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29 異文化交流(偽)

 

 リューミンスト王国の首都に向かう道中、俺はピットに魔法を習っていた。

 の、だが。


「せやから、ぎゅんってきたとこにグッってやればドーン! ってなるんやて!」

「いや、わっかんねぇよ! 擬音やめて?!」


 ピットは重たい溜め息をついた。白と黒のストライプの髪がさらさらと左右に振れる。


「セイにぃ、ほんまにやる気あるんか?」

「あります……あるんですけどね……」


 そう、やる気はあるのだ。よくわっかんないけど、神官どもがちらっと言っていた感じでは、俺はアクティブスキルが三つ使えるはずなんだ。

 これまでに判明したスキルは二つ。


 たぶん【聖なる加護】――キスするやつ。

 おそらく【癒しの水】――涙な。


 だから、最後の一つ――【浄化の光】これが使えるはずなんだ。


 で、きっとこれ、かなり戦闘向きなんじゃないかと思うわけで。だっていかにもそう言う感じの名前じゃん。たとえばこの間のゾンビとか、浄化の光でぶわわっと一掃できたかもしれないし。ハンクスが悪魔に魅了された時も、安全地帯からしゅぴんっと治してあげられたかもしれない。


 そう思うと、習得しない手はないってわけだ。


 なのに。


「なぁベスター。まだ思い出せないのか?」

「んー……」


 ベスターは顔中をしわしわにして唸り声を上げる。


「ここまで、もうここまで来てるんだけど……!」


 いつも有益な情報をどこからか持ってきてくれる頼みの綱、ベスターが、話を忘れてしまったらしいのだ。

 それで仕方なく――待ってる間ヒマだし、魔法に近いならピットに習えば使えるようになるかもしれないし――と思って、あの擬音だらけの講義を受けていたのだった。


「出来る気がしねぇ……」

「諦めたらそこで試合終了やで、セイにぃ!」

「え、そのセリフってこの世界にもあんの?」

「昔っからあるで?」

「へぇ……」


 どうやら初代国王はオタクだったらしい。どういう時系列してんだろうこの世界……。

 先導してくれているハンクスにも聞いてみる。


「なぁ、ハンクスも知ってる?」


 ハンクスはちらりと俺の方を見た。


「……ああ、知ってるよ。有名だからな」

「へぇ……マジか……」

「ちなみに続きは、“だから諦めなければ負けではないのです。負けとはすなわち死なのですから。ゆえに立ち止まりません、勝つまでは”だ」

「ウッソ、なんでそこで戦時色出てきたの?! 異世界こわ……」


 なんで“欲しがりません、勝つまでは”の世界観が微妙に混ざってんだよ……怖すぎる……初代国王、お前のせいか? 何してくれてんだよマジで。


「おーい、セイにぃ、続きやるで」

「うーっす、おなしゃす」

「おな……?」

「おなしゃす。お願いします、の短縮形」

「へー、便利やなぁそれ!」


 何気なくそう言ったら、ピットは目をキラキラと輝かせて「おなしゃす! おなしゃす!」と繰り返し始めた。

 なるほど、こうやって文化とは混ざっていくものなのか……すまん初代国王、俺にあんたを責める資格は無かったようだ……。


「おなしゃす! ええなぁ、なんや響きが軽々しゅうて! 気安う使ってこー!」


 年相応にはしゃぐピットに、やめろとは言えない俺であった。



 

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