表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/73

38 生存本能だからな!

 

 俺を抱えて走るハンクスはまったく息を乱すことなく、すさまじいスピードであっさり森の外へと駆け出した。まだ町までは距離があるけれど、とりあえず地面は平らになって、見通しが良くなる。ハンクスのスピードが上がって、悪鬼どもを引き離しにかかった。


「キャシャシャシャシャシャッ!」

「ギャシャッ! ギャシシシシッ!」

「ギャーシュギャーシュッ!」


 ん? なんか話し合ってるみたいな雰囲気だな……。


 とか思いながら見ていたら、奴らは立ち止まった。諦めたのだろうか。


「ギャーシュ!」

「ギャーシュ!」


 あー、あれは、組体操だ。悪鬼たちはピラミッドを作り始めた。なっつかしいなぁ、俺ちょうど真ん中らへんに配置されて、けっこうきつかったんだよなぁ。

 止まった連中と走り続けるハンクスで、どんどん距離が開いていく。けれどまだ見えるのは、ピラミッドがそこそこの高さになって――


 ――次の瞬間、ピラミッドの倍くらいはある大きな鬼に変化したからだ。


 ……合体して大きくなるのって、ロボとスライムだけじゃないっけ……。


「ギャオォオオオオオオオスッ!」

「んぐっ!」

「うわっ!」


 大鬼の咆哮は音波というか衝撃波だった。それに背中を突き飛ばされるようにして、ハンクスが膝をつく。それでも俺を落とさなかったあたりすごいとしか言いようがない。

 だが、ハンクスはそこから動きを止めた。


「ハンクス? おい、大丈夫か?」


 見れば、額には大量の脂汗。まばたきを何度も繰り返して、歯を食いしばっている。

 ヤバい、何か知らんけど明らかにおかしい!


 腕から力が抜けて、俺は滑り落ちた。


「ハンクス!」

「……っ」

「? なんて?」


 何か言った。大鬼の足音と高笑いのせいで聞き取れなかったのだ。ああもううるさい!

 慌てて耳を近付ける。

 今度ははっきり聞き取れた。


「加護、を、くれ……」

「――了解!」


 ようやく俺に出来ることがやってきた!


「聖なる加護よ、頼む……俺の騎士を助けてくれ!」


 俺はつい癖で、神社での参拝みたいに両手を打ち鳴らしてから、ハンクスの額にそっと口付けをした。


「ギャシャシャシャアッ!」


 大鬼の勝ち誇ったような声がすぐ真上で響き、俺たち二人よりもなお太い棍棒が振り上げられた。

 だがその棍棒は地面を叩いただけ。


 再度俺を抱え上げ、余裕で離脱したハンクスがぼそりと教えてくれた。


「悪鬼の声には呪いがあるんだ。ヒジリオの加護であればきっと打ち消せるだろうと思って」

「なるほど」


 きっと、とか、だろう、っていう曖昧な表現がちょっとだけ嬉しかった。逃げろって言わなかったことも。俺はどうやら賭けるに値するらしい。


「だが、その場しのぎだ。少なくともやられることはないが……」


 ハンクスはぶん回された鬼の棍棒を軽々と避けながら、唇を噛んだ。


「このサイズを素手で倒すのは、さすがに厳しいな。街中に連れて行くわけにもいかないし……」

「大丈夫だよ、ハンクス」


 首を傾げたハンクス。

 俺は笑いかけた。


「ピットの魔法が俺にくっ付いてたんだろ? だったら――」

「セイリュウちゃん! ハンクスちゃん!」

「セイにぃー!!」


 ほら見ろ、やっぱり来てくれた。

 ピットが杖を振りまわし、女の幽霊みたいなのがぐるぐると鬼の周りを旋回する。ターゲットが俺たちから外れる。その隙にベスターの撃った矢が、鬼の手から棍棒を叩き落とした。


「本当、信頼できるいい仲間だよな」

「……そうだな」


 ハンクスは何とも言えない表情でわずかに頷いて、それからパッと進路を変えた。


「ベスター、セイリュウを頼む」

「ハァイ、アタシにお任せあれ~。ところでハンクスちゃん、ハイ、忘れ物」

「あ、ちょっと待ってベスター」


 俺と引き換えに差し出された忘れ物(・・・)を、俺はハンクスより先に掴んだ。

 地面に下ろしてもらって、剣を捧げ持つ。


「ワンパン、お願いします!」


 攻撃は最大の防御。ハンクスが怪我をする前に、この剣が敵を斬り伏せてくれるように。


 俺は柄にはめ込まれた小さな宝石にキスをして、それからハンクスに剣を差し出した。


「んじゃ、あとはよろしく!」

「……ああ。任せろ!」


 俺が差し出した剣をしっかりと掴んで、ハンクスは踵を返した。

 抜剣も、そのあとの斬撃も、俺の目ではとうてい追えなかった。ハンクスの姿は消えたように見えて、俺に分かるのは結果だけ。

 ベスターがひゅうと口笛を吹いた。


「吹っ切れたみたいねぇ。何か言ったのかしら?」

「いや?」


 大鬼は一瞬で寸断された。断末魔の叫びが夜明けの空に響き渡る。後で近隣住民に謝った方がいいかもしれない。こんな声で目を覚ましたらその日一日最悪の気分だろうから。俺たちは最高の気分だけどね。


 俺はゆったりと剣を納めて戻ってくるハンクスに手を振りながら、


「童貞のまま死ぬのは嫌だよなぁって話しただけ」


 と言った。

 ベスターは「真理ね……」と言いながら、しみじみと頷いた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

cont_access.php?citi_cont_id=366438141&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ