32 ちなみに、宝くじの俺史上最高当選額は3000円です。
流されるままに闘技場らしき場所へ入っていった。俺はベスターとピットにガードされながら、観客の一角に紛れ込む。下は全部赤っぽい土。俺は学校のグラウンドを思い出した。転ぶと痛いんだよなぁ、こういうところ。
「練兵場や。本当は兵士の訓練場。喧嘩にばっか使われてるけどな。決闘する時はあそこの」
とピットが指さした辺りを見ると、そこには白い円が描かれていた。相撲の土俵みたい。あれよりももうちょっと、二回りくらい大きいかな。
「円の中でやる。見物人で周りをぎっしり囲ってな、どっちかが吹き飛ばされて出てきたら、押さえつけて押し戻すねん。そんで、完全に倒れるまで続けさすんや」
なんかどっかで聞いたことあるような形式だ。野蛮……。
人垣をかき分けて最前列、円の縁に立つ。円の中にはハンクスとリーナが向かい合って立っている。どっちもピリピリと張り詰めた表情をしていた。いや、でも、リーナの方が余裕そうだ。そりゃそうか、ホームだもんな。
どこからともなく賭けを取り仕切る声が響いてきた。誰か無謀な挑戦者に賭ける奴はいないのか! これじゃ賭けになんねぇ! 当たれば二百倍だぞ!
「ベスター」
「なぁに?」
俺は神官どもに持たされた財布を丸ごと渡した。どれぐらいの価値があるのかよく分からないけど、「毎日最高級のホテルを泊まり歩いて」「最高級のバーを飲み歩いて火遊びして回っても平気ですよ!」「ヒジリオ様と火遊びは無縁だと思いますが!」って言っていたからそれなりの額面なんだろう。うるせぇ俺だって火遊びしようと思えばするんだ。
なにも恋の冒険だけが火遊びじゃない。
ギャンブル大好き国民を舐めるなよ!
俺は自覚してニヤリと笑った。
「全額ハンクスに賭けてきて」
「アラ大胆ね」
「できるだけ派手に頼む」
「りょーかい」
ベスターは俺の意図を正しく汲んでくれたようだった。わざとちょっと遠くから、よく通る大きな声をぶちかます。
「ヒジリオ様が騎士様に賭けるわよ! ほーら、受け取りなさい、元締めの親父!」
宙を舞った財布が元締めの親父の手の中に落ちて、どしゃん、と重たい音を立てた。うおおおおお! って雄叫びが上がる。それを皮切りにオッズが変動する。俺も騎士様に! 俺も! いやあの悪魔が負けるもんか! 有り金全部持ってこい!
笑いながら戻ってきたベスターがウインクした。俺はウインクが出来ないから笑顔だけを返す。
よーし、燃料投下完了! さぁ燃え上がれ! 俺は確かに軟弱だけれど、ハンクスが安く見られて黙っていられるほど大人しくもないんだ!
ハンクスがこちらを見た。なんだか困ったような顔をしている。がんばれ、と言う代わりに手を振った。ハンクスは溜め息をついて視線を戻した。ちょっとだけ肩の力が抜けたような、気がする。たぶん。そうであってほしい。俺に出来るのはこの程度のものだから。
「セイにぃ、案外大人げないんやね……」
呆れ顔のピットに、俺は世界の真理を優しく教えてやった。
「いいかピット。実は、大人という生き物はこの世には存在しないのさ」
ピットはますます呆れた顔になった。成長したら分かるよ。俺たちは結局、子どもの延長線上に立っているだけなんだ、って。
リーナがサーベルに手をかけた。
「恨みっこなしの真剣勝負、先に倒れた方が負けや。ええな!」
「ああ」
言葉少なに応じたハンクスが剣を握る。
そしてほとんど同時に剣を抜いて――俺が瞬きした瞬間、二人の攻防はすでに始まっていた。




