ? ――それも俺のせいだ。無自覚に握手をしたから。


 アカリヲケシマスヨ、と誰かの声。


(俺のせいで……三人が……ハンクスが……なんでこんなことに……俺のせいだ……)


 同じことをずーっとぐるぐると考え続けてしまう。ハムスターが回す輪っかみたいに、ぐるぐる、ぐるぐる。あれはハムスターの運動になるけれど、こっちは何のためにもならない。それでもやめられない。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……ハンクスが殺される、ベスターが殺される、ピットが殺される……ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……俺のせいで、みんな俺のせいで……――


 突然ガンッとすねを蹴られて、俺はランニングホイールから放り出された。


「おいこら腰抜け野郎」

「……ええと……」


 目の前ではショッキングピンクのゴリラが仁王立ちしていた。


「リーナ、さん」

「さん、なんていらねぇよ、今さら」


 リーナは大きく溜め息をついて、俺の胸倉を掴んだ。


「ええか、規則正しく生活しろ。今はほんまに、辛抱しろ。ここで寝る時間と起きる時間がずれてみぃ、アイツに付け入る隙を与えてどうすんねん!」

「……でも……」

「うるさい。いいから言われた通りにせぇアホンダラ」


 ひょいと持ち上げられて、ベッドの中に放り込まれる。問答無用だった。

 リーナが顔を寄せてきた。ベスターと同じ、銀色のタレ目。それが妖しく煌めいて、鋭い囁きが届く。


「……クソ兄貴どものことはこっちでなんとかしたるさかい、黙って囮になっとけ」

「リーナ」

「おやすみなさいませ、ヒジリオ様」


 急にリーナは取り繕った敬語で大声を出した。そして灯りを落とし、さっさと出ていってしまう。

 暗闇に沈んだ部屋で、俺はゆっくりと寝返りを打った。

 いつものように、柔らかな香りのアロマ(ってこっちでもそう呼ぶのだろうか?)が室内を満たしている。安眠効果があるとかなんとか。


(……ハンクス。ベスター。ピット……)


 不安は消えていない。けれど。


(信じるからな、リーナ……!)


 俺はぎゅっと目を瞑って、祈るように手を組み合わせた。今の俺に出来ることはそれしかない。リーナならなんか上手い具合にやってくれそうだし。なにせあのハンクスを打ち負かした女だ、頼りになることこの上ない。しかも汚い手を使わせたら右に出る者はいないとピットも言っていた。大丈夫、信じられる、信じる!


 信仰はこういうところから生じるのかもしれない、なんてよく分からないことを考えていたら、いつの間にか眠りに入っていた。






 ――悪しき王様に囚われてしまったヒジリオ一行。


「ヒジリオ様に近付く悪い虫は、潰すほかあらしまへんなぁ」


 王様の横暴は止まらず、ハンクスたちに処刑の刃が迫る。

 ヒジリオはただただ、塔の頂上で泣き暮らすことしか出来ない。


「どうして……どうしてこんなことになってしまったの……? 俺は世界を救わなきゃいけないのに……どうして、陛下は分かってくれないの……? 俺をこんなところに閉じ込めて……みんなを殺すなんて! 誰か……誰か助けて……お願い……っ!」


 そこに現れた新たなヒーロー・リーナ。


「ウチに任しとき。なんとかしたるさかい。……せやから、もう泣くな」

「~~~~セイリュウちゃん」

「全部終わったら、一緒に旅しよな。ほな、行くで!」

「起きてチョウダイ、セイリュウちゃん!」


 リーナは死亡フラグを立てながら猛進する。

 だがその前に立ちはだかる、王様の権力。俺たちは分断されて、リーナは一人敵地に。


「くっ、ここまでか……だが、ウチの役割は果たした」

「やっぱりこの香油が厄介ね……聞こえてるって信じてるわよ!」

「……リーナ……ごめん、俺のために……!」

「このまま逃げてもいいけど、そうしたらずーっとあの陛下に追われるわ」

「ええか、そのまま真っ直ぐ行け。振り返んな。扉の向こうでアイツらが待っとる」

「そうしないために、ちょーっと体を張ってほしいの」

「リーナも一緒に――」

「アホ! そしたら誰が連中を食い止めんねん!」


 リーナの決意は固かった。俺の声はもう届かない。

 最後に俺を抱き締める。


「ええんや。ウチのくそみたいな人生の最期が、アンタを守って終われるなら……」

「いい、ノルド陛下と一緒にこの塔から飛び降りるのよ」

「そんな、そん……え?」

「窓は椅子で叩き割れるわ。それが合図になるから……頑張って、セイリュウちゃん!」

「ウチの人生も、そう悪なかったなぁ……」

「……え?」


 え?




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