4 夢のようで夢だし夢じゃない。
俺、どこにでもいる社会人二年生!
二度目のゴールデンウィークをうっきうきで満喫していたら、突然白い煙が……!
気が付いたら……あれー、ここどこー?!
謎の神殿、大きなドラゴン……――ま、ま、まさか、
異世界!?
「せいじょさまー!」
「世界を救ってくださーい!」
「ま、やり方は知らないんですけどね!」
無責任な三つ子のチビ神官たちに翻弄される俺。
そこに現れたのは――
「おい、大丈夫か?」
――ぶっきらぼうだけどカッコイイ、ハンクス様! 二人きりの時は「トム」って呼んでもいいのかな? えへへ、ちょっと照れちゃうなぁ。
世界を救うとか、いまだによくわからないけれど……でも、トムのためなら、俺がんばる!
「お前のことは、俺が守る。――たとえ命に代えても!」
次回! 聖女のスキルは止まらない! もしかしてこれって逆ハーレム――ならぬ、裏ハーレム?!
やめてトム、お願いだから……俺のために争わないで!
今週も元気に! せーの、ヒジリオ・ホリデイ! また来週ー!
らいしゅうー!
らいしゅうー……
らぁいしゅぅ……
「う、うぶ、ぶああああああああっ!」
俺は絶叫しながら飛び起きた。
「はぁー、はぁー、はぁー、……っ、はぁ……お、おぞましい……」
吐き気がした。吐き気しかしない。いやなにトムって? わかるけど。わかるけど駄目だろ何の関係もないあだ名を付けちゃあ! 本家様に迷惑だわ! そして照れるな! 俺にそっちの気はないんだ!
「あああああああ……なんていう悪夢……最悪だ……」
ベッドの上で頭を抱えてごろごろする。マジで最悪……あ、でもこのベッドめっちゃ気持ちいいな……二度寝しようかな……。
――って待て、ここどこだ?
急速に頭が冷えた。
俺の部屋じゃない。しけたワンルームマンションじゃない! P24もSmitcnもなければ出し忘れたゴミ袋もない。二回りくらい広くて、綺麗な、白一色の部屋。ベッドはふかふかふわふわで天蓋が付いている。どこからともなく花のような匂いがして、ものすごく落ち着く。
窓に近付いてみると、そこから庭が見えた。めちゃくちゃ広い。なんちゃら宮殿とかそういう感じの庭。
「……え、まだ夢が続いてんの?」
言いながら、それが誤魔化しに過ぎないと少しずつ気付き始めていた。これが夢ならさっき見てたのは何になるんだ? あっちが現実? いやあっちの方が嫌だわ。あっちが現実だと言われるくらいなら石にかじりついてでもこっちを選ぶわ。
思い出してもう一度鳥肌が立った。ああもう最悪。
ガチャッ
「っ!?」
「なんだ、起きていたのか」
入ってきたのはハンクス――様? だった。
「悪い。驚かせたな」
「いや、別に……」
軍服みたいなかっちりとした服だが、甲冑は着ていなかった。そりゃそうか。毎日着るもんじゃないよな。しっかし、本当に鮮やかな金髪……目がチカチカする。
彼は持っていた服を乱暴にベッドの上に放り投げた。
「靴はそこだ。着替えたら出てこい。飯の用意ができてる」
それだけ言って、彼は出ていった。
残されたのは、白を基調としたいかにも“聖女”っぽい服一式。
「……いやいや、まさかな」
俺は恐る恐るそれを広げてみた。
真新しい柔らかな下着類。真っ白なワイシャツ。白い手袋。フード付きの長いローブに――
――ズボン!
良かったスカートじゃなかったぁっ! いよっしゃあっ!
……なんでこんなことに怯えなきゃならないんだろう!!(答え:あの神官どもならやりそうだから)
☆
言われた通りに着替えて出ていくと、ハンクス――様、は廊下に立っていて、俺を見てちょっと意外そうに眉を上げた。
「スカートじゃなかったのか」
「やっぱそう思う!?」
「アイツらにもかろうじて良識があったんだな……良かったな」
「本当それ。マジで良かった……」
こっちだ、と先導してくれるのに従って、赤い絨毯の廊下を進む。
「なぁあの……ハンクス、様?」
「敬称はいらない。身分的にはそっちが上だ」
「へぇ……」
「で、なんだ?」
「あー、えっと……俺ってこれからどうなんの?」
「とりあえず王都に行くことになる。国王陛下に謁見して、それから正式に魔王討伐の遠征軍に参加してもらう」
「……ほー」
RPGすぎてわけわからんなぁ。なんともふわふわしている。
ハンクスがちらりとこちらを見た。
「緊張感がないな」
「そりゃまぁ、突然こんなところに拉致られて、聖女だかヒジリオだかなんだかって言われて、魔王討伐? ファンタジーにもほどがある。夢でも見てる気分だよ」
「あんたにとっては夢でも俺たちにとっては死活問題だ」
「――」
「頼むぞ、ヒジリオ様」
もしかしてヤベーことを頼まれてんのかもしれない。と俺は唾を飲み込んだ。




